All Chapters of あなたの「愛してる」なんてもういらない: Chapter 301 - Chapter 310

358 Chapters

301話

◇ 御影さんが、客間に通された。 その知らせを受けた私は、急いで着替えを済ませ、苓さんを迎えに行った。 苓さんの泊まっている部屋をノックし、声をかける。 「苓さん」 「はい、茉莉花さん」 私がノックをすると、すぐに苓さんが扉を開けてくれる。 私は苓さんに御影さんが客間に通された事と、お父様と一緒に彼の話を聞きに行く事を伝える。 「苓さん、御影さんは涼子の事を話に来たのかもしれません。一緒にお話を聞きに行きませんか?」 そして、私は苓さんも一緒に話を聞こう──。 そう、誘う。 「ええ、もちろん。行きましょうか」 苓さんはあっさり頷いてくれて。 私に手を差し出してくれる。 苓さんの手に私が自分の手を重ねると、きゅっと力強く握ってくれた。 苓さんと手を繋いで階段を降り、1階の客間に向かう。 「ここですね、入りましょう」 こくり、と頷く苓さん。 私は苓さんと手を繋いだまま、客間をノックしてから扉を開いた。 「失礼します」 「──茉莉花!」 私が扉を開けて中に入った途端、御影さんの声が聞こえ、座っていたソファから立ち上がるのが見える。 だけど、私と手を繋ぎ部屋に入って来た苓さんを見るなり御影さんは不満そうに顔を顰めた。 「……また、小鳥遊が居るのか」 「──?当然です。苓さんは私の婚約者ですし」 私の言葉に、御影さんの表情が益々険しくなる。 どうして御影さんがそんな顔をするのか。 私と苓さんが恋人同士だって事も。近々正式に婚約を交わす事も、御影さんはもう知っているはずなのに──。 私が首を傾げていると、廊下から足音が聞こえてきて、お父様が姿を現した。 「茉莉花も、苓くんもどうして部屋の入口に?」 「お父様」 「──藤堂社長!」 お父様の姿に、御影さんがぱっと表情を明るくする。 お父様は御影さんにソファに戻るように促し、私たちと一緒に自分もソファに腰を下ろした。 「それで……。御影くんは今日どんな用があって訪問を?」 お父様の低く、厳しい声が部屋に響く。 御影さんはお父様の質問に背筋を真っ直ぐ伸ばし、真剣な表情で口を開いた。 「まずは……お悔やみ申し上げます。突然の事に気が動転し、不躾とは分かっていながらこうして来てしまいました事をお許しください」 「……その気持ちは、有難く受け取ろう」 「そして
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302話

まるで、その提案を飲むだろうとばかりに自信満々な態度でそう宣う御影さん。 どうして私が何の関係もない御影さんの家に行かなくちゃいけないの──? 私やお父様、そして苓さんも御影さんの言葉に唖然とした。 まさか、そんな意味の分からない事を言われるとは思っていなかったのだ。 お父様は頭が痛むようで、こめかみを軽く揉みながら御影さんに言葉を返す。 「──ええ、と?どうして茉莉花を御影家に……?」 意味が分からない。 お父様の顔には、はっきりとそう書いてある。 だけど御影さんはお父様のそんな表情に気が付いていないのか──。 それとも、敢えて見ない振りをしているのか。 分からないけど、さも当然とばかりに強く頷き、自信満々に返答した。 「無論、我が御影家と藤堂家がかつては婚約を結んでいたからです。それに、報道では私と茉莉花さんが良い中だ、との噂も広がっていますから。御影家であれば、茉莉花さんを守る事は容易です。藤堂家に居続ければ、連日報道陣に追いかけ回される羽目になり、大変でしょう?」 だから、御影家で匿う──。 そう告げた御影さんは、唖然としている私たち──私に顔を向けて、問う。 「あのマンションでいいだろう?以前、俺が買ったあのマンションだ。茉莉花も同じフロアに部屋を購入していただろう?茉莉花は売ってしまったようだが、俺はまだあの家を所有している。あそこで俺と2人、ほとぼりが冷めるまで暮らせばいい」 「──は?」 何を言っているのか、分からない。 いえ、言葉の意味は分かるけど。 どうして御影さんがその考えに至ったのか、理由が全く分からない。 し、分かりたくもない──。 私は疲れたように額を抑え、御影さんに答えた。 「どうして私が御影さんの家に避難しなきゃならないんですか?……助けを求める必要があるなら、私の恋人である苓さんに頼ります。私と御影さんの間には、もう何の関係もありません、と……以前はっきりとお伝えしたと思いますが……」 「──?俺にはお前が相応しい。俺に相応しい女を守るのは当然の事だ」 「……駄目ですね、話が通じませんお父様」 「そのようだな……。全く、忙しいと言うのに面倒な事を……」 お父様は呆れたように息を吐くと、ソファから立ち上がった。 「話はそれだけか?ならばお引き取り頂こう。茉莉花はこれからも藤堂の家
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303話

