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Lahat ng Kabanata ng 血と束縛と: Kabanata 331 - Kabanata 340

930 Kabanata

第9話(32)

 鷹津を煽る言葉が、和彦の欲情を煽る。カッと体が熱くなり、触れられないまま紅潮する肌を、ワイシャツのボタンをすべて外し終えた賢吾が確認する。満足したように目を細めた賢吾が、優しい声で唆してきた。「さあ、先生、この下衆な男に見せてやれ。自分がどれだけ、長嶺組の組長を骨抜きにして、惑わせているか」 賢吾の熱い手にいきなり和彦のものは握り締められて、容赦なく扱かれる。呻き声を洩らした和彦は、咄嗟にソファの端を掴んだ。 片手が胸元に這わされ、すでに興奮のため硬く凝った胸の突起をてのひらで転がされる。片足を押し上げるようにして覆い被さってきた賢吾にベロリと舐められてから、熱い口腔に含まれると、吸い上げられていた。「あっ……」 扱かれ続ける欲望の先端を、指の腹で擦り上げられる。ビクリと腰を震わせた和彦が唇を噛むと、腿から尻にかけて賢吾に撫で回された。「――思い出すな。初めて先生を抱いたのは、ソファの上だった。あのときも、俺たちの行為を、人が見ていた」「人が嫌がっているのに、お構いなしなのも、同じだ」 すでに乱れた息の下、和彦が応じると、手荒な愛撫によって身を起こした欲望の形を、賢吾になぞられる。「嫌がっている、か」 くくっと声を洩らして笑った賢吾が片手を伸ばし、自分が飲んでいたウイスキーミストのグラスをソファの足元に置く。そのグラスの中から氷の粒を一つ摘まみ出すと、和彦の胸元に落とした。 冷たさに身を強張らせていると、胸元に顔を伏せた賢吾が氷の粒を唇に挟み、肌の上に滑らせる。冷たさと、性的な興奮に、ゾクゾクするような感覚が和彦の背筋を駆け抜ける。 すぐに氷の粒は溶け、肌に残った水を賢吾が舐め上げる。「あのときと違うのは、俺は、先生相手の前戯の手を抜かないってことだな」 氷をもう一粒摘まみ上げようとした賢吾が、ふと鷹津のほうを見る。立ち尽くしている鷹津に対して、賢吾が言葉をかけた。「座ったらどうだ? どうせ公然猥褻で捕まえるにしても、もう少し盛り上がってからでも遅くないだろ」 鷹津が憎々しげに賢吾を睨みつけ、同じく激しい眼差しを和彦にも向けてくる。こんな場面
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第9話(33)

 鷹津が乱暴にソファに腰掛けると、それが合図のように、和彦は賢吾にあごを掴まれ、深い口づけを与えられた。 賢吾は再び氷の粒を唇に挟み、熱をもって疼いている胸の突起に擦りつけてくる。氷が溶けると今度は、賢吾の熱い舌に弄られてから、きつく吸い上げられる。「あっ、あっ……」「こっちに氷を押し当てたら、もっと早く溶けそうだな」 そう言って、賢吾が次に氷の粒を押し当ててきたのは、内奥の入り口だった。冷たい感触が内奥に押し込まれ、和彦が声を上げて腰を震わせているうちに、あっという間に氷は溶けてしまい、すかさず次の氷の粒が押し込まれる。今度は、一粒ではなかった。 ウイスキーでいくらか溶かされ丸みを帯びた氷の粒が、挿入された指が蠢くたびに、繊細な襞と粘膜を強く刺激する。「ああっ、あっ、んくうっ――」 革張りのソファの上で、和彦は身悶える。氷の粒を呑み込まされていながら、たまらなく体が熱かった。 物欲しげに賢吾の指を締め付けていたが、指が引きぬかれると、溶けた氷が水となり、内奥の入り口からこぼれ出る。賢吾はもう一度、今度はさらに氷の粒の数を増やして、同じ行為を施した。 官能を刺激され、発情しきった内奥は簡単に氷を溶かし、今度は、燃えるほど熱いものを欲する。 震えを帯びた息を吐き出して和彦がゆっくりと頭を動かすと、食い入るようにこちらを見つめている鷹津と目が合った。 やはり鷹津の目にあるのは、嫌悪と憎悪だ。だが和彦は、鷹津からそれらの感情を引きずり出している今の状況に、奇妙な高ぶりを覚えていた。自分が嫌悪している男が、やはり自分に嫌悪の情を抱いているというのは、一種の感情の交流であり、繋がりだ。 ある意味、倒錯した交わりかもしれない――と思った次の瞬間、和彦は短く悲鳴を上げて仰け反る。 熱くなり、先端から透明なしずくを滴らせている和彦のものに、賢吾が氷を擦りつけてきたのだ。ツウッと根元から先端にかけて撫で上げられているうちに、氷が溶ける。 和彦が腰を震わせて喘いでいると、柔らかな膨らみをやや乱暴に揉みしだかれ、はしたなく乱れてしまう。 片足を抱え直され、内奥に氷の粒を押し込ま
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第9話(34)

