Semua Bab この言葉、一生変えない: Bab 11 - Bab 20

ここは厳重な警護が敷かれた病室だった。依夜は身分証明書を見せてから、入口の警備員に扉を開けてもらった。室内は薄暗く、痩せた影が車椅子に座っていた。声に気づいても顔を上げず、かすれた声で言った。「資料は机の上に置いておいてくれ」依夜は何も言わず、ぼんやりとその姿を見つめていた。兄は本当に痩せ細っていて、浮き出た骨がまるで皮膚を突き破りそうだった。横顔には長く伸びた傷跡があり、首筋を縦に深く刻まれていて、あと少しで喉を断つところだった。依夜は突然、息苦しさを覚え、その人が眉をひそめたときに、そっと声をかけた。「兄ちゃん」その瞬間、車椅子を座っている涼夜は勢いよく顔を上げ、信じられないというように彼女を見つめた。傷のない半分の顔は、依夜に五分ほど似ていた。「依……夜？」その声は不確かで、まるで何かを壊さないようにそっと話すようだった。依夜はもう堪えきれず、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。「兄ちゃん！」今まで家族に近づく怖さは一瞬で消え去り、彼女は大きく一歩踏み出して地面にひざまずき、涼夜を抱きしめた。「兄ちゃん……」その瞬間、彼女は声をあげて泣き、まるですべての悔しさと罪悪感を一気に吐き出すかのようだった。涼夜は少し青白い唇を震わせ、手を伸ばして抱きしめてくれた人をしばらく見つめてから、ようやく口を開いた。「もう……二度と会えないと思ってた」依夜は激しい悲しみに襲われた。凛河を信じてしまわなければ、兄を探すことを諦めていれば、こんな結果にはならなかったのに。自分の愚かさと無力さが兄を傷つけたのだ。「ごめん、兄ちゃん。本当にごめん！」「泣くな、依夜、泣くなよ……」しばらくして、依夜は涙目で顔をあげた。震える手を伸ばして涼夜の脚に触れようとしたが、震えのせいで触れなかった。だが涼夜は気にせず微笑んだ。「二年前、海外で事件があってな、もう慣れたんだ」彼の口調はあっさりしていたが、明らかに悔しさが滲んでいた。「本当は、あの任務の後にどうしても依夜に会いたかった。でも半年も昏睡して、目が覚めたらもう無理だった……いいよ、泣くな」依夜は涙を止められなかった。ずっと兄は自分の結婚を受け入れられず連絡を絶っていたと思っていたのに、真実を知っていなかった間にこんなにも苦しんでいた

凛河はついに、長い間足を踏み入れていなかった家に戻った。依夜が事故に遭って以来、彼は海の上か病院かのどちらかにいった。おそらく一人で空っぽの家と向き合うのが怖くて、ずっと戻ることを避けていたのだろう。 彼は玄関の前でしばらく立ち止まり、深く息を吸ってからドアを押し開けた。中はがらんとして静まり返り、凛河にとっては見知らぬ空間のようだった。昔も家はこんなに空っぽだっただろうか？ためらいながら中に入り、ふと見上げると、壁に何もかかっていないことに気づいた。結婚写真を外したままで、まだ戻していなかったのだ。突然、彼の胸に恐怖が走り、落ち着かずに部屋の中を歩き回って探し始めた。結婚写真はどこに？どこにある？引き出しを開けると中は空っぽで、婚約指輪も見当たらなかった。寝室に行くと、枕元のオルゴールもなくなっていた。洗面所には二人分あったはずの洗面用具が、彼の分だけになっていた。凛河は心臓が少しずつ冷えていくのを感じ、まるで氷水に放り込まれたようだった。彼は何も分かっている。すべての思い出が消え去った。依夜はすべての記憶も、彼という人も要らなくなったのだ。彼は呆然と立ち尽くし、涙がじわりと目に溢れてきた。「いやだ、いやだ……」よろめきながら外に出ようとしたが、玄関の棚につまずき、数枚の書類が棚から落ちて床に散らばった。顔を伏せると、流産の報告書が目に入った。その時、胎児はすでに四か月ほどで、とても健康だった。この子は自分の命で、母親の代わりに一つの災難を防いだのだ。凛河の目は真っ赤に充血し、涙がこぼれ落ちた。震える手で書類をめくると、依夜の健康診断報告や胎児の成長記録があり、最後には独身証明書があった。【仲程依夜は現在独身であり、結婚歴はありません。】その瞬間、凛河は雷に打たれたかのような衝撃を受けた。彼がこのことを……忘れていたのだ！彼は偽物の結婚証明書を作ったのは自己中心的な思いからで、当時はまだ依夜を完全に愛していなかったと思っていた。結婚後、彼は自分の気持ちをはっきり理解し、依夜を心から愛し、一生を共にしたいと思うようになった。しかし、結婚生活はあまりにも幸せで、すべてが偽りの幻想だとは忘れていたのだ。彼に悪意はなかった。ただ、忘れてしまっていただけだっ

