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パジャマ姿の和彦を見て、リビングのソファに腰掛けた賢吾は、楽しそうに口元を緩めた。
「ずいぶんゆっくりのご起床だな、先生」 乱れた髪を掻き上げて、和彦はじろりと賢吾を睨みつける。寝起きは悪いほうではないが、さすがに今朝は文句を言いたい。人が寝ているというのに、わざわざ寝室のドアを開けた賢吾が、嫌がらせのようにリビングのテレビを大音量で観始めたのだ。 和彦は、賢吾の手からリモコンを奪い取ると、テレビの音量を落とす。「あんたは、ぼくの生活パターンが変わったことを理解すべきだ。今週から、一応クリニック経営者として、毎朝出勤してるんだ。そして今日は、初めての休診日だ。……朝の八時にベッドの中にいて、なんで皮肉を言われないといけないんだ……」「つまり平日の明るいうちは、俺はなかなか先生に会えない。そうなると、ゆっくり会うのは限られた休みの日となるわけだ。その辺りの事情を、先生は理解すべきだな」駐車場に停まっているのは長嶺組と総和会の車だけで、警護する者たちにとっても、動きやすい環境かもしれない。 部屋に案内された和彦はすぐにダークスーツから着替える。楽なポロシャツ姿になって一心地ついていると、隣の部屋で着替えを済ませた千尋が戻ってくる。今日はもう長嶺組の跡目としての仕事はないのか、Tシャツにハーフパンツという、和彦以上にラフな格好となっている。「先生、砂浜に行こうよ」「そういえば、散歩すると言ってたな。あまり歩くようなら、ちょっと遠慮したいんだが……」 ニヤリと笑った千尋が柔らかく陽射しを通す障子を開けると、海が視界に飛び込んでくる。さらに窓を開け放つと、潮の匂いを含んだ爽やかな風が室内に吹き込む。その風に誘われるように和彦は立ち上がり、窓に歩み寄る。意外なほど近くに砂浜があった。 ここから見ているから一人で行ってこいと言いたかったが、散歩を待ちわびている犬のような眼差しで千尋に見つめられると、車中で約束していたこともあり、頷くしかなかった。 護衛もついてくるかと思ったが、意外なことに千尋と二人で悠々と宿を出ることができた。その理由は簡単で、宿の外を長嶺組と総和会の人間が見張っており、関係者以外は迂闊に近づくことできないのだ。「護衛にぴったり張り付かれるより、ずっと気楽じゃない?」 ビーチサンダルをペタペタと音をさせて歩きながら、こともなげに千尋が言う。「まあ……。でも大変だな、この暑い中」「俺とオヤジが動くだけならそうでもないけど、じいちゃんがいるからね。嫌でもピリピリする」 次の瞬間、千尋が歓声を上げて駆け出す。砂浜に出ると、ビーチサンダルを脱ぎ捨て、さっそく波打ち際に近づいた。「本当に犬みたいだな……」 千尋のはしゃぎっぷりについ呟いた和彦だが、無意識のうちに笑みをこぼす。千尋のビーチサンダルを拾い上げて砂の上に腰を下ろす。 海水に足を浸してご機嫌の千尋を眺めていて、ふと気になって周囲を見回すと、木や岩の陰に身を潜めるようにしてこちらを見ている男たちの姿があった。「…
おかげで、次に目を開けたとき、すぐには状況が認識できなかったぐらいだ。 笑っている千尋に間近から顔を覗き込まれ、優しく頬を撫でられる。「もうすぐ着くよ」「……どれぐらい眠ってた?」「一時間も目を閉じてなかった。本当はとっくに着いてるはずなんだけど、渋滞に捕まったからね」 まだ夢うつつの状態で説明を聞きながら身じろいだ拍子に、千尋の肩に頭をのせていることに気づく。「すぐに起こしてよかったのに。重かっただろ……」「先生が疲れてるの、俺とオヤジのせいだから、これぐらい大したことないよ」 また昨夜の行為が蘇ってしまい、羞恥のため和彦は何も言えない。千尋も刺激されるものがあったのか、和彦の唇を軽く啄ばんできた。 