夕星はかすかな笑みを浮かべた。「皆さんの前途が輝かしいものでありますように」「ディレクター」名残惜しそうな声が飛ぶ。「本当におやめになるのですか?」夕星は軽く頷いた。「ええ」「でもディレクターの香水シリーズはまだ完成していないじゃありませんか」あんなに素晴らしいシリーズなのに、人が替わったら続けられるかどうかもわからない。夕星は荷物をまとめ終えると、ふと顔を上げた。そこには雲和と凌が並んで立っており、白いドレスとスーツの組み合わせが絵になっていた。けれど、眺める心の余裕などなかった。夕星は段ボール箱の蓋を閉めた。「お姉ちゃん」雲和が近づき、目を赤くしていた。「私、お姉ちゃんのポジションを奪うつもりはなかった」夕星は箱を抱え、淡々とした目で言った。「奪おうが奪うまいが、もうあなたのものよ」凌と同じだ。奪おうが奪うまいが、彼の心の中には彼女の居場所がある。「凌ちゃん、お姉ちゃんに残ってくれるよう説得して」雲和は凌の方へ振り返り、柔らかく頼んだ。「私が原因なら、他の場所で働いても構わない」そして唇を噛んで続けた。「それに、お姉ちゃんの方が経験が豊富よ」凌は涼しい顔をしていた。もともと夕星の気性を抑えようとしていたのだから、引き留めるはずもない。「雲和、お前はキャサリンさんに三年間香水調合を学んだ。開発ディレクターの役職に十分ふさわしい」その視線を夕星に移す。「夕星は系統立てて学んだこともないのに、このポジションの責任を負えるだろうか」軽くも重くもない嘲りが、大勢の前で夕星のメンツをつぶした。夕星の顔から血の気が引き、心臓をナイフで裂かれたように、骨の髄まで痛んだ。凌の心の中で自分が雲和に及ばないことはわかっていた。だが、ここまで低く見られていたとは知らなかった。公衆の前で踏みにじっても構わないほどに。「凌ちゃん、そんな言い方をしないで。お姉ちゃんはとても優秀だよ」雲和は少し怒り、繊細な眉をひそめた。凌は冷笑した。「お前が心配しても、彼女は気にしないだろう」夕星は再び笑顔を作った。「話が終わったなら、私は失礼するね」彼女は段ボール箱を抱えたまま去って行った。エレベーター前に差しかかると、背後から凌の低い声が響いた。「夕星、もし頭を下げて従うなら、サブディレクターのポジションを
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