All Chapters of わたしを殺した騎士が、記憶を失って“好きだ”と言ってきた。: Chapter 11 - Chapter 20

49 Chapters

引き裂かれる心と秘密の約束

その日の午後、私は一人で部屋にいた。 カイルとの面会の余韻で、心が温かかった。記憶が戻っても、彼の愛は変わらない。それが分かっただけで、希望が持てる。 でも、現実は厳しい。 彼は今、任務と愛情の間で苦しんでいる。記憶を取り戻したことで、騎士としての使命感も戻ってきているのでしょう。 コンコン。 扉がノックされた。 「はい」 「ヴァルドです」 嫌な声。でも、逃げるわけにはいかない。 「入って」 扉が開いて、ヴァルドが現れた。いつもの冷たい笑顔を浮かべて。 「お疲れ様でした、王女」 「何の用?」 「カイルとの面会はいかがでしたか?」 探るような視線。きっと、様子を聞きに来たのね。 「特に変わったことはなかったわ」 嘘をついた。本当のことを話すわけにはいかない。 「そうですか」 ヴァルドが椅子に座った。 「彼は記憶を取り戻して、随分と苦しんでいるようですが」 「あなたたちが無理やり記憶を戻したからでしょ」 「必要な処置でした」 ヴァルドが肩をすくめた。 「騎士として、任務を思い出していただかないと」 「彼を苦しめるためね」 「苦しんでいるのは、彼が迷っているからです」 ヴァルドが私を見つめた。 「任務と、あなたへの感情の間で」 図星だった。でも、認めるわけにはいかない。 「私への感情なんて、あるの?」 「ありますね」 ヴァルドがにやりと笑った。 「記憶操作の副作用が、まだ残っているようです」 副作用……また、その言葉。 「愛を副作用って言うのはやめて」 「では、何と呼びましょうか?」 「愛よ」 私は胸を張った。 「純粋な愛」 「純粋?」 ヴァルドが首を振った。 「殺すべき相手を愛するのが純粋ですか?」 「殺すべき相手じゃない」 「彼にとってはそうです」 ヴァルドが立ち上がった。 「騎士団の命令で、あなたを殺すことになっている」 「なぜ私を殺さなければならないの?」 ずっと疑問に思っていたことを尋ねた。 「私が何をしたって言うの?」 「存在すること自体が罪です」 存在すること自体? 意味が分からない。 「説明して」 「できません」 またはぐらかされた。 「とにかく」 ヴァルドが扉に向かった。 「カイルには、正しい判断をしてもらいます」 正しい判断……つまり、私を
last updateLast Updated : 2025-08-09
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愛を試す刃

朝の光で目を覚ました私は、今日が特別な日だということを思い出した。 カイルとナイフを持って向き合う日。 私たちの愛が、試される日。 胸がドキドキしているけれど、怖くはない。 昨夜の手紙で、彼の気持ちは分かった。 彼は愛を選んでくれる。 私を選んでくれる。 コンコン。 扉がノックされた。 「どなた?」 「朝食をお持ちしました」 看守の声。 「入って」 扉が開いて、若い看守が盆を持って入ってきた。 でも、その看守……エドワードだった。 「おはようございます、王女様」 小声で挨拶してくれる。 「おはよう。わざわざありがとう」 「お手紙、お渡ししました」 エドワードが盆を置きながら囁いた。 「カイル様は、とても喜んでおられました」 よかった。私の気持ちが伝わったのね。 「彼の様子はどう?」 「落ち着いておられます」 エドワードが安心させるように微笑んだ。 「きっと大丈夫です」 「ありがとう」 私も微笑み返した。 「あなたがいてくれるだけで、心強いわ」 エドワードが盆の下から小さな紙片を取り出した。 「お返事です」 また手紙? 嬉しい。 私は急いでそれを受け取った。 『リア 君の手紙を読んで、勇気が出た。 君が俺を信じてくれている。それだけで、どんなことでも乗り越えられる。 今日のテスト、俺は絶対に君を傷つけない。 この手は、君を愛するためにある。 君を守るためにある。 もしも、俺が迷ったように見えても、安心してくれ。 演技だから。 ヴァルドたちを安心させるための演技だ。 俺の本心は、ただ一つ。 君を愛している。 カイル』 演技……そうか、カイルも考えているのね。 ヴァルドたちの前では、騎士らしく振る舞って。 でも、私には愛を示してくれる。 賢いやり方だわ。 「お返事は?」 エドワードが尋ねた。 「いえ、今度は大丈夫」 私は手紙を胸に抱いた。 「彼の気持ちは十分分かったから」 「分かりました」 エドワードが立ち上がった。 「それでは、時間が参りましたら呼びに伺います」 「はい」 エドワードが去った後、私は朝食を取った。 今日は大切な日だから、しっかり食べておかないと。 パンも、スープも、いつもより美味しく感じる。 きっと、希望に満ちているからね。 窓の外
last updateLast Updated : 2025-08-09
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愛の代償と新たな希望

