愛莉の言葉に、智也の胸はちくりと痛んだ。彼は顎を娘の頭にそっと乗せ、低く囁く。「パパがいるよ。いつだって一緒にいる」「分かった」愛莉は駄々をこねることはせず、渋々と答えた。智也は、その不機嫌の理由が「母にそばにいてほしい」という気持ちなのかどうかまでは分からなかった。子どもの心は、時に本人ですら整理がつかないものだ。胸に顔を寄せた愛莉は、身を横にすると、玲奈が陽葵と楽しげに笑いながら写真を撮っている姿が目に入った。幸せそうに笑い合い、自分には向けてくれない笑顔。――どうして、私にはくれないの?愛莉はもう見ていられず、父に言った。「パパ、別の遊びがしたい」智也は娘を喜ばせたくて、すぐに頷いた。だが心配もあり、試しに言葉を添える。「でも、長くは遊べないぞ。まだ怪我が治りきってないんだから」「分かってる。ちゃんと言うこと聞くよ」愛莉は素直に頷いた。二人はミニ列車やブランコに乗った。楽しくはあったものの、愛莉の胸には拭えない違和感が残っていた。その正体は自分でも言葉にできない。いくつかアトラクションで遊び終えると、愛莉はもう興味を失ってしまった。そのころ、玲奈は陽葵をメリーゴーラウンドから降ろしていた。「陽葵、気をつけてね」そう声をかけた直後、背後から弾むような少年の声が飛んできた。「おばちゃん!」振り返ると、昨夜のパーティーで会ったあの少年がいた。今日はスポーツウェアに黒いキャップ姿だ。玲奈はすぐに思い出す。――父親が呼んでいた名は「真言」。「まあ、真言くんじゃない」彼女はにっこりと微笑んだ。少年は真剣な顔で言う。「おばさん、僕は羽生真言(はにゅう まこと)って言います」玲奈は笑みを深める。「分かったわ。覚えておくね、羽生真言くん」その時、陽葵が振り返り、少年を見つけた。「羽生真言?なんであなたもここに?」真言は答えず、きょろきょろと辺りを見回し、大きな声を張り上げた。「須賀おじさん!」――須賀おじさん?須賀拓海?玲奈は周囲を見渡す。そして少し離れた場所に、両手をポケットに突っ込み、棒つきキャンディーをくわえて歩いてくる拓海の姿を見つけた。頬の片側にキャンディーの形が浮き出ている。
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