観察室へ入ると、玲奈は昂輝がベッドに仰向けに横たわっているのを見た。眠っているようだったが、眠りは浅いらしく、わずかな気配にすぐ目を開ける。玲奈の姿を認めた昂輝は、狼狽を覗かれたように一瞬うろたえた。身を起こそうとした彼を、玲奈は慌てて制した。「昂輝先輩、無理に動かないで」それでも昂輝は身を起こし、ベッドの背に凭れかかる。蒼白な唇で苦笑しながら言った。「......みっともないところを見せたな」玲奈の目に涙が滲み、視線を伏せる。「どうしてそんなことを言うの。だって私のせいで、あなたは......」昂輝は遮るように口を挟んだ。「智也に会っただろう?」玲奈は淡々と頷く。「ええ」昂輝の腕にはギプスが巻かれ、顔にもまだ薄く痣が残っていた。避けたいと思っても、結局は彼の惨めな姿を彼女に見られてしまった。「薫の母親のことだな?」昂輝は静かに笑みを浮かべ、声を落とした。玲奈は驚き、問い返す。「どうして知ってるの?高井君があなたに話したの?」昂輝は首を振り、淡々と説明する。「外来で診察した時に来ていたんだ。入院を勧めたが、聞き入れなかった。若手に何がわかるとまで言われたよ。でも、いずれ再発することはわかっていた」玲奈はようやく合点がいく。「そういうこと......」昂輝は彼女を見つめて尋ねる。「智也に、脅されたのか?」玲奈は心配をかけまいと首を振った。「いいえ」だが昂輝は静かに断じる。「君がわざわざ聞いている時点で、そうだということだ」玲奈は黙り込んだ。彼女の沈黙を見て、昂輝はすべてを悟る。しばしの間を置いて、彼はそっと問いかける。「玲奈......君は俺に、この手術をしてほしいのか?」玲奈は小さく首を振る。「わからない」医者にとって人を救うのは当然の務め。だが、薫が彼にした仕打ちを思えば、簡単に水に流せるものではなかった。それでも昂輝は淡い笑みを浮かべる。「君が望むなら、俺は決して背を向けない」玲奈は彼のギプスを見やり、静かに言った。「やりたいと思っても、今のあなたには無理よ。まずは身体を治してから」昂輝は「ああ」と短く応じ、それ以上は語らなかった。玲奈は彼がどうしてこんな怪我を負ったのか尋
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