依夜たちは迎えに来られた。作戦は成功したものの、後片付けはまだ山積みだった。彼女は皆と共に動き続け、多くの情報解析もまだ続けなければならなかった。夜半まで忙しく動き回り、ようやく一段落ついた。依夜と岳はそれぞれ病院のベッドに横たわった。岳の顔色は青白く、失血と痛みで非常に弱って見えた。「辛うじて探した専門家が病院送りになったことが上司に知られたら、間違いなく罰だな」彼は長くため息をつき、憂いの色を浮かべていた。依夜は思わず笑った。熱があり、呼吸は熱を帯びていた。「君に会ったとき、どこか見覚えがある気がしたんだ」岳が突然話し出し、遠くを見つめて思い出しているようだった。「後で分かった。君のお父さんを見たことがあると」依夜は動きを止め、急に横を向いた。岳は話を引っ張らず、静かに言った。「彼は元特殊警察部隊の随行医で、かつて俺を救ってくれたんだ」彼は手を伸ばし、首からIDタグのネックレスを取り出した。依夜は息を呑み、岳の差し出したタグを見て、震える手で受け取った。そこには彼女の父の名前が刻まれていた。「まさか……」彼女は父の記憶がほとんどなかった。家族は離れて暮らし、ある日を境に永遠の別れとなった。「君たちの顔立ちは似てる」その言葉で依夜の涙が溢れ、静かに泣き続けた。どれほど経ったか分からないが、彼女はぽつりと言った。「私は家族の中で一番愚かな人間です」彼女は騙され、弄ばれ、傷つき、もう家族の顔を直視する勇気さえもなかった。しかし岳は突然言った。「でも、お父さんは言っていた。自分の娘は一番賢い子だと」依夜は呆然とし、顔を覆い、まるで子どものように泣き声をあげた。……その頃、鑑識課の職員は報告書を凛河に渡した。「すべての船の残骸は回収済みです。鑑定結果によれば、血液や人体組織の痕跡は一切ありません」凛河の動きがぴたりと止まった。命の綱を握ったように顔を上げた。「本当か！？」その職員は慎重に言葉を選んだ。「しかし、長時間の海流で流されてしまった可能性は否定できません……」海中から引き上げたものであり、海水や爆発で多くの痕跡が消失した可能性がある。この結果だけでは断言できないのだ。しかし凛河は後の言葉を聞かなかったかのように、目に希望の