和彦はシートに座り直し、外の景色に目を向ける。海沿いの道を走っていたはずが、いつの間にか木々が生い茂った風景へと変わっている。和彦ががっかりしたように見えたのか、笑いながら千尋が教えてくれた。「次の宿も、海のすぐ側なんだ。小さな砂浜があるんだけど、きれいで静かだよ。もちろん、遊泳OK」「お前は、海で泳ぐのはもちろん、日光に背中を晒すのも厳禁だからな」「……わかってるよ」 露骨に千尋が残念そうな声を出すので、条件反射のように和彦はフォローしてしまう。「散歩ぐらいならつき合うから」 途端に千尋が目を輝かせ、和彦の手をきつく握り締めてきた。 千尋が言っていた通り、五分もしないうちに車は駐車場――というより、単なる空き地に入った。車を降りた和彦は周囲を見回して戸惑う。建物らしきものが何も見えなかったからだ。あるのは、木々ばかりだ。森林浴にはうってつけの場所だなと思ったが、もちろんそんなことをするために、男たちもダークスーツに着替えたわけではないだろう。「――先生」 賢吾の声に呼ばれて振り返ると、守光と並び立ってこちらを見ていた。守光も痩身をダークスーツで包んでおり、和服姿を見慣れた目には新鮮に映る。 二人とも黒がよく似合った。禍々しさを感じさせるほどに。
**** 翌朝、和彦の心情としては心ゆくまで惰眠を貪りたいところだったが、神経が高ぶったまま眠りについた弊害か、外が明るくなり始めた頃にはすっかり目が覚めてしまった。 まだ眠っている賢吾と千尋に恨みがましい視線を向けてから、洗面所でさっさと身支度を整えると、静かに部屋を出る。二度寝するには目が冴えすぎてしまい、だったらせめて、早朝の外の空気をたっぷり吸い込んでおこうと思ったのだ。 感心なことに、賢吾の部屋の側には長嶺組の組員が待機しており、和彦の姿を見るなり足早に歩み寄ってきた。「どうかしましたか、先生?」「目が覚めたから、朝の散歩をしようかと思って」「でしたら、護衛の者を呼びますから、少しお待ちください」 そこまでしてもらうようなことではないと、和彦は慌てて制止する。しかし組員の立場としては、和彦を一人で外に出すわけにはいかないだろう。どうしても散歩に行きたくて仕方ない、というわけでもないため、和彦は希望を変えた。 宿の別フロアにある展望室へと移動し、コーヒーを飲みつつ、海を眺める。散歩に出たところで、昨夜の行為のせいもあって、どうせ宿の周囲を歩くのが精一杯だっただろう。それを思えば、こうしてゆったりと過ごすのも悪くない。当然、この状況にあっても、組員が側に控えているのだが。 朝刊を読み終えた頃に、朝食の準備ができたと言われ、守光が宿泊しているという部屋に案内される。 すでに膳が並べられ、守光だけではなく、賢吾と千尋も席についている。長嶺の三世代の男たちが揃っているわけだが、ここに自分が加わることに、いまさらながら和彦は強い違和感を覚える。「どうした、先生」 和彦の逡巡を素早く感じ取ったのか、賢吾に声をかけられる。なんでもないと首を横に振り、急いで千尋の隣に座った。 朝食の席の雰囲気は、和やかの一言だった。 三世代の男たちが穏やかな表情と口調で、他愛ない世間話をしており、たまに話を振られる和彦も、自然に受け答えることができる。 こうして見ると、ごくありふれた家族の一場面なのだが――。
崩れ込みそうになった和彦の体を抱き寄せたのは、千尋だった。喘ぐ和彦の唇を、一応気遣ってはいるのか、遠慮がちに啄ばんでくる。そこに賢吾が、中途半端な愛撫を与えられてひくつく内奥に、指を挿入してきた。「あっ、嫌、だ――……」 和彦は控えめに声を上げはしたものの、自分でもわかるほど、その声は甘い媚びを含んでいた。それを聞き逃す男ではなく、賢吾は容赦なく、指で内奥を犯してくる。 和彦の体は布団の上に横たえられ、両足を左右に大きく広げた、羞恥に満ちた姿勢を取らされていた。