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All Chapters of 血と束縛と: Chapter 321 - Chapter 330

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第9話(22)

**** ソファに腰掛けた和彦の顔を見るなり、無表情が売りである男は、わずかに目を丸くしたあと、微苦笑を浮かべた。「――これからパーティーに出かける人間の顔じゃないな、先生」 三田村の言葉に、和彦は眉をひそめてから、自分の顔に触れる。「そんなに嫌そうな顔をしているか?」「ヘソを曲げた子供みたいな顔をしている」 三田村が冗談を言うのは珍しいと思ったが、もしかすると本当に、そんな顔をしていたのかもしれない。今の和彦は、少々の機嫌の悪さと、釈然としない気持ちを引きずっていた。 髪に指を差し込もうとして、セットしたばかりなのを思い出す。一応、スーツも下ろしたばかりのものを着込んでいるのだ。気軽なパーティーだと言われはしたが、さすがにラフな格好で出かけるのは気が咎める。 そう、和彦はこれから、パーティーに出かけなくてはならない。しかも、秦に招待されたパーティーに。 秦から誘いを受けたことは、すぐに三田村に、そして賢吾にも報告したが、その賢吾から返ってきたのは、意外な言葉だった。 出席しろ――。 和彦が悩み、考え込む様を楽しむ、嫌な性向を持ち合わせている賢吾としては、このときから今この瞬間まで、和彦の反応は非常に満足のいくものだったろう。和彦はずっと、賢吾だけでなく、秦の意図を考え続けていた。 その結果が、三田村に『ヘソを曲げた子供みたい』と言われた顔だ。 そろそろ時間だと示すように、三田村が腕時計をこちらに見せる仕種をする。仕方なく和彦は立ち上がった。「本当は、こういうときこそ先生についていてやりたいんだが……」 玄関に向かいながら、ぽつりと三田村が洩らす。夕方から、仕事の関係で本宅に詰めることになっている三田村は、出かける時間をギリギリまで延ばして、こうして和彦の見送りにきてくれたのだ。 和彦はちらりと笑みをこぼし、三田村の腕を軽く叩く。「有能なヤクザっていうのも、大変だな」「……堅気にそう言われたら嫌味だが、先生に言われると…&hel
last updateLast Updated : 2025-12-16
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第9話(23)

 靴を履いてから、三田村が玄関のドアを開けてくれるのを待っていると、何かを思い出したように動きを止め、和彦を見た。「三田村?」「――絶対、パーティーの最中でも、秦と二人きりにはならないでくれ。さすがにパーティーをしている店の中にまで、組の人間がついていくわけにはいかないからな。何かあればすぐに、外で待機している人間に連絡するか、店から抜け出すこと」 箱入り娘か深窓の令嬢扱いだなと、苦笑を洩らしかけた和彦だが、真剣な三田村の様子から、寸前で唇を引き結ぶ。 和彦も警戒はしているのだが、三田村を見ていると、まだまだ足りないらしい。「秦が開くパーティーでなければ、楽しんできてくれと、先生に言えるんだが……」 そう言いながら三田村が、和彦のネクタイを直してくれる。歯切れの悪い言葉から、和彦だけでなく、三田村も、パーティーに出席しろと言った賢吾の意図がわかっていないらしい。なんにしても、賢吾の命令であれば従うしかない。「さすがに、人が大勢いる中で、ぼくの飲み物に薬を入れたりはしないだろう」「……今度、あいつが先生にそんなことをやったら、俺が許さない」 耳元で、ハスキーな声をさらに掠れさせて三田村が呟く。和彦はそんな三田村の頬を優しく撫でた。「ヤクザがそういうことを言うと、物騒だ」「言わせてしまう人間が、実は一番物騒かもしれない」 一瞬、誰のことかと、眉をひそめて考えた和彦だが、三田村にじっと見つめられてようやくわかった。「もしかして、ぼくのことか?」「さあ」 ちらりと笑みを見せた三田村は、玄関のドアを開けたときには元の無表情に戻っていた。促されるまま和彦は玄関を出ると、三田村に伴われてエントランスに降りる。そこにはすでに、護衛の組員が待っていた。**** 拍子抜けするほど、秦が経営するレストランで開かれたパーティーは普通だった。 パーティーの始めに、秦は招待客の前で挨拶をしたのだが、このとき、親しい人間だけを呼んだと言っていたが、実際、和彦が眺めてい
last updateLast Updated : 2025-12-17
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第9話(24)

