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血と束縛と의 모든 챕터: 챕터 911 - 챕터 920

924 챕터

第25話(6)

****〈総本部〉という仰々しい響きに、まず和彦は圧倒されていた。そのうえ連れてこられたのが、オフィス街に建っている立派なビルだ。 後部座席のシートの上で身じろいだ和彦は、ウィンドーに顔を寄せる。きれいなオフィスビルには、目立つ大型看板や袖看板は一切出ておらず、ただビルの出入り口のところに、『土門興業』というプレートがあるだけだ。 本当にここが、と思わず和彦は振り返る。隣に座っているスーツ姿の千尋が、緊張感のない笑みを向けてきた。「立派だろ。総本部ビル」「……やっぱりここが、総和会の総本部なのか」「何、信じてなかったの、先生」 こう話している間にも、車はビルの裏手へと回る。「いや、でも、総和会という名前が出ていない……」「総和会の看板を出しているオフィスは、別の場所にあるんだ。そこはこじんまりとしたビルで、その横に、でっかい倉庫があってさ。総和会名義で購入したものは、ビール一缶だろうが、車だろうが、そこを経由する。物を動かすためにあるオフィスだ。もちろん、警察の手入れがあっても平気なよう、あくまでヤバくないものに限って。だからかなー。総和会の名前を堂々と表に出してるけど、かえってそっちのほうが、いかにも会社経営やってます、って雰囲気がある」 ビルの地下駐車場の入り口には、重々しいゲートが設けられていた。そのゲートを守っているのは制服を着た守衛ではあるが、何も知らない警備会社の人間とは思えない。なんといってもこのビルは、暴力団組織の総本部なのだ。「ここは、総和会そのものだ。十一の組で成り立っている総和会を動かすには、いくつもの役目が必要で、それぞれの組から派遣された人間が、さらに委員に選ばれて、委員会を運営する。学校みたいだろ? 影響力を及ぼせる委員会の数が多い組ほど、総和会じゃ圧倒的な発言力を得られる。一方の委員会じゃ組同士が手を結んだり、別の委員会では反目し合っていたりと、まあ、いろいろあるよ」 中嶋から、総和会について簡単な説明を受けたことはあるが、どういう形式で運営がなされているのか、いままで誰も和彦に教え
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第25話(7)

 千尋が受付に向かい、和彦は少し離れた場所で待ちながら、監視カメラの数をなんとなく数えてしまう。それに、背の高い観葉植物や仕切りなど、ロビー全体を見渡せないような遮蔽物がいくつもあることにも気づいていた。エレベーターはロビーのある二階で一旦乗り換えるため、まっすぐ上階に上がることができないなど、何かあったときの被害が広がらないよう、注意を払った造りになっている。 もっとも、侵入者にとって最大の障害は、この場にいる男たちだろう。 場の雰囲気にあったスーツを着てはいても、やはり鋭い空気は隠し切れない。所在なく立っている和彦は、違う意味で目立っているようだ。「先生、こっち」 千尋に手招きされ、助かったとばかりに足早に歩み寄る。再びエレベーターに乗り込み、今度は五階へと上がる。 受付から連絡があったのか、扉が開くと、二人を出迎えてくれた人物がいた。「あっ……」 思わず和彦が声を洩らすと、愛想よく笑いかけてきた藤倉が慇懃に頭を下げる。エレベーターを降りた和彦は、複雑な心境になりながらも挨拶をした。「……お久しぶりです、藤倉さん」 本当に、久しぶりだ。総和会内で、文書室筆頭という一風変わった肩書きを持つ藤倉は、主に事務処理を担当している。詳細な仕事の内容までは把握していないが、和彦が総和会に回すカルテや処方箋の管理は、藤倉が行っている。 この世界に引きずり込まれて間もない頃、『加入書』の件で手を煩わせてからのつき合いだが、クリニックを開業してから顔を合わせるのは初めてだ。 印象の薄い顔立ちと、折り目正しいビジネスマンのような物腰は変わっておらず、この男だけを見ていると、ここが総和会の総本部という物騒な場所だとは到底思えない。なんにしても、顔見知りに出迎えられ、和彦としては少しだけほっとする。「じゃあ、藤倉さん、先生のこと頼みます」 背後からそう声をかけられ、慌てて和彦は振り返る。エレベーターに乗ったまま千尋が軽く手を上げ、次の瞬間にはゆっくりと扉が閉まっていく。「おい、千尋――」「心配いりませんよ、佐伯先生。千尋さんはちょっと委員会に顔を出
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第25話(8)

