朝早く、千夏の姿が入り口に現れた。彼女は、社長に直接、上の階へ呼び出されたのだ。まもなく、千夏は、険しい表情でデザイン部に戻り、絵里の前まで歩み寄った。「文月の絵に、手を出したのはあなたでしょ?」その一言に、部署の全員の視線が、絵里に注がれた。絵里は、後ろめたそうに唇を噛みながら言った。「千夏さん、何のことだか、さっぱりわかりません!」「わからないですって?社長が、すべて調査済みよ!それでも、まだ知らないふりをするつもり?これが、あなたのやったことでしょう。文月は、まだ入社したばかりなのに、どうして、こんな風に彼女を陥れようとするの!」千夏は、思わず不満をあらわにした。彼女には、理解できなかった。絵里は、以前は部署で協調性があったのに、文月が来た途端、別人のようになってしまった。まさか、文月のことが気に入らないのだろうか?だとしても、こんな卑劣なことをしていいはずがない!絵里は、目を伏せた。「千夏さん、本当にごめんなさい。社長が、このことを知ってるなんて、思いもしなくて。これから、私はどうなるんですか?北澤グループを辞めさせられるんですか?」もし北澤グループをクビになったら、他の会社も彼女を採用してはくれないだろう。別の会社で就職活動するしかないが、大手企業は、彼女の前職での経歴を見れば、間違いなく採用を見送るに違いない!絵里は深く後悔し、今にも涙を流しそうな表情だった。「まず文月に謝りなさい。それから、荷物をまとめて出て行きなさい」千夏はきっぱりと言った。「この件は、完全にあなたが悪いのよ。文月には、まったく落ち度がないわ!あなたたちは、二人とも会社のイラストレーターなんだから、本来なら、協力して仕事をするべきだったのよ!」絵里は、恥ずかしさに耐えられなかったが、それでも、なんとか言い訳をした。「だって、社長は彼女をすごく重視してるじゃないですか。将来、彼女はもっと出世するに決まってる!私のような先輩は、いずれ彼女に追い抜かれて、居場所がなくなるんです!」「たとえそうだとしても、会社にいられるよ!」千夏は、文月に視線を向けた。この、社長が自ら採用したという女性。コネ入社じゃないなんて、誰が信じるだろう。以前の社長なら、こんな人事問題に首を突っ込むことなど面倒がるはずだったの
Read more