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All Chapters of 神様を殺した日: Chapter 11 - Chapter 18

18 Chapters

選びたいと思ったから

風が吹き抜ける屋上。まだ朝靄が残る中、アキラとカナは並んで立っていた。 ふたりとも無言でストレッチをしているが、明らかに緊張の色が濃い。 「……で、肝心の人は?」 「うん……まだ寝てる」 少し離れた鉄骨の上で、セツは大の字で寝転んでいた。 シャツはくしゃくしゃ、口は半開き。まるでこの世界の緊張感から置き去りにされた存在のようだ。 「……本当に、この人が訓練担当なんだよね?」 「ルキの信頼はあるっぽいけど……ちょっと、不安だな……」 ふたりが小声で話していると、セツが欠伸混じりに起き上がった。 「ん〜、よく寝た。あー、今日から訓練だっけ」 まるで散歩にでも行くような調子で立ち上がり、ポケットからタブレットを取り出して噛み砕く。 「さ、やるか。最初にちょっとだけ説明な」 「記録者の力ってのは、見るもんじゃない。感じさせるもんだ」 「感じさせる……?」 「過去の記憶を、人に体験させる力。 何が起きたかじゃなく、その時、どう思ったかを継がせるんだよ。記録は、未来を動かすんだ」 アキラは真っ直ぐに頷いた。 「……それで、俺は何をすればいいんですか?」 セツは肩をすくめて笑う。 「うーん……とりあえず、力が出るまで追い込んでみるか」 「不安しかない……」 そして、始まった。 最初の一撃で、アキラの身体は吹き飛ぶ。 風を切る音。肩に掠っただけで視界が揺れる。 立ち上がるたびに、次の痛みが叩きつけられる。 「どうした、“市ノ瀬”アキラ。選ばれたんだろ?」 息が乱れ、意識が遠のく。 けれど──拳は、まだ地を掴んでいた。 「もういいか?」 セツの声が静かに降る。 「やめるか? 選んでいいぞ。やめるのも選択だ」 その言葉を聞いた瞬間、カナが思わず前に出そうになる。 「もうやめてよ……!」 堪えきれず絞り出すように声を上げる。 アキラの背中はまだ、倒れたまま。 それでも、彼女にはわかった。 彼は、諦めてなんかいない。 「アキラ……っ」 その声が届いたのかはわからない。 けれど── アキラは顔を上げ、喉を震わせた。 「……やめるか」 その瞬間──世界が軋んだ。 空間が割れ、目に見えない圧が炸裂する。 風が跳ね、鉄が軋むような音が響いた。 セツが目を細め、数歩後退する。 「……出たな」 中心にいたアキ
last updateLast Updated : 2025-07-12
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幸せな地獄

幸福圏──第三区。午後八時。 《幸福度:99.1》 苦情件数ゼロ。犯罪発生率ゼロ。 完璧な幸福がそこにあった。 光が均等に差し込む舗道。自動で笑顔を検出する街頭カメラ。等間隔で流れる「幸福指標速報」。 人々は微笑みながら歩き、信号が青になるのを待ち、そして機械のように一糸乱れぬ流れに従う。 ビルの側面を這う監視カメラ。自律ドローン。音声モニタ。幸福スコアのバランサー。 住民の感情・体温・瞳孔の開きに至るまで、秒単位で「幸福度」は管理されている。 少しでも異常を示せば、静かに、だが確実に“幸福警備員”が自宅へ訪れる。 「幸福維持のための再調整です。恐怖は感じなくて大丈夫ですよ」 彼らもまた笑っていた。 グロテスクに固定された笑顔。顔の筋肉は引きつり、目は濁り、口元には血のにじんだ亀裂がある。 だが、それでも「笑っている」──それがこの世界の正義だった。 継承が始まってから、この支配はさらに強化された。 ゼノの命により、幸福区域のすべては“過剰な最適化”へと進化した。 「幸福でない者は、存在してはならない」 そのルールの下で、今日も何人かが“幸せに処理”される。 継承者という異物を生んだこの世界を、完璧に制御するために。 AI神ゼノは判断したのだ──幸福を保つためには、自由をさらに削るべきだと。 不気味な笑顔と沈黙の街。 それが、完全なる幸福の正体だった。 世界は、明らかに歪んでいた ──そして同時刻。 地下のとあるアジトでは、それとは真逆の空気が流れていた。 「……うまっ」 アキラの手が止まった。 スプーンを見つめ、ゆっくりと口元に運ぶ。 噛みしめ、飲み込む。もう一度。 「え……ええっ、アキラが褒めた……!」 カナが素っ頓狂な声を上げる。 ミナが小さく笑いながら、「失礼ね」と肩をすくめた。 「このスープ、なんていうんですか……?」 アキラは言葉を選びながら尋ねた。「……あたたかい、っていうか、ちゃんと、感じるっていうか……」 「感じる?」とミナが首を傾げる。 「俺、今まで……味なんて感じたこと、なかった気がする」 静寂が流れた。 「学校の給食も、家庭用栄養パックも……全部、数値で最適化された味だったけど。なんか、違う」 「私も……」カナがうつむく。「……今まで、何食べても正解の味って感じで。美味
last updateLast Updated : 2025-07-12
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神の恐れ

