Masuk絶頂に達し、噴き上げた精で千尋の下腹部を濡らす。千尋にしがみつくと、しなやかだが力強い腕にしっかりと抱き締められた。
しかし、情欲が冷めることを許さないように、内奥をゆっくりと突き上げられる。「千尋っ……、少し待ってくれっ……」 さすがに和彦が声を上げると、気圧されるほど強い輝きを放つ目で、千尋はこう言った。「ダメ、待てない。――それに先生、与えれば与えるほど、欲しがってくれるだろ?」 激しい羞恥に、それでなくても汗を滴らせている体がさらに熱くなる。こんな状況であっても、羞恥は湧いてくるものなのだ。 さらにそこに、賢吾が追い討ちをかけてくる。「先生」 背後から賢吾に呼ばれて振り返ると、喘ぐ唇を軽く吸われてから、耳元で露骨な言葉を囁かれる。目を見開いた和彦は、緩く首を横に振る。「……無理だ、できない。そんな、恥知らずなこと……」「俺と千尋は、誰よりも淫****〈あの男〉の人脈はバカにできないと、来週のクリニックの予約リストを眺めながら和彦は感心する。しばらくは閑古鳥が鳴くことを覚悟していたのだが、なかなかどうして、予約は順調に入っていた。 開業したばかりの、広告も出していない池田クリニックをどこで知ったのか、予約を入れる患者に尋ねると、大半は口を揃えてこう言う。知人の紹介で、と。 問題は、その『知人』が誰かということだ。 知人繋がりなら、クリニックの世話になりたいとまず和彦本人に連絡が入るのだが、それは組関係者の妻や娘であったり、さらに彼女たちからの紹介だったりするし、意外なところで、由香に勧められたというものもある。 だが、誰よりも池田クリニックの売上に貢献しているのは、間違いなく秦だ。 ホストクラブ経営という強みを活かし、美容相談を受けてみたらと女性客を唆しているらしく、何件もカウンセリング予約が入っている。カウンセリングといってもバカにはできず、池田クリニックは初回からしっかりと、カウンセリング名目でも料金を受け取っていた。 ちなみにさきほど、秦からの紹介で訪れた患者に対して、豊胸に関するカウンセリングを行ったばかりだ。 美容外科医が和彦一人しかいないため、大掛かりな手術ができない分、経営戦略は限られる。経営者としては、リスクを最小に抑えて利益を出さなくてはならない。 このクリニックを和彦に持たせてくれた男は、クリニック経営にあまり夢中になるなよと、笑いながら言っていたが――。 和彦は前髪に指を差し込みながら、天井を見上げる。すでにこのクリニックに愛着を持っているが、ときおりふと、ヤクザに望まれるままのママゴトをしているような、妙に空しい気持ちにもなるのだ。その空しさは、目を背けたい現実を和彦に突きつけてくる。 一方で、地味で手堅い利益を追い求めるクリニック経営者なりに、ささやかな喜びも味わえるのだ。 短く息を吐き出した和彦は、姿勢を戻す。労働に対するささやかな慰労として、コーヒーを飲みたくなった。実はさきほどから、スタッフの誰かが淹れたらしいコーヒーのいい香りが漂っている。 次の予約の時間までま
絡め合っていた舌をようやく解いてから、中嶋に抱き締められる。和彦も、中嶋の背に両腕を回し、しなやかで強靭な熱い体の感触を確かめる。ヤクザの男たちと体を重ねてはいるが、同じヤクザでありながら、中嶋の体はまったく違う存在感を持っており、それがとても不思議に感じられる。 ふいに身じろいだ中嶋が、耳に唇を押し当て囁いてきた。「――先生、いいことを教えてあげましょうか?」 和彦は、中嶋の髪を撫でて応じる。「ヤクザがそんな猫撫で声を出すときは、絶対ロクなことを言わないんだ」「いいことですよ。……自分の身を守るという意味で」 意味ありげな物言いに、嫌でも興味をそそられる。和彦は、間近にある中嶋の顔を見つめた。「なんだ」「南郷さん、女を抱き殺しかけたことがあるそうですよ」 さすがに和彦が絶句すると、その反応に満足したのか、中嶋の唇に微かな笑みが刻まれる。会話の内容の物騒さと表情が、見事に一致していない。「第二遊撃隊には、南郷さんがいた組から連れてきたという組員が何人もいるんです。そういう人たちは、まあ、南郷さんの強烈なシンパみたいなものです。だからこそ、南郷さんのことをよく知っていて、ウソは言わない。……昔、堅気の女に惚れたそうです。でも、迫力のあるあの外見に、仕事もヤクザ。普通の女なら、泣いて逃げ出す。当然、南郷さんが惚れた女も拒絶しましたが、追い掛け回して、半ば恫喝してモノにした」 和彦は、女に迫る南郷の姿が容易に想像できた。なんといっても先日、和彦は南郷に首を絞められかけたのだ。情景としては大差ないだろう。「そこまでして手に入れた女を、片時も離さず、抱き殺しかけた……。よっぽど欲しかったんでしょうね。力加減もできないほど」「……確かに、いいことを聞いた。ただし、ぼくにどう関係あるんだという気もするが……」「南郷さんが先生に興味を持った時点で、無関係じゃないでしょう」「ぼくに興味を持ったというより、あれは――」〈長嶺賢吾のオンナ〉に興味があるよ
