「ふざけるな!俺はお前のことなんて知らないぞ!キスなんてしてないし!」真子はまったく動じる様子を見せなかった。「ヴェイラン・クラブでのことよ。そっちがキスしようとしてきたとき、遠藤大輔もその場にいたわ。今すぐ電話して確かめてもらう?」樹は、その瞬間すべてを思い出した。あのとき場をセッティングしたのは、他でもない大輔だった。「ちがっ……胡桃、俺の話を聞いてくれ!」慌てて彼女の手を掴もうとする。「……いいわ、説明を聞かせて」胡桃は取り乱すこともなく彼を見つめた。その顔には何の感情も浮かんでおらず、怒っているようには見えなかった。でも、樹にはわかっていた。――終わった。完全に終わった、と。込み上げる怒りをぐっと呑み込み、まずは真子に向き直る。「いいか、俺はお前と付き合ったことなんてないし、キスだってそっちが勝手にしてきただけだろ!違うか!?」真子はわずかに顔を引きつらせた。「キスしようとしたのは本当でしょ?それって気味があったってことじゃない?でもまあ、怒らなくていいわよ。あのときはふたりとも独身だったんだから、浮気でも何でもないじゃない。そっちの奥さんも怒らないでよ。妊娠中なんだから、ストレスは体に毒よ」言いたいことだけを言い放つと、真子は連れの友人たちに向かってあっけらかんと言った。「行きましょ」彼女たちがさっさと立ち去ると、残された樹は、びくびくしながら胡桃の顔色をうかがった。しかし胡桃はとくに反応も示さず、彼を見向きもせずにそのまま歩き出してしまう。樹は慌てて追いすがり、そっと彼女の腰に手を回した。胡桃はそれを払いのけなかった。少しだけ安堵した樹は、恐る恐る口を開く。「実はあのとき……」「言い訳なんて聞きたくないわ」胡桃は静かな声で遮った。「あの子も言ってたでしょ、ふたりとも独身だったんだから何も問題ないって。キスどころか、もし寝ていたとしても、私がとやかく言う筋合いはないわ」樹は彼女の手をきつく握りしめた。「胡桃、違うんだ。あのとき君に別れを告げられて、俺は本当に傷ついていた。他の女で忘れられるか、試したかっただけなんだ。でも答えは、無理だった……」「じゃあ、相性が悪かったのよ」胡桃は冷ややかに微笑んだ。「さっきの子が好みじゃなかっただけかもしれないじゃない。もっと色んな子で試してみたらどう
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