紬が顔を上げると、一颯の後ろに慎が立っていた。感情を一切表に出さず、一颯の動きを完全に封じ込めていた。一颯は肩に走る鋭い痛みに思わず一歩後退し、相手の顔を確認してようやく口を引き結んだ。「長谷川代表……違います、誤解させてしまいました。ただ少し話があっただけで」慎はそこで初めて、ゆっくりと一颯を解放した。横目で紬の方を確認する。承一は一颯が手を伸ばした瞬間に、すでに紬の前に腕を張り出していた。今は力を抜いていたが、表情はまだ冷たかった。一颯は思わず肩を揉みながら、慎を見た。「もしかして、園部さんのために乗り込んできたというわけですか」寧音の本命の彼氏であれば、それくらいはするだろう。寧音がこれほど屈辱を味わわされたのだ。その怒りの矛先を紬に向け、きっちりと落とし前をつけさせようとするのも無理はない。今日は寧音に降りかかった厄介事を耳にして、一時の感情で飛び込んできてしまったのだ。「清水社長、正式な彼氏がもういらっしゃいますから、お前が出る幕はないと思いますよ」承一もさすがに怒りを露わにした。笑美の兄とはいえ、もう顔を立てる気にもなれなかった。一颯は表情を変えた。「承一さんまで温井みたいに棘のある言い方を……」「朱に交われば赤くなる」とは、まさにこのことだ。「無自覚とは恐ろしいものですね。自分の行動がどれだけ人を不快にしているか、気づきもしないのですから。知らない人が見たら、清水社長が園部さんの彼氏だと思いますよ、そんなに甲斐甲斐しくて」承一は険しい顔をして、冷ややかに返した。一颯は言葉に詰まり、すぐさま慎に視線を向け、表情を引き締めた。「長谷川代表、誤解しないでください」「俺にではなく、温井社長に謝るべきだろう」慎の口調は穏やかで、一颯が今日ここへ来た理由に、特段の関心も向けなかった。一颯はそこで言葉に詰まった。紬に何かをしたわけではない。ただ、彼女が引き起こしたことを片付けろと言いに来ただけだ。紬は一颯と揉め続ける気もなく、ただ慎を見上げた。「あなたも、用件は同じでしょう?」わざわざいい人を演じる必要はない。慎は弁明しなかった。紬の目が冷たくても気にした様子もなく、ただ聞いた。「少し話せるか」紬は眉をひそめた。寧音の問題は今や次々と重なっている。今日は健太郎に公開で「破門」まで言い渡さ
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