All Chapters of 魔女リリスと罪人の契約書: Chapter 31 - Chapter 40

94 Chapters

魂の園庭への道程

鏡の塔を後にして三日。カイン、リリス、そして新たに仲間となったティセの三人は、古い街道を南へ向かっていた。「次の核は……死者の夢道にあるのよね」リリスが魔導地図を確認しながら呟く。これまでに四つの契約核を手に入れ、残るは三つ。旅路も終盤に差し掛かっていた。「死者の夢道って、物騒な名前ですね」ティセが不安そうに呟く。彼女はまだ幻影魔術しか使えない新米魔女で、戦闘経験も乏しかった。「魂の核が眠る場所よ。生と死の境界が曖昧になる、危険な領域」リリスの説明に、カインは腰の剣を確認する。これまでの戦いで、彼の実力も格段に向上していた。四つの核の力が彼の中で共鳴し、新たな能力を覚醒させつつある。街道の途中で、一行は小さな村に立ち寄った。しかし、村の様子がおかしい。「人がいませんね……」ティセが村の中央広場を見回しながら言う。確かに、人の気配がまったく感じられない。家々の窓は閉ざされ、店の扉も固く閉まっている。「全員、家の中に隠れてるな」カインが鋭く観察する。恐怖で家から出られないでいるのか、それとも——「あの……すみません」リリスが一軒の家の扉を叩くと、しばらくしてから恐る恐る扉が開いた。現れたのは、中年の女性。顔は青ざめ、怯えた目をしている。「旅の者です。この村で何か起こったのですか?」「あ、あなたたち……よそ者ね」女性は周囲を見回してから、小声で続けた。「この村に……“死を呼ぶ女”が現れたの。夜になると、村人を一人ずつ連れ去っていく」「死を呼ぶ女?」「黒いドレスを着た美しい女性。でも、その瞳は死んでいて……触れられた者は魂を抜き取られてしまう」女性の話を聞いて、リリスの表情が変わった。「もしかして……ルアナ?」「リリス様、知り合いですか?」ティセが問いかけると、リリスは複雑な表情で頷いた。「ルアナ=レーヴァン。昔、私の配下だった魔女よ。でも……彼女は死んだはずだった」「死んだ?」「魔女狩りの時に。私の目の前で……」リリスの声が沈む。かつての仲間との再会は、必ずしも喜ばしいものではない。特に、死んだはずの者との再会は。夜が訪れると、村に異様な静寂が降りた。三人は宿屋の一室で待機していたが、真夜中過ぎに窓の外から美しい歌声が聞こえてきた。『眠りなさい……永遠の眠りに……』『魂よ、私のもとへ……』その声は魅惑的で、
last updateLast Updated : 2025-08-17
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魂の園庭、死者の審判

魂の園庭は、この世のものとは思えない美しさを持っていた。月明かりに照らされた庭園には、見たことのない色とりどりの花が咲き誇っている。しかし、それらの花は普通の花ではない。よく見ると、花びらの一枚一枚が、まるで魂のように淡く光っているのだ。「綺麗……でも、どこか寂しい」ティセが呟く。確かに美しいが、生者の世界とは異なる、静寂に満ちた美しさだった。園庭の中央には、白い大理石でできた円形の祭壇があり、その上に透明な水晶の秤が置かれている。秤の両端には、何も乗っていないのに微妙に傾いており、まるで見えない何かの重さを量っているかのようだった。「あれが、魂を量る秤……」リリスが祭壇に近づくと、周囲の花々がざわめくように光を強めた。そして、花の間から透明な人影がゆらりと立ち上がる。それは死者たちの魂だった。男性、女性、老人、子供——様々な年齢や性別の魂が、静かにリリスたちを取り囲む。彼らの表情は穏やかだが、その瞳には深い知恵と、生者を見透かすような鋭さがあった。「ようこそ、魂の園庭へ」死者の一人——老賢者のような男性が口を開く。「ここは、魂の真実を明かす場所。偽りも虚飾も、すべて剥ぎ取られる」「私たちは……」リリスが言いかけると、老賢者は手で制した。「言葉は不要。魂の重さは、行いと想いによって決まる」老賢者が祭壇の秤を指差す。「この秤に、あなたたちの魂を乗せなさい。真に愛し合っているなら、魂は軽やかに浮かび上がる。偽りの愛なら、重く沈んでしまう」「魂を……乗せる?」カインが困惑する。物理的にはどうすればいいのか分からない。「案ずるな。ただ、秤に手を触れるだけでよい」老賢者に促され、リリスとカインは恐る恐る秤に手を置いた。瞬間、秤が眩い光を放ち、二人の体から淡い光の球が浮かび上がる。それが彼らの魂だった。魂の球は秤の皿の上にゆっくりと降り立つ。リリスの魂は深い紫色、カインの魂は金色に輝いている。しかし——秤はバランスを保てずにいた。どちらかに傾くでもなく、不安定に揺れ続けている。「これは……」老賢者が眉をひそめる。「魂に迷いがある。真実と偽りが混在している」死者たちがざわめき始める。「このままでは、審判を下すことができない」「どうすれば……」リリスが不安そうに問いかけると、別の死者——若い女性の魂が前に出た。「魂の奥
last updateLast Updated : 2025-08-18
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過去への扉、元恋人の影