「お、お待ちください!話はそれだけではありません!涼子──速水 涼子についてもお話が……!」 御影さんの口から涼子の名前が出た。 その名前を聞いた瞬間、お父様も。私もそして苓さんも足を止めて御影さんに振り返った。 「御影くん。口から出まかせじゃないだろうな?速水 涼子は今、重要参考人だ。何を知っている?」 「りょ、涼子が重要参考人……?」 御影さんが驚いたように目を見開く。 お父様はゆっくりと、だけどしっかり強く頷いた。 「ああ。今回の交通事故、そしてチャリティー登山での事故に、彼女が関わっている疑いがある。そのため、警察では重要参考人として彼女を追っているんだ。知っている事があれば洗いざらい話しなさい」 お父様は淡々と話し、そしてスマホを取り出すとどこかに電話をかけた。 「──谷島刑事。私です、藤堂です。速水 涼子について新しい情報を得られるかもしれません。ええ、……はい。詳しく聞いておきます」 お父様は電話を終えるとソファに戻り、どさりと腰を下ろす。 御影さんを冷たく射抜くように見据えたお父様は「話しなさい」と低く、圧を与えるような声で御影さんに告げた。 ◇ 御影さんが帰って行く背中を、私は苓さんと一緒に部屋の窓から見下ろしていた。 まさか、御影さんが見当違いなあんな提案をしてくるなんて。 何だかとても疲れたように感じて、私はため息を吐いた。 「大丈夫ですか、茉莉花さん」 「苓さん──。ええ、衝撃が大きくて……」 私が苦笑い混じりにそう答えると、苓さんも苦笑を浮かべる。 そして、私をそっと背後から抱きしめると、忌々しげに御影さんを見つめている。 「まさか、御影専務があんな素っ頓狂な事を言い出すとは思いませんでした」 「ええ、本当です。御影家と藤堂は何の関係も無いのに。それに、理由も本当に自分勝手で……」 「だけど、速水 涼子の情報を得られたのは大きいですね」 苓さんが私の顔を覗き込みつつ、そう話す。 「──ええ。助かりました」 そう──。 御影さんが涼子について話がある、と言ったのは嘘では無かった。 御影さんは、どうやら涼子に自分のカードを渡していたらしい。 付き合っていた頃、涼子に自由に使えば良い、と上限額がないカードを渡していたのだ。 そして、最近になってそのカードの引き落とし額が大幅に増えたらし
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304話