** 和彦はオレンジジュースをもらってから、ホールの隅に置かれたイスに腰掛ける。グラスに口をつけながら、ようやく落ち着いて店内を見回すことができた。 さほど大きな店ではないのだが、秦らしくインテリアに凝っており、華美さを極力抑えていながら、どことなく高級感が漂っている。だからといって肩が凝るほど格式張ってもいないので、不思議な居心地のよさがあった。落ち着いて食事を楽しみたい人間には、使い勝手のいい店だろう。 経営者が秦でなければ、自分でも贔屓にしたかもしれない。そんなことを考えながら、つい気を緩めていた和彦だが、客と会話を交わしていた秦と偶然目が合い、反射的に背筋を伸ばす。 いつにも増して艶やかで、女性客の視線をほぼ独占している美貌の男は、品のいい笑みを湛えて和彦の側にやってきた。顔の痣はすっかり消えており、表面上は、物騒なこととは無縁そうな実業家然としている。 ただ、右手には包帯を巻いたままだ。そろそろ抜糸の心配をしなくてはならないが、さてどこで、ということになる。秦と二人きりになる危険性はよくわかっているので、和彦に同行する人間も必要だ。考えるだけで、頭が痛くなってくる。 そんな和彦の気苦労も知らず、秦は穏やかな声で話しかけてきた。「――壁の華、という表現は失礼ですか。先生のように魅力的な方に対して」「来ている女性たちの熱い視線を独り占めしている男が、何言ってるんだ」「先生こそ。女性のお客さまだけじゃなく、男性のお客さまの中にも、先生を気にされている方がいますよ」 じろりと睨みつけると、悪びれた様子もなく秦は軽く辺りを見回した。「先生は、ほんの少しでも同性に興味のある男を、妙に落ち着かない気分にさせるんですよ。自覚がなかった男の中から、どんどん欲望を引き出して、あっという間に取り込んで……骨抜きにしてしまう」「……なんか、引っかかる言い方だな。性質の悪い女だと言われているみたいだ」「女じゃなく、〈オンナ〉でしょう。怖い男たちに大事に大事にされている、特別なオンナですよ」「おい――」 和彦が声を荒らげようと
last updateLast Updated : 2025-12-17
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第9話(25)

「そういえば、肋骨を折っていたんだな。客の前で平然としているから、すっかり忘れていた」「さすがに、お客さまの前で醜態を見せるわけにはいきませんから。先生は特別ですよ。事情を知っているから、つい気が緩む」 肋骨を折ってはいても、秦の口は滑らかだ。どうやって反撃してやろうかと考えながら和彦は、ぐいっとオレンジジュースを飲み干す。そんな和彦を、秦はおもしろそうに見下ろしていた。「お代わりをお持ちしましょうか?」「いい。あとで自分で取ってくる」 和彦の返事に、ああ、と納得したように秦は声を洩らす。「また、薬を盛られることを警戒しているんですね」「さすがにこんな場で、不埒なことをするとは思いたくないが……念のためだ」 ここで二人組の女性客が秦に話しかける。このまま和彦の側から離れるかと思ったが、秦は愛想よく会話に応じはしたものの、ウェイターを呼んで、女性客を料理の置かれたテーブルへと案内させた。そして、和彦に向き直る。「――招待はしたものの、先生に来ていただけると、確信はしていなかったんですよ」 秦はさりげなく和彦の手から、空になったグラスを取り上げた。「ぼくも、正直行くつもりはなかった。ただ、行くよう言われたんだ」「組長から?」「あの男は、ぼくの飼い主だからな。命令されれば、逆らえない」「来られるなら、どなたかとご一緒かと思っていたんですが――」「……その口ぶりだと、ぼくを利用して、長嶺組長と関わりを持とうとした目論見は、今のところうまくいってないみたいだな」 このことについても、当然和彦は、賢吾に話してある。それでも賢吾は、秦に対してなんらかの行動を起こした様子もなく、果たして考えがあるのか、単に秦の存在が目に入っていないのか、限りなく堅気に近い和彦に推し量ることはできない。「いつ、マンションのドアを蹴破って、長嶺組の方たちが雪崩れ込んでくるか、待っているのですけどね。今のところ、それはないですよ。だからこうして肋骨が折れた体で、派手なパーティーも開ける」「調子に乗っていると、痛い目を見るぞ」
last updateLast Updated : 2025-12-17
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第9話(26)

