All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 71 - Chapter 80

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第71話

月子は予想していたものの、実際に耳にするのはまた別の感慨だった。そういう生活の中で苦手な人は会わなければ何とも思わないが、ほんの一瞬でも顔を合わせれば、自然と嫌悪感が湧いてしまい、気分が悪くなってしまうものなのだ。だから、静真に会うたびに、月子はまた傷つくのだ。しかし、今回の「傷」は、月子がじっくり感じてみると、もう痛くも痒くもなかった。何も感じない。余計な感情は一切湧いてこなかった。月子が洗面所から出てくると、静真は彼女の姿を視界の隅で捉えた。彼は元から月子の気持ちを考慮する必要性など考えていなかった。だから伝えるべきことを伝え終え、電話を切ると、ようやく彼女の方に身を向けた。静真は淡々とした表情だったが、珍しく月子の姿をまじまじと見つめた。彼女の様子がいつもと違っていたからだ。彼女は白いスーツを着ていた。ブランドは分からなかったが、上質な生地で仕立られた良いスーツは、彼女のクールな雰囲気を際立たせ、普段よりもさらに……凛とした印象を与えていた。それが違和感を感じる原因なのだろう。「どうしてここにいるんだ?」静真は冷淡な声で、自ら尋ねた。月子はもちろん本当のことを言うつもりはなかった。彩乃は彼女の友人だ。霞に恥をかかせたのは、彼女のためだった。他人が霞を傷つけたのなら、静真が冷ややかな顔で少し懲らしめるくらいで済むだろう。しかし、月子に対してだと、静真は激怒するだろう。静真はいつも彼女に意を背けられることを許さないからだ。以前、入江会長の病状が悪化した際に彼と連絡が取れず、仕方なく秘書に彼のスケジュールを尋ねただけで、彼はひどくプライバシーを侵害されたと感じ、一ヶ月も家に帰らなかったのだ。ましてや、彼の愛する女性を「いじめた」となれば、静真が黙っているはずがない。だから、その罰は、彩乃がいくつかの提携プロジェクトを失うといった簡単なものでは済まないだろう。そして、それは逆に、静真が彼女を極限まで無視しているということを証明しているのだ。彼女の家族、友人、彼女を取り巻くすべてを、彼はまるで気にしていないのだ。月子はそう思いながら、淡々と答えた。「ここで食事をする以外に何があるの?」静真は眉間を寄せたが、すぐに表情を和らげた。駆け引きは、彼女を気にかける相手にしか通用しない
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第72話

【霞さん、社長にクビにされちゃったんだけど、俺も会社にいたくないから、別に問題ないよ。今日、急にこっちに来たみたいだけど、まだ近くに居るでしょ?よかったら一緒にランチでもどう?久々に話そうよ】霞は嫌悪感を込めて眉をひそめた。あんな奴が、自分と食事?冗談じゃない。彼女の険しい顔を見て、颯太は尋ねた。「どうしたんだ?」「迷惑メールよ」そう言って、霞は仁をブロックした。……静真と鉢合わせないように、月子と彩乃は食事の後、少し時間を置いて、別々に店を出た。彩乃がお酒を飲んでいたため、月子は心配になり、送ろうと申し出た。「大丈夫。彼氏が迎えに来るから」月子は、彼女に婚約者がいることを知っていた。「遊びだよ。付き合った時から、半年で別れるって約束してたの。だから月子には話してなかったの。えーと、そろそろ別れようかという時期だね」月子は黙り込んだ。少し考えてから月子は尋ねた。「松本さんとはどうなの?」彩乃は意外そうな顔で月子を見つめた。「私たちをくっつけようとしてるの?」「……ただ気になっただけよ」彩乃は舌打ちをして、月子の好奇心を満たしてあげた。「彼とは本当にただの友達。何もないよ。でも、もし彼が私を好きで、半年の恋愛でもいいって言うなら、試してみてもいいかな。子供の頃よりずっと可愛くなってるし、結構好きだしね」彩乃は長期的な関係は受け入れなかったが、体の関係だけの関係も受け入れなかった。付き合うとなると、本当に恋人同士のように一緒に暮らし、一緒に寝て、一緒に散歩するのだが、それもすべて半年しか続かないのだ。これは月子が先ほどの会話で知ったことで、彼女は思わず笑って言ってしまった。「やっぱり彩乃は私のことが一番好きなんだね」彩乃は彼女に投げキッスをし、また歌い始めた。「あなたを愛することは孤独な事、あなたの笑顔の意味が読み取れない……」月子は言葉に詰まった。月子は心配だったので、彩乃の彼氏が来るまで待った。そして、彼を一瞥した。芸能人みたいにカッコよくて、モデルみたいにスタイル抜群。見ているだけでうっとりするほどで、彩乃にもとても優しくしていた。彩乃には、彼氏を作る上での条件がいくつかあった。イケメンで、スタイルが良く、悪い癖がなく、従順で、よく気がつくこと。彼女はそれを実現させている。
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第73話

