まして、この数年、彼女はずっと外で流浪のような生活を送り、雲井家の恩恵など、ひとつも受けてはいなかった。誠一の件が起きたとき、もしあの場で星が素直に認めていれば、彼は彼女を「きちんと向き合える女」だと見直し、むしろ高く評価したかもしれない。もしかすれば、その場で彼女を許したことだってありえた。だが――彼女は自らの過ちを認めようとせず、その臆病さが、彼をより失望させた。顔立ち以外、星は母の優れた資質を少しも受け継いでいない――そう思っていた。星が雲井家を去ったあと、彼はふと我に返り、自分が星に求めすぎていたのではないかと思い直した。彼女は母のように、幼い頃から名家で育ち、一流の教育を受けたわけではない。すでに優秀な娘がひとりいるのだ。星にまで、同じような理想を押しつける必要はない――そう自分に言い聞かせてきた。だが今、舞台の上の彼女を見つめるうちに、彼は気づいた。あの子の姿に、ほんのわずかではあるが、夜の面影が宿っている。――彼女は、自分が思っていたほど、どうしようもない存在ではないのかもしれない。その隣では、明日香が軽い笑みを浮かべていた。だが、ヴァイオリンの音が流れ続けるうちに、その笑みは徐々に消え、代わりに驚きの色が浮かぶ。星のヴァイオリン――その腕前は、彼女の想像をはるかに超えていたのだ。そういえば、星もヴァイオリンを学んでいるとは聞いていた。だが、これまで一度も彼女の演奏を耳にしたことはなかった。なんとなく、自分より劣っているに違いないとそう決めつけていた。けれど今、目の前で鳴り響く旋律は――確かに本物だった。明日香は音楽の専門家として耳が利く。だからこそ、はっきりと分かる。星の演奏技術は高い。それも、自分に......決して劣っていない。――いや、もしかすると、並んでさえいるのかもしれない。会場の外れ、照明の落ちた廊下。ひとりの長身の青年が、退屈そうに外へ出ようとしていた。少し風にあたろうと、ポケットに手を入れる。彼がここへ来たのは、星に会うためだった。あの――清子を何度も泣かせたという女。どんな女なのか、一度この目で見てやろうと思ったのだ。あの頑固で気難しい葛西先生が、彼女のために再び世に姿を現したというのだから。だが、
Baca selengkapnya