「テストは失敗です!」 ヴァルドの怒声が訓練場に響いた後、重い沈黙が落ちた。 私とカイルは、まだ抱き合ったままだった。 周りの視線なんて関係ない。 今は、彼の温もりだけを感じていたい。 「カイル」 ヴァルドが冷たい声で呼んだ。 「あなたは任務を放棄しました」 カイルが私から離れて、ヴァルドと向き合った。 その表情は、もう迷いがない。 「任務を放棄したのではない」 カイルがはっきりと答えた。 「俺は、正しい選択をした」 「正しい選択?」 ヴァルドが冷笑した。 「上官の命令に背くことが正しいと?」 「愛を選ぶことが正しい」 カイルが断言した。 「俺は彼女を愛している。それ以上でも、それ以下でもない」 観客席の騎士たちがざわめいた。 きっと、こんな展開は予想していなかったのでしょう。 「愛……」 上層部の一人が立ち上がった。 年配の男性で、威厳のある顔をしている。 「騎士が任務よりも愛を優先するなど、言語道断だ」 「なぜですか?」 カイルが振り返った。 「騎士も人間です。愛する権利があるはずです」 「騎士は国に仕える身」 年配の男性が厳しい声で言った。 「個人的な感情など、二の次だ」 「では、お聞きします」 カイルが一歩前に出た。 「なぜ彼女を殺さなければならないのですか?」 良い質問。私も知りたい。 「それは……」 年配の男性が言いよどんだ。 「機密事項だ」 「機密事項?」 カイルが眉をひそめた。 「なぜ一人の女性を殺すことが機密事項なのですか?」 「それは……」 答えられないのね。 きっと、正当な理由なんてないからよ。 「答えられないということは」 私が口を開いた。 「正当な理由がないということね」 「黙れ」 ヴァルドが鋭く言った。 「お前に発言権はない」 「あるわ」 私は胸を張った。 「殺される当人なんだから」 「そうですね」 観客席から声が上がった。 若い騎士が立ち上がっている。 「王女様にも、説明を求める権利があるのではないでしょうか」 エドワード! 彼が私たちを支援してくれている。 「その通りだ」 別の騎士も立ち上がった。 「理由もなく王女を処刑するなど、おかしい」 「我々も納得できません」 次々と騎士たちが立ち上がった。 みんな、私
last updateLast Updated : 2025-08-10
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束の間の幸せと忍び寄る影

