その男の顔にはアイマスクがかけられており、ほとんどの顔立ちは隠されていた。ただ、怯えたように見開かれた両目と、鼻梁から下の部分だけが露出している。それでも……美夜には分かった。牛の背に乗っているその男が、自分の次兄、泉沢であることが。実の兄であり、幼い頃からずっと一緒に育ってきた。見間違えるはずがない。次兄が闘牛ショーの会場に現れたのを目にして、美夜の心は瞬時に凍りついた。どうして?どうして兄さんがここに?蓮?それとも浩司?あの二人に脅されて来たのか?そう思った瞬間、彼女はすぐさま一人掛けソファに座っている浩司の方に顔を向けた。しかし、彼に問いかける前に、浩司の方が先に口を開いた。「俺が無理やりやらせたんじゃない。蓮も関係なさそうだな」そう言いながらも、彼の視線はずっと下のロビーに釘づけで、次のショーがよほど楽しみなのか、顔には期待の色が浮かんでいた。「ここに来るのはみんな自分の意思なんだよ。稼ぎが早いからな。10分間牛の背にしがみついていられたら、百万円もらえる。一分長く耐えれば、さらに二十万円ずつ加算だ」そう言って、手首を軽くひねってシャンパンのグラスを揺らしながら、吐息混じりに感嘆した。「お前の兄さん、昔はテコンドーの黒帯だったらしいけど……牛の上で何分持ちこたえられるかな?」ふわりとした口調での問いかけは、まるで今夜の月でも語っているかのようだった。だがその言葉では、この催しの残酷さも暴力性も覆い隠せない。見世物を見せに来た?いいや、これは見せしめだ。安全装置も何もない中、特別訓練を受けた兵士ですら骨折は免れない。ましてや、兄のように何不自由なく育ってきた人間が耐えられるはずがない。もしかしたら兄は自ら志願したのかもしれないが、彼らが仕組んでいなければ、こんな都合よく現れるはずがない。「皆さま、お待たせしました!次なる挑戦者が、いよいよチャレンジに挑みます!十分間耐えられるか、皆さまのご予想とご賭けをどうぞ!」たった数秒の沈黙ののち、ロビーに司会の声が響き渡った。観客席からは嵐のような拍手。どの客も興奮し、目を輝かせ、右肘掛けに設置されたスクリーンで次々と賭けに参加している。挑戦者の安否や命など、彼らにとってはただのゲームの一部に過ぎなかった。ホール最上部のス
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