復讐の協奏曲、その序章の幕が上がった夜。 ライナスとの間に生まれた、共犯者という名の絆。その熱を胸に抱いたまま、セレスティナは自室の寝台で夜明けを迎えた。ほとんど眠れなかったが、不思議と心は澄み渡り、頭脳は氷のように冴えている。父を、アルトマイヤー家を陥れた者たちへの怒りは、今や復讐という目的のための、制御された燃料となっていた。 このままではいけない。衝動的にヴァインベルクの罪を暴いても、王都の腐敗した権力構造の中では握り潰されるだけ。この狼の力を、その牙を、最大限に活かすためには、まず彼に自分という武器の「正しい使い方」を理解させる必要があった。 朝食を済ませたセレスティナは、侍女のマルタを呼び止めると、はっきりとした口調で告げた。「マルタ、閣下にお目通りを願いたいと、お伝えください。火急の軍議です、と」 マルタは、セレスティナの瞳に宿る、昨日までとは明らかに違う強い光に、わずかに目を見開いた。だが、何も問わず、静かに一礼して部屋を辞した。 ほどなくして、返事が来た。ライナスは執務室で待っているという。 セレスティナは、この数日で書き溜めた数枚の羊皮紙を手に、彼の部屋の扉を叩いた。扉の向こうにいるのは、主君であり、恩人であり、そして彼女がこれから操るべき、最も強力な駒だった。 執務室に入ると、ライナスは巨大な地図の前に立ち、腕を組んで彼女を待っていた。その金色の瞳は、値踏みするように彼女を見据えている。「火急の軍議、とは穏やかではないな。軍師殿」 その呼び方に、セレスティナの心は微かに揺れた。だが、今は感傷に浸っている時ではない。「はい。戦はすでに始まっておりますゆえ」 彼女は、ライナスの机の上に、持参した羊皮紙を一枚ずつ広げた。「閣下。あなたは、私を『使える』とおっしゃいました。ですが、ただ闇雲に私という武器を振るっても、大木であるヴァインベルクを倒すことは叶いません。まず、この武器の性能と、正しい使い方をご理解いただきたく存じます」 それは、挑戦的とも取れる口上だった。ライナスは面白そうに片眉を上げる。「聞こうか。お前の使い方とやらを」 セレスティナ
Last Updated : 2025-09-01 Read more