眉を揉む動作が止まり、和彦は机の隅に置かれた写真立てに視線を向けた。そこにはウェディングフォトがあり、華子がわざわざ事務所に置いていた。ガラスの表面は薄く曇っており、彼の緊張した顎のラインが映っている。写真の中で、美穂は純白のウェディングドレスを身にまとっている。その指先には花束から垂れ下がるリボンを絡めていて、唇の弧は記憶のどの瞬間よりも華やかだった。それは彼女が彼と結婚したばかりの頃で、目は後に満ちる陰鬱さを帯びておらず、今ほど沈黙していなかった。彼は突然イライラし始め、莉々の言うことに一理あるように思えた。もしかすると、美穂を甘やかしすぎたせいで、家出なんて子供じみた真似をする度胸がついたのかもしれない。和彦はゆっくりと落ち着いた動作で眼鏡を高く通った鼻筋にかけ直した。そのレンズの冷たい反射が、目の奥にある嫌悪の色を隠した。そして、彼の声は冷ややかに響いた。「まずお前を病院に送ろう」「和彦、やっぱり優しいね!」莉々嬉しそうに歓声を上げ、立ち上がって和彦の腕を組んだ。彼女の大きなスカートの裾が無意識に机の上を掃い、何かがガシャーンとゴミ箱に落ちた。和彦は気にせず、彼女を腕に抱えて部屋を出た。検査が終わったのはすでに深夜だ。莉々の体に問題は全くなかった。ぶつかった際の軽い外傷はとっくに治っていた。しかし和彦は彼女が嘘をついていると知りつつ、それを黙認していた。だが、家まで送ってほしいという莉々の願いを、彼は婉曲にかわした。櫻山荘園の箱型大時計が12回音を打った。家に戻った和彦は、無造作にネクタイをゆるめ、整った顔に疲れがにじんだ。執事がタイミングよく準備した温かい水を渡した。彼はそれを受け取り、長くしなやかな指をカップの縁に添えた。透明なカップの側面にはリビングの縮んだ映像が映り込み、右上の防犯カメラもその中に映っていた。ぼんやりと、彼は美穂が去る前の電話のことを思い出した。彼女は母に殴られたと言っていた。母は確かに跋扈だが、一応筋は通す人だ。理由もなく人を殴るような人じゃない。なのに、彼女はなぜ母をそんな風に中傷したのか?「美穂が家を出た日の防犯カメラ映像を出せ」和彦は執事を呼び止めた。その澄んだ目には、どこか靄がかかったような曇りがあり、感情を読み取ることはできなかった
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