しかし尋ねてみると、全く予想外の答えが返ってきた。月子が持ち出したスーツは、静真のものではなかったのだ。じゃあ誰のだ?まさか他の男の?もしそうなら、月子は浮気してるってことだ。その月子への嫌悪感が更に募りそうな考えが浮かんだ瞬間、高橋はすぐに打ち消した。入江家で長年働いている彼女は、月子が静真にどれだけ尽くしているかを知っていたからだ。どんなことがあろうと、月子が浮気するはずがないのだと高橋は考えを改めた。もしかしたら、入江社長に内緒で仕立てた服なのかもしれない。一人で騒ぎ立てた挙句、入江社長は全く相手にしてくれなかった。それで面子を失った月子が、何とか言い訳するために用意したのだろう。新しく仕立てたスーツをプレゼントすれば、家に帰る理由もできる。でも入江社長は、月子からもらったプレゼントは一切使ったことがないから、今回も無駄な努力になるだろう。自業自得だ。高級スーツを贈ってもきっと、入江社長が簡単に許してあげることはないだろうと高橋は心の中で呟いた。……隼人の潔癖症を知っていた月子は、一度自宅に戻ってスリッパを取り、改めて彼の家の前に立った。「1」を6回入力し、電子音とともにドアを開けて中に入った。玄関を入ると、大きな窓のあるリビングが広がり、白い大理石のテーブルは光を反射するほど綺麗だった。月子は荷物を置いて振り返ろうとした時、足音を聞いた。隼人は家にいるのか?音のする方を見ると、電話をしている忍の姿があった。月子は特に驚かなかった。忍は隼人の友人だし、K市に来たついでに隼人の家に泊まるのも普通のことだ。驚いたのは、むしろ忍の方だった。彼は慌てて電話を切り、色ぽい目を瞬かせて彼女だと確認すると、テーブルの上のギフトボックスに目をやった。忍は意味ありげな笑みを浮かべて言った。「あなたは隼人と同棲してるのか?」隼人は以前、こんな憶測を月子には言うなと警告していたが、忍はすっかり忘れていた。やっと月子に会えた上に、よりによって隼人の家にいるのだ。このチャンスを彼が逃すわけにはいかないのだ。そう聞かれて、月子は疑問に思った。やっぱり忍は、口を開けばとんでもないことを言う。月子は言った。「私は鷹司社長の秘書だよ」そしてテーブルを指差して、「これは仕事」と言った。忍は信じてい
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第74話

