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第15話(44)

 あまりに簡潔な賢吾の返事に、和彦は唇を動かしながらも、声が出なかった。言い返すべき言葉が見つからない。「……どういう、理屈だ……」「俺は自分の〈女〉を、オヤジに一人しか紹介したことがない。千尋の母親だ。オヤジはそれこそ、蛇蝎のごとく嫌っていたがな。そのオヤジが、俺の〈オンナ〉を紹介しろと、何度も言ってくる。もちろんいままで、俺は自分のオンナをオヤジに会わせたことはない。後腐れなく一度しか寝ない相手を、わざわざ紹介するまでもないからな」 どこか楽しげな口調で話しながら賢吾は、厚みのある固くて大きな手で、ずっと和彦の胸元を撫でていた。思わず震える吐息を洩らすと、待っていたように胸の突起を指先に捉えられる。「だが、先生は別だ。俺の、大事で可愛いオンナで、長嶺組のビジネスパートナーでもある。それに、総和会の仕事も何度もこなしている。先生に会いたいと言い出したところで不思議じゃないだろ」「――……困、る」「どうして困る?」「どんな顔をして会えばいいんだ。それに、何を話せば……」「一人の偏屈なジジイを相手にしていると思えばいい」 思えるか、という反論は、賢吾の唇に吸い取られた。賢吾の中では決定事項で、和彦の意思は関係ないのだろう。 腹は立つが、戸惑いの気持ちのほうが強い。しかも賢吾に、浴衣の衿の合わせ目をさらに大きく広げられ、和彦の意識はそのことに向いてしまう。 露になった胸元に賢吾が顔を埋めてくる。濡れた音を立てながら、凝った突起を激しく吸われ、小さく呻き声を洩らした和彦は、本能的に後ろに逃れようとする。だが、背筋を這い上がってくる疼きに負けて、座卓の縁に片手を突き、もう片方の手を賢吾の頭にかけていた。 突起を強く吸い上げる一方で、賢吾の片手に膝を押し開かれ、和彦は仕方なく正座していた足を崩す。両足の間をまさぐった賢吾が、上目遣いに見上げてきた。「下着を穿かないぐらいの気遣いは欲しかったな、先生」「ふざけたことを言うなっ。大晦日の夜に、そんな恥知らずなことができるかっ」「俺に脱がさ
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第15話(45)

 仰向けにされ、乱暴に下着を脱がされたあと、両足を抱えて思いきり左右に開かれる。内腿に熱い息遣いを感じたとき、和彦はすでに賢吾に支配されていた。「ああっ――」 敏感なものをいきなり舐め上げられ、和彦はビクビクと腰を震わせながら、声を上げる。快美さが全身を駆け抜け、一瞬にして賢吾の愛撫に搦め捕られた。「酒の肴としては極上だな、この肉は」 羞恥を煽るようなことを呟いて、賢吾が和彦のものを口腔に含む。和彦は大きく息を吸い込んで、畳の上に足を突っ張らせる。 賢吾は容赦なかった。和彦のものをきつく吸引しながら、柔らかな膨らみを揉みしだいてくる。鋭い快感に悲鳴を上げた和彦は、身悶え、賢吾の愛撫から逃れようとするが、腰を揺するたびに先端に歯列が擦りつけられ、上擦った声を上げさせられる。「んあっ、あっ、嫌、だ……。それは、怖い……」 切迫感と甘さを含んだ声で和彦が訴えると、楽しげに賢吾が応じる。「俺が、先生に痛い思いをさせるはずないだろ。大事に大事に、こうして可愛がってやってるのに」 手荒い愛撫にも、和彦の欲望は熱くなり、身を起こしていた。そんな欲望をねっとりと根元から舐め上げて、先端を舌先で弄られる。たまらず和彦は啜り泣きのような声を洩らしていた。「ほら見ろ。痛くねーだろ?」 再び先端に歯列が擦りつけられ、和彦は畳の上で思いきり仰け反る。このとき、異変に気づいた。視線の先で、閉めたはずの障子が開いていた。しかも、ダークスーツ姿の男が立っている。 快感で霞む目を凝らして確認しようとしたとき、官能的なバリトンで賢吾が言った。「それに先生は、うちの息子の大事なオンナでもあるからな。――その息子が見ている前で、下手なことはできねーな」 和彦が目を凝らすまでもなく、視線の先に立つ男のほうがこちらに歩み寄ってきて、畳に膝をつく。 和彦の顔を覗き込み、貪るような口づけをしてきたのは、千尋だった。**「ひあっ」 尻の肉を荒々しく揉みしだきながら、千尋が腰を突き上げてくる。若くふてぶてしい欲望に内奥深
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第15話(46)