 狭い場所を、傲慢な欲望が押し広げようとする。和彦は頭上に片手を伸ばして肘掛けを掴み、もう片方の手を賢吾の腕にかけていた。 賢吾が腰を進め、和彦の内奥は熱く硬い欲望を呑み込まされる。氷の冷たさに晒されたばかりの場所にとって、賢吾の熱はまるで凶器だ。だが、浅ましく締め付け、吸い付き、さらに奥へと受け入れようと蠢動する。「ひあっ……」 内奥深くまで賢吾のものを呑み込んだとき、和彦は触れられないまま絶頂に達していた。賢吾だけでなく、鷹津が見ている前で精を噴き上げ、下腹部を濡らしたのだ。「……行儀が悪いところまで同じだな。また、入れられただけでイったのか?」 力強く内奥を突き上げられて、たまらず悦びの声を上げる。すると賢吾にあごを掴まれ、鷹津のほうを向かされた。「今の顔も、しっかり見てもらえ。この顔で、俺を夢中にさせているんだ。……先生のこの顔は、猥褻だと言われても仕方ないな。この顔だけで抜けるほど、いやらしい」 鷹津が見ている前でも、愉悦の表情は押し殺せなかった。賢吾の律動に翻弄され、和彦は身悶え、乱れる。そんな和彦を、鷹津は唇を引き結んだ鬼気迫る顔で睨みつけていた。「中に出すぞ」 賢吾の言葉に、反射的に和彦は首を横に振る。いくら快感に酔わされていても、この状況は把握できていた。「嫌、だ……。こんな、ところで――」「いつもは、そんなことを言わないだろ。ここに、熱いものをたっぷり出されるのが好きじゃねーか、先生は。しゃぶり尽くすように俺のものに吸いついて、ビクビクと痙攣しながら美味そうに飲み干して、もっと欲しいと言いたげに根元から締め上げてくる。……さあ、いつもみたいに俺を悦ばせてくれ」 鷹津と視線を合わせたまま、賢吾の精を内奥深くで受け止める。和彦の体は、ソファの上で完全に溶かされ、賢吾に支配されていた。そうされることに、深い悦びすら覚える。 精を迸らせたというのに、衰えることなく内奥でふてぶてしく息づき、強く脈打つ賢吾のものを、意識しないまま締め付ける。「相変わ
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第9話(35)

「――先生」 賢吾に呼ばれて、口移しで氷の粒を与えられた。嬌声を上げ続けた喉が潤い、思わず和彦は吐息を洩らす。 もう一度氷の粒を与えられ、そのまま賢吾と舌を絡め合っていた。和彦の鎮まりきらない欲情を感じ取ったのか、賢吾がゆっくりと内奥を突き上げ、簡単に喘がされる。 そんな和彦を指して、賢吾は鷹津に言い放った。「いいオンナだろ、鷹津? 俺の、大事で可愛い特別なオンナだ。……お前みたいな下衆が近づくなよ。先生が汚れちまう」「汚物そのもののヤクザが、言えたことか」「そのヤクザに寝首を掻かれて、一度潰された奴がいたな。そういえば――」「だが俺は、刑事としてここにいる。お前を狩る立場にいることを、忘れるな」 会話を交わしながら賢吾がゆっくりと体を離す。急に激しい羞恥心に襲われた和彦だが、後始末をしようにも体に力が入らない。 密かにうろたえていると、ふとした拍子に鷹津と目が合った。また、嫌悪に満ちた視線を向けられるかと思ったが、鷹津は何も言わず顔を背けた。「……ここは空気が悪い。帰るぞ」 立ち上がった鷹津に、賢吾が声をかける。「奢ってやるから、一杯飲んで帰ったらどうだ。ヤクザに奢られるのは、得意だっただろ。それに――興奮して、喉が渇いただろうしな」 鷹津は、今にも飛びかかりそうな顔で賢吾を睨みつけ、そのまま黙って部屋を出ていった。乱暴に閉められたドアの音に肩を揺らした和彦の耳に、ぽつりと洩らされた賢吾の呟きが届く。「なんだ、逮捕はなしか……」 和彦はソファに横になったまま、あれだけ激しく自分を貪ってきたあとなのに、それでも精力的で精悍で、何より楽しげな男を半ば畏怖しながら眺める。思わず、こう問いかけていた。「――……あんた、あの男を刺激して、どうしたいんだ?」 和彦にハンカチを差し出してきながら、賢吾は目を細める。機嫌がよさそうにも見えるが、一方で、大蛇を身の内に潜ませた男らしく、ひどく残酷にも見える表情だ。「何も。ただ、ウロウロされると目障りだから
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第9話(36)