お父様は、御影さんからそれらの情報を得た後、再度すぐに谷島さんに連絡をした。 谷島さんもお父様からの報告を受け、涼子の足取りを追うと言ってくれたようだった。 御影さんの情報提供により、涼子の関与を疑う事が出来たので、これにより本格的に涼子本人と──速水家を捜査する名分が出来たそうだ。 「──お祖父様の件、解決すればいいんですけど」 「そうですね……。だけど、本当はお祖父様だけの件じゃなくて、茉莉花さんのお母様の事故についても捜査が開始されればいいんですけど……」 「確かに……。今回の件で、速水家が藤堂に長年恨みを抱いていたって立証出来れば、お母様の事故についても調べ直してもらえますかね?」 私は、背後から私を抱きしめてくれている苓さんの胸元にもたれかかり、苓さんを見上げる。 私のお腹の前で組まれている苓さんの手に、僅かに力が籠った。 「ええ……恨みでの犯行だと分かれば……そうすれば、茉莉花さんのお母様の件についてもきっと再捜査されるはずです……」 むしろ、そうなってくれないと困る。 だけど、そのためには速水家と藤堂家が何らかの関わりがある証拠を見つけなくちゃならない。 書斎を調べたいけど、お祖父様のお通夜、お葬式の準備が始まっている今、ゆっくりと調べる事も出来ない。 全てが落ち着いてから改めて調べる他ないだろう。 ◇ お祖父様の通夜と告別式には、沢山の人が訪れた。 藤堂グループの重役や、取引先の重役。 そして、お祖父様と個人的に親交のあった方達が沢山訪れ、私もお父様も訪問客への対応に目が回るくらい忙しく過ごした。 忙しい方が、お祖父様が亡くなったと言う実感を抱かないで済む。 その方が、悲しいと言う気持ちに引きずられないで済む──。 そうして、本当に全て。 全てが終わった。 もくもく、と煙が煙突から立ち昇る光景。 お祖父様は、大好きなお祖母様に会えたのかしら……。 その様子を仰ぎ見ていた私の足から、すうっと力が抜けていく。 「──茉莉花!?」 「あ、あれ……?」 何だか足に力が入らなくて。 私は地面に座り込んでしまった。 お父様が真っ青な顔で私に走り寄り、慌てて私を支えてくれた。 「怒涛の3日だったからな……。疲れが溜まっていたんだろう」 「すみません、お父様。疲れていらっしゃるのは、お父様も一緒なのに…
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305話

その画像を見た瞬間、私の背筋にぞわりとした悪寒が走る。 「──いやっ、何のつもりなの……っ!?」 私は急ぎ病院でお母様の護衛にあたっている人達に電話をかける。 呼び出し音が1度聞こえただけで、すぐに電話が繋がった。 〈藤堂様、どうなさいましたか?〉 「も、もしもし……!母は、母は大丈夫ですよね!?」 〈──え?は、はい!お母様はご無事です。本日も、不審な誰かが近付くような事はございませんでした〉 「そう、ですか……」 それを聞いて、私は良かったと安堵する。 だけど、私にわざわざあんなメールを送ってきたのだ。 もしかしたらこれから何かが起きるのかもしれない。 私は、電話の向こう側にいる護衛に言葉を続けた。 「私に、不審なメールが届きました。お母様が入院している病院の外観が写った写真です。……どうかお母様をよろしくお願いします」 〈──!承知しました〉 護衛の人の硬い声音がスマホの向こうから返ってくる。 私は返事をして、電話を切った。 車のシートに深く背を預け、力を抜く。 「お祖父様の次は……お母様……?そんな事、絶対にさせないわ……」 お母様を狙っている、とでも言うような先程の写真。 後でお父様が合流したら、この事も報告して。 そして、お父様も身の回りには気を付けてもらわないと。 私は自分の顔を両手で覆う。 「苓さんに会いたい……」 苓さんとは、今日1日会えない。 今日まで。 お祖父様があんな事になってから、苓さんはずっと私の隣に居て、私を支えてくれていた。 だけど、今日だけは一緒に居る事が出来なくて。 苓さんにだって、仕事はある──。 私も、お父様も会社に出社出来ない今、新規事業が頓挫してしまっている。 完全にストップしてしまわないよう、苓さんは関係各所と調整をして進められる部分を進めてくれているのだ。 明後日、出社するまで新規事業に関しては苓さんに任せてしまう事になる。 それがとても申し訳なく思うと同時に、とても頼もしく、有難い。 まだまだ以前のような日常には戻れなさそうだけど、今は谷島さんが捜査をしてくれている。 私やお父様は、新しく入手した情報を谷島さんに提供して。そして、犯人を捕まえてもらえば良い──。 「──よし、お父様が戻ったら……話をしよう」 私は気合いを入れるようにぺちり、と頬
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306話