 絞り上げるように千尋のものを内奥全体で締め付ける。すると千尋が、汗を滴らせた野生的な顔をわずかにしかめる。「……すげー、先生の中。ずっと、締まりっぱなし。――俺とオヤジに攻められるの、最初はすごく嫌がるけど、実は先生、好きだよね?」 緩く腰を動かしながら、千尋がそんなことを囁いてくる。睨みつける気力もない和彦は顔を伏せようとするが、胡坐をかいた千尋の腰の上に、向き合う形で座らされ、しっかりと繋がっているため、できる抵抗などたかが知れている。 千尋に下から顔を覗き込まれたので、今度は背けてみたが、すかさず賢吾にあごを掴まれて振り向かされると、口腔に舌が押し込まれた。「うっ、んっ……」 ドクッ、ドクッと内奥深くで脈打つ千尋の欲望を感じながら、口腔を賢吾の舌に犯され、胸の突起を千尋に貪られる。反り返って震える和彦のものを嬲るのはどちらの手か、もうわからなかった。 さきほどから和彦は、絶えず父子の淫らな攻めに晒され、狂おしい快感を味わわされていた。 総和会会長である祖父宅から戻ってきた千尋は、この部屋にやってくるなり、畳の上でしどけない格好となっている和彦に口づけし、ダークスーツを脱ぎ捨てて、挑みかかってきた。 気がつけば和彦は、布団の上で賢吾と千尋に求められ、こうして繋がり、絡み合っている。 唆されて震える舌を差し出すと、賢吾に激しく吸われる。そのまま絡め合っていると、顔を上げた千尋に子供のようにせがまれ、今度は千尋と舌を絡める。「わがままなガキだ」 賢吾がこう洩らすと、口づけの合間に千尋が憎まれ口を叩く。「オヤジの躾がいいからな」「ああ、感謝しろよ」 千尋に腰を掴まれて、揺り動かされる。熱く硬いものに内奥を掻き回されているうちに、和彦も自ら腰を動かすようになっていた。そんな和彦を煽るように、背後から賢吾の手に胸を撫で回され、もう片方の手で、濡れそぼったものを上下に扱かれる。「あうっ、うっ、うくっ……ん。いっ、ぃ……。いいっ――」「いい声だよ、先生。すごく、興奮する
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第15話(47)

 絶頂に達し、噴き上げた精で千尋の下腹部を濡らす。千尋にしがみつくと、しなやかだが力強い腕にしっかりと抱き締められた。 しかし、情欲が冷めることを許さないように、内奥をゆっくりと突き上げられる。「千尋っ……、少し待ってくれっ……」 さすがに和彦が声を上げると、気圧されるほど強い輝きを放つ目で、千尋はこう言った。「ダメ、待てない。――それに先生、与えれば与えるほど、欲しがってくれるだろ?」 激しい羞恥に、それでなくても汗を滴らせている体がさらに熱くなる。こんな状況であっても、羞恥は湧いてくるものなのだ。 さらにそこに、賢吾が追い討ちをかけてくる。「先生」 背後から賢吾に呼ばれて振り返ると、喘ぐ唇を軽く吸われてから、耳元で露骨な言葉を囁かれる。目を見開いた和彦は、緩く首を横に振る。「……無理だ、できない。そんな、恥知らずなこと……」「俺と千尋は、誰よりも淫弄な先生が、必死に恥じらいを保とうとする姿勢が、たまらなく好きなんだ。だが結局は、攻められて、陥落する。そういう姿を、俺たちに見せてくれ。ほんの少しだけ早い、お年玉だ」 和彦の返事は最初から求められていなかった。いや、和彦なら拒まないと思われているのだ。事実――。 傍らに立った賢吾に頭を引き寄せられ、和彦は、凶暴な欲望の塊を眼前に突きつけられる。屈辱と羞恥と、それを吹き飛ばしかねない嵐のような欲情に苛まれながら、和彦はゆっくりと唇を開く。賢吾の欲望を口腔に含むと、千尋が再び腰を動かし始めた。 内奥を千尋に、口腔を賢吾の欲望に犯され、どうしようもなく――感じる。 自分はこの父子に所有される〈オンナ〉なのだという事実が、いまさらながら体に刻みつけられていく。賢吾と千尋は、和彦を辱めようとしているわけではなく、事実のみで感じさせようとして、実際和彦は感じている。「――いい顔だ、先生。まだ俺を、骨抜きにする気か」 愉悦を含んだ声で言いながら賢吾にあごの下をくすぐられ、千尋には、痛いほど強く尻を揉まれる。 二人の
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第15話(48)