「これだけ揃えるとなると、病院を経営するのと変わりませんね」 何げなく和彦が洩らした言葉に、藤倉はにこやかな表情を浮かべつつ、さらりとこう言った。「あとは、優秀なお医者さんを揃えるだけですね。もっとも、暴力団組織に協力的な、という前提がつくわけですが」「協力的……」 和彦も決して最初から、組の人間を治療することに協力的だったわけではない。 初めて、長嶺組の組員を治療したときのことを思い出し、つい苦笑を洩らす。あのとき、目の前に現れたのが三田村でなければ、今の状況はもっと違うものになっていたかもしれない。「長嶺組長が美容外科クリニックの経営に乗り出すと聞いたときは、驚きました。初期投資は大きいし、医療関係はとにかく行政の目が厳しい。いざ開業しても、表向きは不穏なものを一切匂わせないようにしなくてはならない。わたしたちにしてみればかなり高いハードルを、長嶺組は乗り越えた。それはやはり、先生の存在が大きいでしょう」 まるで、講義を受けているようだ。頭の片隅で和彦はちらりとそんなことを考える。 ここに来るまでの千尋の説明もあってか、自分が急速に、総和会の人間として造り替えられているような感覚に陥る。もちろん、組織の事情を知ったところで大きな変化は訪れないだろう。ただ、環境には慣れてくるものなのだ。 一年前の和彦が、裏の世界に引きずり込まれ、急速に馴染んでいったように――。「先生は、ご自分が手術をなさったあと、総和会や長嶺組が患者に渡す請求書をご覧になる機会はないので、ピンとこないでしょうが、リスクを冒してまで手がける手術というのは、高くつくんです。払うのは患者個人ではなく、その患者が所属する組織です。面子がかかっているからこそ、支払いが滞ることはない。長嶺組長は、先生にクリニックを任せましたが、それは道楽なんかではなく、きちんと儲けの目処が立っているからです」 藤倉が次のファイルを差し出してくる。ざっと目を通した和彦は、そこに記されているのがなんであるかすぐにわかった。クリニックを開業するために揃えた、備品や医療機器、医薬品、消耗品にいたるまで、詳細に記載されていたのだ。「ぜひ参考にしたいと、総和会
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第25話(9)