その夜、騎士団の食堂は異例の賑わいを見せていた。 私たちを支持してくれる騎士たちが集まって、愛の勝利を祝ってくれている。 テーブルには、普段は食べられないような豪華な料理が並んでいた。 みんなが、自分の持ち寄りで準備してくれたもの。 「王女様、こちらをどうぞ」 エドワードが、美味しそうなワインを注いでくれた。 「ありがとう」 私は微笑んで受け取った。 「でも、こんなに豪華にしなくても……」 「いえいえ」 エドワードが首を振った。 「今日は特別な日です。愛が勝利した記念すべき日ですから」 愛が勝利した……そう言われると、改めて嬉しくなる。 「カイル様も、こちらへ」 別の騎士が、カイルを隣の席に案内してくれた。 彼は少し戸惑っているようだったけれど、素直に従った。 「みんな、ありがとう」 カイルが立ち上がって、騎士たちに向かって頭を下げた。 「俺たちのために、こんなに……」 「当然です」 年配の騎士が笑顔で答えた。 「あなたたちの愛は、我々にも勇気をくれました」 「勇気?」 私が首をかしげると、その騎士が説明してくれた。 「最近の騎士団は、規律ばかりで人間味がなくなっていました」 「そうそう」 別の騎士も頷いた。 「命令に従うだけの機械のようになってしまって」 みんな、同じことを感じていたのね。 「でも、あなたたちを見て思い出しました」 エドワードが真剣な顔で言った。 「騎士も人間だということを」 「愛することの大切さを」 「守るべきものがあることの意味を」 次々と声が上がった。 みんな、心から私たちを支持してくれている。 「ありがとう」 私は涙ぐんでしまった。 「こんなに温かく迎えてもらえて……」 「泣かないでください」 エドワードが慌てて言った。 「今日は喜びの日です」 「そうね」 私は涙を拭いて、微笑んだ。 「今日は、笑顔でいましょう」 「乾杯!」 誰かが声を上げた。 「愛の勝利に!」 「愛の勝利に!」 みんながグラスを掲げた。 ワインが美味しくて、心も軽やかになる。 でも、一番嬉しいのは、カイルが隣にいてくれること。 彼の笑顔を見ているだけで、幸せな気持ちになる。 「リア」 カイルが小声で話しかけてきた。 「少し外の空気を吸わないか?」 「いいわね」
last updateLast Updated : 2025-08-11
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離ればなれでも繋がる心

私が連れて行かれたのは、王都から少し離れた古い修道院だった。 石造りの重厚な建物で、静寂に包まれている。 「こちらが、あなたの部屋です」 案内してくれたのは、シスターのような服装をした年配の女性だった。 「マリア院長と申します」 「よろしくお願いします」 私は丁寧に挨拶した。 「ここは……」 「聖ルチア修道院です」 マリア院長が説明してくれた。 「静かで、祈りに適した場所です」 祈り……確かに、神聖な雰囲気が漂っている。 でも、なぜ私をここに? 「なぜ、私がここに?」 「あなたの心を清めるためです」 マリア院長が優しく微笑んだ。 「騎士への想いを忘れて、神に仕える道を歩んでいただくために」 つまり、私とカイルの愛を諦めさせるつもりね。 でも、そんなことは無理。 私の愛は、神への信仰よりも強い。 「分かりました」 とりあえず、従うふりをしておこう。 「よろしくお願いします」 「こちらこそ」 マリア院長が私を部屋に案内してくれた。 質素だけれど、清潔で居心地の良さそうな部屋。 窓からは美しい庭が見える。 「お食事は食堂でいたします」 「はい」 「それから、毎朝の祈りにもご参加ください」 「分かりました」 マリア院長が去った後、私は一人になった。 窓辺に座って、外の景色を眺める。 カイルは今、どこにいるのかしら。 元気にしているかしら。 私のことを思ってくれているかしら。 きっと、思ってくれているはず。 私も、彼のことばかり考えている。 愛があれば、距離なんて関係ない。 そう信じて、今日を過ごそう。 ----- 夕方になって、食堂で夕食をいただいた。 シスターたちと一緒の食事。 みんな、優しくて親切な人たちだった。 「リア様は、どちらのご出身ですか?」 若いシスターが尋ねてきた。 「王都です」 「まあ、都会の方なのですね」 「ここは静かでよいところですね」 私も笑顔で答えた。 「心が落ち着きます」 本当は、カイルのことばかり考えているけれど。 「リア様」 マリア院長が口を開いた。 「明日から、写経をしていただきます」 写経? 「経典を書き写すのです」 「どのような効果が?」 「心を無にして、雑念を払います」 雑念……つまり、カイルへの想いのことね。 でも
last updateLast Updated : 2025-08-11
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告解室での真実