** さきほどまで和彦を貪ってきた千尋は、今は身を休める時間だといわんばかりに和彦の胸にしがみつき、満足そうだ。和彦はそんな千尋の頭を撫でる。こうなると千尋は、人懐こい犬っころそのものだ。「先生とこんなふうに年越しできるなんて、すっげー嬉しい」 無邪気な口調で可愛いことを言う千尋だが、和彦は騙されない。なんとなく腹が立つものがあり、軽く髪を引っ張ってやったが、ふざけていると思ったのか、千尋は小さく笑い声を洩らすだけだ。 三人での淫らで濃密すぎる行為のあと、和彦は千尋と一緒に再び風呂に入ってから、一人で部屋で休もうと思ったのだが、それは許されなかった。 賢吾の部屋に連れ戻されて見たのは、二組の布団をぴったりとくっつけて敷いてある光景だった。 和彦は今、並んだ布団の中央に寝ている。千尋が胸にしがみつき、そんな千尋の相手をする和彦に、賢吾は腕枕を提供してくれている。さきほどからずっと、背では賢吾の体温を感じていた。 奇妙な光景であることは、誰よりも和彦自身が痛感しているが、言ってもどうにもならないこともまた、痛感していた。「――先生」 背後から賢吾に呼ばれ、上体を軽く捩るようにして振り返る。賢吾に見つめられながら、柔らかく唇を吸われた。そのまま互いの唇を吸い合い、舌先を触れ合わせていると、二人の姿に刺激されたのか、千尋まで顔を寄せてくる。 好奇心の強い子犬のような眼差しに間近から見つめられ、負けてしまう。賢吾と唇を離すと、息を吸い込む間もなく、今度は千尋と口づけを堪能する。 そんなことをしながらも、緩やかに静かに時間は過ぎていく。 枕元の時計を見て、もうすぐ日付が変わると賢吾が告げたとき、すでに千尋は健康的な寝息を立てていた。「羨ましいぐらいの寝つきのよさだな……」 千尋の髪を梳いてやりながら和彦が呟くと、笑いながら賢吾が応じる。「さすがに疲れたんだろう。何日も総和会の幹部連中とツラをつき合わせて、会長には振り回され、やっとこの家に戻ってきたら――先生相手に興奮しまくって」「……最後は余計だ」
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第15話(49)

 賢吾と一緒に寝るのは初めてではないが、今夜は隣で千尋が眠っていることもあり、落ち着かないし、何より気恥ずかしい。 身じろいだ和彦が布団に顔を埋めようとしたが、賢吾の手が頬にかかり、引き寄せられるまま、唇を重ねる。「――ここからは、大人の時間だ」 賢吾の言葉に、思わず笑ってしまう。 胸に抱き寄せられて、口づけを交わしながら帯を解かれ、浴衣をたくし上げられて腰を撫でられる。一瞬賢吾の手が止まったのは、和彦が下着を身につけていないことを知ったからだろう。耳元で低く笑い声を洩らされ、それだけで感じていた。 言われたわけではないが、和彦も賢吾の帯を解き、浴衣の下にてのひらを這わせる。何より先にまさぐったのは、背の大蛇だった。「そんなにこいつが気に入っているなら、同じものを先生の体に彫ってやろうか?」 やろうと思えば、和彦に対してなんでもできる男が、物騒なことを囁いてくる。「絶対、嫌だ」「見たがる男は多いと思うぜ。先生が体をくねらせるたびに、大蛇もいやらしく蠢く様を」「……そういう特殊な性癖を持ってるのは、あんたと千尋ぐらいじゃないか……」「そうか? 三田村も鷹津も、喜んでしゃぶりつきそうだが。秦なんざ、あからさまに性癖が歪んでいるだろ。それに――」 意味ありげに賢吾が言葉を切る。和彦は体を強張らせ、きつい眼差しを向けた。無防備に触れていた賢吾の大蛇が途端に怖くなり、できることなら手を退けたいが、体が動かない。 そんな和彦の唇を啄みながら、賢吾はおそろしく優しい声で語りかけてきた。「年が明ける前に、俺に打ち明けておくことはねーか、先生?」 賢吾がこんな言い方をするときは、すでに何か知っているということだ。 うかがうように見つめると、大蛇を潜ませた目が、間近から覗き込んでくる。この目を前にして、隠し事など不可能だった。 和彦の怯えを感じ取ったのか、賢吾は頭を撫でてくる。「怒っちゃいない。先生は、この世界じゃ何かと注目を浴びるし、旨みのある存在だ。いろんな連中が先生の周囲をうろつく。その中に、先生のお気に入
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第15話(50)

