序の瞳の奥が一瞬だけ暗く沈んだが、詩織はそれ以上彼に構うことなく「失礼」とだけ言い残し、他の来客の元へと歩み去った。序の執拗な視線が、いつまでも彼女の後ろ姿に絡みついていたことには、あえて気づかないふりをした。……序を撒いた後、詩織は無意識に再び柊也の姿を探したが、どこにも見当たらなかった。……嫌な予感がする。詩織は近くにいた人たちに「少し失礼しますわ」と断りを入れ、グラスをテーブルに置くと、そっと人混みを抜け出した。ふかふかの絨毯が敷かれた階段を上がり、三階のVIP用休憩室エリアへと向かう。誰もいない静かな廊下を進み、三つ目のドアの前を通りかかった瞬間――グンッ!突然、強い力で手首を掴まれ、部屋の中へと乱暴に引きずり込まれた。バタンッとドアが閉まり、鍵が掛けられる。電気は点いていない。「……んっ!」抗議の声を上げる間もなく、熱い唇で強引に口を塞がれた。しかし、詩織は抵抗しなかった。鼻腔をくすぐる、冷たくて微かに甘い極上のウッディノート。柊也の香りだったからだ。静まり返った暗い部屋の中に、絡み合う荒い吐息と、甘く生めかしい水音だけが密やかに響く。柊也のキスは、いつものような余裕が完全に消え失せていた。重く、深く、まるで彼女を骨の髄まで食い尽くそうとするかのような凶暴さ。唇を擦り合わせ、舌を深くねじ込み、行き場のない苛立ちをぶつけるように貪ってくる。……この男、また盛大に嫉妬してるわね。詩織は頭の片隅で冷静に状況を把握した。自分が独占するために仕組んだ『特別なペアルック』に、あの小宮山序とかいう男が偶然割り込んできたのだ。独占欲の塊である彼が平静でいられるはずがない。「ん、ちょっと……っ。柊也、待って」詩織は息を継ぐ隙を突いて彼の唇を軽く噛み、小さな声で宥めた。「口紅が、取れちゃう……っ」バッグの中に化粧直しのリップを入れておいて本当に良かったと思いながら。柊也は舌打ちをすると、標的を変えて彼女の白いうなじに顔を埋め、ドレスの細い肩紐越しに首筋を軽く噛んだ。「ああっ、ダメ! 跡を残しちゃ……っ」「じゃあ、お前が俺に噛みつけ」低くしゃがれた声には、濃密な欲情が滲んでいる。「ダメだってば……外に人がいるのよ?」「人がいる方が、スリルがあって興奮するだろ」
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