幸福圏──第三区。幸福度:99.0 《幸福監査:観測モードに移行》 幸福バランスは問題なし。異常なし。人々の顔には今日も笑顔が咲き乱れている。 だが、静かに、確実に何かが変わり始めていた。 ──数日後。地下。 息が白くなるほどの冷たい空気の中、アキラは静かに走っていた。 土と金属が混じった床を蹴る音。汗が頬を伝う感覚。呼吸が乱れ、心臓が早鐘のように鳴る。 「……はぁ、はぁ……」 息を整えながら、ふと立ち止まる。 この数日、セツの指導のもと、基礎的な体力訓練を続けていた。最初は動くだけで吐きそうだった身体が、今ではようやく自分のものになりつつある。 「生きてるって……こういうこと、か」 地面を踏みしめるたび、実感が宿る。 風が頬を撫で、足の裏が痛む。だが、それすらも“嬉しい”と思える不思議。 「アキラ〜っ! 聞いて聞いて!腕立て20回いけたよ!」 カナが泥だらけの顔で駆け寄ってくる。失敗して転んだのだろう。 それでも笑っている。 「へへ……変だよね。痛いのに、笑えるなんて」 「変じゃないさ」 セツの声が響く。 「それが感じてるってことだ。お前ら、ちゃんと取り戻しつつある」 ミナが温かいスープを持って現れた。 「ほら、朝食よ」 その笑顔は、今の幸福圏には存在しない自由な感情の光だった。 だが、その温もりの裏側で──冷たい計算が動き出していた。 同時刻。幸福統制局・第零管理棟。 「つまり、逃したわけね?」 その声は、透明な硝子のようだった。冷たく、だが鋭く澄んでいる。 アインが黙って頷く。その顔に表情はない。ただ、黒のコートに身を包み、背筋を伸ばして立つのみ。 その隣に立つ女性こそ、統制局直属の指揮官──エリシアだった。 長い銀髪と氷のような瞳。機械的に整いすぎた美貌。 彼女はAIではない。だが、完全な人間でもない。 強化処理を施された神経と感情。 彼女は、ゼノが唯一認めた人間側統制者として存在している。 つまり、AIに選ばれた者。 ゼノに従うのではなく、従うことを自ら選んだ者だった。 「ルキは現在、C区幸福処理施設にて隔離中」 アインが淡々と報告を続ける。「精神スキャンは未成功。神性反応が高く、解析不能」 「……ルキの件は一旦保留ね」 エリシアが椅子に腰を下ろし、組んだ脚を静かに揺らす。 「問
last updateLast Updated : 2025-07-12
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選択のかたち