ガチャリ、とドアが開く音がして、私ははっと目を覚ました。 「茉莉花、顔色が悪い。大丈夫か?」 「お父様!」 車のドアを開けてお父様が私の隣に乗り込む。 心配そうに顔を顰めるお父様に、私は急いで先程送られてきたメールの事を報告した。 「私は大丈夫です!それより、さっき私に不審なメールが!」 「──何だと?」 すぐにお父様の表情が強ばり、私が差し出したスマホの画面に視線が落ちる。 お父様も、写真に写っている病院がお母様が入院している病院だと瞬時に悟り、スマホを取り出そうとした。 「お父様、苓さんが手配してくれた護衛の人達には、先程連絡済です」 「──そう、か。それなら良かった……。なら、茉莉花に届いたこのメールは谷島刑事に転送しておこう。発信源も特定するために後でスマホを回収するかもしれないな。苓くんには私から連絡を入れておく」 「分かりました。お願いします、お父様」 「ああ。その他に変な連絡は無かったか?」 無理をしていないか──。 お父様の目が、雄弁に語っている。 私は笑みを作り、お父様に笑って見せた。 「大丈夫です。お父様こそ、この数日間お忙しかったですよね?大丈夫ですか?」 「ああ、私は大丈夫だ。倒れてなんかいられないからな」 はは、と笑うお父様の目尻には、いくつか深く刻まれた皺が見える。 元気そうに見えるお父様だって疲れは明白だし、年齢も重ねて、体力も落ちている。 やっぱり、私もお父様を支えられるくらい強くならないといけない。 私とお父様は、自宅に向かう車の中、久しぶりに他愛のないお話をして、少し気持ちを休ませた。 ◇ 「茉莉花、お祖母様からの手紙はどうしようか」 「そうですね……。いくつかはお祖父様とお別れの時に一緒に入れましたけど……沢山残っていますね。どうしましょう……?」 私とお父様は、家に戻ってきてから、お祖父様の遺品整理を行っていた。 お祖父様が使用していた書斎には、沢山の遺品がある。 お祖母様が若い頃にお祖父様に書いたお手紙。 生前、お祖父様はとても大事にしていたのだ。 それを、全て処分してしまうのはどこかしのびない。 「故人の元に届くように、と遺品を燃やしてくれるサービスもあるみたいだな。いくつかお祖父様の遺品として取っておいて、その他はお祖父様の元に届くようサービスを手配するか?
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307話

──〇月〇日 今日は、久しぶりの登山だ。 昔の顔馴染みも大勢参加してくれるそうだ。 体を動かすのが楽しみだ。 そして、今回の登山には孫の婿になる苓が参加する。 苓と色々話すのが楽しみだ。 お祖父様の文字で書かれた文章。 間違いなくこれは。 「日記、だわ……お父様、お祖父様の日記ですね」 私が日記を開いた状態で振り向くと、お父様は更に下の方にある引き出しを確認した。 中には、似たような革表紙の日記と思われる手帳がどさり、と出て来た。 「……こっちにもあるな。……待て、表紙に西暦が書かれている。……なるほど、1年で1冊。お祖父様は日記を記していたのか……」 「そう、みたいですね。書かれていない日もありますが、何かあった時は必ず日記が書かれています」 私は、パラパラと日記を遡っていく。 1番新しい日記は、登山前の物。 それ以前のは──。 私が、苓さんとお付き合いをしている事をお祖父様に報告した時の事。 その時の日記は、お祖父様の喜びがとても溢れていた。 ──〇月〇日 茉莉花が、好いた男を連れて来た。 小鳥遊 苓。小鳥遊家の倅だ。 以前、苓が泊まった時に茉莉花の事を好きなのはすぐに分かった。 だが、茉莉花はわしのせいで深く傷付いた。 以前は、苓の気持ちに戸惑っているように見えていた。 だが、今日報告しにきた茉莉花の笑顔を見たら安心した。 きっと苓がわしが傷付けてしまった茉莉花を癒してくれたのだろう。 苓に任せておけば大丈夫だ。 茉莉花が本当に好いた男と一緒になってくれれば、これ以上嬉しい事はない。 どうか幸せになってくれ。 その日記を見た瞬間、私の目から涙が零れ落ちる。 お祖父様は、ご自分のせいで私の事を傷付けた、と思っていたの……? そんな事ないのに。 勝手に御影さんを想っていたのは、私。 お祖父様が悪い事なんて何一つないのに。 その事をずっと気に病んでいたのか、と思うと辛くて仕方なかった。 それに、私が苓さんと一緒になって。 結婚して。 幸せになる所を、お祖父様にも見て欲しかった。 それなのに。 お祖父様はもう二度と私と苓さんが一緒に過ごしている所を見る事が出来ないんだ、と改めて実感してしまって──。 「──お祖父、さま……っ」 ぼたたっ、と日記に私の涙が音を立てて落ちる。 「茉莉花
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308話