そして彼女は一呼吸を置いた後、「忍さん、今は仕事があるので会社に戻らないと」と言った。そう言うと、月子は踵を返した。忍は唖然とした。くそ、なんてクール女だな。「ちょっと待て」忍は陳列棚のそばまで歩いて行き、月子がちらっと見ていたのを思い出し、「北極星」を指さして、「これはあなたが送ったのか?」と探った。もし認めたら、忍はもっととんでもない妄想をしそうだ。そう見抜いた月子は「違う」と否定した。「本当に違うのか?」月子は忍に少々うんざりしながら、微笑みながら答えた。「忍さんは想像力が豊かだね。でも、本当に違う」そして、今度こそ彼が何か言うのを待たずに、本当に出て行った。忍は閉まったドアを見つめ、口元を歪めた。そして「北極星」を手に取り、カップの底をひっくり返すと、【Polaris】という英語が目に入った。そして彼はまたカップを陳列棚に戻した。忍の直感は彼に間違っていないと告げていたが、月子の顔からは少しもボロを覗けなかった。この不動の冷静さは、あのあざといヤツにそっくりだ。忍は心に秘めておくことができず、すぐに隼人に電話をかけた。隼人は尋ねった。「何か用か?」受話器越しに、忍は凍りつく思いをしながらも「『北極星』は本当に月子さんが送ったんじゃないのか?」と尋ねた。電話の向こうの隼人は眉をひそめた。「俺の家にいるのか?」忍は勝ち誇ったように言った。「お前の家にいるだけじゃない。月子さんにも会って、同棲してるのかって聞いたんだ」隼人は2秒沈黙した後、電話を切った。忍は訳が分からず、もう一度電話をかけると、相手は通話中だった。まあ、いかにもあのあのあざといヤツのやり方だ。忍は明日の夜、名華邸で行われるチャリティ晩餐会に出席するためにK市へ飛んできて、ホテルに泊まるつもりはなく、友人の家で少し休むことにしたのだ。そこでソファに座り、普段から愛用している高級ブランドのエリアマネージャーに連絡して、公式サイトで気に入ったスーツを何着か試着のために持ってきてもらった。電話を終えるとすぐに、ドアをノックする音がした。こんなに早いのか?忍が不思議そうにドアを開けると、3人の厳しい顔をした警備員がいて、泥棒を見るような目で彼を見た。「家主から電話があり、すぐに出て行ってもらうようにと
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第75話

静真は鼻で笑うと、高橋の推測がひどく滑稽に思えた。「食事の邪魔をするな」と言った。高橋は彼の冷たい顔色を見て、それ以上何も言えず、急いで立ち去った。正直なところ、高橋自身も自分の推測はあまりにも現実離れしていると思っていた。月子は冷淡な人で、彼女にも冷たく接していたのだ。そんな彼女は静真の前でだけ氷が溶けたような、優しい一面を見せていた。静真がいない時は、月子は淡々としていて、特にあの冷ややかな目は高橋に強い印象を残していた。月子に見つめられると、何も言えなくなる。彼女はそもそも近寄りがたい冷淡な女なのだ。先日、入江社長と一緒に帰ってきた霞とは全然違ってた。霞は見るからに金持ちの令嬢で、令嬢の気高さを持っているだけでなく、更に貴重なことに、とても親しみやすい。初めて会った時、数万円もするスキンケアセットをくれたのだ。高橋はすぐに霞を気に入り、さらに彼女が静真と結婚してくれたらいいのにとさえ期待していた。だから、月子が入江社長に好かれていないのは、彼女自身が付き合いやすい人間ではないからだ。ただ一つ、高橋は月子のことを懐かしく思っていた。月子が家にいれば、サボってやらなくていいことがたくさんあったのに、今は一人で毎日忙しく、腰が伸びないほどだ。月子は救急箱を用意してくれていて、中には腰痛用の湿布薬が入っていた。もちろんこれらは安いものだ。月子が用意してくれなくても、自分で買うつもりだった。だから高橋はやはり数万円のスキンケアセットの方が嬉しいと思った。霞のやり方こそが、人付き合いというものだ。月子はそういうことがまるで分かっていない。……静真は夕食を済ませ、ジムに行き、風呂に入った後、書斎で渉からの電話を受けた。「入江社長、鷹司さんは本当にSグループの社長です」静真は噂では聞いていたが、確信が持てなかったので渉に調べさせたのだ。まさか本当だったとは。Sグループは5年前に設立され、短期間で入江グループを追い抜いた。これまで本当のトップが誰なのか分からず、J市社交界に強力なコネを持つ財閥だと推測されていた。隼人はまさにJ市社交界の人間ではないか。静真はここまで考えると、顔が真っ青になった。Sグループの時価総額は入江グループよりも高く、父親の目には自分がますます隼人に劣って映るだろう。
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第76話