修道院での生活が始まって一週間が過ぎた。 毎日のルーティンは同じ。朝の祈り、写経、昼食、散歩、夕方の祈り。 でも、私の心は全く変わっていない。 カイルへの愛は、むしろ強くなるばかり。 「リア様」 写経をしていると、マリア院長が声をかけてきた。 「はい」 「そろそろ、告解をしていただきたいのですが」 告解……ついに来たわね。 「分かりました」 私は筆を置いた。 「いつ行けばよろしいですか?」 「今から、いかがでしょう」 「はい」 マリア院長に案内されて、私は告解室に向かった。 小さな部屋で、格子で仕切られている。 向こう側に神父様がいるらしいけれど、顔は見えない。 「座ってください」 私は椅子に座った。 「神に、罪を告白なさい」 神父様の声が聞こえてきた。 低くて、どこか威厳のある声。 「私の罪……」 私は考えた。 本当の罪って、何だろう。 カイルを愛することが罪? そんなはずはない。 愛は、最も美しいもの。 「私には、罪はありません」 正直に答えた。 「罪はない?」 神父様が驚いたような声を出した。 「人は皆、罪を背負って生きているものですが」 「でも、私は何も悪いことをしていません」 「騎士への想いは?」 やっぱり、それを言わせたいのね。 「愛することが罪ですか?」 「時には、そうです」 神父様が答えた。 「許されない愛もあります」 「私の愛は、許されない愛ではありません」 私は胸を張った。 「純粋で、真実の愛です」 「しかし、あなたは王女」 「王女だからといって、愛してはいけないのですか?」 「身分の違いがあります」 「愛に身分は関係ありません」 私は強く言った。 「愛は、すべてを超越するものです」 神父様が沈黙した。 きっと、私の答えに困っているのでしょう。 「神父様」 私から話しかけた。 「あなたは、愛を経験したことがありますか?」 「私は神に仕える身」 「それは答えになっていません」 私は続けた。 「人を愛したことがありますか?」 「……ある」 小さな声で答えが返ってきた。 「では、その愛を諦めることができましたか?」 「それは……」 「できなかったでしょう?」 私は確信していた。 「愛は、そう簡単に諦められるものではありません」
last updateLast Updated : 2025-08-12
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仲間の絆と母の秘密

ソフィアという味方を得てから、修道院での生活が少し明るくなった。 表面上は、以前と変わらない日常を送っているけれど、心の支えができた。 「リア様」 写経をしていると、ソフィアが近づいてきた。 「はい」 「これを」 そっと手紙を渡してくれる。 カイルからの手紙。 もう何通目になるかしら。 でも、何通もらっても嬉しい。 「ありがとう」 私は感謝を込めて受け取った。 「お返事も、お任せください」 ソフィアが微笑んで言う。 「エドワード様とは、今夜お会いする予定です」 「危険ではありませんか?」 「大丈夫です」 ソフィアが頼もしく答えた。 「愛のためなら、多少の危険は覚悟の上です」 愛のために……そう言ってくれるソフィアに、感謝の気持ちでいっぱいになる。 写経を終えてから、部屋でカイルの手紙を読んだ。 『リア 君からの手紙を読んで、改めて君の強さに感動した。 告解で、愛は罪ではないと言い切った君を誇りに思う。 その通りだ。愛は、最も美しく、最も尊いものだ。 俺たちの愛を、誰にも否定させてはいけない。 こちらでも、色々と圧力をかけられている。 上官たちが、君のことを忘れるよう説得してくる。 でも、俺の答えはいつも同じだ。 「彼女を愛している。それは変わらない」 君がそちらで頑張っているように、俺もこちらで頑張っている。 愛のために。 君のために。 俺たちの未来のために。 必ず、また会える日が来る。 その日まで、お互いを信じて待とう。 愛してる。 カイル』 彼も、向こうで同じように戦ってくれている。 愛のために。 私たちの未来のために。 それが分かって、心が軽くなった。 私も返事を書いた。 『カイル あなたの手紙を読んで、勇気をもらいました。 私たちは一人じゃない。 お互いがいるから、どんな困難でも乗り越えられる。 ここには、ソフィアという味方ができました。 彼女も、愛を諦めきれずにここに来た人です。 私たちの愛を見て、勇気をもらったと言ってくれました。 愛は、人から人へと伝わっていくのですね。 だから、私たちの愛にも意味がある。 二人だけの愛じゃなくて、みんなに希望を与える愛。 そう思うと、もっと頑張れます。 愛してる。 どんなことがあっても愛してる。 リア』 手
last updateLast Updated : 2025-08-13
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母の指輪に宿る力

