「分かっているよ。もう引き留めても無駄だってことくらい……せめて今夜だけは、私の可愛い孫のお嫁さんとして、最後の夕食を付き合っておくれ」……深雲が清音を連れて帰宅した頃には、すでに日は落ちてあたりは暗くなっていた。ただ、典子の住む離れだけが煌々と明かりを灯している。玄関をくぐると、ふわりと食欲をそそる匂いが漂ってきた。深雲は一瞬足を止め、リビングへと視線を向ける。そこには、ダイニングテーブルにつき、典子にスープをよそってやっている景凪の姿があった。その光景は、暖色系の照明に照らされ、あまりにも温かく、そして見慣れたものだった。まるで、ここ数日の景凪との争いなど全て悪夢だったのではないかと錯覚するほどに。夢から覚めれば、また彼女は俺の『景凪』に戻り、こうして祖母の世話をしながら、俺の帰りを待ってくれているのではないか――と。だが次の瞬間、景凪がスッと顔を上げ、深雲の幻想を粉々に砕いた。彼に向けられたその眼差しには一片の熱もなく、氷のように冷え切っていたのだ。深雲は気を取り直し、表情を引き締めて歩み寄った。「ひいおばあちゃん!」清音が真っ先に駆け出し、典子の懐へと飛び込む。典子にすれば、姿月に懐いていることへの不満はあるものの、やはり曾孫は可愛い。清音の愛らしい笑顔を見ると、強張っていた表情も自然と緩んだ。彼女は両手を広げ、小さな体をしっかりと受け止めた。「おばあさん」遅れて深雲も声をかける。だが、典子は一転して彼を睨みつけた。「お前みたいな孫を持った覚えはないよ!あんな女のために、病院で私に盾突くなんて!」さらに、研時のことを思い出したのか、怒りがぶり返したようだ。「研時もだよ、まったく大馬鹿者め!源三さんも、あのとき鞭でも使ってもっと厳しく折檻しておけばよかったんだ!」深雲は反論しなかった。ただ黙って頭を下げ、祖母の叱責を受け流す。言いたいことを言って少し気が済んだのか、典子の剣幕がやや和らいだ。「清音、手を洗っていらっしゃい。ご飯にするよ」「はーい」清音は素直に返事をしたが、部屋に入ってからずっと、横目で景凪の様子を窺っていた。以前なら、目が合うたびに微笑んで、『清音ちゃん』と優しく声をかけてくれたはずなのに。今日の母は、一度としてまともに目を合わせようとしなかった。清音は不安
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