子宮内容除去術から半月、月子はゆっくりと運動を再開し、まずはジョギングから始めた。90坪以上ある自宅には、ジムがある。ランニングマシン、エリプティカル、ステアクライマー、筋トレマシンなど、一通りの器具が揃っていた。月子は少し気分転換したかったので、緑豊かなマンションの敷地内をジョギングすることにした。一周ジョギングした後、月子はウォーキングに切り替えた。しばらく歩いていると、前方に二人の長身の影が見えた。さすがに無視することはできなかったので、彼女は歩みを緩めた。隼人は白いスポーツウェアを着て、白い縦長のテニスバッグを肩から斜めがけにして、片手をポケットに突っ込みながらゆっくりと歩いていた。運動を終えたばかりなのか、髪先が少し濡れていた。色白で、クールな雰囲気の彼は、汗をかいていても、とても爽やかに見えた。隣には、同じくスポーツウェア姿の忍がいた。忍が何かしきりに話しかけているのに対し、隼人は時折二三返事をしているだけだった。隼人が先に月子に気づいた。彼の視線を感じた月子は、軽く会釈した。彼女はもともと親しくない人と話すのが好きではなく、それに隼人はクールで、邪魔されるのを嫌うタイプだった。だから会釈した後も何も言わず、ウォーキングを続けた。あと三周歩いてから家に帰ろうと思っていた。すれ違おうとしたその時、隼人は珍しく彼女に声をかけた。月子は驚いて立ち止まった。「鷹司社長」隼人は何も言わず、忍を冷たく見つめた。隼人の殺気を帯びた視線を受けた忍は、ため息をついた。そして月子の前に出て、真剣な表情で言った。「月子さん、昨日の事は本当に申し訳ありませんでした。あなたを目の前にして軽率な冗談で、隼人とあなたの噂を囃し立ててしまい、深く反省しています。二度とこんな事はしませんので、どうか許してください」月子は言葉に詰まった。忍がまともに謝るなんて、珍しい。だけど、この様子だと、隼人に脅されたに違いない。そうでなければ、絶対謝ったりしないはずだ。月子は入江家にいた頃、散々無礼な扱いを受け、もっとひどい言葉もたくさん聞いてきたので、忍のあの言葉くらい、大したことないと思っていたし、謝る必要もないと思っていた。だけど、彼は本当に真剣に謝ってきた。月子は思わず隼人の方を見た。彼は相
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第77話

月子の前で恥をかかされた忍は、隼人のことを話すとき、歯ぎしりするような口調になった。「出て行け」隼人は忍の手を振り払い、前へ進んだ。忍は絶句した。彼は少し調べてみた。静真は月子のことを全く気に入っておらず、むしろ夏目という名前は覚えられない女と熱を上げているらしい。月子はフリーリでジョギングをしているが、静真はここに住んでいない――もし彼がフリーリに住んでいたら、隼人は間違いなくすぐさま引っ越していたはずだ。これはつまり、二人は別居しているということだ。離婚もそう遠くはないだろう。だから月子と隼人にはチャンスがあるかもしれない。忍がこんなに頑張っているのは、一つは二人が本当に似合っていると思ったからだ。二つ目は、隼人の母親から――隼人に結婚までは望まないが、恋愛くらいはしてほしい、と頼まれていたからだ。隼人の母親から見ると、隼人はもう救いようがないのだ。実際、隼人はここ数年、ずっと一人で、誰とも深い親密な関係を持ったことが一度もないのだ。というのも、この男は知能レベルが高すぎて、恋愛は彼にとって時間を無駄にするつまらないゲームでしかなく、全く興味がないのだ。忍は、将来自分に子供ができた頃になっても、隼人はまだ一人で寂しくしているのではないかと心配していた。仲間として、親友をそんな風に見捨てるわけにはいかないと思ったからだ。だから、思わず急かそうとしたのだ。だが、焦りすぎるのも良くない。そうなったら、きっと親友でさえいられなくなるだろう。……結婚以来、月子は大きな晩餐会に出席したことがなかった。彩乃は彼女のためにメイクアップアーティストを呼ぶことを提案したが、月子は断った。インターネットのメイク動画を見れば、シンプルですっきりとしたメイクは簡単に再現できる。「そうだ、あなたは絵も習っていたね」彩乃は月子から、それは母親に習わされたものだと聞いていた。絵だけでなく、他の習い事も、敷居の高い伝統芸能にも少し触れていたそうだ。月子がこんなに優秀なのは、母親の熱心な教育のおかげだ。親子の仲は非常に良かったので、母親が川に飛び込んだ後、月子はそれを受け入れることができなかったのだ。「今回の件で、仕事への影響はあった?」月子が電話をかけてきたのは、主にこのことを尋ねるためだった。「静真の動
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第78話