魂の園庭から三日の道のりを経て、一行は古い石造りの都市に到着した。しかし、そこは廃墟だった。かつては栄華を誇ったであろう建物群は半ば崩れ落ち、蔦や苔に覆われている。中央には巨大な神殿があったが、屋根は陥没し、柱の多くが折れていた。「ここが……グラヴィオン古都」リリスが地図を確認しながら呟く。その声には、懐かしさと複雑な感情が混じっていた。「リリス様、この街に何か思い出が?」ティセが気を遣うように尋ねると、リリスは小さく頷いた。「昔、よく来た場所よ。その人と……一緒に」リリスが指差した先には、街の最奥部に黒い尖塔が見えた。他の建物とは違い、その塔だけは完全な形を保っている。まるで時が止まったかのように。「あそこに、感情の核がある。そして……彼もいる」「彼って……」カインが眉をひそめると、リリスは目を伏せた。「ゼル=オルクレイン。私が……愛していた男性よ」その名前を口にした時、リリスの表情に微かな痛みが走った。過去の恋人について語るのは、現在のパートナーであるカインの前では辛いことだろう。「愛していた……過去形なのか?」カインの問いに、リリスは答えに詰まった。「それは……分からない」正直な答えだった。しかし、その正直さがカインの胸を刺す。廃墟の街を歩いていると、時折、過去の幻影が現れた。かつてこの街が栄えていた頃の人々の姿、賑やかな市場、美しい噴水——それらが薄っすらと重なって見える。「この街、まだ記憶が残ってるんですね」ティセが幻影に手を伸ばすが、当然ながら触れることはできない。「強い感情が刻まれた場所は、時が経っても記憶を保持する」リリスが説明する。「私とゼルが過ごした時間が、この街の記憶として残っているのでしょう」街の中央広場に着くと、そこに人影があった。背の高い男性が、噴水の縁に腰かけて空を見上げている。「ゼル……」リリスが震え声で呟く。男性——ゼルがゆっくりと振り返った。現れたのは、端正な顔立ちの男性だった。年齢は三十代前半、銀色の髪と青い瞳を持っている。知的で穏やかな印象だが、その奥に深い悲しみを秘めているのが分かった。「リリス……久しぶりだね」ゼルの声は優しく、昔と変わらない温かさがあった。しかし、リリスを見つめるその瞳には複雑な感情が宿っている。「あなた……なぜここに?」「君を待っていたんだ。
last updateLast Updated : 2025-08-19
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愛の記録、感情の核心