母の過去を知ってから、私は母の指輪をより注意深く見つめるようになった。 青い石が美しく輝く、この指輪。 母が私に託してくれた、最後の贈り物。 でも、ただの形見じゃないような気がしてきた。 「リア様」 写経をしていると、ソフィアが近づいてきた。 「はい」 「その指輪、とても美しいですね」 ソフィアが私の手元を見つめている。 「母の形見なんです」 「お母様の……」 ソフィアが何か考え込むような顔をした。 「どうかしましたか?」 「いえ、ただ……」 「何ですか?」 「その石、セレスティア石ですよね?」 セレスティア石? 「それは何ですか?」 「とても珍しい石です」 ソフィアが説明してくれた。 「王族しか持てないと言われている」 王族しか……確かに、私は王女だけれど。 「でも、ただの宝石ではないと聞いたことがあります」 「どういう意味ですか?」 「魔法の力を持つと言われています」 魔法の力? 「本当ですか?」 「昔から語り継がれている伝説です」 ソフィアが声を潜めた。 「でも、使い方を知る人は、もうほとんどいないとか」 魔法の力……もしかして、それが母の秘密と関係があるのかしら。 「どんな力ですか?」 「詳しくは分からないのですが……」 ソフィアが思い出すように言った。 「心を読む力とか、未来を見る力とか」 心を読む力…… 「でも、それは伝説です」 ソフィアが慌てて付け加えた。 「本当かどうかは分かりません」 でも、気になる。 もし本当に魔法の力があるなら…… 母は、その力を使って何かを見たのかもしれない。 未来を見て、自分の運命を知ったのかもしれない。 「ソフィア」 「はい」 「この石について、もっと詳しく調べてもらえませんか?」 「調べる?」 「エドワードさんに頼んで」 「分かりました」 ソフィアが頷いた。 「すぐに連絡してみます」 その夜、私は指輪を手に取って、じっと見つめていた。 青い石が、ろうそくの光を受けて神秘的に光っている。 もし本当に魔法の力があるなら…… 試してみたい気持ちがあった。 でも、どうすればいいのか分からない。 「お母様……」 小さく呟いた。 「この指輪の使い方を教えて」 その瞬間、石がわずかに光ったような気がした。 気のせいか
last updateLast Updated : 2025-08-14
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初めて見た真実の記憶

