私は前置きもせず、切り出した。「最近、黒澤グループが学術的な問題を抱えた研究者を高給で採用した、という話を耳にしました。この件についてどうお考えですか?」時生は軽く笑い、私の録音機をさっと止めた。「狙いは津賀家だろ。だったら最初からそう言えばいい。昭乃、どうしてお前はいつも、津賀家と張り合おうとするんだ?」私は淡々と答えた。「誰かと張り合ってるつもりはありません。ただ、仕事をしているだけです。とはいえ……黒澤グループが、いつからゴミの受け入れ先になったのかは、ちょっと気になりますけど」時生の表情が一瞬、曇った。けれど怒る様子はなく、むしろ当然だと言わんばかりの口調で言う。「忠平は生体機器開発の分野じゃ無視できない存在だ。黒澤グループの研究部門はいま、人手が必要なんだ。彼が出した条件は、息子も一緒に雇うこと。それだけだ。まあ、言ってみれば一つ買ったら一つ付いてくる、ってやつだな。おまけは出来がよくなくても、本命のためなら払う価値はある」私は鼻で笑った。「目的のためなら手段を選ばない、いかにもあなたらしいやり方ですね」時生の顔に、わずかな苛立ちが浮かぶ。「忘れるな。お前の母親が使っている医療機器も、忠平に頼らなきゃならない。あの装置の中核データを握っているのは、彼だけだ。新型の心肺サポート機器の実用化が遅れれば、困るのはお前の母親だろう?」私は反論しなかった。彼と口論する気にもなれない。時生が誰を雇おうと、私には関係ない。私の目的は、仕事を終わらせることと、離婚すること。それだけだ。だから私は、編集長から渡された取材台本どおりに、残りの質問を淡々とこなしていった。私が真剣にメモを取っているのを見て、時生は鼻で笑う。「黒澤グループは、お前が思ってるよりずっと強固だ。そんな当たり障りのない記事を書いたところで、何も変わらない。それに忠告しておくが、あまり津賀家と張り合うな。みんな必死に生きてるんだ。他人の仕事を奪う必要があるのか?」——本当に、自分勝手。私は心の中で冷笑した。優子にドラマ制作の投資をして、内容も演出も、私たちの制作チームをなぞったようなものばかり。それは人の仕事を奪うことにならないの?事実をそのまま記事にしただけで、私が誰かの仕事を奪うことになる?そのとき、スマホのアラームが鳴った。
Read more