INICIAR SESIÓNそんなこと、と言ってしまっては語弊があるが、どれだけ重大なことを切り出されるのかと身構えていた和彦としては、意表をつかれる。目を丸くすると、ようやく中嶋はこちらを見た。
「なんとなく、気になったんです。先生が、あの店にわざわざ行って、ツリーの飾りつけを手伝うことになった経緯が。先生と秦さんが、ただならぬ関係だというのは薄々わかってはいたんですが、それでも自分では、平気なつもりだったんです」 和彦は弁解しようとしたが、それを制止するように中嶋が片手を上げ、言葉を続ける。「……俺、先生が好きですよ。陽の下を堂々と歩いているのが似合いそうな、どこから見ても堅気の色男なのに、ヤクザに囲まれても物怖じしないところや、商売女も裸足で逃げ出しそうな、したたかでズルイところとか。本当に、不思議な生き物って感じなんです、先生は」「ぼくが周りからどう思われているか、よくわかるな」「だからこそ、得体の知れない秦さんと馴染みそうなんです。あの人も一応、青年実業家なんて肩書きを持っていて、見た目はあの通り、惚れ惚れする賢吾の指示を待っていたように、障子にスッと人影が映る。いつの間にか廊下に控えていたようだが、賢吾との行為に夢中になっていた和彦はもちろん気づかなかった。 廊下に人がいたというのも意外だったが、姿を見せた人物は、さらに意外だった。 丁寧な動作で障子を開けたのは、中嶋だった。和彦と賢吾の姿に驚いた様子もなく、それどころか和彦に笑いかけてくる。おそらく、廊下にいる間、行為の声をすべて聞いていたのだろう。「ど、して……」 中嶋が障子を閉めたのを機に、ようやく和彦は声を洩らす。愛撫の手を止めないまま賢吾が答えた。「俺が呼んだ。いままで、総和会との連絡役は別の人間だったんだが、若い連中の中で抜きん出て見所があるし、先生と親しいということで、新たに中嶋を指名した。長嶺組長の本宅に出入りできる、総和会でも数少ない男というわけだ」 いつの間にそういう話が決まったのかと思ったが、これは組の細かな決定事項の一つだ。賢吾が和彦に知らせる必要はない。ただし賢吾は、和彦の反応を見たいがために、この瞬間まで隠していたのだろう。そういう男だ。「先生としても、俺の目を盗んで中嶋と会っているという罪悪感を抱かなくて済むだろ。本宅に出入りできるようになったぐらいだ。長嶺組長のオンナの部屋にも、中嶋は堂々と立ち寄れる」 賢吾の言葉で和彦は、中嶋と絡み合った日のことを思い出す。ベッドの上での甘い呻き声を、盗聴器を通して賢吾が聴いていたことは知っている。そのうえで中嶋に、本宅や和彦の部屋の出入りを認めたのだ。「……何を企んでるんだ、あんたは……」 思わず和彦が問いかけると、うなじに唇を押し当てながら賢吾は言った。「先生が生活のしやすい環境を整えただけだ。――俺が何を企んでるか、先生は気にしなくていい」 賢吾が腰を揺らし、内奥の感じやすい部分を擦り上げられる。和彦は咄嗟に声を堪えたが、表情は隠せなかった。正面に立つ中嶋に、すべて見られてしまう。それどころか、賢吾と繋がり、悦びに身を起こした欲望の存在も。 中嶋は薄い笑みを唇に湛え、目には興奮の色を浮かべる。そんな中嶋に
喘ぐ和彦を、賢吾は真上から見下ろしていた。いつもなら両腕を伸ばして賢吾にしがみつき、背の大蛇を思うさま撫でるところだが、今日はそれは叶わない。賢吾はパンツの前を寛げただけで、セーターを脱いですらいないのだ。 どうして、と思ったとき、前触れもなく内奥から賢吾のものが引き抜かれる。手を掴まれて引っ張り起こされた和彦は、わけもわからないまま畳に両手を突き、腰を突き出した羞恥に満ちた姿勢を取らされる。そして今度は、背後から貫かれた。「あっ――……」 強く内奥を擦り上げられ、その衝撃で畳の上に精を迸らせてしまう。前のめりに崩れ込みそうになったが、賢吾の腕に引き止められ、乱暴に腰を突き上げられた。「うっ、あっ、待って……くれ。少し、待って……」 和彦は前に逃れようとしたが、両腕で抱き寄せられた挙げ句、胡坐をかいた賢吾の両足の間に、繋がったまま座らされていた。和彦は背を弓形に反らし、下から突き上げられる苦しさに呻き声を洩らす。しかしその呻き声は次第に、甘さと妖しさを帯びたものへと変化していた。 緩やかに腰を揺らしながら賢吾の両手が、和彦の胸の突起と、精を放ちながらもまだ力を失っていない欲望を愛撫してくる。「わかるか、先生? 