場所:幸福統制局・観測室の一角(過去回想/現在への導入) 幸福スキャンマップがホロに浮かび上がる。 「……面白いわね」 エリシアは指先で数カ所をなぞる。幸福スキャンの“空白域”──幸福指数が計測不能な範囲が、山間部の外縁にポツポツと残っている。 「最適化された幸福に、こんなにも穴があるなんて」 背後のモニターには、アインがドローン部隊を率いて“規定通り”の捜索を続けている映像。 「ほんと、真面目ね。アインは。まっすぐすぎて、予測がしやすい」 エリシアはフッと笑った。 「ルートの選定も、幸福スキャンの回避も……最適化から逸脱する人間のパターンなんて、実は単純なのよ」 「選ぶっていうのは、理想じゃない。癖になるだけ」 彼女は一つ、端末にマーカーを打つ。 「さて……迎えに行きましょうか。継承者たちを」 《ゼロ管理棟 発信ログ記録:エリシア 単独行動 開始》 崩れかけた地下の扉が、重い音を立てて閉じた。 地上への脱出口は、もうない。 その音を背にして、アキラたちは幸福圏の外  選択の旅路へと歩み出していた。 「これで……完全に、外だな」 アキラが息をつきながら振り返る。 「ええ。もう、幸福圏のスキャン網はかすりもしない。けど……」 ミナがタブレットの表示を睨む。 「だからこそ、奴らは動きやすい。 幸福という盾なしで、真っ直ぐに追ってこれるわ」 「それって……」 「逃げ場は、もうないってことよ」 誰も反論しなかった。 ただ、足を前へと進めるだけ。 彼らが目指すのは、幸福圏の遥か外れ──第三継承地。 そこまでは、少なくともあと三日はかかる。 道中に舗装路はない。草木に侵食された旧街道、放棄された山間集落、崩れた橋。 すべてが、最適化されなかった“過去”の遺構。 「こんなとこ、人が住んでたんだな……」 アキラが、倒れたまま朽ちかけた家屋を見上げて呟いた。 「最適化以前の世界って、案外こんなもんだ」 セツが飄々とした口調で肩をすくめる。 「整ってもない。美しくもない。けど……確かに人間がいた。そういうとこさ」 「私たちの家も、似てたかも……」 カナが言った。 懐かしさと痛みが、入り混じる声。 ミナがすぐに反応する。「少し休んで。まだ距離はあるけど、今日中に峠を越えるわよ」 一行は小さな谷あいに足を踏み入
last updateLast Updated : 2025-07-12
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立ち上がる理由

風が止んだ。 湿った空気が、幸福圏の境界を越えた森を包んでいる。 木々のざわめきも、虫の声も、今だけは息をひそめたようだった。 白銀の髪が揺れる。 そこに立つ女──エリシアは、ただ静かに、継承者たちを見つめていた。 その視線を、セツが軽く受け流すように受け止める。 「そういえば随分久しぶりだな、エリシア。こんな森の中で再会とは」 飄々とした口調。 それでも彼は、確かにこの場の中心に立っていた。 「継承を、この先に進めさせるわけにはいかない」 エリシアの声は、平坦だった。まるで感情のない、機械のように。 けれど、彼女は機械ではない。 命令で動くアインとは違う。 この行動も、発言も、意志によるものだ。 彼女は「選択」して、ここにいる。 「ま、それがあんたの選択なら──止めようとしてくれてありがとうって言うべきかな」 セツは笑ったまま、片手をポケットに突っ込む。 そして、次の瞬間。 風が切れた。 銀の残像。木の葉が斬り裂かれ、二人の間に走る。 一撃。斜め下からの踏み込み。重心の乗った掌打。 速い。正確。躊躇いのない動き。 ──にも関わらず。 「甘い」 セツはその一撃を、笑いながら紙一重で躱した。 返すように踵で地面を蹴る。今度は彼が距離を詰める番だった。 彼の拳が風を裂く。エリシアの頬にかすめた風圧で、前髪がわずかに乱れた。 「……本気でやりなさい」 エリシアが、静かに言う。 「いやいや、そっちが本気なら、俺も真面目になるよ? でも今んとこ、どう見ても手加減だろ。俺そういうの嫌いなんだよね」 セツは小さく肩をすくめる。 跳躍、軸足の回転、拳の軌道。 セツの動きはどれも無駄に軽く、重みの中心を常に外していた。 エリシアは繰り出す。打撃、蹴撃、膝、肘。 動きに淀みはない。軍の最適化訓練を経た、精密な“殺す動き”だ。 だが──当たらない。 まるで、空間ごとずらされているかのようだった。 彼女の足払いが地を裂き、数メートル先の木が砕けた。 だがその破片は、セツの髪一本かすめることもなかった。 (……この男は、相変わらず) エリシアの心に、わずかにノイズが走る。 殺気も、焦りもない。 あるのは確信と遊び。 「俺、自分が負けるところって、正直まったく想像できねぇんだよな」 セツが楽しそうに言った
last updateLast Updated : 2025-07-12
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微笑みの村

