佐野の指が、次のカードへと伸びた。畳の上に広がる十枚のケルト十字。その中央に重ね置かれた「剣の9」は、すでに尾崎の内側に静かな余韻を残していた。まるで、過去から流れ込んだ痛みの記憶を、視覚と共に胸の奥に刻みつけたような感覚。けれど、ここから先は、さらに深く、それでも静かに、自分というものの底に触れてくることになると尾崎はどこかで理解していた。佐野は何も言わず、三枚目のカードをめくった。横に並べられた一枚。過去を示す位置に、それは置かれた。「……“塔”やな」声が、畳に吸い込まれるように低く落ちた。その言葉に尾崎は無意識に眉を動かした。塔のカード。タロットに詳しくなくとも、その図柄は印象的だった。稲妻が走り、燃え落ちる石造りの塔。崩れ落ちる人々。絵柄は明確な破壊と衝撃を物語っていた。「こないなカードはな、普通、あんまり嬉しないもんやけどな」佐野の指が、塔の上部をなぞる。そこには真っ二つに割れた屋根と、そこから投げ出される人影。「でも、壊れたいうことは、それまでずっと無理して積み上げとったっちゅうことや。積んだもんがあかんかったんやない。ただ、あんさんがそのままやったら潰れてまうほど…ぎりぎりまで背負ろてたんやろな」尾崎の胸がきゅう、と締めつけられる。呼吸が少しだけ浅くなる。だが、それは不快なものではなかった。痛みそのものに対する抵抗ではなく、それを認めることへの戸惑いだった。「……そうかもしれません」絞るような声で、尾崎はそう言った。それは同意ではなく、確認のようだった。自分に、あるいは過去の自分に。佐野は頷き、次のカードに目を落とした。それは十字の左下、無意識の位置に置かれた一枚だった。「……“吊るされた男”や」尾崎の視線が自然とそこへ移る。逆さ吊りにされた男が、木の枝に両足を括り付けられたまま、微笑んでいる。その表情には、苦痛よりもどこか諦観と、静かな受容が感じられた。「無意識の底にこれがあるっちゅうことはな&h
Terakhir Diperbarui : 2025-06-24 Baca selengkapnya