幸いなことに、彼女を縛った相手はそこまで力を込めていなかった。固結びではあったものの、時間をかければ少しずつ解くことができる程度だった。これが幸運なのか不運なのか、紗夜自身にも判断がつかなかった。手足の縄を解き終えたちょうどそのとき、外から足音が聞こえてきた。心臓が一気に跳ね上がり、紗夜は咄嗟に縄を再び手足に絡め、床に横たわって目を閉じた。相手は扉を開けず、隙間から中を覗いただけだった。「大丈夫だ、まだ目を覚ましてない」「まだ?薬の量、そんなに多くなかったよな」もう一人が意外そうに言う。「このひょろい体じゃ、起きないのも普通だろ」「表にはもう貴仁さんたちも揃ったらしいぞ。文翔も来てるって。あいつ、本当にこの女のために当主の座を捨てるのか?」紗夜の指が、きゅっと強く握られた。――やはり、自分を使って文翔を脅すつもりなのだ。「俺は無理だと思うが。昔から、女一人のために権力を捨てた男なんて聞いたことない。ましてやあの文翔だぞ。あの冷血さで、あり得るわけがない」「それでも分からないだろ。あいつ、何度も命がけでこの女を助けてる。それだけで、普通の存在じゃないって分かる。とにかく、宏さんの指示どおり、タイミングを見て連れて行けば......」紗夜は視線を落とした。しかしその奥には、強い決意の光が宿っていた。どんな理由があろうと、誰かの道具にされるつもりはない。悪意ある人間の刃になるなんて、絶対に嫌だ。ここに閉じ込められるわけにはいかない。今すぐ逃げなければ。一人が様子を見に表へ向かった隙を狙い、紗夜はゆっくりと起き上がり、扉の裏へ身を寄せた。その手に、割れかけの花瓶を掴む。残った男が中を見て、顔色を変えた。「いない?!」慌てて扉を開けた瞬間、背後にいた紗夜が、花瓶を思いきり振り下ろした。「......っ!」鈍い声を上げて、男は彼女の足元に倒れ込んだ。紗夜は怯えながらも男を押しのけ、ふらつきながら部屋を飛び出し、反対方向へ走った。長沢家の本家には裏門があったはずだ。最悪でも、志津子がいる別館まで辿り着ければ、きっと庇ってもらえる。だが、数歩も進まないうちに、突然下腹部に強い痛みが走った。彼女は柱にもたれ、深く息を吸う。「お願い......いい
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