邦夫の真意は、おおよそ察しがついた。彼はずっと――自分と智也との仲がうまくいっていないことを知っていて、それでも何とか取り持とうとしてきた。今回もまた、薫の母親の件で、智也が自分に少なからず不満を抱いているのを見て、邦夫は病人見舞いを命じることで、二人の関係を和らげたいのだろう。表向きは「病人を見舞う」という邦夫の采配でも、いざ智也の前では「玲奈が気が利くから」と言い換えるに違いない。そんな邦夫の思惑など、玲奈には手に取るように分かっていた。けれど――彼と自分の関係は、もはや修復する必要もない。いずれにせよ、自分は沙羅に席を譲るのだから。智也がまだ離婚届に署名していないのは、ただ「その時ではない」と考えているだけなのだろう。しばし考えたのち、玲奈は静かに首を振った。「おじいさん、それなら智也に行かせてください。わたしが新垣家に行っても歓迎されませんし、もし病人を怒らせでもしたら、わたしにはその責任を背負えません」邦夫は彼女の言葉など耳に入れず、強引に言い切った。「行くのは君だよ」逆らいようがないと悟り、玲奈は仕方なく承諾した。邦夫はすぐに使用人に命じ、用意していた贈り物を彼女の車に積み込ませる。荷が積み終わると、何度も「運転は気をつけろ」と念を押した。玲奈はシートベルトを締め、頷いてから車を発進させた。──高井邸の門前に着いたとき、思いがけず智也の車が目に入った。けれど彼と薫は友人同士。ここにいても不思議はない。大きな袋や箱を両手に下げて中に入ると、ちょうど薫の母・高井華子(たかい はなこ)がソファに腰かけていた。帽子をかぶり、膝には毛布。左右には智也と沙羅が並んで座っている。三人は話に夢中で、出入り口から入ってきた玲奈には気づいていなかった。華子は沙羅の手を握り、目を細めて笑んでいる。「沙羅ちゃんね、もう聞いたわよ。わたしのために手術のことで随分と奔走してくれたんですって?そればかりか、頭を下げてまで人に頼んでくれたとか。おばさんはね、本当に感激しているの。これから何があっても、おばさんはあなたの味方よ。絶対に智也にいじめさせたりしない。あの子に辛いことをされたら、すぐおばさんに言いなさい。おばさんと薫、どちらもあなたの家族のように思って
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