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新たなる旅立ち

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-09-09 04:07:51

すべての戦いが終わってから一ヶ月が過ぎた。

魔法図書館本館では、世界各地から人々が集まり、言葉の祭典が開かれていた。

「言語多様性祝祭」——それは、七人の活躍によって救われた世界の言語を讃える、記念すべきイベントだった。

本館の大広間では、様々な民族の人々が、それぞれの言語で詩を朗読している。

東の大陸の方言、海語族の古い歌、学術島の論理詩、そして改心した元敵たちの新しい詩。

「素晴らしい光景ね」

セリアが感動している。

「こんなにたくさんの言葉が一つの場所に」

壇上では、ユリウス(元純血の詩聖)が故郷の方言で美しい詩を朗読していた。

「♪故郷の山よ、母の歌よ、心に響く懐かしき調べ♪」

観客席からは温かい拍手が響く。

かつて「不純」とされた言葉が、今は最も美しい詩として讃えられている。

次に登壇したのは、ディクテイター(元言語皇帝)だった。

彼は海語と陸語を織り交ぜた、融合詩を披露する。

「海の歌と陸の詩が出会う時、新しい美しさが生まれる」

マリナが嬉しそうに手を叩く。

「素敵!二つの言語が仲良くしてる」

会場の片隅では、ナイヒル(元虚無の詩聖)が子供たちに詩の書き方を教えていた。

「存在することの喜びを、言葉にしてみましょう」

子供たちが目を輝かせながら、ノートに言葉を綴っている。

かつて虚無を説いた男が、今は希望を教えている。

「みんな、変わったのね」

トアが微笑む。

『人は変われるんですね』

ティオの心の声も温かい。

そんな中、七人は本館の最上階にある特別な部屋に集まっていた。

そこは「新世界計画室」——これからの世界をどう築いていくかを話し合う場所だった。

「世界中の言語弾圧は、ほぼ解決したわね」

エスティアが報告書を読み上げる。

「でも、まだ課題はたくさんある」

机の上には世界地図が広げられ、様々な色のピンが刺さっている。

赤いピンは「言語復興支援が必要な地域」、青いピンは「多様性教育を広めたい場所」、緑のピンは「新しい詩の学校を建設予定の地域」。

「北の大陸では、まだ古い言語統制の法律が残ってるらしい」

カイが地図を指差す。

「法改正の手伝いが必要かもしれない」

「南の諸島では、消滅しかけた方言の復活支援を求められてる」

マリナが別の資料を見る。

「海語族として、協力したいわ」

司書長のエルドラドが部屋に入ってくる。

「皆さん、お疲れ様です」

「今日は
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