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第7話(34)

Author: 北川とも
last update publish date: 2025-12-02 11:00:22

「――今回は、よくやった。執行部の中じゃ、あいつはもう助からないと思っている人間もいたが、それをお前は助けた」

 突然の賢吾の言葉に、和彦は目を丸くする。そこで、ここまで抑えつけていた最低限の好奇心が表に出ていた。

「あれは、どういった人間なのか、聞いていいか?」

「長嶺組の分家の幹部だ。そして刺した人間も、長嶺組の下部組織の人間だ。つまり、内輪揉めだ」

 体を起こした賢吾が、内奥からゆっくりと欲望を引き抜く。息を詰めて苦しさに耐えながら、和彦の視線は自然に三田村のほうへと向いていた。

 改めて考えると、異常な状況だ。和彦は、今この場にいる二人の男と関係を持っているが、一方との行為を見せ付けることも、それを見続けることも、本来ならありえない。なのにこうして現実に起こっているから、特殊な繋がりを三田村との間に感じる。

 和彦がどこを見ているかわかっていながら、やめろとも言わずに賢吾が唇を首筋に這わせる。

「もともとソリが合わない者同士で、ここのところゴタゴタが続いて、うちの執行部が介入を始めたところに、今回の事件
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  • 血と束縛と   第27話(19)

     いくらでもコピーができる動画が目の前で消去されたところで、確認することに意味はない。そう考えたことが顔に出たのだろう。南郷はこう続けた。「まあ、俺を信用してくれとしか言えない。それに――長嶺組長のオンナに悪さをした証拠を、いつまでも手元に残しておいたところで、俺に益があると思うか?」 和彦はスマートフォンを南郷に返す。「……二度と、こんなことをしないでください」「騙して呼び出したことか。それとも、あんたの特別な場所に触れたことか――」 前触れもなく南郷に肩を抱き寄せられ、耳元に獣の息遣いがかかる。続いて、耳朶に鈍い痛みが走った。食われる、と本能的な怯えを感じた和彦は短く悲鳴を上げ、身を捩って南郷の腕の中から逃れた。 全身の血が沸騰しているようで、心臓が痛いほど強く鼓動を打っている。南郷の様子をうかがいながら慎重に立ち上がった和彦だが、眩暈に襲われて足元がふらついていた。「大丈夫か、先生。顔が真っ青だ」「こんなぼくを見られて、満足しましたか……?」 和彦が睨みつけると、悪びれたふうもなく南郷は大仰に肩をすくめる。「必死に虚勢を張っているあんたの姿は、なかなかいい。こういうところでも、育ちが出るんだろうな。感情的になっていても、品がある」「そんな……いいものじゃないです。怖いんです。この世界の男を怒らせるのは」「オンナらしい配慮だ。何をされても、相手を怒らせないよう気遣わないといけねーなんて。つまり今晩のことも、長嶺組長には〈告げ口〉しないということか」 南郷が向けてきた冷笑を、和彦は見ないふりをする。挑発しようとしている意図が、露骨に透けて見えるのだ。和彦のささやかな反撃を、きっとこの男は、楽しげに受け流すはずだ。 なんとか大きく息を吐き出すと、ドアに向かおうとする。本当は駆け出したいところを、ぐっと気持ちを堪えて。「――俺は、あんたのことが知りたかった」 ドアを開けようとしたところで、背後からそんな言葉が投げつけられる。動きを止めた時点で、和彦の負けだ。聞こえなかったふりもできず、仕方な

  • 血と束縛と   第27話(18)