指輪の力について知ってから三日が過ぎた。 私は毎夜、指輪を見つめて練習していた。 まだ怖くて、本格的に使う勇気はなかった。 でも、少しずつ感覚を掴めてきたような気がする。 「リア様」 昼食後、ソフィアが私のところに来た。 「カイル様からお手紙です」 またカイルから。 嬉しくて、急いで受け取った。 『リア 最近、こちらで妙な動きがある。 上層部が何かを隠している気がする。 俺たちを別々の場所に送ったのも、何かの計画の一部かもしれない。 君は大丈夫か? もし危険を感じたら、すぐに逃げてくれ。 俺のことは心配しなくていい。 君の安全が一番大切だ。 何か分かったら、すぐに知らせる。 愛してる。 カイル』 妙な動き……何かが起こっているのね。 私も返事を書いた。 『カイル 心配してくれてありがとう。 私は大丈夫。ソフィアという心強い味方もいるし。 でも、あなたの話を聞いて、私も気になることがあります。 実は、母の指輪に特別な力があることが分かりました。 記憶や真実を見る力です。 もしかしたら、この力で黒幕の正体が分かるかもしれません。 まだ練習中ですが、必要な時が来たら使ってみます。 あなたも気をつけて。 愛してる。 リア』 手紙を書き終えて、ソフィアに渡した。 「お願いします」 「もちろんです」 ソフィアが手紙を受け取った。 「ところで、リア様」 「何ですか?」 「指輪の練習はいかがですか?」 「少しずつ、慣れてきました」 「無理はしないでくださいね」 ソフィアが心配そうに言った。 「危険な力ですから」 「分かっています」 でも、心の中では決めていた。 今夜、本格的に試してみよう。 カイルの手紙で、危険が迫っていることが分かった。 もう、悠長に練習している時間はない。 真実を知らなければ。 黒幕の正体を突き止めなければ。 その夜、私は一人で指輪と向き合った。 部屋を暗くして、ろうそくの光だけにした。 「心を静めて、石に意識を集中」 母の言葉を思い出しながら、深呼吸した。 指輪を手に取って、青い石を見つめる。 最初は何も起こらなかった。 でも、だんだん石が温かくなってきた。 そして、わずかに光り始めた。 「見えて……」 小さく呟いた。 「真実を見せて」
last updateLast Updated : 2025-08-15
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夜を駆ける愛の使者

修道院を出てから三時間ほど歩いただろうか。 私とソフィアは、月明かりだけを頼りに山道を進んでいた。 「大丈夫ですか?」 ソフィアが心配そうに声をかけてくれる。 「大丈夫」 でも、実際は足が痛くて仕方がなかった。 修道院での生活に慣れて、長距離を歩くことに慣れていない。 でも、カイルのことを思えば、この程度の痛みなんて。 「少し休みませんか?」 ソフィアが提案してくれた。 「あそこに、大きな岩があります」 確かに、道端に腰を下ろせそうな岩があった。 「そうですね」 私たちは岩に座って、持参した水を飲んだ。 夜風が冷たくて、身体を震わせる。 「寒いですね」 「ええ」 でも、心は熱かった。 カイルを救いたい気持ちで燃えている。 「リア様」 ソフィアが私を見つめた。 「本当に、魔法が使えるのですね」 「まだ完全ではありませんが」 私は指輪を見つめた。 「母が教えてくれました」 「お母様が……」 ソフィアが感慨深そうに言った。 「きっと、あなたを守ろうとしてくださっているのですね」 「そうだと思います」 私も同じように感じていた。 母の愛が、この指輪を通して私を支えてくれている。 「私も、母を見習わなければ」 「母を?」 「はい」 ソフィアが微笑んだ。 「私の母も、愛のために戦った人でした」 「どのような?」 「貧しい家の生まれでしたが、貴族の男性と恋に落ちました」 ソフィアの過去話。初めて聞く。 「でも、身分の違いで反対されて……」 「それで?」 「母は諦めませんでした」 ソフィアの瞳が、決意に満ちている。 「駆け落ちしたのです」 「駆け落ち……」 「はい。そして、私が生まれました」 ソフィアの出生の秘密。 「でも、幸せは長く続きませんでした」 「何があったのですか?」 「父が病気で亡くなったのです」 ソフィアの声が悲しみに染まった。 「それからは、母と二人で苦労の連続でした」 「大変でしたね」 「でも、母は後悔していませんでした」 ソフィアが強く言った。 「愛のために戦ったことを、誇りに思っていました」 愛のために戦う……そうね、私たちも同じ。 「だから、私もあなたのお手伝いがしたいのです」 「ありがとう」 私は心から感謝した。 「あなたがいてくれて、本
last updateLast Updated : 2025-08-16
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