**** 後部座席のシートに体を預けた和彦は、大判の封筒から書類を取り出す。 保険医療機関として指定をもらうため、クリニックの申請をしなければならないのだが、表向き和彦は、クリニックに勤務する医者であり、名義上の経営者は別の医者となっている。 公的機関を欺くような申請はリスクがあるし、美容外科の分野では、健康保険の適用がない自由診療の施術がほとんどだ。だからといって、申請しないわけにはいかない。昼間は一般の患者を受け入れて、儲けについても考え、結果としてそれが、長嶺組との関係のカムフラージュになる。誰かに、普通のクリニックとは違うと感じさせてはいけないのだ。一部の例外を除いて。 長嶺組に名義を貸した医者には、相応の報酬が支払われ、その代わり、必要に応じてこうした書類の作成に協力してもらっている。大半のやり取りは電話や宅配業者を通してのものだが、重要な書類に関しては、長嶺組の人間を取りに行かせたりしている。「――わざわざ先生まで出向かなくてもよかったのに。大事な書類とはいっても、俺が取りに行けば事足りたと思うが」 ハンドルを握る三田村に話しかけられ、書類から顔を上げた和彦は笑みをこぼす。 それこそ、若頭補佐の肩書きを持つほどの男がやるべき仕事ではないと思うが、和彦が絡むと、三田村の感覚は少々は狂うらしい。「若頭補佐に使い走りなんてさせたら申し訳ないから、こうしてぼくがついてきたんだ。そうすれば、ぼくの護衛という仕事もこなせるからな」「なるほど」 生まじめな口調で応じた三田村だが、バックミラーを覗き込むと、口元には笑みが浮かんでいた。 受け取ったときに一通り目を通した書類を、もう一度確認してから封筒に仕舞う。それを傍らに置いた和彦は、ウインドーの向こうに目を向ける。 ちょうど海岸線を走っているため、海沿いの景色を堪能できる。秋らしくなったとはいえ、まだ強い陽射しが海面に反射し、キラキラと輝いていた。「……天気がよかったからなんだ」 ぽつりと洩らした和彦は、いつ見てもハッとさせられる鮮やかな青空へと目を向ける。「朝、カーテ
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第9話(37)

「できることなら一人で運転して、ドライブを楽しみたかった――、という口ぶりだ」「そろそろ運転の仕方を忘れそうなんだ」 運転はダメだと言いたげに、三田村に小さく首を横に振られてしまった。和彦は軽くため息を洩らす。「まあ、いい。もう一つの希望は叶えられたし」「なんだ?」「――忙しい若頭補佐と、平日の昼間からドライブを楽しむ」 三田村から返事はなかった。和彦は、ぐっと好奇心を抑え、三田村がどんな顔をしたのか、バックミラーを覗き込むような、はしたない行為はやめておく。 途中、自販機で缶コーヒーを買っていると、傍らに立った三田村に言われた。「もう少し走ったところに、砂浜に下りられる場所があったはずだ。周りに店もないようなところだが、そこでいいなら、休憩していこう」 和彦は目を丸くして、無表情の三田村の顔を凝視する。「……急いで帰らなくていいのか?」「コーヒー一本飲む余裕ぐらいある」 当然、和彦の返事は決まっていた。 三田村が言っていたのは、きれいな人工砂浜のことだった。行きしなに見かけたときは数台の車が停まっていたが、今は一台だけだ。季節外れの海は、こんなものだろう。 缶コーヒーを持ったまま砂浜に下りてみると、離れた場所に、波打ち際ギリギリのところに並んで腰掛けている男女の姿があるが、他に人気はない。 靴に砂が入るため歩き回ることもできず、すぐに階段に引き返す。積み上げられたテトラポッドの陰に入り、強い陽射しを避けながら、思う存分海を眺めることができる。「風が気持ちいい……」 階段に腰掛けた和彦が、柔らかく吹きつけてくる風に目を細めながら洩らすと、隣に腰掛けた三田村に缶コーヒーを取り上げられる。再び手に戻ってきたときには、しっかりプルトップが開けられていた。和彦はちらりと笑うと、缶に口をつける。「夏場なら、いくらでも店が出ていて、にぎやかなんだがな。そういう光景を見ると、若い頃、勉強だと言われて、屋台でこき使われたときのことを思い出す」 思いがけない三田村の話に、和彦はつい身を乗り出して尋ね
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第9話(38)