     その和彦にのしかかり、布の上から唇を貪っている荒々しい獣のような男は――南郷だ。 「――長嶺組長のやり方に倣ってみた」  怒りで全身が熱くなっていくのに、胸の内は凍りつきそうなほど冷たくなっていく。頭は混乱しながらも、南郷に対する表現しがたい嫌悪感や拒否感だけは認識できた。  払い除けるようにしてスマートフォンを南郷に押し返す。視線を逸らす和彦を多少は気遣うつもりがあるのか、南郷はすぐに動画の再生を停めた。 「長嶺組長とメシを食いながら話していてわかったが、あんたは肝心なことを、長嶺組長に打ち明けてないんだな」 「肝心なことって……」 「自分に悪さをした相手が、総和会の南郷――俺だということを。顔は見ていなくても、あんたならわかっていたはずだ。あんなことをしでかすのは、俺しかいないということは。あんたと長嶺組長の間でも、あえて言葉にしないまま、互いにそれを汲み取ったわけだ」 「……ぼくはあのとき、相手の顔を見ることはできませんでしたから、迂闊なことは言えません」 「できた〈オンナ〉だ」  皮肉っぽい口調で洩らした南郷が、ふいに立ち上がる。驚いた和彦は反射的に体を強張らせたが、それ以上の反応ができないうちに、隣に南郷が座った。荒々しい威圧感に頬を撫でられた気がして、体が竦む。 「自分が原因で、総和会と長嶺組に波風が立つのを避けたかったんだな」  自惚れるなと、南郷に鼻先で笑われるのが嫌で、和彦は返事を避けた。しかし南郷は一人で納得した様子で頷く。 「さすが、オヤジさんが見込んだだけはある。――どの男にもいい顔をして、揉め事は避ける。この世界での、あんたの処世術だ」  南郷の声に侮蔑の響きを感じ取り、それが何より我慢ならなくて和彦は立ち上がろうとする。すかさず大きな手に肩を掴まれ、腰を浮かせることすら叶わなかった。 「どうにも、生まじめに反応するあんたが新鮮で、つい煽るようなことを言っちまう。すまないな、先生」 「……離して、ください」  和彦は顔を強張らせ、肩にかかる南郷の手を押しのけようとする。だが手を退けるどころか、反対に力を込められた。 「そろそろ、聞いたらどうだ。――俺がなぜ、長嶺の男

  • 血と束縛と   第27話(17)

     短い問いかけが、鋭い刃となって喉元に突きつけられる。不安とも恐怖とも取れる感情に襲われ、鳥肌が立っていた。和彦は無意識のうちにジャケットの上から腕をさする。「心細そうだな、先生。目の前にいる今のあんたは、実に普通に見える。普通の、優しげで非力な色男だ。ヤクザの怖い男たちを何人も手玉に取って、骨抜きにしているとは、到底思えない。だが、力のある男の傍らにいるあんたを見ると、納得させられるんだ。妙に妖しさが引き立つ。男だからこその色気ってやつだな」「……そろそろ本題に入ってください」 ここで南郷が組んでいた足を解き、ソファに座り直した。「――この間、長嶺組長に呼ばれて、二人きりでメシを食った。ちょうど連休中で、あんたは総和会の別荘にいた頃だ」「賢……、組長と?」 危うく『賢吾』と口にしそうになった和彦に気づいたのだろう。南郷はちらりと視線を動かしたあと、何事もなかったように話を続ける。「俺と長嶺組長は、外野からはとかくあれこれと言われがちだ。俺が会長に可愛がられているということで、長嶺組長は、南郷の存在をおもしろくないと感じているんじゃないか、とかな。一方の俺も、会長の実子ということで、当然のように何もかもを持っている長嶺組長を妬んでいる――」 和彦は慎重に問いかけた。「本当のところは、どうなんですか」「ズバリと聞くなんて、肝が太いな、先生。俺にとっちゃ、デリケートな話題だというのに」「聞いてほしいから、言ったんじゃないんですか」 南郷の目がこのとき一瞬、鋭い光を宿したように見えたのは、決して気のせいではないだろう。怯みそうになった和彦だが、必死の虚勢で南郷の目を見つめ続ける。 南郷は、薄い笑みを唇の端に刻む。真意の掴めない表情だと和彦は思った。「俺は、長嶺組長にそんな生々しい感情は持っていない。あの人も、そこのところはよくわかっている。あえて言葉にしなくても、互いにそれを汲み取るぐらいはできる」 和彦は相槌すら打たず黙り込むが、南郷は勝手に和彦の心の内を読んでいた。和彦の顔を覗き込む仕草をして、こう言ったのだ。「そんな