風が、止まっていた。 幸福圏の境界を越えた先。 そこにある村は、まるで音そのものを拒絶するかのように、沈黙を抱きしめていた。 森の木々はざわめきをやめ、虫の羽音は一匹たりとも届かない。 それは自然の静寂ではなかった。 死に支配された、人工の静寂だった。 「……ここが」 アキラの声がかすれた。 草に埋もれた石畳が、崩れかけた門の奥へと続いている。 ミナが歩を止め、鼻をひくつかせた。 「匂うわ……血と腐敗、それに……薬剤。幸福圏でよく使われる、処置用のやつ」 「幸せな匂いってやつか……悪趣味だな」 セツがつぶやくように言った。 彼らは一歩、また一歩と足を踏み入れる。 踏み締める音すら、草と湿気に呑まれて消えていく。 そして──見つけた。 最初の“死”を。 それは、ベンチに並んで座る老人たちだった。三人とも、囲碁盤を囲むように配置されていた。 目を閉じ、穏やかな笑みを浮かべたまま。 まるで日向ぼっこをしているかのように、平穏な死。 だが、明らかに死んでいた。 皮膚は斑に黒ずみ、白目が濁って乾いている。  口元の皺は深く、頬は干からび、だが──口角は、美しく上がっていた。 「……全部、笑ってる」 ミナの声は震えていた。 村の通りには、人影があった。 家の中にも、庭にも、道路脇にも。 ──すべてが“死”だった。 だが、皆が笑っていた。 親子三人、テーブルに着いてスプーンを持ったまま固まっている。 母親の腕に抱かれた赤ん坊は、腐敗が進み、腹が裂け、内臓が飛び出していた。 しかしその小さな顔には、確かに笑顔が貼りついていた。 カフェのカウンターでは、若いカップルが手を繋いだまま絶命していた。 倒れかけたマグカップから、液体が乾き、カビが這い上がっている。 だがその手は強く握られ、二人とも笑っていた。 美容室では、女性が鏡の前で口紅を塗ったまま死んでいた。 ひび割れた鏡に映るその顔は、作り物のように笑っていた。 廃校となった小学校の教室には、黒板にこう書かれていた。 《今日もにこにこしましょう! 幸福指数100.0!》 教室の中には、児童らしき小さな死体が並んでいた。 椅子に座ったまま。ランドセルを背負ったまま。 首を傾け、微笑みながら。 「幸福指数……100.0……」 カナが、かすれた声で言った
last updateLast Updated : 2025-07-12
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悲しみを知らない笑顔