 このあと藤倉は、何事もなかったように世間話を始めたが、和彦はそれどころではなかった。ほとんど上の空で相槌を打ちながら、内線が鳴るまでの時間を過ごしていた。 ファイルが入った紙袋を手に応接室を出ると、スラックスのポケットに片手を突っ込んだ千尋が立っており、目が合うなり悪戯っぽく笑いかけてくる。「ほんの何十分か会わなかっただけなのに、なんだか疲れた顔してるね、先生」「お前は――」 応接室でどんな会話が交わされたのか、知っているのか。そう問いかけたかったが、中にはまだ藤倉がいるため、寸前のところで口を閉じる。 千尋に紙袋を取り上げられ、促されるままエレベーターホールへと向かう。「お前のほうの仕事は、もう終わったのか」「仕事といっても、委員会に出席してる長嶺の人間の後ろに控えているだけなんだけどね。それでも、実績も何もない若造が委員会に顔が出せるのは、やっぱり血統のおかげだ。とにかく今は、顔を売っておかないと」「長嶺組の跡継ぎとして?」 和彦の問いかけに、エレベーターのボタンを押そうとした千尋が一瞬動きを止める。すぐに、肩をすくめる。「当然。総本部で、総和会会長の孫として振る舞ったら、それこそお客様扱いになる。長嶺組の跡目という立場だから、一端のヤクザとして見てもらえるんだ」「……長嶺の男とはいっても、お前もいろいろ気をつかっているんだな」「オヤジやじいちゃんの存在がでかいのは事実だし、俺はまだ、そのオマケ程度だからね。身の程をわきまえておかないと、跡目だなんだと言われても、簡単に弾き出される」 そう話す千尋の口調からは、卑屈さは一切感じ取れない。自分の境遇が恵まれている反面、とてつもなく苛烈なものであることは、とっくに理解し、覚悟もしているのだ。いかにも育ちのいい、甘ったれな青年の姿を見せているのも、千尋なりの処世術なのかもしれない。 エレベーターに乗り込むと、和彦がよく知る軽い口調で千尋が言った。「――さて、次はじいちゃんのところ行こうか」 えっ、と声を洩らした和彦は、まじまじと千尋を見つめる。和彦の戸惑いをどう捉えたのか、千尋はのん気に笑ってこ
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第25話(10)

「じいちゃんが、晩飯だけ食わせて、俺たちをあっさり解放するわけがないじゃん」「最初からお前も、そのつもりだったんだろ」「悪巧みが好きなんだよ、長嶺の血筋は」 毒を食らわば、とまで言う気はないが、長嶺の男二人が揃っていて、自分が抗弁できるとも思えない。気が済むようにつき合うしかないだろう。 和彦はため息交じりに頷き、千尋に腕を引かれてダイニングに連れて行かれる。すでにテーブルには守光がついており、和彦がイスに腰掛けると同時にグラスを差し出された。「ありがとうございます……」 ビールを注がれて礼を述べると、ふっと守光が笑みをこぼす。「まだ、緊張するかね。千尋は、自分の家のように寛ぎすぎだが、あんたはもう少し、肩から力を抜かんと。――これから先、ここに泊まることも増えるだろうし」 和彦はわずかに肩を揺らす。守光の発言に食いついたのは千尋だった。「何、なんかあるの?」 守光がちらりとこちらを見たので、和彦は苦笑を浮かべる。 総和会によって、和彦に新たなクリニックを開業させる計画があることを、守光が千尋に説明するのを傍らで聞きながら、和彦は二人のグラスにビールを注ぐ。自分ではまだ何も決めていないし、考えてもいないというのに、外堀が埋められていくようだった。「当然、面倒なことは全部総和会で請け負う。あんたには表の顔として、最低限必要の手続きをしてもらい、ときどき業務に目を配ってくれるなら、あとは好きなようにしてほしい。あくまで、あんたの働きに対する、総和会としての誠意を見せたいだけだ」 話しながら守光がこちらを見る。目が合った瞬間、和彦は緊迫感に息を詰めていた。 本能的に、守光のこの提案は危険だと思った。今の和彦は、守光と関係を持つことで総和会と深く結びついている。そこにクリニックを任されることになれば、長嶺組と同等の結びつきを持つことになる。私生活とビジネスの両方で、二つの組織から干渉されるのだ。 これまで和彦は、当然のように長嶺組との関係に重きを置いていた。長嶺組の存在があったからこそ、総和会との関係が成り立っていたともいえる。 そのバランスが、大きく
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第25話(11)