塔の内部は、外見よりもはるかに広かった。螺旋階段の両側には無数の肖像画が掛けられており、それらすべてがリリスとゼルの過去を物語っていた。初めて出会った日の絵、手を繋いで歩く姿、笑い合う二人、抱き合う姿——幸せな時間の記録が延々と続いている。「これは……」カインが絵の一つを見つめる。そこには、花畑でくつろぐリリスの姿があった。今の彼女とは違う、無邪気で屈託のない笑顔を浮かべている。「僕が描いたんだ」ゼルが振り返る。「リリスの笑顔を忘れたくなくて、毎日のように描いていた」階段を上がるにつれ、絵の内容も変化していく。幸せな日々から、少しずつ影が差し始める。リリスの表情が硬くなり、ゼルとの距離も微妙に離れていく。「この頃から……変わり始めたのね」リリスが一枚の絵の前で立ち止まる。そこには、玉座に座る黒契王としての彼女が描かれていた。冷酷で威圧的な表情。かつての恋人を見つめるゼルの目には、困惑と悲しみが宿っている。「君が黒契王になってから、僕たちの関係は変わった」ゼルの声が沈む。「力を求めるあまり、君は愛よりも支配を選んだ」「それは……」リリスが言いかけて、言葉を飲み込む。確かに、権力を手にしてから彼女は変わった。愛情よりも恐怖で相手を支配するようになり、ゼルとの関係も主従に変質していった。「でも、僕は君を愛し続けた。最後まで」ゼルが最上階への扉に手をかける。「この先に、すべての記録がある。僕たちの愛の始まりから終わりまで」扉が開かれると、そこは円形の大きな部屋だった。壁には無数の魔法の鏡が埋め込まれており、それぞれに異なる記憶が映し出されている。そして部屋の中央には、美しく光る核が浮いていた。感情の核——それは見る者の心を揺さぶる、複雑な色合いを放っている。「さあ、始めよう」ゼルが部屋の中央に立つ。「この鏡たちが、僕たちの過去をすべて映し出す。そして君たちに問うだろう——本当の愛とは何かを」鏡の一つが明るく光り、映像が現れた。それは、リリスとゼルが初めて出会った日の記憶。若い魔術師だったゼルが、魔女として孤立していたリリスに声をかける場面。「君は一人じゃない」鏡の中のゼルが、涙を流すリリスに優しく語りかける。「僕が君のそばにいる」その優しさに、リリスは初めて心を開いた。愛することの喜びを、彼が教えてくれたのだ。現在
last updateLast Updated : 2025-08-20
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最後の核、黒契神殿への道

感情の核を手に入れてから一週間。六つの核を身に宿したリリスの力は、もはや以前とは比較にならないほど強大になっていた。歩くだけで周囲の空気が震え、魔力の波動が大地に伝わっていく。木々は彼女に向かって枝を伸ばし、花々は咲き誇り、小動物たちは畏怖と親愛の眼差しで見つめていた。「すごいですね、リリス様の力」ティセが感嘆の声を上げる。彼女もまた、この旅で大きく成長していた。幻影魔術の腕は上達し、戦闘でも十分に役立つレベルに達している。「でも、まだ完全じゃない」リリスが遠くの山脈を見つめながら呟く。「最後の核——それを手に入れるまでは、真の黒契王には戻れない」最後の核は、伝説の場所に眠っているという。黒契神殿——かつて魔女たちの聖地と呼ばれた、神話の中にしか存在しないとされる場所。「本当にあるのか? その神殿」カインが疑問を口にする。これまでの核は、具体的な場所にあった。しかし、神話の中の場所というのは曖昧すぎる。「あるわ。ただし……」リリスの表情が険しくなる。「そこは、この世界の境界線上にある。生者の世界と死者の世界、現実と幻想の狭間」つまり、たどり着くことすら困難な場所ということだった。三人は北の山脈を目指して歩き続けた。やがて、文明の跡が完全に消える。道もなく、人の気配もない原始の森。「この森の奥に、神殿への入り口があるはず」リリスが魔導羅針盤を確認する。針は不安定に揺れ、時には逆方向を指すこともあった。「空間が歪んでるな」カインが周囲を警戒する。木々の配置が時々変わり、通ってきた道が消えている。明らかに普通の森ではない。歩くこと数時間、突然目の前に巨大な石の門が現れた。古代の文字が刻まれた、荘厳な造りの門。しかし、扉は固く閉ざされている。「黒契神殿の門……」リリスが門に近づくと、古代文字が光り始めた。そして、どこからともなく声が響く。『汝、真の黒契王なりや』『汝の心に、王としての覚悟ありや』『汝の愛、すべてを超越せしや』三つの問いが連続して響く。リリスは迷わず答えた。「私は真の黒契王。すべてを統べる覚悟を持ち、愛によって世界を変える意志がある」しかし、門は開かれない。『答え、不十分なり』『真の王とは、一人にして成らず』『汝の伴侶と共に、再び答えよ』どうやら、リリス一人では不十分らしい。カインと共に答える必要
last updateLast Updated : 2025-08-21
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新たな黒契王、帰還への決意