さらに喘ぐ口元に、千尋の高ぶった欲望を押し当てられる。「お前たち父子は、人でなしだ」 屈辱感は、厄介な官能を高める媚薬になる。和彦は悔し紛れに毒づきはしたものの、与えられるものは拒まなかった。悔しいが、愛しいのだ。 ゆっくりと唇を開き、千尋の欲望を口腔に受け入れる。柔らかく先端を吸引しただけで、千尋は苦しげに声を洩らした。括れを唇で締め付けながら、感じやすい先端を執拗に舌先で苛めてやる。好き勝手されているささやかな報復のためだが、千尋の欲望は瞬く間に硬く、大きく膨らんでいく。「んっ……」 和彦の頭を片手で抱え、髪を掻き乱すようにして、千尋が腰を動かす。口腔の粘膜を使って欲望を包み込み、たっぷり甘やかしてやると、震える吐息をこぼして千尋が呟いた。「すげっ……、腰、溶けそう」「――先生は、ここが溶けそうになっているがな」 これは、賢吾の言葉だ。内奥にしっかりと埋め込んだ指を巧みに蠢かし、肉を蕩けさせていく。もう片方の手には柔らかな膨らみを揉みしだかれ、口腔に千尋の欲望を含んだまま、和彦は浅ましく腰を揺らす。獣じみた淫らな行為に及んでいるという背徳感は、和彦を性急に、快楽の縁へと追いやっていく。 早くこんなことを終えてしまいたいと思う反面、自分はどこまで浅ましく淫らな生き物に成り果てていくのか、知りたいとも思ってしまう。「んっ、ふうっ」 反り返って震える和彦の欲望が、再び熱い感触に包み込まれる。賢吾の口腔に呑み込まれたのだと、見なくてもわかった。
「先生、動いちゃダメ」「……無茶、言うな……」 大人びた笑みを一瞬見せた千尋だが、次の瞬間には表情を引き締め、和彦の開いた両足の間に片手を差し込んできた。「あっ」 欲望を柔らかく握られて、反射的に足を閉じようとしたが、膝に賢吾の手がかかって阻まれる。和彦はうろたえながら賢吾の肩を軽く押し返そうとした。「今夜は無理だからなっ。しかも、二人がかりなんて。本当に、疲れてるんだ」 和彦の膝に唇を押し当てた賢吾が、上目遣いでニヤリと笑う。「ひどい言いようだな。まるで俺たちが、ケダモノみたいじゃないか」「……ケダモノのほうが、まだ可愛げがある」「安心しろ。今夜は無理はさせない。ただ先生を癒してやるだけだ」 どうだか、と心の中で呟いた次の瞬間、和彦は、それでなくても火照っている肌をさらに熱くすることになる。 両足の間に賢吾が顔を埋め、さきほどから千尋の手によって緩く愛撫を与えられていた欲望を口腔に含んだ。「うあっ……」 和彦は賢吾の頭を押し戻そうとしたが、その手を千尋に掴まれる。「先生、こっち向いて」 甘えるような声で千尋に呼ばれて横を向く。濡れた音を立てて唇を吸われ、そのまま舌先を触れ合わせていた。 賢吾の口腔深くに欲望を呑み込まれ、熱い粘膜がまとわりつく。さらに先端を舌先で弄られて、下腹部をヒクリと震わせる。和彦が低く呻き声を洩らすと、眼前で千尋の目が悪戯っぽい光を宿す。何かやるつもりだなと身構えたときには、油断ならない手が、和彦の柔らかな膨らみを弄び始めた。「あっ、あっ、そこ、やめ――」 巧みに弱みを探り当てられ、指先で刺激されると、腰が痺れてくる。この愛撫が苦痛ではない証拠に、賢吾の口腔で、和彦の欲望は瞬く間に膨らんでいく。「うっ、あぁっ……、は、あ……」 千尋の腕の中で身悶えながら、和彦は爪先を突っ張らせる。全身が燃えそうに熱くなり、頭の芯がドロドロと溶けていくよ
