二審がどうなるか、誰も予測がつかない。だが、詩織の目は「無期懲役」の四文字に釘付けになっていた。スマホを握る指先に、じっとりと力がこもる。呼吸を整え、少し時間を置いてから、海雲に電話をかけた。声のトーンは、いつも通りを心がけた。「……今日が出発じゃなかったかね?」電話に出た海雲は、開口一番、気遣わしげに尋ねてきた。「ええ、今空港にいるんです」詩織は喉の奥が震えないよう、慎重に言葉を選んだ。「飛び立つ前に、一言ご挨拶をしておきたくて」「こっちはいいから、安心して勉強してきなさい。私のことなら心配いらんよ」海雲の声は、穏やかで力強かった。詩織は喉の奥に熱いものが込み上げるのを感じた。しばらく唇を噛みしめ、どうにか平静を取り繕って言葉を絞り出す。「……分かりました。お体、大切になさってくださいね。休暇のたびに江ノ本へ帰りますから、その時は必ず顔を見に伺います」「ああ、待っているよ」慌ただしく通話を切った。これ以上話し続ければ、感情のダムが決壊してしまうのが分かったからだ。一人残された海雲に対し、かけるべき言葉が見つからない。自分の無力さが歯がゆかった。「先輩」ようやく心のざわめきを静めた時、不意に声をかけられた。顔を上げると、そこには見慣れた青年が立っていた。黒のシェルパーカーを羽織り、大きなショルダーバッグを背負った悠人だ。彼は小首を傾げ、悪戯っぽく微笑んでいる。「あなた、どうしてここに……?」詩織が呆気にとられていると、悠人はバッグから一枚の書類を取り出し、得意げに見せてきた。それは、WTビジネススクールの大学院合格通知書だった。詩織は目を丸くした。「まさか、あなたが『忙しい』って言ってたのって、このことだったの?」「その通りです」悠人は自信たっぷりに頷いた。詩織がWTへの進学を決めたと知るや否や、彼は即座に同じ大学院への出願準備を始めていたのだ。この合格通知を勝ち取るために、それこそ血の滲むような猛勉強をしたらしい。努力の甲斐あって、彼は晴れて詩織を追いかけ、海を渡る切符を手に入れた。父である悠玄もこの決断を支持し、「彼女から多くを学べ」と背中を押してくれたという。「じゃあ、これで本当に私の後輩になるわけね?」「はいっ、先輩!」悠人は屈託のない、眩しい笑顔を向
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