「靖、お前は今でも、母親が三人兄弟を置いて去ったことを恨んでいるのか?」その言葉に、靖の足がぴたりと止まった。彼は正道に背を向けたまま、表情を見せない。「母さんには母さんの考えがあったはず......それに、母さんはもうこの世にはいない」正道は深く重いため息をついた。「まさか、あの時彼女が影子を身ごもっているとは思わなかった。知っていれば、どんなことをしても引き止めただろう。だが......今さら言っても仕方がない。正直に言うと、あの時、怒りに任せて影子を追い出したのは、ずっと後悔している。たかが男ひとりのことだったのに……好きならそのままにしておけばよかった。どうせ明日香は誠一に興味を持っていなかったのだから。そういえば......」何かを思い出したように、正道は続けた。「誠一は葛西先生の孫だろう?今回の長寿祝いで顔を合わせるはずだ。当時の件については、彼に影子への責任を取らせねばならん」靖は堪えきれず、父を振り返った。「だが、影子にはもう結婚して子どもも......」「離婚したのだろう?」正道は眉を上げた。「まさかお前、明日香を誠一に嫁がせたいと思ってるのか?」靖は黙り込んだ。葛西家の家柄は雲井家と釣り合う。だが、誠一自身は決して一流とはいえず、明日香の相手としては不足だった。明日香は名門の令嬢の中でも群を抜く存在。平凡な男など、どうして釣り合うだろう。その点、影子なら余りある。いや、むしろ影子でも、誠一には十分すぎる。二度目の結婚で子どもを抱えている今となってはなおさらだ。靖はそれ以上口を開かなかった。結婚は感情の問題だ。無理に押しつけても仕方がない。未来のことなど誰にも分からないのだから。その頃。星は影斗から電話を受けていた。「星ちゃん、携帯、修理させたんだ。だが......中にあの夜の録音は見つからなかった」「......え?」星は思わず声を詰まらせた。「星ちゃん、本当に録音したのか?」「間違いなく撮ったわよ」星は即答した。「突き落とされたのは突然だったけど、湖に落ちる瞬間、保存ボタンを押したわ」「分かった。別の人間にも確認させる」「お願い」電話を切ると、彩香が星の表情に気づ
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