  • 血と束縛と   第27話(16)

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  • 血と束縛と   第27話(15)

    **** 和彦が携帯電話への着信に気づいたのは、ジムでシャワーを浴び終えてからだった。 じっくりと丹念に全身の筋肉を動かし、健全な疲労感に満たされて、汗を洗い流してさっぱりとしたところだっただけに、一瞬、魔が差したように、億劫だなと思ってしまう。 着信は、護衛の組員からのものだ。普段であれば、和彦がジムを出るまで待っているのだが、こうして連絡してきたということは、そうするだけの事情があるということだ。その事情は、非常に限られていた。 賢吾からの一方的な呼び出しか、あるいは――。 和彦は服を着込んで手早く髪を乾かしてから、急いでジムを出る。駐車場に向かうと、組員が車の傍らに立って待ち構えていた。「何かあったのか?」 和彦の問いかけに、組員は困惑気味の表情を浮かべる。ひとまず車に乗り込むと、他人の耳を気にする必要がなくなった組員は、すかさずこう切り出した。「総和会から連絡が回ってきました――」 シートに身を預けようとしていた和彦は、半ば反射的に背筋を伸ばす。全身に行き渡っていた心地よい疲労感は、瞬時に緊張感へと変化していた。「仕事か?」「この患者を、先生に診てもらいたいと」 信号待ちで車を停めた間に、組員が車内灯をつけてからメモを差し出してくる。患者の名ではなく、和彦が施した処置について端的に記されているのだが、それで十分だ。ああ、と声を洩らして眉をひそめていた。 組員が言っている『この患者』とは、一か月以上前に半死半生となるほどの全身打撲を負った男だ。腹部の内出血がひどくて開腹手術を行った後、腸閉塞を起こしたりもしたが、それから容態も落ち着いたこともあり、別の医者のもとで養生生活を送っている――と総和会から説明を受けていた。 患者自身は、和彦の言いつけを守るし、治療にも協力的だったこともあったため、悪い印象は持っていない。ただ、この患者を診ているときに、和彦自身が思いがけない出来事に襲われ、どうしてもその記憶が蘇り、苦々しい感情に苛まれる。体に刻みつけられた生々しい感触とともに。「……具体的に、どう調子がよ

  • 血と束縛と   第27話(14)

    「だがまあ、今はお前の事情を優先してやる。忌々しいが、ヤクザに囲まれているお前のオンナっぷりを、俺は気に入っているからな」「――……悪徳刑事らしい、台詞だな」「せいぜい大事にしろよ。俺はお前にとって、数少ない手駒だろ」 喉元にかかった手が退けられ、鷹津の熱い舌にベロリと舐め上げられる。不快さに眉をひそめた和彦だが、覆い被さってきた鷹津の体を受け止め、耳元に荒い息遣いを注ぎ込まれながら、内奥に逞しい欲望を打ち込まれているうちに、甘い陶酔感に襲われていた。「はっ……、あっ、んうっ、うっ、くうぅっ――」 鷹津の欲望がますます膨らみ、内から和彦の官能を刺激してくる。「奥、ひくつきまくってるぞ。……いいか?」 露骨な台詞を囁かれ、瞬間的に感じた羞恥から顔を背けるが、追いかけてきた鷹津の舌が口腔に差し込まれる。所有の証のように唾液を流し込まれ、和彦は喉を鳴らして受け入れながら、自分でもわかるほど内奥を淫らに蠕動させる。体と心の区別を必要としないほど、鷹津を求めていた。 和彦の激しい反応に気づいたのか、体を起こした鷹津に両足を抱え上げられる。打ち付けるように力強く内奥を突き上げられ、その勢いで和彦の頭が肘掛にぶつかる。すかさず鷹津に体を引き戻されたが、すぐにまた突き上げられた。 和彦は鷹津の肩にすがりつきながら、片手で頭を庇ってもらう。「……手っ……、抜糸したばかりで……」「うるせえっ。〈こっち〉に集中しろ」 獣が唸るように声を上げた鷹津に驚き、和彦は目を丸くする。舌打ちした鷹津が、和彦に何も言わせまいとするかのように、唇を塞いできた。 濃厚な口づけを交わしながら、内奥と欲望を擦り合う行為に耽る。鷹津の望み通りに。 和彦が放った精で二人の下腹部が濡れるが、気にかける様子もなく――むしろさらに高ぶった様子で、鷹津の動きが激しくなる。察するものがあり、和彦は鷹津の肩を押し上げようとする。「中は、嫌だ。ここでは――…&hel

