All Chapters of 初恋を忘れられないあなたへ、継母なんてもうごめん: Chapter 81 - Chapter 90

記憶がふと巻き戻り、蒼司の表情は少しずつ和らいでいった。「これも君のおかげだ。二人の可愛い子どもを授けてくれたんだから」彼は真理を見つめながらそう言った。真理は視線を落とす。「あの頃の私は、本当にあなたを愛していたの。だから、あなたの子どもを産むことが、いちばんの願いだったのよ」その声には、どこか寂しさが滲んでいた。「あとで看護師を呼んで、君のそばにいてもらうよ」蒼司はぎゅっと唇を結び、声を抑えて言った。真理は瞬きをする。――そこまでして、彼は彩乃の子どもを待ち望んでいるの？……桜峰医院。蒼司は到着すると、真っ先に真理を整形外科へ運んだ。立ち去ろうとする蒼司を見て、千尋が唇

さっき、あの男、あの真理って女に話すときの声……やけに優しかったじゃない！ほんと、ひどすぎる！「母親が必要だなんて言ってたけど……じゃあ、彼女がいない間、この子たちは母親がいなかったってこと？彩乃のこれまでの努力は全部なかったことにされるの？」葵衣は小声でぶつぶつ言った。「何なのよ、まったく！」彩乃は淡々と答えた。「もちろん私がこの子を産むつもりはないわ。でも昨日、二人の子どもと約束したの。新学期が始まる前に一緒に遠足に行こうって。もし今手術を受けたら、その約束を守れなくなるでしょ」「お医者さんは半月以内なら大丈夫って言ってたじゃない。学校が始まるまで、あと一週間はあるんだし、まだ間に

葵衣は呆気にとられた。――ここまで図太いの？彩乃は礼も言わず、あっさり客を追い出した。「見たいものはもう見たでしょ。そろそろ帰って」わざわざ蒼司を家に入れたのは、ただ伝えたかったからだ。――水野家を出ても惨めになるわけじゃない。これからはもっと幸せに生きていく、と。「遠くから来てもらったのに、客に食事も出さないなんて。蒼司、あなたからも少しは礼儀を教えたらどう？これじゃ体裁が悪いわ」由香が不満そうに口を挟む。彩乃は淡々と返した。「私は家政婦を雇っていませんから、どうにもなりません」由香は引かず、むしろ堂々とした調子で言い返す。「あなた、料理くらいできるでしょ？それがだめなら友人に

以前はあれほど「愛してる」と言っていたのに、今では離婚の話にまでなっていた。しかも彼女は少しも悲しむ様子を見せず、新しい別荘に住み、ロールス・ロイスに乗っている。真理は唇をかみしめる。「蒼司、この車、安くないわよ。彩乃にそんな貯金があるの？」――あるはずがない。彩乃に、別荘や高級車を買える蓄えがあるとは思えなかった。じゃあ、そのお金や車はどこから来た？まさか他の男からの贈り物？いまの彼女の強気な態度も、その「誰か」が後ろ盾になっているからなのだろうか。蒼司の目は、底知れぬほど暗く沈んでいた。「私たち、ママと一緒に行く！」若葉がシートベルトを外す。二人の子どもが車を飛び降り、真

遠くから、彩乃が二人の子どもを連れて戻ってきた。手には、途中で糸が切れてしまった凧がぶら下がっている。凧揚げのあいだ、蒼司と彩乃はひと言も言葉を交わさなかった。まるで赤の他人のように。蒼司は前を歩く彼女を見つめながら、どこか知らない人を見ているような気がしていた。以前は自分だけを見つめていたその視線も、今はもう自分から離れている。その顔に浮かぶ自信と輝きは、これまで一度も見たことがなかった。そのうえ、艶やかに着飾った姿と、ふいに漂う気品に、一瞬息を呑んだ。だがすぐに脳裏をよぎるのは、その変化が「ほかの男」のせいではないかという疑念だった。蒼司は一度は声をかけるのを飲み込んだ。それ