 千尋の言葉に、やはり、と思った。かつてこの部屋で和彦と守光が行為に及んだ翌朝、千尋は何もかも把握しているような口ぶりだった。確認するような恥知らずなマネはさすがにできなかったが、ようやく今、和彦は確信を持てた。 知らず知らずのうちに和彦が上げていた嬌声を聞かれてしまったのか、それとも守光本人が、千尋に告げたのか――。 守光との生々しい行為のすべてが蘇り、和彦の体も、千尋の体温に負けないほど熱くなってくる。「先生は、俺のオンナでもあるんだよね?」「……ああ」 和彦は思いきって体の向きを変える。薄闇の中、まず千尋の顔の輪郭を捉え、次に、興奮と熱っぽさを湛えた両目がぼんやりと浮かび上がる。ようやく千尋の顔全体を認識し、和彦は小さく苦笑を洩らした。「今夜はおとなしく寝ろ。いろいろあって、ぼくは少し疲れてるんだ」 子供を諭すように話しながら、千尋の髪を撫でてやる。すると、予想通りの答えが返ってきた。「ダメ。できない」「お前は……子供か」 そう応じた和彦だが、布団から千尋を追い出すことはなく、それどころか、しがみついてきた千尋のトレーナー越しの背を優しく撫でる。 若く猛々しい獣を駆り立てるのは、実に簡単だった。 性急に帯を解かれて浴衣の前をはだけさせられる。千尋が胸元に顔を埋め、闇雲に肌に吸い付き、歯を立ててくる。和彦は千尋の荒っぽい愛撫を受け入れた。 早く反応しろといわんばかりに胸の突起を口腔に含まれ、激しく吸い立てられる。しかしすぐに様子は変わり、舌先で突起を執拗に転がされ、甘噛みされるようになる。一方で、余裕ない手つきで下着を引き下ろされ、脱がされていた。 和彦は片手を取られ、千尋の両足の間に導かれる。スウェットパンツの上から触れた千尋のものは、もう高ぶっていた。 ようやく胸元から顔を上げた千尋が、挑発的な表情で問いかけてくる。「これでも、子供って言う?」「……布団から出ていけ」「冗談。俺もう、我慢できない」 布団を跳ね除けた千尋が勢いよく身につけているもの
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第25話(12)

 両足を抱えられ、大きく左右に開いたしどけない姿で、和彦は犯される。 逞しい部分で内奥をこじ開けられ、襞と粘膜を蹂躙するように擦り上げられるたびに、ビクビクと上体を震わせるが、懸命に声は堪える。和彦のそんな姿に、千尋の欲望は煽られているようだった。「たまんない、今の先生の姿。つらそうな顔してるのに、ここはこんなに悦んでてさ」 千尋はゆっくりと腰を突き上げながら、開いた両足の間で揺れる和彦の欲望を握り締めてくる。咄嗟に唇を噛んで嬌声を押し殺したが、そんな和彦を追い詰めるように千尋は欲望を手荒く扱き始める。内奥では、力強く脈打つものが蠢き、鳥肌が立つほど感じてしまう。「うっ、うっ、うぅっ――」「感じまくってるね、先生。中、興奮して、ギュウギュウ締まりまくってる。……溶けそうなぐらい、気持ちいい……」 両足を抱え直されて、一度だけ大きく内奥を突き上げられる。息を詰めて仰け反った和彦は、数秒の間を置いて熱い吐息を洩らしていた。 和彦が脆くなっていると感じ取ったのか、千尋が甘えるように覆い被さってくる。求められ、唇を吸い合ってから、舌を絡める。その間も千尋は、緩やかな律動を内奥で刻み、無意識のうちに和彦は腰の動きを同調させて受け止める。さらに深く、奥まで千尋のものを呑み込むために。「んあっ……、はっ、あっ、あっ、千、尋っ……」 千尋の肩にすがりつき、和彦は控えめに声を上げ始める。「先生、いつもみたいに、もっと声出してよ。じいちゃんの部屋まで聞こえるような、すごい声」 上体を起こした千尋が、繋がった部分を指で擦ってくる。和彦は首を横に振るが、さすがに長嶺の男だけあって、欲しい答えを引き出すために千尋は淫らな手段を行使してきた。反り返って震える和彦の欲望を指先でくすぐったあと、柔らかな膨らみをきつく揉みしだき始めたのだ。「うああっ」 たまらず和彦が声を上げると、内奥に収まっている千尋のものがさらに大きさを増す。 内奥を強く突き上げられたかと思うと、次の瞬間には柔らかな膨らみを手荒く愛撫される。それを
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第25話(13)