「先生と二人きりだから、ついうっかりしてました」「それをつけたのは――」「秦さんです」 和彦は大きく息を吐き出すと、中嶋の隣に再び腰掛ける。「……上手くいっているみたいだな」「慣らされている最中です。今のところ秦さんは、紳士ですよ」 臆面もなく言い切られ、和彦は返事に詰まる。中嶋は、酔いのせいだけとも思えない、妖しい流し目を寄越してきた。「先日は、いいものを見せてもらいました。長嶺組長と先生の絡み合う姿に、すごく興奮したんです。……俺は、あんなふうに秦さんに抱かれたい。でも同じぐらい、先生をあんなふうに抱いてみたいとも思いました。もちろん、先生に抱かれることにも興味がある」 話しながら、中嶋がペットボトルを差し出してくる。受け取った和彦も水を飲み、喉を通る冷たい感触を堪能する。あまり意識していなかったが、アルコールのせいか、暑いぐらいの暖房のせいか、顔が火照っていた。 ペットボトルをテーブルに置いて、頬に手の甲を押し当てていると、ふいに中嶋が身を乗り出してくる。あくまで自然に、唇を塞がれた。 軽く目を見開いた和彦だが、瞬間的に胸の奥で湧き起こった衝動のまま、中嶋との口づけを受け入れ、応える。最初はぎこちなく互いの唇を吸い合っていたが、欲望の急速な高まりに背を押されるように、積極的になる。 舌先を触れ合わせたかと思うと、すぐに余裕なく絡ませ、唾液を交わす。舌を吸い合いながら、中嶋の手が和彦が着ているセーターを捲り上げてきたので、和彦も中嶋のワイシャツを引き出してボタンを外していた。 引っ張られるままソファに倒れ込み、和彦は中嶋を真上から見下ろす格好となる。「――……長嶺組長が、先生と仲良くしてやってくれと言ったのは、こういう意味も含めてですよね?」 そんなことを言いながら、中嶋のてのひらが脇腹から背へと這わされる。くすぐったいような、焦れったいような刺激に、和彦は軽く体を震わせていた。「さあ……」「俺は、そういう意図だと理解して、楽しみにしているんですよ。秦さんだ
「見たまま、怖いですよ。生粋のヤクザというやつです。冷たく歪に固まった鉄のよう――という表現がしっくりくるんです。遊撃隊なんてものを指揮しているぐらいですから、当然、頭は切れる。だからといって慎重というわけでもなく、必要とあれば、ブルドーザーみたいに強引に物事を進める。……不気味で、怖い人です」「そして、総和会会長のお気に入り」「会長の手足となって動く人間は、もちろんいます。ただ、第二遊撃隊の一部の人間しか関わらせないようにして、南郷さんは会長から秘密の仕事を請け負っているようです。そういう意味で、本当にお気に入り――信頼されているんでしょうね」 料亭での、守光と南郷の姿を思い返す。守光が普段、組員たちにどんな態度で接しているのかは知らないが、少なくとも、南郷に寄せる信頼を感じることはできた。南郷にしても、守光には長年世話になっているという口ぶりから、畏怖と尊敬以外に、親愛の情めいたものが滲み出ているようだった。 一方で、その守光の息子である賢吾を語るとき、南郷の口調は変化した。 あれは一体――。和彦は無意識に眉をひそめていたが、突然、眼前にグラスが突きつけられた。驚く和彦に、中嶋が首を傾げながら言う。「これ、飲みませんか?」「えっ、ああ、でも君の――」「飲みすぎました。俺には半分残してくれればいいですよ」 いつの間にか、中嶋との距離が近くなっている。和彦が気づかないうちに、間を詰めてきたらしい。 部屋で二人きりになるとわかったときから、意識しないわけにはいかなかったが、こうも間近に中嶋の存在を感じると、もう、強く意識するしかない。 和彦が水割りを一口、二口と飲んだところで、さりげなく、しかし待ちかねていたようなタイミングで中嶋が問いかけてきた。「で、南郷さんをたぶらかしたんですか?」 和彦は唇をへの字に曲げて、グラスを突き返す。そんな和彦の反応に、中嶋はニヤリと笑う。「読めないなー。先生のその反応だと、何があったのか」「……ぼくはどれだけ、誤解されてるんだ」「周囲にいる人間のほうが、物事を正しく認識しているなんてこ