** 何事もなくパーティーは終わりに近づき、和彦は一足先に帰るつもりでホールをそっと抜け出す。一声かけておこうと、受付を兼ねたレジカウンターに歩み寄ろうとしたとき、背後から柔らかな声で呼びとめられた。「――先生」 振り返ると、秦が大股で歩み寄ってくるところだ。逃げ出したいところだが、パーティーに招かれてそんな無作法もできず、足を止める。「楽しんでいただけましたか?」「ああ。酒が飲めなかったのは残念だが、料理は美味しかった」 よかった、と洩らした秦が、一枚の名刺を差し出してくる。「この店で、二次会をしています。こちらだと、いくらでも酒が楽しめますよ。なんといっても、クラブですから。今日は店の定休日でホストたちも出勤していないので、本当に、ただ飲んで、ゆっくりしてください」「……二次会はけっこうだ。酒を飲むなら、部屋に帰って一人で飲む」 露骨に警戒する和彦を見て、秦は意味ありげな笑みを唇の端に刻む。その表情が気になって、和彦は名刺を押し戻そうとしたが、反対に手を取られて押し付けられてしまった。「おい――」「ある人が、先生をお待ちですよ」「ある人?」「さきほど、店に電話がかかってきたんです。それでわたしが二次会の店をお教えして、先に寛いでいただいているというわけです」 誰が待っているのか、秦は教えてくれなかった。 二次会まで行く気はなかった和彦だが、待機している長嶺組の車に乗り込むと、こちらが何か言う前に、速やかに次の店へと向かい始める。名刺を見せるまでもなかった。 つまり、〈誰か〉がすでに護衛の人間に用件を伝えて、指示を与えているということになる。それが誰であるか、考えるまでもない。 パーティーの席で一滴も飲まなかった和彦だが、この時点で、酔いにも似た感覚に襲われる。 そしてその感覚は、地下一階のクラブへと繋がる細長い階段を下りていくうちに、ますます強くなる。 貸切という札がかかっている扉を開けると、夜のにぎわいを見せる地上のまばゆさとは対照的な、抑えめな照明の明かりとボーイに出迎えられた。
last updateLast Updated : 2025-12-17
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第9話(27)

 店内へと案内されると、目の前の光景にふっと一瞬の既視感に襲われる。見覚えがあると感じたのは当然で、和彦はこの店を知っていた。実際に足を運んだのは今夜が初めてだが、クリニックのインテリアについて秦に相談したとき、写真で見せられたのだ。 もう一軒の店同様、ホストクラブらしくない内装は、秦の好みが強く反映しており、インテリアの一つ一つも、物がいい。深みのある紫色がところどころで使われているが、妖しさを演出はしていても、下品にはなっていない。 すでにレストランから移動してきた客が数人いたが、その中に一人だけ、カウンターで飲んでいるスーツ姿の男がいた。大柄で引き締まった体躯をしており、こちらに広い背を向けているにもかかわらず、近寄りがたい迫力を醸し出している。 車中である程度の覚悟はしていたが、こんな場で見るこの男のインパクトは強烈だ。 強張った息を吐き出した和彦は、知らない顔をするわけにもいかず、静かに歩み寄った。「――……なんで、ここにいるんだ」 和彦が話しかけると、長嶺組組長という物騒な肩書きを持つ男が、肩越しに振り返った。「ホストクラブというから、ロクな酒がないのかと思ったが、ここはいい酒が揃ってるぞ。バーテンの腕も確かだ」 そんなことは聞いていないと、賢吾を軽く睨みつける。唇に薄い笑みを湛えた賢吾に指先で呼ばれ、和彦は隣のスツールに腰掛ける。「どうしてあんたが、ここにいる」「仕事が早く片付いてな。それで、先生の浮気相手の顔を拝んでやろうと思ったんだ」 浮気相手という表現に、つい賢吾を怒鳴りつけそうになったが、店内に音楽が流れているとはいえ大声を出して目立ちたくない。そこで和彦は、靴の先で賢吾の足を軽く突いた。「……ぼくがパーティーのことを話したときから、こうするつもりだったんだろ」 賢吾はニヤリと笑って話を続ける。「乗り込んでいいか、レストランに電話して確認しようとしたら、ここで二次会をやると秦に教えられた。そこで、先生の先回りをしたというわけだ」「……一杯飲んで、満足したか? ここは普通の客ばかり
last updateLast Updated : 2025-12-17
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第9話(28)