◇ 「ああ、来てくれたか……。急に連絡してしまってすまない。君も忙しいだろうに……」 「いえ、大丈夫です。むしろ、呼んで下さって有難いです。茉莉花さんは──?」 「部屋で眠っているよ……傍についてやっててくれるか……?」 「ええ、もちろんです」 「ありがとう、すまないが頼むよ。……私は遺品整理の続きをしてくる。お祖父様の書斎にいるから、何かあったら呼んでくれ」 「分かりました」 「ああ、あと……茉莉花にこれを渡しておいてくれ。お祖父様が茉莉花と君の事をよく日記に書いている。……この日記は、茉莉花が持っていた方がお祖父様も喜ぶだろう。苓くんもよければ目を通してくれ」 「──私も、中を拝見していいのですか?」 「ああ。君ももう身内のようなものだろう?」 「ありがとうございます……!」 じゃあ、また後で。 そう口にし、片手を上げて去って行く藤堂 馨熾さん。 茉莉花さんのお父様を見送った俺は、茉莉花さんの部屋に向き直った。 コンコン、と軽くノックをする。 中から返事は聞こえないが、俺はそのまま部屋の扉を開けて中に入った。 部屋の中は暗く、茉莉花さんが泣き疲れて眠ってしまっている寝息しか聞こえない。 時刻は22時。 遺品整理をしていた茉莉花さんと、お父様がお祖父様の書斎で見つけた日記。 その日記を読んでいて、茉莉花さんは感情が昂り泣いてしまい、そして泣き疲れて気を失うようにして眠ってしまったらしい。 茉莉花さんのお父様が俺に連絡をしてくれて。 俺は慌てて茉莉花さんの家に駆け付けた。 「無理も無い、よな……。お祖父様の事、凄く大切にしていたし……茉莉花さんは大好きだったから……」 大好きな家族が亡くなってしまった。 亡くなった当初は、きっとまだ実感が湧いていなかったんだろう。 だけど、今日。 火葬して……お遺骨になってしまったお祖父様を見て。 改めて分かってしまったんだ。 実感してしまったんだ。 「──茉莉花さん」 俺は茉莉花さんが寝ているベッドに腰を下ろす。 俺の体重を受けてベッドがギシ、と軋む音が聞こえた。 だけど、茉莉花さんが起きる気配は無い。 「真っ赤になってる……」 泣き過ぎて真っ赤になってしまっている茉莉花さんの目元をそっとなぞる。 今はどうかゆっくりと眠っていて欲しい。 お祖父様がいなくな
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309話