** 世の中には意外にマメな男が多いのだろうかと、中嶋が作ってくれた酒のつまみを眺め、和彦は素直に感心していた。 マンションに向かう途中、深夜営業しているスーパーに立ち寄ったのだが、和彦がビールを選んでいる間に、中嶋はさっさと野菜などをカゴに入れてきた。つまみを作ると言っていたが、こうして出来上がったものを目の前にすると、料理が一切できない自分が少しばかり恥ずかしくなってくる。「ホストになる前に、メシ屋で働いていたことがあるんです」 寛いだ様子でソファに腰掛けた中嶋が、缶ビールを片手に教えてくれる。へえ、と声を洩らした和彦は、さっそくトマト炒めを口に運ぶ。酸味がほどよくて、手早く作ったものとは思えないほど美味しい。「見た目によらず、いろいろ経験しているな」「いろいろ、というほどじゃないですよ。少しばかり極端な道は歩んでいるかもしれませんが」「だったら、ぼくもだな」 和彦の言葉に、中嶋はニヤリと笑う。「先生こそ、まさに極端ですね」「……君と違うのは、ぼくの場合、自分が選んだわけじゃないということだな」 中嶋はわずかに目を丸くしたあと、和彦のグラスにワインを注いでくれる。「医者という職業は、先生がなりたくてなったんじゃ……?」「物心がついたときには、医者になれと言われていた。そういうものかと思って、ぼくも逆らわなかった。佐伯の人間は、意地でもぼくを官僚にしたくなかったらしい。だが、名門である佐伯家の評判を落とすことは許さない。――ぼくに才能があったら、芸術家でもよかったのかもな。とにかく、家を出て自由になれるなら、なんでもよかった」「でも、先生が医者になったおかげで、こうして俺たちは一緒に飲めるわけです」 和彦が手にしたグラスに、中嶋は缶を軽く当ててくる。和彦は、隣に座った中嶋をまじまじと見つめてから、淡く笑む。「ヤクザのくせに、変な気のつかい方をするんだな。いや……、優しいんだな、と言うべきか」「素直にそう受け止められる先生こそ、優しいですよ。野心のあるヤクザ
「ショックだなー。俺、そんなに弱そうに見えますか?」「違う。――相手を半殺しにするんじゃないかと、そっちを心配したんだ。……よく考えたら、君がそんな素人みたいなマネをするわけがないな」 心配して損をした、とぼやきながら、和彦も支払いを済ませる。隣に立った中嶋の肩が微かに震えている。和彦の気遣いに感動している――わけではなく、必死に笑いを堪えているのだ。 ビルの一階に降りたところで、二人は並んで外を眺める。不本意な形で楽しい時間を中断してしまい、正直物足りない。別の店に移動しようという流れになりそうなものだが、今夜は天候に見放されている。 雨の降りはますます強くなっており、開け放っている扉から吹き込んでくる風は、凍りつきそうなほど冷たい。 和彦が丁寧にマフラーを巻く姿を見て、中嶋は苦笑に近い表情を浮かべた。「このビルの中に、他にいくらでも店がありますから、適当に入って飲みますか?」「君のお薦めの店が、他にあるのなら」 中嶋は軽く肩をすくめたあと、和彦に向かって頭を下げた。「すみません。俺から誘っておきながら、俺のせいで店を出ることになって」「気にしないでくれ。あのまま酔っ払いに喚き続けられてたら、どっちにせよ店を出ることになっていた。それに――君の怖い面も見られた」「怖い? にこやかだったでしょう、俺」 澄ました顔で言うのが、なんとも白々しい。和彦は露骨に聞こえなかったふりをして、腕時計を見る。夜遊びを堪能したというには、まだ早い時間だ。「先生、今夜はお開きにしましょう。タクシーを停めてきますから、ここで待っていてください。あっ、知らない奴についていかないでくださいね」「ぼくは子供か……。――どうせ送ってくれるんだから、ついでに部屋に寄っていかないか? 店ほどじゃないが、そこそこの酒が揃っている」 軽く目を見開いた中嶋が、次の瞬間には嬉しそうに目元を和らげる。さきほど、酔っ払い相手に見せた凄みのある笑みとは、まったく違う表情だ。 先日、賢吾を挟んで自分と中嶋との間にあった出来事を考えれば、抵抗がないわけではないが、だか