先生の尻が、絞り上げるように締まっている。……口ではわがままは言わないくせに、こっちのほうは、とんでもなくわがままだな。与えても、与えても、いくらでも欲しがる。今まで、誰かに言われたことはないか?」 笑いを含んだ声で賢吾に淫らな言葉を囁かれ、和彦としては振り返って睨みつけたいところだが、些細な動きで快感を逃してしまいそうで、それができない。「あんた以外に、誰がそんな恥ずかしいことを、言うんだっ……」「このほうが、先生も興奮するだろ。――ああ、それと、もっと先生が興奮する演出を用意してある」 賢吾が何を言っているのか、快感に霞んだ頭では理解できなかった。意味を問おうと唇を動かしかけたとき、賢吾が〈誰か〉に向かって言葉を発した。「――入っていいぞ」 和彦は体の正面を
ところで、佐伯家の人間は、先生の性癖を把握しているのか?」「……性癖?」「こうして男と寝ているってことだ」 和彦は眉をひそめてから、ふいっと顔を背ける。「わからない。知っていたとしても、面と向かって指摘されたことはない。――ぼくが誰と寝ようが、少なくとも父は、それを言う資格はない」「興味をそそられる言い方だな」 内奥から指が引き抜かれ、衣擦れの音がする。少しの間を置いてから、熱く凶暴な形が内奥の入り口に押し当てられた。「あっ……」 狭い場所をゆっくりと押し広げられ、太いものを呑み込まされていく。和彦は間欠的に声を上げながら上体を捩り、下肢を支配される苦しさと、うねるように押し寄せてくる熱い感覚に煩悶する。「男と寝ているという事実を知っていたとしても、先生のこんな姿は想像もつかないだろうな。肌を上気させて、誘うように腰を揺らして、真っ赤に色づいた粘膜を捲り上げながら、男のものを懸命に受け入れている――」 繋がった部分を指で擦られて、和彦は上擦った声を上げる。両足をしっかりと抱えられて腰を突き上げられると、内奥深くで重い衝撃が生まれる。一瞬あとにじわじわと広がるのは、狂おしい肉の愉悦だ。「あっ、あっ、ああっ」「お高くとまった官僚一家に、今みたいな色っぽい姿を撮った映像を送りつけたら、一発で縁が切れるかもしれないぞ」 乱暴に数回突き上げられて、賢吾とこれ以上なくしっかりと繋がっていた。ふてぶてしく息づく欲望は力強く脈打ち、内から和彦の官能を刺激してくる。「……面倒事を隠すのは、得意なんだ、ぼくの家族は。……それに、刺激したところで、あんたの得になるとは思えない」「佐伯家と縁を切らして、憔悴する先生を見なくて済むなら、それだけでも俺にとっては得だと思うが?」 本気で言っているのかと、じっと賢吾を見上げた和彦は、すぐに笑みをこぼす。「大蛇の化身みたいな男が、ずいぶん優しいことを言うんだな」「先生に骨抜きだからな、俺は」 賢吾の手が、両足
** 客間に連れ込まれると、布団を敷く間もなく畳の上に押し倒され、和彦は裸に剥かれる。獣が襲いかかるように、覆い被さってきた賢吾は容赦なく、和彦の肌に愛撫を施し始める。 寒さで鳥肌が立った肌を熱い舌でじっくりと舐め回され、痛いほど強く吸い上げられて、鮮やかな鬱血の痕を残される。 期待で凝った胸の突起を口腔に含まれたとき、和彦は深い吐息をこぼして仰け反っていた。濡れた音を立てて執拗に突起を舐られ、吸われたかと思うと、歯を立てられて引っ張られる。「うっ……」「先生、足を開け」 傲慢に賢吾に命令され、和彦はぎこちなく従う。羞恥はあるが、身を捩りたくなるような興奮のほうが勝っていた。その証拠に、和彦の下肢に視線を遣った賢吾が、唇の端を持ち上げるようにして笑う。 敏感なものを無遠慮に握り締められ、一瞬息が詰まった。「寒い思いをさせて可哀想だと思ったが、こっちはもう、熱くなってるようだな」 握ったものを手荒く扱かれて、和彦は首を左右に振って反応するが、寸前のところで声を堪える。そんな和彦を、賢吾はおもしろそうに見下ろしてきた。「遠慮せず、声を出したらどうだ」「……うる、さい。ぼくの勝手だろ」「確かに、先生の勝手だな。だったら俺も、勝手にさせてもらおう」 和彦はのろのろと片手を伸ばして、賢吾の頬に触れる。「いつもは勝手にしてないような、言い方だな」「してないだろ。なんといっても俺は、紳士だ」「どの口が――」 ここで賢吾に唇を塞がれた。口腔深くまで舌を差し込まれ、唾液を流し込まれる。息苦しさから、和彦は賢吾の下で軽くもがいていたが、口腔で蠢く舌に刺激されているうちに、体の奥で肉欲の疼きを自覚する。