高司は淡々とした口調で言った。「俺のことは気にせず、話を続けて」そこでようやく、梨英が真也にこちらとの提携について切り出した。真也は少し困ったような表情を浮かべ、代わりにマネージャーが口を開く。「申し訳ありません。今回は見送らせてください。また別の機会があれば、ぜひ。実は今回、黒澤グループのほうと先に話がまとまっていまして……それに、最終的な判断は真也一人でできるものではありません。彼は事務所所属のタレントですから、会社の方針に従う必要があるんです」マネージャーはさりげなく、真也をこの交渉の中心から外した。全盛期の今、余計なところで恨みを買わせたくなかったのだろう。梨英の笑顔はそのまま固まり、私も少し肩を落とした。正直、真也を口説くのが簡単じゃないことは、最初からわかっていた。今夜こうして食事の場を設けたのも、半分はダメ元だったのだ。話が行き詰まりかけたそのとき、亮介がドアを開けて入ってきて、書類袋を一つ差し出した。誰も予想していなかった。その中に入っていたのが、真也と私たちとの正式な契約書だなんて。当の本人である真也ですら状況が飲み込めず、戸惑った声を上げる。「高司さん……これは……?」芸能界ではトップクラスの存在でも、高司を前にすると、どこかおどおどしてしまうらしい。高司はもともと多くを語るタイプではないが、その佇まいには、上に立つ者特有の冷たさと気高さがにじんでいる。ほとんど命令に近い口調で、真也に言った。「さっき来る途中で、君の事務所の社長と話をつけておいた。この契約にサインしろ。仕事に必要な手配は、全部俺がやる」真也はマネージャーのほうを見た。ちょうどそのタイミングで、マネージャーのスマホにメッセージが届く。おそらく、事務所の社長からだろう。マネージャーが小さくうなずくのを見て、真也はちょうどいい加減の笑みを浮かべて言った。「御社とご一緒できるなんて、光栄です」私と紗奈は、その笑顔に少し無理があることに気づいていた。誰だって、無理やり決められるのは気持ちのいいものじゃない。それでも、それ以上に胸が高鳴っていた。高司のひと言で、ここ数日抱えていた迷いや行き詰まりが、一気に片付いてしまったのだ。……それにしても。さっき入ってきたとき、通りがかったから様子を見に来ただけって言ってなかった
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