**** 和彦は十日ほど、自宅に戻れない日々が続いた。一時も目が離せない患者に付き添い、容態が落ち着くのを待ってから、早急に二度目の手術を行う必要があったからだ。 ヤクザのオンナなどになってから、もっとも禁欲的な日々だったかもしれない。患者の傍らにいる間、とてもそんな気分にはならなかったし、何より、医療行為以外に使う体力が残っていなかった。 賢吾と千尋、それに三田村が部屋を訪れなかったのは、幸いといえるだろう。 床に敷いたマットの上で寝返りを打った和彦は、少しも疲れが取れていないのを自覚しつつ、仕方なく体を起こす。最初から仮眠程度のつもりで横になったのだ。 部屋を出ると、組員二人がダイニングで雑魚寝をしていた。和彦が外に出られないため、ここでの生活や治療に必要なものを彼らに頼んで運び込んでもらっているが、本来の仕事は、護衛だ。マンションの周囲でも、長嶺組の組員たちが交代で見張っているらしい。 恐れているのは他の組の襲撃などではなく、警察――というより、鷹津だ。令状をでっち上げて踏み込んでくる事態を想定しているのだ。 患者を動かせないため、別の部屋に移動するわけにもいかず、和彦だけでなく、長嶺組にとっても緊張感の高い日々が続いているようだ。 顔を洗って戻ってくると、もう一人の組員がテーブルの上にせっせと朝食を並べていた。目が合うと、いかつい顔に似合わない笑顔とともに、聞きもしないのに教えてくれた。「いつもの、組長からの差し入れです」 どこかのレストランで作らせた朝食を、毎朝賢吾はこの部屋に運び込ませている。和彦の体調に配慮しているらしい。朝からこんなに食べられないという訴えは、当然のように無視されていた。 朝食をとる前に和彦は、患者の様子を診る。二度目の手術も終え、容態は安定している。ただ、固形物を食べられるようになるには、しばらく時間はかかるだろう。刃物で裂かれた臓器をあちこち縫い合わせているため、当分はベッドの上での生活となる。 傷が癒えても、日常生活ではかなり苦労するだろうが、少なくとも一命は取り留めた。この結果に賢吾は満足したようだ。 点滴や、傷口の
Last Updated : 2025-11-30 Read more