依夜がパソコンを片付け終えたその瞬間、背後で鋭い爆発音が響いた。次の瞬間、彼女の手首が掴まれ、広い胸の中に抱きかかえられた。彼女は他のことは気にせず、すぐに言った。「もう分かりました、十四時方向」彼らは病院を出て、人質を連れて帰国する準備をしていたが、途中で抵抗に遭った。依夜が妨害信号を解読し、突破口を見つけたのだ。その言葉が終わる前に、岳の指揮が即座に始まった。船は包囲網を切り裂くように進み、戦火を背にして逃げ去った。通信機から声が届いた。「長官、船の迎えが完了しました！帰路につきます！お帰りなさい！」依夜は息を切らし、力尽きて甲板に座り込み、そのまま横になった。空は澄み渡り、硝煙は徐々に消えていく。横で音がして、なんと岳も彼女のそばに横になった。「いろいろあって大変だったな。今回は長期休暇を申請しよう！」彼は大きく息を吐き、顔を向けて依夜を見た。海風が心地よく、二人は死の淵を乗り越えた。心が緩んだ途端、思わず笑みがこぼれた。「今日、手がずっと震えていました」依夜はまだ心の動揺が残っていた。岳は言った。「でも君の頭は震えてなかった。あのパソコンは君の手にあるとき、ミサイルより役に立つ。依夜は、お父さんやお兄さんと同じくらい優秀だ」依夜は一瞬言葉を止め、目の端が濡れ、母の言葉を思い出した。「人はいつも前に進める。過去のことは真珠であろうと、クソであろうと、もうどうでもいい」例えば依夜と凛河の愛は、見た目は真珠のようだが、内側は完全に腐ってる。未練も苦しみもあるが、彼女は決して弱く過去に溺れる人間ではない。彼女はいつでも前に進み、振り返ったりしない。ここ数日依夜を押しつぶしていた大きな岩が、まるでこの瞬間に緩み、海風や波に流されていくようだった。「ありがとう」彼女は結局その言葉だけを口にした。二人は長く沈黙した。依夜がうとうとし始めた頃、岳がやや緊張した声で言った。「あの……帰ったら、デートしてもいいか？」ストレートな言葉に依夜ははっと目を覚まし、大きく目を見開き、すぐには反応できなかった。デート……？「いや、あのう……」普段は決断力のある岳が、急に口ごもり、しばらくして自分の唐突さに気づいたのか言い直した。「えっと……食事に行く

依夜は直接人事部門へ向かい、実名で凛河の犯罪者の庇護、職務怠慢、規律違反を告発した。彼女は階段の監視カメラ映像を復元し、それを証拠とした。映像にははっきりと菫が彼女を押し落とす様子が映っていた。しかし凛河の証言は、依夜が自ら転倒し、菫を押したという内容だった。依夜は大きな功績を立てたばかりで、彼女の申し立てを軽んじる者はいなかった。上司は即座に調査命令を出し、やがて凛河は拘束された。凛河は、依夜にそれほどの力があるとは知らず、驚きと悲しみが混じった表情を浮かべた。だが言い訳はできなかった。彼は確かに騙されて、菫のために依夜を傷つけた。「周防さん、何か言い分はありますか？」彼は目を閉じ、苦しそうな顔をした。「……ない」まるで胸を一発殴られたかのようにふらつき、椅子に座り込んだ。しかし依夜は一度も彼を見ず、証拠を提出するとすぐに立ち去った。彼に何か言うのは時間と労力の無駄だと判断した。懲戒処分はすぐに公表された。凛河は重い処分を受け、調査のため自宅謹慎となり、職務解任、生涯にわたり公務に関わることを許されなかった。この事件は部内に大騒動を巻き起こした。常に公正無私だった凛河が、まさかこのような人物だったとは。彼は警察という職業と国に恥になった。多くの者から嘲笑と軽蔑が一斉に浴びせられ、凛河はまるで捨て犬のように叩かれた。一週間後、依夜は菫を法廷に訴訟を提起し、全ての罪状を列挙した。やがて判決が下り、死刑が言い渡された。事件はついに終わった。凛河が職を辞する日、偶然依夜と出くわした。彼は骸骨のようにやせ細り、虚ろな目で依夜を見つめていた。「依夜、まだ俺を許してくれるか？」依夜は無言で、そのまま去ろうとした。だが凛河はふらつきながら突然彼女の前にひざまずいた。「依夜、俺は間違った、本当に間違った……」依夜は彼を見て、突然滑稽に思えた。いくら後から謝っても意味はない。傷は消えないからだ。起きたことは必ず跡を残し、割れた鏡は決して元には戻らない。沈黙が続くほどに、凛河の表情は狂気に近づいていった。「依夜！俺を見てくれ！今の俺を見てくれ！もう何もかも失った、これでも足りないのか！？」依夜は嘲るように笑った。「周防、それは自業自得だ。覚えてる？プロポーズした時