「浴衣が擦れても気になるんだ。だから、おとなしく横になっていたというのに、父子揃って――」「海で泳いで日焼けか……。優雅でけっこうなことだ。俺たちはこの暑い中、ダークスーツで汗だくになっていたというのに」 バリトンで紡がれる皮肉は、なかなか痛烈だ。おかげで眠気がいくらかマシになり、しっかりと目を開けることができる。「……そんな皮肉を言われるぐらいなら、ぼくはマンションで一人、のんびりと過ごしたかった。だいたい、誰のせいで、せっかくの連休に振り回されることになったと思うんだ」 賢吾と千尋は、それぞれ互いの名を出した。 和彦は大きく息を吐き出すと、体に回された千尋の腕を押し退け、緩慢な動作で体を起こす。賢吾がすかさず手を差し出してきたが、あえて無視したうえで、たっぷり恨みがこもった視線を向ける。「ぼくだけ別の部屋を取ってくれてもよかったのに。知っているんだからな。あんたの名前で、別の部屋を取っていることを」 賢吾がちらりと苦笑を浮かべる。「何かあったときのためだ。まさか、長嶺組の組長と跡目が同じ部屋にいるなんて、うちの者以外に知られるわけにはいかねーからな」「だったら……、ぼくは今から、その部屋に移動する。ここだと落ち着いて寝られない」「――素直に行かせると思う?」 無邪気な口調で、悪魔のようなことを言ったのは、千尋だ。和彦が露骨に顔をしかめると、賢吾がおかしそうに声を洩らして笑う。叩き起こされて不機嫌な和彦とは対照的に、長嶺父子は機嫌がよさそうだ。 賢吾が寝乱れた髪を掻き上げてきて、千尋は背後から首筋に顔を寄せてくる。大きな獣にじゃれつかれているような気分を味わいながら、和彦は仕方なくこの状況を受け入れる。法要を終え、賢吾も千尋もようやく気を緩められているのだろうと思うと、本気で抵抗するのも気が引けた。「本当に肌が赤くなってるな。痛そうだ」 和彦の腕を取り、賢吾が浴衣の袖を捲り上げる。「痛そう、じゃない。痛いんだ」 てのひらでそっと腕を撫でられて、その手つきの優しさに思わず口元を緩める。つら
**** 千尋は今日も元気だ――。 犬っころのように目を輝かせ、落ち着きなく食器売り場を行き来するため、いつか食器を割るのではないかと見ているこっちがハラハラする。 実家に戻ってから、明らかに身につけるものの質が上がった千尋が今穿いているのは、あるブランドもののジーンズだ。スタイルがいい千尋にはよく似合っており、足元のレザースニーカーの組み合わせも様になっている。ラフに着ているTシャツも、きっと数万円はするのだろう。 おかげで、一見して育ちのいい好青年ぶりに拍車がかかり、デパートを歩き回っ
「――……なんかいろいろと、大変そうだ。しがらみとか、つき合いとか」 「先生は、そういうの考えないで、医者としての仕事をしてればいいよ。……一番大事なのは、俺とオヤジの、オンナとしての仕事だけど」 一見好青年のような外見で、さらりとこんなことを言えるのが、千尋だ。 和彦が見つめる先で千尋は、今自分が物騒なことを言ったという自覚もない様子で、パンの袋を開けて顔を突っ込んでいる。和彦はちらりと笑って千尋の頭を撫でてやった。 「まだ食べるなよ。肝心の晩メシが入らなくなるぞ」 「……先生、俺のお袋みたい」 千尋の言葉に、和彦は容赦
「いいよ、なんだって。先生が、こうして俺の側にいてくれるなら」 「〈俺〉じゃない、〈俺たち〉だ」 賢吾にあごを掴み寄せられ、また唇を吸われる。和彦は賢吾の頬をてのひらで撫でると、そっと唇を吸い返していた。満足そうに賢吾が目を細めて言った。 「――ヤクザの扱いに慣れてきたな、先生」 内心で和彦はドキリとする。したたかになると決めた和彦は、自分の立ち位置を探り始めていた。決してこの父子に媚びないが、決定的な反抗はしない。今の和彦の話は、ウソではないが、すべて本当とはいえなかった。 ヤクザにさまざまなものを与えられながら、従うことを求めら
「――先生」 呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」 泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」 賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する