そうなると、もう賢吾に支配されたも同然だ。 指を濡らさないまま、内奥の入り口をまさぐられ、柔な粘膜を擦り上げられる。痛みを予期して体を硬くするが、和彦の体を知り尽くしている賢吾の指は、手荒なくせに傷をつけるようなことはしない。 内奥の浅い部分に指を含まされ、和彦は腰を揺らす。じわりと広
「頼むから、部屋の外でそんなことを冗談でも言わないでくれ。ここの組員たちに睨まれたくない」 ヤクザの組長からこんなことを言われると、冗談とわかっていながらも心臓に悪い。ただ、憂鬱さに捕らわれそうになった気持ちは、賢吾のその冗談でふっと軽くなっていた。 コーヒーを啜った和彦が何げなく視線を上げると、賢吾がこちらを見つめていた。そして、自分が腰掛けているソファを指さした。こちらに座り直せと言いたいのだ。わずかにうろたえた和彦だが、結局、賢吾の指示に従う。 案の定、賢吾の隣に座った途端、肩を抱かれて引き寄せられた。 賢吾の大きな手が、ワイシャツの上から和彦の肩先を撫でる。最初は背筋を伸ばしていたが、手の動きに促されるように、和彦はゆっくりと賢吾にもたれかかった。「……仕事、しなくていいのか?」「急ぎの仕事なら、もう片付けた。今日、先生とデートするためにな」「何言ってるんだ――」 内心でうろたえながら視線を上げると、賢吾が返してきたのは、熱を帯びた強い眼差しだった。この瞬間、和彦の胸の奥で妖しい衝動が蠢く。 甘い危惧を覚え、反射的に体を離そうとしたが、肩にかかった腕にがっちりと押さえ込まれて動けない。 耳に熱い息がかかり、和彦は小さく身震いする。そのまま賢吾の唇が耳に押し当てられた。「あっ……」 濡れた舌先が耳の形をなぞる一方で、油断ならない手にワイシャツのボタンを外されていく。和彦は微かに声を洩らすと、耳朶に軽く噛みつかれる。疼きが背筋を駆け抜け、たまらず賢吾の膝に手をかけはしたものの、完全に身を任せるまでにはいかない。 和彦は応接間のドアに視線をやる。ドア一枚隔てた向こうでは、組員たちが行き来する気配がするのだ。「ここは落ち着かないか?」 おもしろがるような口調で賢吾が言い、きつい眼差しを向けながらも和彦は頷く。 和彦の羞恥心を煽ることで性的興奮を覚える傾向がある賢吾だが、珍しくあっさりと手を引いた。もちろん、行為をやめるためではなく、場所を移るために。
勝手な言い分だと思ったが、あながち間違ってもいないので、反論できない。それに、本宅で過ごす時間は嫌いではなかった。 和彦は鼻先を掠める香りに気づき、視線をある方向に向ける。応接間の一角には、華やかなスペースができていた。クリニックの開業祝いに贈られた胡蝶蘭たちだ。寒さも直射日光も避けられる場所が、長嶺の本宅にはたくさんある。その一つが、この応接間というわけだ。 和彦も組員から育て方を聞いて、恐る恐る鉢の一つの世話を始めたところだった。 書類すべてに署名を終えると、賢吾が組員にコーヒーを運ばせてくる。書類をまとめてテーブルの隅に置いた和彦は、さっそくコーヒーにミルクを注いだ。「先生、明日もクリニックは休みなんだから、本宅に泊まっていったらどうだ」 さりげなく賢吾に切り出され、コーヒーを混ぜた和彦はちらりと視線を上げる。返事は決まっているとばかりに、賢吾は薄い笑みを浮かべていた。「……ついこの間、たっぷり世話になったばかりだと思うんだが……」「いいじゃねーか。うちの連中も、先生を気に入ってるんだ。メシを食わせたり、花の世話を教えたりしてな。男所帯のこの家も、先生がいるだけで空気が柔らかくなる」「男のぼくが加わっても、男所帯に変わりはないだろ」 ぼそっと指摘すると、賢吾は機嫌よさそうに声を上げて笑う。和彦はそんな賢吾につられるように、笑みをこぼしていた。 こうしてのんびりと過ごしていると、つい数時間前に実家を見たという現実が、どこか夢の出来事のように感じられる。もっとも、家族と出くわしでもしていたら、こんなふうに落ち着いてはいられなかっただろう。 ただ、いつまでも佐伯家と音信不通のままではいられない。 和彦は、思わず賢吾にこう問いかけた。「ぼくはこの先、実家とどう接していけばいいんだろう……」「先生と佐伯家次第だ。互いに干渉しないという要望が合致すれば、円満に過ごせる。衝突するなら――そうだな、俺の養子になるか? そうすれば先生は、佐伯の人間でなくなる」 咄嗟に反応できない和彦に対して、賢吾はニヤリと笑い