 何か飲めと賢吾に言われ、和彦はハイボールを頼む。ちなみに賢吾が飲んでいるものは、ギブソンだ。この男に甘口のカクテルは似合わないので、納得できるオーダーだ。 物騒な男が隣にいて安心して飲めるというのも妙な話だが、和彦はこの夜初めて、やっとアルコールを味わうことができる。冷えたソーダの刺激が舌の上で弾け、美味しかった。 いつものことだが、賢吾と二人で飲むとき、特に何かを話すわけではない。じっくりとアルコールを味わい、その場の雰囲気を楽しむのだ。 いつものように賢吾とそうやって飲んでいると、次々に客がやってきて、店内はあっという間ににぎやかになる。ただ、盛り上げ役のホストたちがいないせいか、眉をひそめるほどの騒々しさはない。「――お楽しみですか」 賢吾の傍らに立ち、声をかけてきた人物がいる。秦だ。賢吾は悠然と顔を上げると、カクテルグラスを軽く掲げた。「ああ。ここがホストクラブじゃなかったら、通ってもいいぐらいだ。俺は、男に接客される趣味はないからな」 賢吾の言葉に、さすがの色男もどういう顔をしていいかわからなかったらしい。いくぶん困惑したようにちらりと和彦を見た。もっとも和彦のほうも、賢吾の言葉の真意はわからない。この男なりの性質の悪い冗談なのか、案外、本音なのか。「気分がいいから、今夜は難しい話はなしだ。――色男、ガツガツするなよ。そういう姿は人に見せるもんじゃねーし、俺も、見たくねーからな」 上機嫌ともいえる声音で賢吾がそんなことを言ったが、和彦には、大蛇がわずかに鎌首をもたげた姿が脳裏に浮かんだ。威嚇ではない。ただ、相手を値踏みしているのだ。 賢吾の刺青について知らないはずの秦は、違う光景を頭に描いたのか、顔を強張らせている。いくつもの組と関わり、ヤクザとつき合いのある秦でも、賢吾が相手だと気圧されるらしい。 秦が口を開きかけたそのとき、受付にいたボーイが慌ただしく秦に駆け寄り、何かを耳打ちした。眉をひそめた秦が、賢吾だけでなく、和彦にも視線を向けてくる。思わず和彦は問いかけた。「どうかしたのか?」
last updateLast Updated : 2025-12-18
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第9話(29)

「いえ……、今夜は貸切だと説明しても、入れてくれとおっしゃるお客様が見えられているのですが、佐伯先生のお知り合いだと――……」 ピンとくるものがあり、まさかと思いながら賢吾を見る。賢吾は、今にも人を食らいそうな、剣呑とした笑みを浮かべた。「いいじゃねーか。俺の顔を立てて、入れてやってくれ」 賢吾の言葉を受け、秦はすぐにボーイに指示を出す。 案の定、姿を見せたのは、鷹津だった。相変わらずのオールバックに無精ひげだが、今夜はスーツを着ていた。 肩越しに振り返りながら鷹津を確認した賢吾は、短く声を洩らして笑う。「千客万来ってやつか?」「……あんたが言える台詞じゃないだろ」 呟きで応じた和彦は、こちらに向かって歩いてくる鷹津を見据える。先日、鷹津から与えられた屈辱は、和彦の胸の奥で傷となってジクジクと痛んでいた。 一方、事情がわからない様子の秦だったが、先日、自分が腹を殴った男が現れたことで、いくらか緊張した表情を見せる。鷹津のほうは、秦を一瞥したものの、声をかけることすらしなかった。賢吾しか目に入っていないようだ。 秦は、立ち入ったことを尋ねてこようとはせず、別室に移動しないかと申し出て、尊大な態度で賢吾が頷いた。**「――そんなに俺の〈オンナ〉が気になるか、鷹津」 重苦しい沈黙を破ったのは、賢吾の挑発的な言葉だった。新たに運ばれてきた水割りを飲んでいた和彦は驚いて、乱暴にグラスをテーブルに置く。正面のソファに腰掛けた鷹津のほうは、ウーロン茶に入った氷をカランと鳴らし、嫌悪感も露わに顔をしかめた。 ただ一人、悠然とした態度を崩さない賢吾は、鷹津の反応に満足そうに喉を鳴らして笑ってから、ウイスキーミストの氷の粒をガリッと噛み砕いた。「先生のあとをつけ回しては、脅かしているんだってな。可哀想に、先生がすっかり怯えちまっている。今夜だって、尾行していたんだろ。さすがに現役刑事だけあって、他人のケツを追いかけ回すのは得意ってことか」「……なんとでも言え
last updateLast Updated : 2025-12-18
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第9話(30)

