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Nox.0 『帝国のはぐれ狼』I

Penulis: 皐月紫音
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-07 15:43:24

◆◇◆◇

「えぇ、ということであり、我らがエテルヴォワ王国も長きに渡る大戦を経て、より各国との協力が大切となった。

既に王国と帝国だけで世界のことを決める時代は終わったためだ。特に関係が重要なのは、主要同盟国である連合だ。その公用語であるウルス語を学ぶ必要性が、今こうして高まっているわけだが……」

学舎の二階――パールブルーのカーテンが付けられた巨大なアーチ型の窓から陽光が差し込み、花の妖精リザヴェーヌが|象《かたど》られた純白の石像を照らす。

年季を感じさせる教卓には、眼鏡をかけた几帳面そうな中年の男性教師が立っていた。

仕立ての良いスーツに身を包み、ハキハキとした話し声で授業を進めている。

十月のわずかに冷気を含んだ風が、さらさらと音を立てて、教科書のページをめくってゆく。

机の|隅《すみ》へと追いやられたノートは開かれることもなく、その役目を放棄していた。

「……ヘーデンストローム……起きたまえ、レイフ・ヘーデンストローム」

「……ふぅ、あぁっ〜。あぁ、なんだ、もう授業終わったのか?」

整髪料で整えられた白銀の毛先が、ピクリと動いた。

教師の声の声を受けて、机に突っ伏していた少年が、ゆっくりとその身体を起こす。

ゴシゴシと何度か擦られた後、閉じられていた瞳が開かれると、鋭い真紅の双眸が露わになる。

第三ボタンまで開かれた黒いシャツからは、程よく鍛えられた身体と|鈴《ベル》の形をした銀製の|首飾り《ペンダント》が覗く。

「一体、誰のせいで授業が止まっていたと思っているんだ……」

「あぁ、悪かったよ。俺に構わずに続けてくれ」

外国語担当である男性教師の怒りを滲ませた言葉に適当に応じると、少年――レイフ・ヘーデンストロームは、足元の|革鞄《トランク》に投げ捨てられていた月白色のジャケットを羽織る。

シャツの襟を立てて、ネクタイは締めずに着るという彼の好む|着こなし《スタイル》だ。

彼の態度に教師は露骨に表情を険しいものとし、手に握られていたチョークが、ポキリと音を立てて折れた。

「帝国人の|小僧《クソガキ》め……」

発せられた言葉は、消え入るようにくぐもった声ではあったが、大体何を言っているのかを想像することはむずかしくない。

エテルヴォワ王国は芸術活動が盛んな国であり、〝才能に国境なし〟と積極的な移民政策を推進している。

そのために差別意識は、諸外国と比較しても稀なほどに薄い。

レイフの故郷であり、民族主義を掲げるイスダルール帝国とは正反対だ。

しかし、50年前の大戦において衝突した両国の遺恨は依然として大きい。

敵側の盟主であった帝国出身者には、今でも厳しい目が向けられることがある。

最も、これは一定以上の世代に限定されている。

レイフにとっては、それ以上に厄介な問題があった。

「何であんな|不良《ヤンキー》が、うちみたいな学校に……」

「父親が、あのヴィーダル・ヘーデンストロームですもの」

「|アルジュリュンヌ《エテルヴォワの王都》を、世界一の金融都市の地位にまで押し上げた帝国出身の大富豪だぜ? そりゃ、一学校くらい意のままだろうさ」

後ろの席の方から、ボソボソと聞こえてくる声にレイフは辟易とする。

彼の通うヴァルメール学院は、16歳からの中等教育機関だ。

国内屈指の伝統を誇り、貴族の家の子供を中心に上流階級や富裕層、特別な才能を持つ芸術家が生徒のすべてを占めている。

外見に限定して見れば、品の良さそうなクラスメイトたち。

だが、その実態はこのとおりだ。

——はぁっ、聞こえてるっての。

ってか、お前らの家も大して変わらねぇだろ?

呆れ交じりの嘆息を漏らすと、レイフは椅子から立ち上がり、陰口に花を咲かせるクラスメイトたちのもとへと歩いてゆく。

「なんか、言いてぇなら、次からはもう少し声を落とすことだな。もちろん、直接言ってくるってんなら、いつでも歓迎するぜ?」

「ひっ!?」

「わ、悪かったよ……」

中心人物の男性の肩へと手を置き、悪い笑みを浮かべるレイフを前に生徒たちは震えあがる。

彼らの様子に満足したレイフは、一度大きく伸びをすると、そのまま教室の出口を目指して歩き出した。

「こらっ! ヘーデンストローム、どこに行く気だ!?」

「調子わりぃから、一眠りしてくるわ」

レイフは悪びれた様子も見せず、ヒラヒラと手を振りながら教室を後にしてゆく。

「何て身勝手な……。えぇい、もういい! 授業を進めるぞ」

「ヤンキー、怖っ……」

「バカ、聞こえるぞ」

「こら、私語は慎みなさい。どこまでやったか、そうだ。我らがエテルヴォワ王国は海を挟んで北側の……」

レイフの不在に関係なく、授業は当然のように進んでゆく。

これは何度も見た、いつもどおりの光景だ。

仮病で医務室のベッドを占領した後、彼は放課後の〝シャソネ〟の練習を終えた。

シャソネはひとつのチーム11人で試合を行い、主に足を活用してゴールを奪い合う、王国の国民的スポーツだ。

お世辞にも学力が高くないレイフが、この学院に在籍している理由には父の影響力の他に、類い稀なるシャソネの|才能《センス》もあった。

唯一、チームワークだけが課題だが、それでも彼の人並みはずれた身体能力と嗅覚――得点力を考えれば、将来プロとしての道に進むことは疑いようがない。

三年の先輩と一年の後輩に、それぞれ雑な挨拶を済ませると、レイフは部室を後にした。

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