 食事に関しては、和彦などよりよほどマメな三田村だ。時間さえあれば、きちんとした料理を作れるのかもしれない。「今度、食べてみたい」 和彦がこう言うと、三田村は微妙な顔となる。「いや……。先生が期待しているほど、美味いものじゃないと思うが――」「わからないだろ。実際食べてみないと」 子供のようにムキになった和彦を、到底ヤクザとは思えない優しい眼差しで三田村が見つめてくる。「なら、近いうちに、先生の部屋のキッチンを借りて作ってみよう」「楽しみにしている。――ものすごく」 また三田村が微妙な顔をしたので、和彦は声を洩らして笑ってしまう。つられたように三田村も笑みを見せたが、すぐに真剣な顔となる。風で乱れた髪を慣れない動作で掻き上げてくれ、小声で礼を言った和彦は、そのまま三田村に身を寄せる。 一応、周囲の様子をうかがい、人が来る気配がないのを確かめてから、どちらともなく唇を触れ合わせる。二度、三度と互いの唇を啄ばみ合っているうちに、三田村の片手が首の後ろにかかり、引き寄せられてしっかりと唇を重ねた。 こんなつもりはなかったのだが――というのは、言い訳にはならないだろう。三田村と出かけ、見ているだけで気持ちが晴れるような景色の中、身を寄せ合えば、こうなることは必然に近い。「んっ……」 舌先が触れ合い、緩やかに絡めていた。口づけに夢中になるあまり、持っている缶コーヒーから意識が逸れ、危うく落としそうになったが、すかさず三田村に受け止められ、階段に置かれる。 性急に唇と舌を貪り合いながら、一気に燃え上がった情欲をもどかしく鎮めようとする。触れ合えばこうなるとわかっているのに、触れ合わずにはいられない。和彦だけでなく三田村も、まだ始まったばかりともいえる関係にのぼせているのかもしれない。 自由な外の生活とは違い、何かと制限を受ける中での生活だからこそ、なおいっそう、些細なことで刺激され、熱くなる。 三田村の舌に丹念に口腔をまさぐられると、和彦は三田村の情熱に応えるように、あごの傷跡に唇を押し当て、柔らかく吸い上げる。舌先を這わせたところで、再び
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第9話(39)

 外ということもあり、なんとか自制心を働かせて体を離したが、与えられれば、いくらでも三田村の感触が欲しくなりそうだ。 熱を帯びた吐息を洩らした和彦は、コーヒーを飲む。 妖しい空気を変えるためなのか、すでに濃厚な口づけの余韻を消した厳しい声で、三田村が切り出した。「――……組長から教えてもらったが、一昨日の夜は大変だったらしいな」 和彦は思わず顔をしかめるが、返事としてはそれで十分だろう。 三田村が言っているのは、秦に誘われたパーティーに出席したあと、二次会の場に賢吾がいただけでなく、鷹津まで現れたことだ。それだけならまだしも、賢吾は鷹津が見ている前で、和彦を抱いた。 短いつき合いとはいえ、賢吾とは濃厚な関係を持っているが、いまだに、大蛇の化身のような男が何を考えているのかわからない。 何かしら意図があるのかもしれないが、妙なところで強烈で残酷な好奇心を持っている賢吾のことなので、それ故の行動だとしても、和彦は驚かない。「大変なのは大変だが、お宅の組長が、火に油どころか、灯油をぶち込んだかもしれない」 和彦の例えに、三田村は苦笑に近い表情を浮かべる。片手を伸ばして三田村の頬を撫でると、その手を取った三田村にてのひらにキスされた。 のんびりと海を眺め、心地いい風に吹かれながら、自分の〈オトコ〉に大事にされる。それがひどく幸せだと感じる自分に、和彦は戸惑う。ヤクザの世界に頭の先までどっぷり浸かり、周囲はヤクザばかり。何より、こうして和彦を慈しんでくれる男もまた、ヤクザなのだ。 それなのに幸せだと感じるのは、罪なのだろうか――。 つい考え込む和彦を、いつの間にか三田村がじっと見つめていた。我に返り、誤魔化すように問いかけた。「……鷹津のことで、組長は何か言っていたか?」「付け入る隙を与えないよう気をつけろと。正直、今日こうして先生を連れ出す許可をもらえたのは、意外だった。組長なりに、先生を閉じ込めて息苦しい思いをさせないよう、配慮しているのかもしれない」「するべき配慮は、他にあると思うんだが……」
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第9話(40)

