Mag-log in「今日は、お仕置きじゃないぜ? 先生に対するご褒美だ。先生も三田村も忙しい中、楽しむ時間を作ってやったんだ」
「だからあんたは、性質が悪いと言うんだっ……」 どれだけ和彦と三田村が密やかに関係を深めても、それは賢吾の許しがあってのものだ。そのことを忘れないよう、賢吾はこんな形で思い知らせようとしている。もちろん、和彦も三田村も拒めないのを承知のうえで。 和彦の上から賢吾が退き、三田村が呼ばれる。まるで機械のように無機質な動作で三田村がのしかかってきたが、蕩けた内奥の入り口に押し当てられたものは、熱く硬く張り詰めている。 いくら相手が三田村とはいえ、賢吾の前で反応しないと身構えていた和彦だが、呆気なく決意は揺らぎ、激しい羞恥のあまり顔を背ける。ベッドの端に腰掛けた賢吾が低く声を洩らして笑い、そんな和彦の髪を撫でてきた。「いいな、先生。初心な小娘が、初めて男を受け入れるときみたいな姿だ」 ゆっくりと挿入されてくる三田村のものを、和彦の内奥は嬉々として迎え入れ、締め付ける。「う「先生の誕生日前後に二、三日まとめて休みを取りたかったが、無理だった」「誕生日当日、とは言ってくれないのか?」「俺には、そんな大事な日に先生を独占できる権利はない」 こうして触れ合ってはいても、和彦と三田村の関係は恋人同士ではない。和彦がいくら三田村を、自分の〈オトコ〉だと言っても、それが通じるのは二人の間だけだ。組にとって三田村は、若頭補佐であり、組長のオンナの〈犬〉なのだ。 三田村は、そんな自分の立場をわきまえている。そうであるよう、心身に叩き込んでいるのだろう。 この男らしいと思いながら和彦は、小さくあくびを洩らす。現金なもので、人恋しさを満たしてしまうと、今度は緩やかな眠気が押し寄せてくる。三田村の側だと、いくらでも無防備になれるのだ。「朝、仕事に間に合うよう起こすから、安心して休んでくれ」 三田村の優しい声に頷いたとき、すでに和彦は目を閉じていた。その状態で会話を続ける。「……気をつかってもらうほど、ぼくの誕生日なんて大したものじゃないんだけどな」「だったらせめて、ケーキを買っておこうか?」 三田村のその言葉が冗談か本気か、まったく読めない。和彦は薄く目を開くと、じっと返事を待っている三田村の表情を確認する。どうやら本気で言ったらしい。「誕生日プレゼントは、もういらない。あんたからはもらった。こうしてぼくに会いに来てくれて、それだけで十分だ。記憶にもしっかり残ったしな」「誕生日、誕生日と騒ぎ続けたら、本気で先生に嫌われそうだな……」「ああ、嫌ってやる」 笑いを含んだ柔らかな声で答えた和彦は、ごそごそと身じろいでから、三田村の胸に顔を寄せる。 背に獰猛な動物を背負いながらも、誰よりも優しい男の体温を感じながら考えるのは、誕生日までに自分がすべきことだった。 今いる世界の男たちは、猛々しくて狡猾で、ときには残酷ですらある。必要があれば、何を使ってでも和彦を雁字搦めにして、逃がしはしないだろう。だが、そういった男たちの執着が、和彦には息苦しくある一方で、心地よく、愛しい。 今手放してしまえば、もう二度
「こういうところに来て、いいと思えるのは、浴槽が広いことだな」 和彦の言葉に、三田村が生まじめな顔で応じる。「大胆な発言だ」「――大胆っていうのは、こういうことを言うんだ、三田村」 和彦は、三田村の両足の間に顔を伏せると、すでに熱くなっている欲望に唇を押し当てた。「先生っ……」 三田村が驚いたような声を上げ、遠慮がちに頭に手をかけてきたが、かまわず和彦は行為を続ける。 片手で三田村のものを扱き上げながら、先端を優しく吸い、舌を這わせる。三田村はいつも、和彦がこの行為に及ぶとき、最初は遠慮がちで、申し訳なさそうな反応すら見せる。和彦は、そんな三田村を唇と舌で変化させていくのが好きだった。 何度も大きく息を吐き出す三田村の反応をうかがいながら、逞しさを増していく欲望を丹念に舐め上げ、唇で締め付けるようにして扱き、口腔の粘膜でしっとりと包み込む。 行為の間も湯は溜まり続け、伏せた顔が浸かるまでそう時間は残っていない。和彦の口淫が熱を帯びようとしたとき、思いがけない三田村の言葉が降ってきた。「――先生、顔が見たい」 三田村の掠れた囁きに、和彦は羞恥で全身を熱くしながら、小さく首を横に振る。すると、三田村の手があごにかかった。「見たいんだ。俺を感じさせてくれている先生の顔が」 そうせがまれ、三田村の欲望を口腔で愛撫しながら、顔をわずかに上向かせる。三田村が唇に笑みを湛えているのを見て、このまま消えたくすらなったが、狂おしいほどの欲望の前に羞恥心は呆気なく消えてしまう。 和彦は、三田村を見上げながら、愛撫を続けていた。 この男には、自分のあさましい部分を見る権利があると思った。和彦にとって、ただ一人の〈オトコ〉だからだ。 三田村が苦しげな表情を浮かべた次の瞬間、口腔深くまで呑み込んだ欲望が爆ぜ、熱い精を迸らせる。和彦はすべて受け止めて、嚥下していた。 顔が湯に浸かるギリギリの瞬間まで、まだ硬さを失わない欲望に愛撫を施し、三田村に引き起こされる。和彦の体はバスタブに押し付けられ、背後から三田村に挑まれた。「三田、村っ…&