黒契神殿から森へと戻った一行は、開けた丘の上で野営することにした。七つの核を手に入れたリリスの力は安定しつつあったが、まだ完全には制御できずにいた。「体調はどう?」カインがリリスの隣に座りながら尋ねる。彼女の体からは微かに光が漏れており、普通の人間とは明らかに異なる存在になっていることが分かった。「力が溢れすぎて、時々制御が難しいわ」リリスが手のひらを見つめる。そこには七つの契約紋が複雑に絡み合って刻まれており、それぞれが異なる色の光を放っていた。「でも、以前とは違う。冷たい力じゃない……温かい」確かに、かつての黒契王時代の威圧的な魔力とは質が違っていた。今のリリスからは、包み込むような優しさを感じる。「ティセ、あなたも変わったわね」リリスが火の向こうで薪を集めているティセに声をかける。「え? 私がですか?」「この旅で、ずいぶん成長した。もう、頼りない少女じゃない」確かに、ティセの幻影魔術は格段に上達していた。それだけでなく、精神的にも強くなり、困難な状況でも冷静に判断できるようになっている。「リリス様とカイン様のおかげです」ティセが微笑む。「お二人を見ていて、本当の強さとは何かを学びました」焚き火を囲んで座る三人。星空の下で、これまでの旅を振り返る。「長い旅だった」カインが呟く。「最初は復讐だけが目的だったのに……」「今は違うのね」リリスが彼の手を取る。「復讐ではなく、正義を。破壊ではなく、創造を」「ああ。お前と一緒にいて、俺も変わったんだな」二人の会話を聞きながら、ティセはほっこりとした気持ちになった。最強の魔女と元騎士という組み合わせが、いつの間にか本当に愛し合うカップルになっている。「それで、これからどうするんですか?」ティセが現実的な質問をする。「帝国との決戦は避けられないでしょうね」リリスの表情が真剣になる。「クラウスは、私の復活を知れば必ず動く。そして……」リリスが遠くの空を見上げる。「おそらく、彼の背後には『統律の塔』がいる」「統律の塔?」「世界の秩序を維持すると称して、すべてを管理しようとする組織よ。魔女狩りも、彼らが裏で糸を引いていた」リリスの説明に、カインは拳を握った。「じゃあ、俺を嵌めたのも……」「おそらく、そうでしょうね。あなたのような正義感の強い騎士は、彼らにとって邪
last updateLast Updated : 2025-08-22
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帝都潜入、古き仲間との再会

帝都セフィラスの城壁が見えてきた時、既に日は傾き始めていた。白い石造りの巨大な壁がオレンジ色に染まり、壮麗でありながらどこか威圧的な印象を与えている。「懐かしいな……」カインが感慨深げに呟く。かつてここで騎士として働いていた頃の記憶が蘇ってくる。あの頃は、この城壁が正義と秩序の象徴だと信じていた。「正面から入るわけにはいかないわね」リリスが城壁の警備を観察しながら言う。魔導兵の巡回が以前より増強されており、明らかに彼らの到着を警戒している。「地下水路から入れるはずよ」ティセが地図を確認する。「幻影魔術で姿を隠しながら進めば、発見される可能性は低いでしょう」三人は日没を待ってから行動を開始した。ティセの幻影魔術により姿を隠し、城壁の外れにある古い下水道の入り口から都市内部に侵入する。地下水路は薄暗く、湿った空気が立ち込めている。足音を立てないよう注意しながら、一行は都市の中心部へ向かった。「この先で地上に出られるはず」カインが先頭に立って案内する。騎士時代の知識が役に立った。地上に出ると、そこは帝都の下町だった。夜の闇に紛れて、三人は慎重に街を歩く。「あまり変わってないな」街並みは十年前とほとんど同じだった。しかし、人々の表情がどこか暗い。以前より監視が厳しくなっているのだろう。「まずは情報収集よ」リリスが小さな酒場を指差す。「あそこなら、噂話が聞けるかもしれない」酒場『金の杯』は、下町の住民や旅人が集う庶民的な店だった。三人は目立たないよう変装して入店する。店内は煙草の煙と酒の匂いが混ざった、典型的な労働者向けの酒場だった。客たちは小声で話しており、時折周囲を気にしながら会話している。「最近、帝国の動きがおかしいらしいな」隣のテーブルから聞こえてくる会話に耳を澄ます。「魔導騎士団が総動員されてるって話だ」「何があったんだろうな」「噂では、伝説の魔女が復活したとか……」やはり、リリスの復活は既に知れ渡っているようだった。その時、酒場の扉が開き、フードを深く被った人物が入ってきた。その人物は三人のテーブルに近づき、小声で話しかける。「あなたたち……もしかして」フードを下ろすと、現れたのは見覚えのある顔だった。「ヴァルナ!」カインが驚きの声を上げそうになり、慌てて口を押さえる。ヴァルナ・クレアハルト——かつて
last updateLast Updated : 2025-08-23
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帝都の夜、魔導騎士団との戦い