彩乃は話を聞き終えると、深い安心感に包まれた。大物に守られているような気分だ。半月前、月子はまだ結婚生活に縛られ、不幸な日々を送っていたなんて、誰が想像できただろうか。あの時は彩乃の方が、彼女のことを心配していた。今ではすっかり逆転している。「わかったわ、月子!」彩乃はもう拒否しなかった。月子はただの秘書で、今の彼女には静真に正面からぶつかる力はなく、リスクを減らす方法を考えるしかなかった。……そろそろ時間だ。月子は修也と合流し、隼人を迎えに行った。しかし、隼人は急遽忍と一緒に向かうことになったから、月子たち二人は先に会場に行くことにした。名華邸チャリティー晩餐会は、最も影響力のあるビジネス晩餐会のひとつだ。チャリティーはただの看板で、一番の目的は人脈作り。入場券にも一定のハードルがある。会場は100ヘクタール以上の敷地に建つ築100年の洋館。招待状を受け取った人たちは皆、礼服やスーツに身を包み、完璧なメイクで、典型的な上流社会の社交の場といった雰囲気だ。メディア関係者が殺到していたが、公開される写真や動画の情報は、主催者側による審査が必要だった。正式なイベントが始まるまでは、自由に交流できる時間だ。修也はすぐに誰かに声をかけられ、談笑し始めた。月子は来る前に食事をしていなかったので、この空いた時間に晩餐会の料理を味見することにした。長テーブルに並べられたケーキは見た目も美しく、味もとても美味しかった。「月子、あなたも来てるの?兄の入場券に便乗したわけ?」天音の嘲るような声が横から聞こえてきた。月子は振り返った。天音は彼女を軽蔑の眼差しで見ていた。天音のような令嬢は、愛されて育ち、生活の苦労もなく、彼女に逆らえる人間もほとんどいない。友達と旅行やショッピングを楽しむ、そんな気楽な生活を送っているから、本来はそれほど悪意のある人間ではない。だから、いい子ちゃんを演じるのも上手い。でも、それは彼女の気分次第だ。こんな風に棘のある態度は、天音が彼女にかなりムカついている証拠だ。天音の隣には、友達が一人ついていた。その友達は、月子からの視線を受けると、反射的に自己紹介をした。「春日です」桜は以前M·Lで月子に一度会っており、今日は二度目だった。真っ白なドレスを着こなす
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第79話