  • 血と束縛と   第8話(25)

    ** 夜、中嶋の部屋に向かう手順は前回と同じだ。二度目とはいえ、さすがにマンションの前からタクシーに乗り込むまでは、緊張のあまり指先が冷たくなって痺れていた。 しかも、いざ中嶋の部屋の前まできても、違う緊張感が和彦を襲う。 秦がまた、何か仕掛けてくるのではないか――。 それを予期していながら、こうして部屋を訪れるのは、まるで自分が何かを期待しているようで、嫌でたまらなかった。だが、中嶋と約束したため、いまさら引き返すわけにもいかない。 これが、和彦の甘さだろう。ヤクザにいいように利用されるとわかっていても、持

    last updateLast Updated : 2026-03-23
  • 血と束縛と   第8話(12)

    「んうっ」 内奥に太い部分を呑み込まされ、それだけで和彦は乱れてしまう。「なんか、この格好、すっげー卑猥。俺が先生をイジメてるみたい。先生が俺に逆らえなくて、恥ずかしい姿にされて、こんなもの尻に入れられて――」 一度は引き抜かれた千尋のものが、ゆっくりとまた内奥を犯し始める。触れられないまま和彦のものは反り返り、先端から透明なしずくをはしたなく垂らしていた。 和彦がシーツを握り締め、押し寄せてくる快感に耐えていると、緩やかに腰を動かしながら千尋がネクタイを解き、首から抜き取る。次に和彦の両手首に、そのネクタイを巻きつけて結んでしまった。

    last updateLast Updated : 2026-03-23
  • 血と束縛と   第8話(6)

     縫った跡を消毒してから、しっかりとガーゼを当てて包帯を巻く。風呂には入るなと言いかけたが、この体では入りたくても不可能だろうと思い、和彦は別のことを口にした。「中嶋くんが戻ったら、体中に湿布を貼ってやる。多分今夜、熱が出るぞ。それと、胸も圧迫して固定するから、しばらくは不自由するだろうな」「それで、先生が通ってきてくれるんですか?」「一度だけだ。これで、彼に対する義理は果たした」「わたしに対しては、何もなしですか」 和彦が睨みつけても、秦は薄い笑みを浮かべるだけだ。肋骨が折れている辺りを殴りつけたい衝動に駆られたが、そんなこと

    last updateLast Updated : 2026-03-23
  • 血と束縛と   第8話(19)

    「が、それは裏を返せば、総和会に加入している組の名さえ表に出なければいいということだ。先生ならわかるだろ。うちの組は、長嶺組という一つの組織で成り立っているわけじゃない。傘下の組やフロント企業、下部組織……、名前や形態は違えど、長嶺組の代紋を使っているところは、いくらでもある」「つまり、長嶺組の身内が薬を扱っていても、〈長嶺組の組員〉という肩書きでない限りは、総和会は見ないふりということか」「総和会の活動資金の半分は、十一の組からの〈寄付金〉が占めている。肝心の組から寄付金が取れなきゃ、困るのは自分たちだ」 賢吾は短く声を洩

    last updateLast Updated : 2026-03-23
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