問いかけてきた三田村が、次の瞬間には苦々しい表情となる。「と、俺が先生に言えた義理じゃないな。ヤクザと関わった先生に、最初につらいことを強要したのは、この俺だ」「その分、今はあんたに支えてもらっている」 手を握り合っているだけでは我慢できなくなり、和彦は三田村にしがみつく。三田村はしっかりと抱き締めてくれた。「……つらいとか嫌とか、そう感じることをやらされているつもりはないんだ。相変わらずこの世界の男たちは、ぼくを大事にしてくれる。それこそ、大事にされたいがために、ぼくはどんなことも受け入れているぐらいだ」 自嘲ではなく、事実だった。守光の部屋での出来事は、まさにそれだろう。「そんな自分を自覚しているつもりだったのに、急に我に返って、不安になったんだ。いろいろと、考えることがあって……」 澤村と会っても平気だったのに、メッセージカードの字を見てからずっと、和彦の気持ちは揺れている。あの字を書いた相手は、和彦に大きな影響を与えた人物であり、今いる世界の男たちのように、和彦を大事にしてくれた。「ぼくは、このままでいいのか?」 自問するように呟くと、和彦の背を撫でながら、三田村が思いがけず激しい言葉で応じた。「――先生が嫌だと言っても、俺は、先生をこの世界から逃す気はない。組長のためでも、千尋さんのためでも、長嶺組や総和会のためですらない。俺は俺のために、先生を捕まえておく。先生が泣き叫ぼうが、衰弱しようが、俺は先生の足を掴んで放さない」 覚悟しておいてくれと、鼓膜に刻み付けるように囁かれ、和彦は三田村の腕の中で体を震わせる。三田村の言葉に感じてしまったのだ。「絶対……、苦労するからな」「先生といると、いままで経験したことがないぐらい、俺は楽しい。味わう苦労なんて、それに比べたらささやかなもんだ」 和彦が顔を上げると、荒々しい感情をぶつけてくるように三田村に唇を塞がれる。同じ激しさで和彦は口づけに応えた。** 互いの体をソープで丁寧に洗いながら、目が合うたびに照れを含ん
一人でタクシーに乗って、ふらりと夜遊びに出かける――はずもなく、目的地は、近所のコンビニだ。誰にも知らせず和彦ができる冒険は、せいぜいこれぐらいだ。それを窮屈だと感じないのは、見事に今の生活に順応しきったということだろう。 コンビニまで数分ほどの道のりを歩きながら、白い息を吐き出す。二月の夜の空気は切りつけてくるように冷たく、和彦はマフラーと手袋をしてこなかったことをすでに後悔していた。 熱い缶コーヒーだけを買うと、コンビニ前に置かれたベンチに腰掛ける。すっかり冷たくなった手を温めながら、ぼんやりと目の前の通りを眺める。 本当はすぐに帰るつもりだったが、たまに通りかかる人や車を眺めているうちに、立ち上がるきっかけを失っていた。部屋に戻ったところで、またメッセージカードを取り出して、思い出に浸ることを思えば、こうして寒さに身を晒しているほうがマシだ。 だが、さすがに体が冷えきってきた。 ダウンジャケットを着ていても体温がどんどん奪われていくようで、和彦は強張った息を吐き出す。 身震いした拍子に、足元に置いた空き缶が倒れて転がった。緩慢な動作で拾おうとした和彦は、アスファルトの地面に伸びた人影に気づいて動きを止めた。「――車で通りかかって、目を疑った。まさか先生がこんな時間に、一人でコンビニの前にいるなんて、思いもしなかったからな」 耳に届いたハスキーな声は、明らかに怒っていた。和彦が顔を上げると、無表情がトレードマークのはずの男は、声同様、少し険しい表情をしている。「三田村……」 側まで歩み寄ってきた三田村が、転がった缶を拾い上げてゴミ箱に入れる。「一人で出歩いたりして、何かあったらどうするんだ。先生は、組にとって……、今は総和会にとっても大事な人なんだ。誰に目をつけられても不思議じゃない。連れ去られでもしたら――」 やや視線を逸らして話す三田村を、和彦はじっと見つめる。その視線に気づいたのか、ふいに三田村は黙り込んだ。 二人が沈黙する間に、コンビニに数人の客が出入りする。その様子を横目に見ながら和彦は、感覚がなくなりつつある指を擦りつけ合う。すると突