天音はずっと、月子は争い事を嫌う大人しい女性だと思っていた。だから自分は機嫌が悪い時、わざと月子に絡んだこともあった。それを、月子はいつも静かに彼女の機嫌が直るのを待っていて、決して逆らったり言い返したりすることはなかった。天音からすれば、月子はいつでも使える完璧なサンドバッグだった。しかし、今は八つ当たりではなく、本当に解消できない問題があって月子に聞いているのだ。なのに、この態度はどういうこと?なんて態度なの。以前は兄に気に入られようと、自分にペコペコして機嫌を損ねないように必死だったくせに。今はもう、自分の顔色を伺う必要もないと思ってるの?自分を完全にナメてるわけ?カチンときた天音は、驚きと怒りでまくし立てた。「月子、自分の言ってることわかってるの!よくも私にこんな態度ができるわね!」月子は、まるで駄々をこねる子供を見るように天音を見て、放っておけばいいと思った。しかし、天音は場所も構わずヒステリーを起こすタイプだ。月子にはこの後仕事があり、さらに彩乃の件も早急に解決しなければならなかった。無視すれば、天音はさらに爆発するだろうと思った。そこで月子は言った。「だったら、普段あなたがラインで私に送ってくるメッセージをよく見返してみるといいわ。天音、あなたが私によくしてくれないのに、どうして私があなたに優しくする必要があるの?あなたが私を罵倒しても、私が言い返さないのは、意味のない口論に時間を無駄にしたくないから。でも、お兄さんと離婚した今、もう我慢する必要はない。だからブロックしたの。これで理解できるかしら?」月子の落ち着いた物言いに、桜は唖然とした。天音が言うには、月子はまるで家政婦のように、何を言われても言い返さない女性だった。しかし、桜には、月子の以前の態度はまるで――バカを相手にするのが面倒くさい、と言わんばかりに見えた。いちいち言い返すことすら、労力の無駄だとでも思っているかのように。もちろん、そんなことは天音には言えない。月子がこんな風に反論してくるとは思っていなかった天音は、どう対応すればいいのかわからず、数秒間呆然とした後、急に顔が曇り、歯ぎしりしながら言った。「ブロックするにしても、私からするべきでしょ!まだ連絡を取り合おうと思ってるのに、ブロックするなんて!」
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第80話

いつものように、桜は天音に合わせて言葉を添えると、天音の気分はずいぶんと良くなり、ようやく話が耳に入るようになった。桜はそれとなく話を導き始めた。「一番大切なのは、こんな小さなことでそんなに怒ることはないでしょ。怒りすぎると乳腺に良くないし、ニキビもできちゃうわよ。割が合わないよ」それに、普段私たちを罵るような人がいたら、すぐにビンタしてたじゃない。月子はただラインをブロックしただけで、実際こっちには何の害もないわけだし――もちろん、友達として、ブロックするのは良くないと思うけど!」天音は相手の立場になって考えてみたことがなかった。桜にそう言われて初めて、自分が何も損をしていないことに気づいた。だって、誰かに面と向かって罵られたら、絶対にその相手に「天音様、私が間違っていました!」と声が出なくなるまで叫ばせるようにさせるんだから!もっと酷い場合は、警察に通報して逮捕させることだってできる。天音はすっかり冷静になった。でも、何かがおかしいと感じた。彼女は振り返り、桜を冷たく見つめた。そして、急に一歩前に出て、鋭い視線で彼女を見定めた。「もしかして、月子のことが好きなの?」天音には数え切れないほどの底線があるが、その一つが月子の良いことを言ってはいけないというものだ。以前、桜が月子をハッカーではないかと推測した時、天音に嘲笑された。だから、彼女は天音の底線がどこにあるのかを知っていた。触れてはいけないのだ。「好きっていうわけじゃないけど、あなたが言ってたのと少し違うみたいだから、ちょっと気になっただけよ」桜は言った。「たとえ本当に好きだったとしても、私はあなたの友達よ。私はいつだってあなたの味方よ」これも桜の底線だ。友達は友達。月子に好意を抱いているのは、また別の話だ。天音は冷笑した。「そうこなくっちゃ!でも警告しておくけど、もし本当に月子のことをいい人だと思ったら、私たち、友達でいることはできないわ!これは冗談じゃないんだから」とにかく、今回のことで月子は完全に彼女に恨まれた。天音は、そういう好き嫌いの激しい性格なのだ。一度気に食わないと思ったら、ずっと気に食わない。月子が関係を修復したければ、一度や二度の謝罪では済まないだろう。長い間ご機嫌を取って、怒りが収まるまで続けなけれ
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