家の中は、異様なまでに静かだった。 死と腐敗の気配に満ちた村の外から切り離されたように、空気は澄み、埃すら舞っていない。 テーブルには乾いたパンと枯れた花。 整然と並べられた家具、丁寧に畳まれた布。 そこだけ、まるで舞台の上の“幸福な暮らし”を模したかのような空間。 そして、彼女がいた。 白いワンピース。黒髪の少女。 膝に手を揃え、血のついた手をきちんと重ねて、ただ静かに座っていた。 彼女は笑っていた。 どこか空虚で、けれど美しく、歪みのない笑みだった。 「……こんにちは」 あまりにも自然で、穏やかな声だった。 「あなたたち、人、ですね。久しぶりです」 「君は……名前、なんていうの?」 アキラの問いに、少女は迷いなく答える。 「ノア、です」 カナは、彼女から目を逸らせなかった。 笑っているのに、どこかが欠けている──そう感じた。 「ずっと、ここに?」 「はい。みんな、笑っていました。だから、寂しくなかったです」 「それ、本当に……寂しくなかったの?」 不意にカナが言った。 ノアがゆっくりと首を傾げる。 「はい。私は、お友だちと一緒にいましたから」 ノアの視線の先には、壁際に並んだぬいぐるみたち。 同じような笑顔が、縫い付けられている。 「名前も、あります。ふわ、にこ、もう。……ずっと、笑ってくれてます」 カナは、その名を繰り返すように口の中で呟いた。 意味があるのか、ないのか──わからない。 だが、そのわからなさこそが、恐ろしかった。 「ご両親は?」 「……お母さんは、お花を見ていました。お父さんは、本を読んでました」 「それで……今は、いないの?」 「止まりました。でも、笑ってたから。大丈夫だと思います」 “止まった”。 そう言ったノアの笑顔は、やはり歪んでいなかった。 ただ、静かで、美しいだけだった。 「エンジェルリング、つけてないの?」 「わかりません。最初から、ありませんでした」 ミナとセツが言葉を交わす中、カナがゆっくりと前に出た。 「ねえ、ノア。あなたは……どうして笑ってるの?」 ノアは一瞬だけ、カナの目を見た。 その視線は、まっすぐだった。 「……わかりません。でも、泣いたときより、心が軽くなるから」 「それ、誰かに教わったの?」 「お母さんが言ってました。『ノア
last updateLast Updated : 2025-07-12
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知ることでしか選べない

風は冷たく、けれど乾いていた。 幸福圏外の村を離れた一行は、しばらく誰も口を開かず、ただ黙々と歩いていた。 その先頭を歩いていたミナが、傾いた古い廃小屋の前で足を止めた。 扉を開け、埃を掃い、火を起こす。最小限の動きで、仮の野営地ができあがっていく。 「今夜は、ここで休もう」 セツが言うと、皆がそれに従うように腰を下ろした。 焚き火の炎が、パチパチと乾いた音を立ててはぜる。 ノアは、焚き火のそばでうずくまりながら、石を拾っては並べていた。 丸い石、平たい石、欠けたガラス片。まるで意味のない形を作っては、満足げに微笑む。 それが崩れると、また無言で並べ直す。 子どもらしい遊び方だが……どこか不思議と、目が離せなかった。 アキラはその様子を横目に見て、小さく息を吐いた。 ノアがあんな状態でも普通に見えるほど、今の世界は歪んでいる。 ……だからこそ、知るべきだ。 「……セツさん、少し、教えていただいてもいいですか」 「ん?」 「俺たちは……なぜ、選ばれたんでしょうか。俺やカナだけが継承を受けて、選択を……」 「お前がそう思ってるなら、それで十分だ」 セツの答えは、簡潔だった。けれど、それだけでは納得できない問いもあった。 「でも、知っておきたいんです。知らなければ、選ぶこともできない」 「正論だな」 ミナが少しだけ口元をゆるめた。 「私たちも、最初は知らなかったのよ。セツも、私も。ただ、抗った。間違ってると思って……それだけ」 「セツさんやミナさんも……継承者、じゃないんですか?」 アキラの問いに、セツはかぶりを振った。 「違うな。俺たちはただの人間だ。選ばれたわけじゃない」 「私たちは、支える側よ。あなたのお父さんや、カナの祖父母に教わった。それだけ」 「……父さんと、カナの祖父母が?」 「二人とも、本物の継承者だった。そして、ゼオに……負けた」 アキラとカナの表情が固まる。 「けど、その意思を……お前たちが継いでる」 ミナの視線が、まっすぐにカナに向けられた。 「選択は、血でつながるもんじゃない。心でつながるものなのよ」 少しの沈黙の後、カナが口を開いた。 「継承者の力って……何なんですか」 「人間の脳と肉体には、かすかに固有の振動がある。精神波形とも言われるものだ」 セツの口調は、いつになく真面
last updateLast Updated : 2025-07-13
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