「俺を潰したいからなんて理由で、こいつに近づくなよ。大事な大事な、俺たちのオンナだ。お前みたいな下衆が近づいていいような、安い人間じゃない」「蛇みたいな男が、薄ら寒くなるようなことを言うな。……お前は、弱みを晒すような男じゃねーだろ。それとも、弱みを隠し切れないほど、そいつに骨抜きにされたか? 俺を失望させるようなことを言うなよ、クズどもの親玉ともあろう男が」「しばらく辛酸を舐めたようだが、相変わらず口汚いな、鷹津。そんなんじゃ、誰にも好かれんだろ。それこそ、女だろうが、男だろうが――」 急に賢吾の腕が肩に回され、抱き寄せられる。和彦がハッとして賢吾を見ると、ニヤリと笑ってあごを掴み上げられた。「おいっ……」「鷹津が先生をつけ回すのは、先生の仕事っぷりが見たいからだろ。長嶺組でどんな役目を負わされているか、本当に俺の〈弱み〉になりうるか、とかな。だったら望み通り、先生の仕事ぶりを見せてやればいい。俺のものを咥え込むという、大事な仕事をな」 和彦は抵抗しようとしたが、有無をいわせず唇を塞がれる。呻き声を洩らしたときには強靭な舌が口腔に押し込まれていた。あごにかかっていた賢吾の手が移動し、両足の間に這わされたかと思うと、スラックスの上から手荒く和彦のものは揉みしだかれる。「んんっ」 自分を侮辱した男の前で、賢吾との行為を晒したくなかった。ささやかに残っている和彦のプライドが軋み、悲鳴を上げるが、賢吾は力でねじ伏せてしまう。 ファスナーが下ろされ、入り込んできた指に形をなぞられる。ソファの背もたれに押し付けられながら、和彦が賢吾の体を退かそうともがいていると、嘲るような口調で鷹津が言った。「おい、嫌がってるぞ。いくらヤクザのオンナとはいっても、少しぐらいはプライドがあるんだ。それを踏みにじるような酷なマネをしてやるなよ」 ようやく唇を離した賢吾が、ゾクリとするほど穏やかな声で応じる。「鷹津、ずいぶんお優しくなったな。〈おまわりさん〉をやっている間に、多少はまともな人間性を取り戻せたか。……元からお前にそんなものがあったかどうか、俺は知らんがな
last updateLast Updated : 2025-12-18
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第9話(31)

「刑事に復帰したと思ったら、俺のオンナのケツを追いかけ回す。どうした、こいつのケツが、そんなに美味そうか?」 和彦の顔を見つめたまま、賢吾はどこか楽しげに、たっぷりの毒を含んだ言葉を鷹津に向けて垂れ流す。ただ、大蛇を潜ませた目は、こんなときでも静かだ。賢吾は、鷹津と本気でやり合っているわけではない。弄しているだけだ。 抵抗をやめた和彦の唇を賢吾がそっと吸い上げ、囁いてきた。「――お前は、誰のオンナだ? お前が気にするのは、お前を飼っている男の反応だけだ。あとは、誰が何を言おうが、傲然と顔を上げてろ。お前の価値は、俺が決める。……先生は、とびっきりだ」 ズキリと胸の奥が疼き、強い欲情が湧き起こる。うろたえる和彦を煽るように賢吾が唇を啄ばみながら、ベルトを外し始める。あやすように甘く優しい口づけに酔っている間に、スラックスと下着を脱がされそうになる。さすがに我に返って身を捩ろうとしたが、賢吾が意地悪く笑った。「他人に見られるなんて、慣れてるだろ、先生。ただ、見ているのが刑事というだけだ。どうしようもない最低の刑事だけどな」 賢吾の煽りにすかさず鷹津が乗る。「……それ以上続けると、二人とも警察署に引っ張るぞ」「公然猥褻でか? そりゃ、大手柄だな、鷹津」 和彦はソファに押し倒され、無造作にスラックスと下着を奪い取られる。このとき靴も脱げてしまい、思わず視線を向けようとしたとき、鷹津と目が合った。 人間臭いドロドロとした感情に支配された、見ていて吐き気がするような嫌な目だ。嫌悪と怒りが見て取れ、まとわりつくような不快な熱を放っている。まるで他人を搦め捕ろうとするかのように、粘ついた眼差しをひたすら向けてくる。 のしかかってきた賢吾にジャケットの前を開かれ、ネクタイを抜き取られてワイシャツのボタンを外される。 苛立ったように鷹津は舌打ちした。「こんなもの、見てられるかっ。俺は男に興味はない。俺がビデオカメラでも持っていたら、喜んで録画して、バラ撒いてやるところだがな」 そう吐き捨てて鷹津が立ち上がった瞬間、賢吾は鼻先で笑ってから言った。「逃
last updateLast Updated : 2025-12-18
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