 一瞬にして完璧な無表情となった三田村が、低い声で電話に応対する。和彦は気にしていないふりをして立ち上がり、もう一度砂浜に下りてみる。さきほど見かけたカップルは、今はぴったりと身を寄せ合い、互いの腰に腕を回していた。微笑ましさに顔を綻ばせていると、背後から三田村に呼ばれる。「先生」 振り返り、険しさを増した三田村の顔を見た和彦は、すぐに階段へと戻る。「何かあったのか?」「あった、というほど大げさなことじゃない。ただ、俺がついている若頭のシマで、ちょっとした面倒が起こりそうだと、報告があったんだ」 長嶺組の若頭たちは、それぞれ自分の組を持っている。実際のところは、長嶺組が治める縄張りを管理するための名目上のものだが、長嶺組直轄の配下という存在は、ヤクザの世界では特別視されるらしい。長嶺組から与えられた組の名は、その名刺のようなものだ。 長嶺組では『若頭』である男たちは、任されている縄張りの中では、『組長』であり、組を切り盛りしなくてはならない。 それらの組は、長嶺組に一定の上納金を納め、縄張り内での裁量の自由を得る。不義理をしない限り、長嶺組は口出ししないのだという。 三田村が言った『シマ』とは、その長嶺組から任されている縄張りのことだ。「今夜、シマにある店のいくつかに手入れがあるらしい」「……警察絡み、だよな? それがどうして、今わかるんだ」 階段を上がりながら和彦が問いかけると、三田村にちらりと視線を向けられる。それで、なんとなく理解した。「清廉潔白な警官だけじゃない。鷹津のように、ヤクザをいたぶって、骨までしゃぶろうとした腐った奴もいれば、ヤクザに飼われて小金を得る奴もいる」 三田村の話を聞いて、鷹津は一体、ヤクザ相手に何をしていたのかと、空恐ろしくなる。あの存在を思い返すだけで不快感に襲われるため、賢吾からあえて詳しい話を聞いていないのだが、ロクでもない男だということは確かだ。「いつもなら、警察は何日も前から下調べをしているから、早いうちに手入れの情報は入手できるんだが、今回に限っては、突然だ。組のほうも少し混乱しているらしい。組と、その警官が繋がっていると知ら
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第9話(41)

「今、対応を話し合っているそうだ。俺も戻ってから、若頭の元に顔を出さなきゃいけない」 和彦は返事をしないまま、残っていたコーヒーを飲み干す。すると、すかさず伸びてきた三田村の手に缶を取り上げられた。二人はゴミ箱の前で立ち止まり、示し合わせたように互いの顔を見つめる。「……今、警察がイレギュラーな動きをしていると聞くと、ある男の顔がまっさきに頭に浮かぶんだが、ぼくの考えすぎか?」 和彦の言葉に、三田村は首を横に振る。「警察の詳しい内情まではわからないが、鷹津が長嶺の周辺をうろついている限り、考えすぎということはないだろう。慎重すぎるほど慎重になって間違いはない。特に、先生は」 三田村に促され、並んで歩きながら車へと戻る。「いざとなれば組は、誰も立ち入れない鉄の壁そのものになる。必要とあれば、誰かが犠牲になるが、それすら、組を守るためだ。その中で先生は、組長だけじゃなく、組そのものにとっての弱点になる。かけがえのない存在だからだ。だからこそ俺たちは守るし、反対に、警察は目をつけるかもしれない」「なんだか、大事だな……」「怯えて暮らしてくれと言っているわけじゃない。ただ、俺たちに守られてほしいんだ」 三田村が〈助手席〉のドアを開けてくれ、乗り込みながら和彦は、ため息交じりに洩らした。「そんなにぼくは、危なっかしいか」「ようやく自覚してくれたな、先生」 生まじめな顔で三田村に言われ、和彦としては苦笑を洩らすしかなかった。**** 冷蔵庫を開けた和彦は、あっ、と小さく声を洩らす。シャワーを浴びて出て飲むつもりだった牛乳がなかったからだ。必要なものがあれば、連絡さえしておけば組員が買ってきてくれるのだが、頼むのをうっかり忘れていた。 ペットボトルのお茶はあるので、それで我慢しておこうかとも思ったのだが、欲しいものが冷蔵庫にないと、気になって仕方ない。 少し考えてから和彦は、着込んだばかりのパジャマから、カーゴパンツとシャツに着替え、その上から上着を羽織る。髪は
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