「──ん、んん……?」 ズキズキ、と頭が痛みふっと意識が浮上する。 「あれ……、私……?」 もしかして眠ってしまっていた? 確か、お父様と一緒にお祖父様の遺品整理をしていたはず。 そこで、お祖父様の日記を見つけて。 その日記を読んでいたら、凄く悲しくなってきて──。 「嫌だ……泣き喚いて……疲れて眠ってしまったのね……」 お父様にも迷惑をかけてしまった。 さっきまでの事を思い出し、ベッドに起き上がる。 すると、すぐ傍から人の気配がした。 「茉莉花さん、起きたんですか?」 「──えっ、苓さん!?」 まさか、苓さんが居るなんて──。 私は、すぐ傍から聞こえた苓さんの声に驚き、声が聞こえた方向に顔を向けた。 すると、暗い部屋の中。 私のベッドに腰掛けた状態で、苓さんがそこに居た。 苓さんは手元で開いていた物を閉じると、軽く目元を拭う仕草をする。 その様子に、私は苓さんの手元を見て──。 「──あ。苓さんも、お祖父様の日記を……?」 「ええ。茉莉花さんのお父様が渡してくれました。もし良かったら読んで構わない、と言って下さって……」 そう喋る苓さんの目元が、赤く染まっている。 もしかしたら、苓さんもお祖父様の過去の日記を読んで……私と同じように泣いてしまったのかもしれない。 「まさか、茉莉花さんのお祖父様が俺の事もこんなに日記に書いてくれているなんて……思わなかったんです……」 「苓さん──……」 「俺の事を……こんな風に思って、……っ、くれているなんて……っ」 話しながら、苓さんの瞳がじわじわと潤んで行くのが分かる。 次第に苓さんの声も震えて。 そして、最後まで言葉を紡ぐ事が出来なくて。 苓さんは日記を強く握りしめ、ぐっと体を曲げた。 苓さんの肩が震えている──。 声を殺し、肩を震え、お祖父様を思って泣いてくれている姿に、私の視界が再びじわりと滲んだ。 もう、沢山泣いて涙も枯れたと思ったけど、まだまだ涙が溢れている。 「──苓さん」 私は、震える苓さんの体にそっと手を伸ばす。 すると、苓さんは涙に濡れた目で私を見たと思うと、伸ばした私の手を掴み強い力で抱き寄せられた。 「すみません……っ、茉莉花さん……、少しだけ肩を貸してください……っ」 苓さんの声が震えている。 そして、強く抱きしめられる腕の
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310話

ぎゅうぎゅうと強い力で苓さんに抱きしめられる。 骨が軋むほど。微かに痛みを感じるほど、苓さんの抱きしめる腕の力が強い。 だけど、そんなのちっとも苦にならない。 私も苓さんの背中に腕を伸ばし、抱きしめ返す。 力を込めて必死に強い力で抱きしめていると、苓さんの腕の力が強まった。 私と苓さんは、それから言葉を交わす事なく、抱きしめ合ったままベッドに倒れ込み、抱き合いながら眠りについた。 ──朝。 窓から差し込む日の光に、私の瞼が震えた。 「──ん」 体を動かそうとしたけど、何かにガッチリと拘束されているように体が動かない。 あれ?と思って私は昨日の事を思い出す。 そうだ──。 昨夜は、苓さんが来てくれて。 そして、私と苓さんはお互い抱き合って眠ったのだった、と思い出す。 そこまで思い出した私は、ばちりと目を開ける。 すると、目の前にはすやすやと寝息をたてる苓さんの顔が至近距離にあって──。 「──っ!?」 あまりにも近い距離に、私はびっくりして硬直してしまう。 だけど、全然体が動かなくて。 私は、自分の体を見下ろすように視線を移動させた。 すると、苓さんの長い腕が私を逃がさまいとしっかり体に巻きついている。 私が起き、身動ぎしたからだろうか。 私と苓さんの間に僅かな隙間が出来ていた。 だけど、苓さんは眉を寄せ、不服そうに顔を顰めると私を抱きしめる腕に力を入れてぐいっと抱き寄せる。 「──わっ、わわっ!」 ぴったり、と。 まるでほんの隙間すら生まれるのが許せないと言うように、私と苓さんとの距離がゼロになる。 強く抱きしめられて、胸が潰れて苦しい。 「れ、苓さん……起きて、起きてください……っ」 苓さんの顔を見あげつつそう声をかける。 苓さんの目元は赤く腫れている。 昨日、お祖父様の日記を読んだ苓さん。 書かれている内容に苓さんも涙を流していたのだ──。 私は何とか自分の腕を苓さんの拘束から抜け出させると、そっと苓さんの顔──目元に触れた。 赤く染まってしまっている苓さんの目元。 そこに触れると微かに熱を持っているのが指先から伝わってくる。 じわり、と熱を持つ苓さんの目元。 お祖父様の日記を読んで、苓さんが涙を流してくれるなんて──。 私の家族の死を、こんな風に悼んでくれるなんて──。 ああ、な
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