その日の午後、私は一人で部屋にいた。 カイルとの面会の余韻で、心が温かかった。記憶が戻っても、彼の愛は変わらない。それが分かっただけで、希望が持てる。 でも、現実は厳しい。 彼は今、任務と愛情の間で苦しんでいる。記憶を取り戻したことで、騎士としての使命感も戻ってきているのでしょう。 コンコン。 扉がノックされた。 「はい」 「ヴァルドです」 嫌な声。でも、逃げるわけにはいかない。 「入って」 扉が開いて、ヴァルドが現れた。いつもの冷たい笑顔を浮かべて。 「お疲れ様でした、王女」 「何の用?」 「カイルとの面会はいかがでしたか?」 探るような視線。きっと、様子を聞きに来たのね。 「特に変わったことはなかったわ」 嘘をついた。本当のことを話すわけにはいかない。 「そうですか」 ヴァルドが椅子に座った。 「彼は記憶を取り戻して、随分と苦しんでいるようですが」 「あなたたちが無理やり記憶を戻したからでしょ」 「必要な処置でした」 ヴァルドが肩をすくめた。 「騎士として、任務を思い出していただかないと」 「彼を苦しめるためね」 「苦しんでいるのは、彼が迷っているからです」 ヴァルドが私を見つめた。 「任務と、あなたへの感情の間で」 図星だった。でも、認めるわけにはいかない。 「私への感情なんて、あるの?」 「ありますね」 ヴァルドがにやりと笑った。 「記憶操作の副作用が、まだ残っているようです」 副作用……また、その言葉。 「愛を副作用って言うのはやめて」 「では、何と呼びましょうか?」 「愛よ」 私は胸を張った。 「純粋な愛」 「純粋?」 ヴァルドが首を振った。 「殺すべき相手を愛するのが純粋ですか?」 「殺すべき相手じゃない」 「彼にとってはそうです」 ヴァルドが立ち上がった。 「騎士団の命令で、あなたを殺すことになっている」 「なぜ私を殺さなければならないの?」 ずっと疑問に思っていたことを尋ねた。 「私が何をしたって言うの?」 「存在すること自体が罪です」 存在すること自体? 意味が分からない。 「説明して」 「できません」 またはぐらかされた。 「とにかく」 ヴァルドが扉に向かった。 「カイルには、正しい判断をしてもらいます」 正しい判断……つまり、私を
Last Updated : 2025-08-09 Read more