「秦との間に、何があったのか聞いていいか? もしかして、鷹津と手を組んでいるなんてことは――」「多分、それはない。だけど、ぼくと秦が少し面倒なことになっているのは確かだ。……油断したぼくの責任だ」「その先生を護衛するのが、俺たちの仕事だ」 やっと顔を上げられた和彦は、生まじめに応じる三田村にそっと笑いかけてから、柔らかく唇を啄ばむ。三田村は鋭い眼差しのまま、優しい手つきで髪を撫でてくれた。「困っているなら、正直に言ってくれ。そうなると、組長の耳にも入ることになると思うが、確実に厄介事は片付く。総和会の中嶋に話を通すだけで、済むかもしれないしな」「……大事にはしたくない」「先生は、うちの組の身内だ。たとえ髪の毛一本傷つけられても、それどころか、侮辱されただけでも、それはもう、先生だけじゃなく、組の面子に関わってくるんだ」 和彦は、昭政組組長の難波のことを思い出す。難波に侮辱されたことを賢吾に報告すると、知らないうちに対処されていたのだ。賢吾が、面子を重んじているというのは、あの出来事だけでも十分にうかがえる。 それが、自分のオンナが薬で弱らされた挙げ句、体に触れられたとなったら――。 賢吾の報復がどんなものか想像して、和彦は身震いする。秦の身を案じてやる義理もないが、それでも、自分と関わった人間が賢吾によって手酷い目に遭うのは見たくない。 決して、綺麗事からこう考えているわけではなく、自分の背負う罪が増えていくようで嫌なのだ。 秦に言われた言葉を思い出し、また和彦は胸を抉られる。 自分の手を汚したくないがために、自分のために手を汚してくれと他人に要求する人間を、傲慢と呼ぶべきだろう。「先生?」 よほど難しい顔をしていたのか、三田村の手が頬にかかる。壊れ物を扱うように撫でられて、我に返った和彦はそっと笑みを浮かべると、三田村のあごの傷跡を指先でなぞった。「――あと一度だけだ。もう一度、秦がぼくに絡んできたら、あとの対処は長嶺組に任せる。もし、その前に円満に片付いたら、この件はこれで終わり。あんたも、すべて忘れる」 考える
Terakhir Diperbarui : 2025-11-28 Baca selengkapnya