「……隣で眠る子供を気にかけつつ、夫婦の営み、といったところだな。最高に燃える状況だ」「あんたの性癖も、かなり歪んでいる」「そんな俺すら、先生は受け止めてくれる」 内奥の入り口に熱く逞しい感触が押し当てられ、ゆっくりと侵入を開始する。「ふっ……、あっ、うぅっ」 さきほど千尋のものを受け入れたばかりの場所は、従順に賢吾のものを受け入れながら、擦り上げられる刺激の強さにひくつく。賢吾は容赦なく腰を使い、粘膜同士が擦れ合う湿った音が、布団の中から漏れ出てくる。 声が出せないからこそ、普段以上に呼吸が乱れる。喘ぐ和彦に誘われたように、賢吾は何度となく唇を啄んできて、それが心地いい。 甘えるように賢吾の肩にすがりつくと、大きな手に髪をくしゃくしゃと掻き乱された。「――本当に、お前は可愛いオンナだ」 バリトンの魅力を最大限に発揮して、賢吾が耳元に囁いてくる。このまま賢吾の囁きと律動にすべてを委ねてしまいたいが、ついさきほど交わした会話のせいで、あることがどうしても気になってしまう。 それが表情に出たらしく、賢吾に顔を覗き込まれた。「どうした、先生?」「……あんたのさっきの言葉じゃないが、年が明ける前に、一つ打ち明けてほしいことがある」「言ってみろ」 ここで和彦は唇を噛む。賢吾が内奥深くに押し入ってきたのだ。なんとか声は堪えたが、不意打ちのように襲いかかってきた快感に、体が小刻みに震える。 必死に賢吾を睨みつけると、楽しげな笑みで返された。「――秦を、あんたの手駒にした理由」 快感のため、声まで震えを帯びる。和彦の口元に耳を寄せた賢吾は、浅く頷いた。「あの男は長嶺組にとって、何かと使い勝手がいいからだ。利用価値があるからこそ、先生との多少の遊びは許してやる。先生と中嶋を親密な関係にすることにも、異論はない。先生のために、総和会の中に味方を作っておいてやりたいし、そうすることが、長嶺組の利益にも繋がるからな」「もっともらしいことを言ってるが、具体的なことは何一つ教えてく
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第16話(1)

 マフラーの端を軽く払ってから、和彦は落ち着きなく周囲を見回す。明らかに、周囲の人間たちから注目を浴びていた。好奇心と、それを上回る畏怖と嫌悪が込められた視線は、和彦を萎縮させるには十分だ。 例え、それらの視線が和彦自身に向けられているわけではなく、和彦がよく知る男たちに向けられているのだとしても、平然とはしていられない。「――先生、わたしから離れないでください」 和彦と並んで歩いている組員が、低い声で話しかけてくる。地味な色合いのスーツを着てはいるが、全身から放たれる鋭い空気が明らかに堅気のものではない。普段であればまだ、一般人の中にうまく溶け込めるのかもしれないが、元日の午前中、周囲を参拝客に囲まれてしまうと、どうしても浮いてしまう。 しかし、隣を歩く組員よりさらに目立つ存在が、和彦の数メートル先にいた。 組長である賢吾を筆頭に、長嶺組の主な幹部や、彼らを護衛する組員たちの一団だ。 周囲を威嚇して歩いているわけでもないのに、男たちの存在は、怖かった。仕立てのいいスーツに身を包み、整然と歩いてはいても、やはり一般人とは違うのだ。触れてはいけないという本能的な危機感を、見る者に与える。混雑する参道だが、長嶺組の男たちを避けるために、不自然に人々は道を空けていた。 衆目の中、この男たちの集団に加わる勇気がない和彦は、少し距離を置いて歩いているというわけだ。賢吾にしても、無理やり和彦を隣に並ばせないということは、気をつかっているのだろう。 もっとも人出が多いときに、何も初詣に出かけなくても、というのが和彦の率直な気持ちなのだが、しきたりを重んじる男たちにその理屈は通用しない。 組長と幹部たちが揃って神社に足を運び、参拝する。組員ではない和彦も、大晦日の夜に賢吾に告げられた通り、半ば強引に同行させられた。 和彦は、本宅を出るときに賢吾と交わした会話を思い出し、マフラーで隠した口元をへの字に曲げる。 不思議そうな顔をして賢吾が、毛皮のコートは着てくれないのかと問うてきたのだ。一応、本宅に持ってきてはいたものの、今のところまったく出番のない毛皮のコートを、和彦なりにもったいないとは思っているのだが、それと、羽織って外を出歩く勇気とは、まった
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第16話(2)

