紳士、という単語が和彦の脳裏を過り、それが違和感なく、隣のテーブルにつこうとしている男性に当てはまった。 左足を庇うようにして、少しぎこちない動きでソファに腰掛けた男性が、ふとこちらを見る。露骨に視線を逸らすのも失礼で、和彦は軽く会釈をした。これで、テーブルが隣り合った者同士のやり取りは終わるはずだったのだが――。 重々しい音を立て、男性が傍らに置こうとした杖が床に落ちる。咄嗟に和彦は立ち上がり、杖を拾って男性に手渡した。「――ありがとう」 外見からは想像もつかない、太く艶のある声に、一瞬驚いた。和彦は小さく笑みを浮かべて、もう一度会釈をすると、自分のテーブルに戻る。 ただこの瞬間から、和彦と男性の間に繋がりのようなものが芽生えていた。見知らぬ他人が集う場所で、ささやかな接触を持ったせいだ。 どうやら同じものを、男性も和彦に感じてくれたらしい。ごく自然な流れで、二人は会話を交わしていた。「孫と待ち合わせをしているんだが、どうも年寄りには、こういう場所は身の置き場がなくていかん……」「ぼくは、友人を待っているところなんです。いつやってくるかわからないので、こうしてコーヒーを飲みながら、時間を潰そうと思って」「そこを、おしゃべりなジジイに捕まったというわけかね」 最初に受けたイメージとは違って、男性はずいぶん砕けた口調で話す。しかも、冗談っぽくニヤリと笑いかけてくる表情は、ずいぶん魅力的だ。 整った目鼻立ちが誰かに似ているなと、ふと和彦は思った。まばたきもせず、じっと見つめていると、和彦の視線に気づいたのか、紅茶を注文した男性がまた笑いかけてくる。「何か?」「いえ……。どこかで、お会いしたことがないかと思って」 咄嗟に出た台詞の陳腐さに、内心で和彦は苦笑を洩らす。だが、目の前の男性に感じる親近感は否定できない。「多分、今日会ったのが初めてだと思うが。まあ、わしの記憶力ほどあてにはならんものはないな」 ここで男性に手招きされ、すぐには意味がわかりかねた和彦だが、テーブルを移らないかと誘われているのだと気づく。断る理由もな
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