帝都の夜空に、魔導弾の光が弧を描いて飛び交った。「こっちよ!」ヴァルナが先頭に立って路地を駆け抜ける。後方では魔導騎士団の追手が迫っており、重装甲の足音が石畳に響いていた。「包囲されてるわね」リリスが振り返りながら呟く。前方からも別の部隊が現れ、四方を囲まれる形になってしまった。「仕方ない……戦うしかないか」カインが剣を抜く。しかし、相手は元同僚たち。できれば傷つけたくはない。「待って」リリスが手を上げて制する。「私に任せて。誰も殺さずに済む方法がある」リリスが両手を広げると、七色の光が掌から溢れ出した。それは美しくも神々しい光で、見る者の心を平安で満たす。「『調和の契約』」光が波紋のように広がると、騎士たちの動きが止まった。武器を構えたまま、まるで時が止まったかのように静止している。「これは……」ティセが驚愕の声を上げる。「戦意を奪う魔術よ。でも、一時的なもの。急いで移動しましょう」四人は静止した騎士たちの間を縫って走り抜けた。しばらくして騎士たちは正気を取り戻すが、その頃には一行の姿は見えなくなっている。「すごい力ね……」ヴァルナが感嘆の息を漏らす。「以前のリリス様とは、まったく違う」「私は変わったのよ。破壊ではなく、創造を選んだから」四人は下水道に再び潜り、帝都の中心部に向かった。白の尖塔——統律の塔の本拠地まで、あと少しの距離。「警備はどうなってる?」「昼間は魔導兵が常駐してるけど、夜は魔導障壁だけ」ヴァルナが説明する。「ただし、その障壁が厄介。どんな魔術も弾き返す」「なら、正面突破は無理ね」リリスが思案する。「でも、障壁にも弱点があるはず」その時、下水道の奥から足音が聞こえてきた。追手が地下にも回り込んだようだ。「急がないと……」慌てて移動していると、前方に人影が現れた。しかし、それは敵ではなかった。「お久しぶりです、リリス様」現れたのは、黒髪の美しい女性だった。メガネをかけた知的な印象で、濃紺のローブを身にまとっている。「セラ!」リリスが驚きの声を上げる。死者の森で出会った、記憶の魔女セラ=アンドリーネだった。「なぜここに?」「あなたを助けるために来ました」セラが微笑む。「記憶の核の力で、統律の塔の内部構造を調べました」セラが手のひらに魔法陣を描くと、空中に塔の立体模型が現
last updateLast Updated : 2025-08-24
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クラウスとの決戦、真実の暴露