 参拝を済ませて、来た道を引き返そうとした和彦は、授与所のほうを見る。せっかくなので破魔矢を買いたいと思ったのだが、この状況では無理だろう。  人並みに参拝できただけで、満足しておくべきかもしれない。そんなことを考えながら、神社同様、混み合う駐車場に戻ると、周囲の視線を気にかけつつ賢吾と同じ車に乗り込む。 「――先生、欲しいものはないのか?」  突然の賢吾の言葉に、マフラーを外していた和彦は手を止める。 「えっ……」 「組の人間とぞろぞろ連れ立って歩いていたら、悠長に露店を覗くこともできなかっただろ。欲しいものがあれば、若い者に買いに行かせるぞ」 「……別に、ない」 「本当に?」  和彦の心を見透かすように、賢吾が顔を覗き込んでくる。意地を張るような状況でもないので、正直に告げた。 「せっかく初詣に来たから、破魔矢が欲しい……」 「すぐに買ってこさせよう。本宅や事務所に飾る分もな」  賢吾の言葉を受けて、すぐに助手席の組員がウィンドーを下ろし、外に立っている組員に小声で何か囁く。これで、和彦の望みは叶えられる。 「悪いが先生、少し待ってくれ」 「破魔矢ぐらい、ぼくが買いに行っても――」 「人ごみに揉まれてヘロヘロになった先生を、総和会の会長の前に立たせるわけにはいかねーな」  賢吾が横目でちらりとこちらを見る。一瞬返事に詰まった和彦は、乱暴にシートに体を預けた。 「……やっぱり、行かないといけないのか」 「いまさら何を言ってる。いい加減、覚悟を決めたらどうだ」 「あんたは、自分の父親のことだから、そう簡単に言えるんだ。ぼくにとっては、とんでもない人物という認識しかないんだからな」 「俺相手に、これだけポンポンとものが言えるんだ。先生に怖いものなんてないだろ」  まさか、と答えて、和彦はウィンドーのほうへと視線を向ける。 「――……あんたと千尋しか知らないが、長嶺の男は怖い……」 「だが、先生を大事にしてる」  ぐいっと肩を抱き寄せられ、和彦は賢吾の胸にもたれかかる格好となる。こんな場所で不埒なことをするなという意味を込め、軽く睨みつけ
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第16話(3)

 楽しげに言い切った賢吾にあごを持ち上げられ、唇を吸われる。 和彦の体には、その長嶺父子に求められ、貪り合った行為の余韻が、疲労感として残っている。なんといっても、昨夜の出来事だ。しかも千尋が眠ったあとは、夜更けまで賢吾と睦み合っていたのだ。今朝は体がだるくてたまらず、入浴するのも一苦労だった。 体に残る感触すべてが、長嶺父子の情の強さを物語っている。自分の存在が、今はその父子に所有されているのだとも。 体の奥がズキリと疼き、和彦は小さく身震いする。口腔に賢吾の舌が入り込み、感じやすい粘膜を舐められる心地よさに目を閉じようとしたとき、車内に携帯電話の着信音が鳴り響いた。助手席に座る組員のもので、低い声でぼそぼそと話し始める。 さすがに興が醒めたのか、賢吾が口づけをやめる。肩にかかった手の力がふっと緩み、急に気恥ずかしさに襲われた和彦は、唇を手の甲で拭いながらドアのほうに逃れる。 迂闊にウィンドーを下ろすなと言われているため、スモークフィルム越しに外を眺める。その背後で、組員から携帯電話を受け取った賢吾が話している。聞く気はないが、どうしても会話が和彦の耳に入った。「――新年早々、お盛んだな。まあ、俺も人のことは言えねーんだが」 どんな会話を交わしているのだと、つい気になって和彦が振り返ると、賢吾と目が合う。ニヤリと笑いかけられた。「それで、俺に直接頼みたいことってのはなんだ」 賢吾が話し込んでいる間に、助手席に座っている組員から甘酒を飲みませんかと尋ねられ、和彦は頷く。さほど待つことなく、紙コップに入った甘酒が外から届き、さっそく和彦は口をつけようとしたが、横から伸びた手に阻まれた。 何事かと隣を見ると、賢吾が電話を切るところだった。「先生、予定は変更だ」「……新年早々、ぼくに何をさせる気だ」「先生の本業」 一瞬にして状況を理解した和彦は、スッと背筋を伸ばして目を細める。賢吾は口元に笑みを湛えながら、和彦の手から紙コップを取り上げ、美味そうに甘酒を啜った。
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