**** 何かと気忙しい日常生活を送っている和彦だが、それでも、一人になれば寛げる程度には、精神的なゆとりは持っている。 順応性が高いとか、柔軟な神経をしているとか、表現の仕方はいろいろあるだろう。どれも自分に当てはまっていると、和彦は自覚している。とにかく何が起ころうが、貪欲に受け止めてきたはずなのだ。 書斎にこもり、何をするでもなくデスクについた和彦は、深々とため息を洩らし、数瞬の逡巡のあと、小物を入れてあるボックスからメッセージカードを取り出す。一昨日、澤村から渡された誕生日プレゼントの財布に入っていたものだ。 もう何度となく眺めているのだが、それでもこうして手に取り、流麗な字を指先で撫でる。そうしながら実は、この字を書いた人物の記憶を丹念に辿っていた。 懐かしさや切なさが心の奥から溢れてくるが、同時に、どうしようもない罪悪感めいた苦しさも湧き起こっている。感情の奔流に身を置くことで和彦は、自分がどうしたいのか――どうするべきなのか、必死に考えようとしていた。 澤村と会うことで厄介な問題を片付けたはずが、新たに別の問題を背負っただけなのだ。しかも今度は、迂闊に人には相談できない。 このメッセージカードを書いた人物は、和彦にとって特別で、大切な存在だ。だからこそ、きれいな思い出のまま胸の奥に残っている。会いたくないわけではないが、会いたいというわけではない。 ヤクザのオンナとなっている現状を知られたくなかった。一方で、そう思ってしまう自分を、ひどく許せなくもある。 今の和彦を、複数の男たちが大事にしてくれており、そんな男たちの気持ちを踏みにじっているように感じるのだ。 どれだけため息をつこうが、胸を塞ぐ重苦しさは少しも楽にはならない。 和彦はデスクの引き出しを開け、そこに入っている化粧ケースを眺める。この歳になって誕生日を祝ってもらうものではないと、実は密かに思っていた。 実家からの、なんらかの意図が見え隠れするプレゼントだけでも持て余しているというのに、総和会会長からもプレゼントを贈られたとなると、扱いに困る。本当は返したいのだが、守光の顔に泥を塗るまねもできず
欲望を扱く秦の手の動きが速くなり、比例するように和彦と中嶋の息遣いも乱れてくる。横になっている分、体勢が楽な和彦は思う様、中嶋の体に触れることができた。揺れる腰を撫で上げて、胸の突起を弄ってやると、中嶋が苦痛とも愉悦とも取れる表情になる。「先生は意外に、〈雄〉らしい面も持っているんですね」 二人の男を同時に感じさせているとは思えないほど、相変わらず悠然としている秦の指摘に、和彦は艶然と微笑む。「誰の影響かわからないけど、中嶋くんなら、抱いてみたいと思っている」「……それは、光栄ですね。俺も、先生を抱いてみたいし、抱かれてみたいですよ」 中嶋の言葉に何を感じたのか、秦は和彦のものへの愛撫を止め、一方で、中嶋のものにより性急な愛撫を加える。 秦が、中嶋の放った精をしっかりとてのひらで受け止め、和彦は、しなだれかかってきた中嶋の体を受け止めてやった。 荒い息をつきながら中嶋が、和彦の欲望に触れてくる。和彦は秦の口づけを受けながら、中嶋の緩やかな愛撫を今度こそ最後まで味わった。** 部屋に戻った和彦は、何より先に、帰宅を知らせるメールを賢吾に送る。それからゆっくりと湯に浸かり、やっと人心地がついた。慌しい一日が終わったのだ。 熱いお茶の入ったカップを片手に、リビングのソファに腰掛けた和彦は、改めてほっと息を吐き出す。大きなトラブルもなく澤村と会えたことが、いまさらながら嬉しかった。それに、不自然な形ではあっても、この先も友情を保てそうなことに安堵もしている。 身構えていたほど、悪い一日ではなかった。むしろ、いい一日だった――。 そう思いかけたとき、和彦の脳裏を過ったのは、秦の部屋での出来事だった。 現金なものだが、秦と中嶋の前では、あさましく明け透けな欲望を晒すことに罪悪感も背徳感もあまり感じない。常に男たちの情愛に搦め捕られている和彦にとって、あの二人は安心できる相手と言えた。秦と中嶋は互いを求め合っており、和彦に執着する必要がないからだ。 ずいぶん自惚れの強い考えだなと、和彦はひっそりと苦笑を洩らす。口づけを交わし、肌を擦りつけ合った相手が、自分