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人獣の結婚と転生の姫
人獣の結婚と転生の姫
Author: キョウフチ

第1話

Author: キョウフチ
人と獣(けもの)との大戦が終結し、互いの合意により、世界は半獣人(はんじゅうじん)の統治下に置かれることになった。

百年に一度、人と獣の政略結婚が執り行われ、最初に半獣人を生んだ者が、次世代の支配者となる。

前世の私は、情に厚いと名高い狼族(ろうぞく)の長男へと嫁ぎ、誰よりも早く半獣の白狼(はくろう)の子を身ごもった。

我が子は人獣同盟(じんじゅうどうめい)の次代の統治者となり、夫もまた当然のごとく絶大な権力をその手にした。

一方で、妖艶な狐族(きつねぞく)に心奪われて嫁いだ妹は、夫である狐族の長男が女色に溺れ病を得たせいで、ついには子をなす力すら失ってしまった。

嫉妬に狂った妹は、火をつけて幼い白狼と私を無惨にも焼き殺した。

そして再び目を開けた時、私は結婚の日へと戻っていた。

だがそこには、狼族の長男・墨景(ぼくけい)のベッドに潜り込む妹の姿があった。

やはり彼女もよみがえったのだ。

しかし妹は知らない。墨景は、生まれつき残虐で、暴力を信奉する男。

決して良き伴侶ではないことを……

「お姉様、私と墨景様は本当に愛し合ってるの。お願い、二人を認めてくれない?

それに……私たち、もう床を共にしたのよ。もし墨景様と結ばれなければ、私はこれからどうやって嫁げばいいの?」

ふと、妹・白容瑶(はくようよう)の泣き叫ぶ声が耳に届いた。

その傍らで、父もまた彼女の肩を持つ。

「白若(はくじゃく)よ、いっそ別の婚約者に替えてはどうだ。容瑶も一時の気の迷いで、間違いを犯しただけなんだから」

父は元々白容瑶を偏愛していた。なぜなら、私は彼が外で作った私生児であり、白容瑶は彼が正式に娶った妻との間に生まれた娘だったからだ。

私は視線を上げ、地に膝をついている白容瑶を見やった。

彼女の顔は涙に濡れ、哀れみを乞う表情を浮かべている。だがその瞳の奥に潜む野心と興奮は隠しようもない。

やはり、彼女もよみがえったのだ。そして私より先に墨景の床へ忍び込んだのだ。

前世、私が選んだ婚約者は狼族の長男・墨景だった。

私の考えでは、蛇族(へびぞく)は冷酷無情、狐族は移り気で多情、龍族(りゅうぞく)は傲慢不遜。

唯一、狼族だけが一途で情け深く、それが最善の選択だと思われた。

婚姻から半年、私は狼族のために白狼の半獣人を産み、その子に天澤(てんたく)と名を授けた。

人と獣の間に生まれた最初の半獣人として、天澤は当然のように人獣同盟の次世代の支配者となった。

一方で白容瑶は、狐族の美貌に惹かれ、長男・陸為華(りくいくか)を選んだ。

だが陸為華は女色に溺れ、遊興に耽り続ける男だった。

そのせいで白容瑶は病を得て、生涯子を産めぬ身となり、狐族からも疎まれることとなった。

それでも彼女は自らの不幸を私のせいにし、私が幸せに暮らしていることに嫉妬した。

そして、こっそり私に薬を盛らせ、火を放ち、私と天澤を焼殺したのだ。

思い返すだけで、胸の奥から憎悪が湧き上がった。その場で白容瑶を斬り伏せ、天澤の仇を討ちたい衝動に駆られた。

だが袖の中で強く握り締めた拳に走る痛みが、わずかに理性を取り戻させた。

私は小さく頷き、すべてを悟ったような表情を作った。

「容瑶と墨景様が心を通わせてるというのなら、姉として当然、二人の仲を邪魔したりはしないわ」

白容瑶は私がこんなにもあっさり承諾するとは思っておらず、無理に絞り出した涙が気まずく眼の縁に残ったままだった。

「容瑶、さあ立て。姉に感謝せねばなるまい」

父は安堵の息を漏らした。

「……あ、ありがとう、お姉様!」

白容瑶は嬉々として駆け出し、狼族へ知らせに行くと口にした。

「まったく、娘というものは手元に置けぬな」

父が冗談めかして呟いた。だが次の瞬間、冷ややかに沈んだ私の顔を目にし、気まずそうに声を濁した。

「白若よ、いま残ってる未婚の御曹司は、蛇族の時野(じや)か、狐族の陸為華だけだ。

父としては、狐族のほうが容姿も地位も蛇族より遥かに勝ってると思うが……

それに容瑶もそう申してたし……」

その言葉を遮り、私は静かに言い放った。

「父上、私は蛇族の時野と結婚する」

古来より人は蛇を冷酷無情の象徴とみなし、蛇族もまた同じ偏見に晒されてきた。

数千年の間、蛇族と結婚する人間は一人もおらず、そのため蛇族からは一人も人獣同盟支配者が生まれていない。

その結果、蛇族は獣の五大家族から除名され、地位が急激に低落となり、発展に必要な資源も寸断された。

――あの日、炎に呑まれる私を見ていたあの瞳。

碧緑に輝く双眸の主は、時野だった。

彼は私を助けようとしてくれたが、炎の勢いが強すぎて、なすすべがなかったのだ。
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