白の尖塔最上階で、ついに真の戦いが始まった。「『統合契約術・七重展開』」リリスが両手を広げると、七つの契約核すべてが共鳴を始めた。快楽、忠誠、記憶、痛み、幻影、魂、感情——それぞれが異なる色の光を放ち、彼女の周囲を旋回する。「これが……新たな黒契王の力」クラウスも警戒を強める。十年前のリリスとは明らかに次元が違う力を感じ取っていた。「だが、統律の塔の技術も進歩している」クラウスが胸元から小さな水晶を取り出す。それは血のように赤く、不気味な脈動を繰り返していた。「『魔女封じの石』——君の力を無効化する究極の対魔女兵器だ」水晶が光ると、リリスの周囲の光が一瞬揺らいだ。確かに、核の力が抑制されているのを感じる。「厄介ね……」リリスが眉をひそめる。完全に無効化されるわけではないが、力の出力が著しく制限されている。「その隙に!」カインが立ち上がり、クラウスに切りかかる。魔導剣との激しい剣戟が部屋に響いた。一方、ヴァルナとティセは連携してクラウスの側面を狙う。四人がかりの攻撃に、さすがのクラウスも押され気味になる。「くっ……」クラウスが後退しながら、腰に下げた小型の魔導具を起動する。すると、部屋の四隅から黒い影が立ち上がった。「『影の守護者』召喚」影は人型に形を変え、それぞれが武器を持って襲いかかってくる。人工的に作られた魔物だが、その戦闘力は本物の戦士並みだった。「分散されたか」カインが舌打ちする。四人はそれぞれ影の守護者と対峙することになり、クラウスへの攻撃が分散してしまった。「これで一対一だ、リリス」クラウスがリリスに向き直る。「昔のように、決着をつけよう」「昔のように……?」リリスの目に複雑な光が宿る。「あなたとは、本当に戦ったことなんてなかった。すべて演技だったのでしょう?」「そうだ。だが、君への感情は本物だった」クラウスの告白に、リリスは息を呑む。「私は君を愛していた。今でも愛している」「嘘よ」「嘘ではない。だからこそ、君を統律の塔に引き渡すことはできなかった」クラウスが魔導剣を下ろす。「君の失墜も、実は私が仕組んだことだ。塔に捕らえられるより、自由でいてほしかった」リリスは混乱した。すべてが裏切りだと思っていたのに、実は愛ゆえの行動だったというのか。「でも……仲間たちは死んだ」「それは……すま
last updateLast Updated : 2025-08-25
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統律の塔本拠地、最終決戦の序章

白の尖塔が崩れ落ちてから一週間が経った。帝都は大混乱に陥っていた。統律の塔の支配から解放された人々は困惑し、真実を知った騎士たちの多くが組織を離脱した。しかし、混乱は一時的なものに過ぎない。真の敵は、まだ姿を現していなかった。「統律の塔の本拠地は、次元の狭間にある」セラが古い文献を調べながら説明する。「『永劫の要塞』と呼ばれる、現実と非現実の境界に建てられた巨大な構造物」一行は帝都郊外の古い修道院跡に身を隠していた。ここなら、塔の残党に見つかる心配はない。「どうやって行くんだ?」カインが地図を見つめながら問う。次元の狭間など、普通の方法では到達できないはずだ。「特殊な転移陣が必要よ」リリスが契約核を確認する。「七つの核を同時に使えば、次元の壁を突破できるかもしれない」しかし、それは非常に危険な賭けでもあった。失敗すれば、次元の狭間で永遠に迷子になってしまう可能性がある。「でも、やるしかないわね」リリスの目に決意が宿る。「このまま放置すれば、統律の塔は別の手段で世界支配を試みる」その時、修道院の扉が開かれた。現れたのは、意外な人物だった。「お疲れ様、リリス様」それは、かつての配下の一人——ミリア=クロフォードだった。ロリ巨乳の可憐な少女だが、その実力は確かなものがある。「ミリア! 生きてたのね」「はい。統律の塔から逃れて、ずっと隠れていました」ミリアが嬉しそうに駆け寄る。「でも、リリス様の力が戻ったと聞いて、お手伝いしたくて」「危険よ。最終決戦になる」「だからです。リリス様のために戦いたいんです」ミリアの瞳に、強い忠誠心が宿っていた。こうして、一行はさらに仲間を得た。リリス、カイン、ティセ、ヴァルナ、セラ、そしてミリア。六人の戦士が、最後の戦いに臨む。「転移陣の準備ができました」セラが古い魔法陣を復元し、リリスの核の力で強化する。複雑な紋様が床に描かれ、七色の光が脈動している。「みんな、覚悟はいい?」リリスが仲間たちを見回す。全員が頷いた。「では、行きましょう。永劫の要塞へ」転移陣が起動すると、六人の体が光に包まれた。現実世界が歪み、次元の壁が破られていく。激しい目眩と浮遊感の後、一行は見知らぬ場所に降り立った。そこは——想像を絶する光景だった。空は血のように赤く、大地は黒い結晶で覆われている。そし
last updateLast Updated : 2025-08-26
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