瑛は、周囲で明日香を称賛する人々を見渡し、「これでわざとじゃないなんて言えるの?」と小声で言った。澄玲は、軽く笑って答える。「もちろん違うわ。もし明日香が本気を出したら、この程度で収まるはずがないもの。それこそ、トップの令嬢の名に恥じない大暴れになるわ」晴子は、思わず目を丸くした。「澄玲......あなた、本気の明日香を見たことがあるの?」澄玲は、少し昔を思い出すように言った。「もう何年も前の話だけどね。当時、この界隈で有名な令嬢がいて、白川優璃(しらかわ ゆうり)っていう人だった。彼女には、幼なじみの婚約者がいたの。二人の仲は良好で、もうすぐ婚約発表というところだった。でも、優璃が誕生日パーティーに明日香を招いた日を境に、事態が一変した。優璃の婚約者が、明日香に心変わりしてしまったの。挙げ句の果てには、婚約破棄にまで発展して......とにかく、二人は大騒動になって、幼なじみの恋人同士から、完全な敵同士になった。それ以降、優璃は明日香を恨み、事あるごとに、嫌がらせをするようになったわ」瑛は、声を潜めて尋ねた。「......それで、明日香は、どうしたの?」澄玲は答える。「最初は、相手にしなかった。でも、優璃はエスカレートしていって......赤ワインを浴びせたり、プールに突き落としたり。やり口は幼稚だったけれど、ついに明日香の堪忍袋の緒が切れたの」ここで、澄玲は話題を少し変えた。「ところで、白川家が何で財を成したか、知ってる?」晴子は、せっかちに言う。「澄玲、もったいぶらないで。早く教えてよ」澄玲は微笑んだ。「白川家は、調香で成り上がった家なの。ある時、白川家は各界の名士を招いて、盛大な調香会を開いた。その場で、明日香は、優璃の面子を完膚なきまでに潰したの。天才調香師の後継とまで言われていた優璃を、文字通り、相手にならない存在にしてしまった」そこまで話すと、澄玲は、意味深な笑みを浮かべた。「それも、もう随分前の話よ。当時の明日香は、界隈では有名だったけれど、まだトップの令嬢と呼ばれるほどではなかった。でも、その一件をきっかけに、彼女の名は、一気に轟いたの」晴子と瑛は、同時に、明日香のいる方向を見た。明日香は、
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