人と獣(けもの)との大戦が終結し、互いの合意により、世界は半獣人(はんじゅうじん)の統治下に置かれることになった。百年に一度、人と獣の政略結婚が執り行われ、最初に半獣人を生んだ者が、次世代の支配者となる。前世の私は、情に厚いと名高い狼族(ろうぞく)の長男へと嫁ぎ、誰よりも早く半獣の白狼(はくろう)の子を身ごもった。我が子は人獣同盟(じんじゅうどうめい)の次代の統治者となり、夫もまた当然のごとく絶大な権力をその手にした。一方で、妖艶な狐族(きつねぞく)に心奪われて嫁いだ妹は、夫である狐族の長男が女色に溺れ病を得たせいで、ついには子をなす力すら失ってしまった。嫉妬に狂った妹は、火をつけて幼い白狼と私を無惨にも焼き殺した。そして再び目を開けた時、私は結婚の日へと戻っていた。だがそこには、狼族の長男・墨景(ぼくけい)のベッドに潜り込む妹の姿があった。やはり彼女もよみがえったのだ。しかし妹は知らない。墨景は、生まれつき残虐で、暴力を信奉する男。決して良き伴侶ではないことを……「お姉様、私と墨景様は本当に愛し合ってるの。お願い、二人を認めてくれない?それに……私たち、もう床を共にしたのよ。もし墨景様と結ばれなければ、私はこれからどうやって嫁げばいいの?」ふと、妹・白容瑶(はくようよう)の泣き叫ぶ声が耳に届いた。その傍らで、父もまた彼女の肩を持つ。「白若(はくじゃく)よ、いっそ別の婚約者に替えてはどうだ。容瑶も一時の気の迷いで、間違いを犯しただけなんだから」父は元々白容瑶を偏愛していた。なぜなら、私は彼が外で作った私生児であり、白容瑶は彼が正式に娶った妻との間に生まれた娘だったからだ。私は視線を上げ、地に膝をついている白容瑶を見やった。彼女の顔は涙に濡れ、哀れみを乞う表情を浮かべている。だがその瞳の奥に潜む野心と興奮は隠しようもない。やはり、彼女もよみがえったのだ。そして私より先に墨景の床へ忍び込んだのだ。前世、私が選んだ婚約者は狼族の長男・墨景だった。私の考えでは、蛇族(へびぞく)は冷酷無情、狐族は移り気で多情、龍族(りゅうぞく)は傲慢不遜。唯一、狼族だけが一途で情け深く、それが最善の選択だと思われた。婚姻から半年、私は狼族のために白狼の半獣人を産み、その子に天澤(てんたく)と名を授けた
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