玲奈を二階へ運んだ智也は、大きなベッドに彼女をそっと横たわらせ、布団を掛け直してやった。解熱剤と白湯を持ってきて、ベッドの縁に腰を下ろし、彼女が薬を飲むのを見守る。飲み終えたところで、手からコップを受け取ると、ふいに口を開いた。「少し、話そう」玲奈は頭の奥がずきずきと痛み、枕に凭れながら彼を見上げる。「何を?」「週末に出張がある」その一言に込められた意図は明白だった。――玲奈に愛莉を任せたいのだ。玲奈もその含みを察していたが、あえて気づかぬふりをする。「智也、あなたがどこへ行こうと、私に報告する必要なんてないわ。もともと干渉するつもりはなかった」かつては報告を望んだこともあった。だが今となっては、家にすらろくに帰らない彼が、自分に逐一伝えるはずもないと知っている。「週末はお前が家で愛莉を見ていろ。日曜には戻る」智也はもう遠回しにせず、直截に言った。彼があまりにも率直に要求するので、玲奈も深く考えず、ただ仕事としての出張だと思った。新垣グループの社長である以上、彼の手を待つ案件は山ほどある。週末に出張が入るのも当然だろう。玲奈も週末は休みで、ちょうど当直もない。少し迷った末に、静かにうなずいた。「......分かったわ」智也が出張で、沙羅も不在なら、愛莉の傍にいられるのは自分だけだ。果たすべき義務を果たせばいい――そう思った。彼女が承諾すると、智也はようやく安堵したように息を吐く。「じゃあ、休め。俺は愛莉を見てくる」玲奈は返事をせず、そのまま布団に潜り込んだ。智也は掛け布団を直し、乱れた髪をそっと撫で付けた。玲奈は無意識に目を閉じた。――現実感のない仕草。けれど、触れられた箇所の熱は確かに残り、夢ではないと告げていた。智也が愛莉の部屋に入ると、彼女はベッドに寝転びながら沙羅とビデオ通話をしていた。ただ繋いでいるだけで、言葉を交わすことはない。画面の向こうで沙羅は病床の母を世話し、こちらで愛莉は別のタブレットでアニメを見ている。扉が開いた瞬間、愛莉が顔を上げた。「パパ!」小さな両手を差し伸べ、抱っこを求める。智也の心は一瞬で溶け、すぐに近づいて膝の上に抱き上げた。ビデオの向こうで沙羅が母親に何かを伝えているが、智
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