 そんな和彦の気持ちを知ってか知らずか、千尋は大きなあくびをしたあと、にんまりと笑いかけてきて、布団の上を軽く叩いた。ここに座れと言いたいらしい。 髪を拭いていたタオルを手に、和彦は渋々従う。すかさず千尋が肩を抱いてきた。「先生、また一緒に寝よう。じいちゃんに知られたって、別にいいじゃん。俺だって、先生のことで主張できる権利がある」「何を主張する権利だ」「わかってるのに、聞くんだ」 さきほどの寝ぼけていた姿は演技だったのか、すでに千尋の両目は生気を漲らせ、強い光を湛えている。 和彦はまじまじと千尋の顔を覗き込み、頬を撫でてやる。おそらく千尋に犬の尻尾が生えていたら、今この瞬間、ブンブンと振っていることだろう。そんな想像をしてしまうぐらい、嬉しそうな表情を浮かべたのだ。「――お前と一緒にいるときは、ぼくは、お前のオンナだ」「悪いオンナの台詞だよなー、それ。オヤジやじいちゃんと一緒にいるときも、同じことを言うんだろ。言う相手が違うだけで」「ぼくにそれを求めたのは、物騒で怖い、長嶺の男たちだ」「だって俺たち、先生に骨抜きだからね」 千尋に優しく唇を啄ばまれ、すぐに舌先を触れ合わせて、相手をまさぐる。朝から交わすには露骨でいやらしい口づけへと変化するのは、あっという間だった。 執着心をぶつけてくるように、千尋の舌に荒々しく口腔をまさぐられる。和彦は、そんな千尋を受け入れ、応じていた。 ようやく唇が離されると、千尋は少し困惑したように洩らした。「この部屋、なんか変な感じがする。ここで先生がじいちゃんに初めて……とか思うと、嫉妬より先に、すげー興奮するんだ。じいちゃんと張り合いたい気分になるっていうか」「……前々から感じていたが、妙な性癖を持ってるだろ、お前」 とにかく自分の部屋に戻れと言いながら、和彦は千尋の体を布団から押し出そうとする。しかし千尋はごろりと横になり、あっという間に布団に包まってしまう。「こらっ、千尋――」「俺、先生に怒られるの好き」 もっとかまってくれと言わんばかりに千尋が
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第25話(14)

**** 突然、電話が鳴り、ビクリと体を震わせた和彦は考えるより先に起き上がると、サイドテーブルの子機を取り上げた。『――お休み中、申し訳ありません』「いや……」 寝起きで掠れた声を発した和彦は、反射的に時間を確認する。室内の暗さから見当はついたが、深夜だった。 こんな時間、長嶺組の組員からかかってくる電話の内容は、ほぼ決まっている。『うちの組の者がトラブルに巻き込まれて、怪我をして戻ってきたんです。ひどく痛がっていて、どうやら骨折をしているようで……。それで、クリニックのほうで診てもらいたいのですが』「そうだな。レントゲンを撮る必要があるから、クリニックのほうが都合がいい。麻酔もすぐに準備できる」 話しながらベッドを下りた和彦は、イスの上に置いた着替えを取り上げる。『すでに車は待たせてあります。準備ができたら降りてください』 五分で降りると返事をして、電話を切る。 ジーンズに穿き替えながら和彦は、最近急に物騒になってきたように感じていた。先日は、総和会の第二遊撃隊が面倒を見ることになったという男を手術したが、やはり、外を出歩いているときに襲われて大怪我を負ったと教えられた。 普段は無用な揉め事を避けたがる世界だが、些細なことで様相は一変する。血生臭い空気に当てられて小さないざこざが起こり、それが大きな闘争へと繋がる危うさと緊迫感をいつでも孕んでいるからだ。もっとも、こんな世界に身を置き、医者をしている和彦だけがいつ血の匂いがするかと身構えており、男たちにとってはこれが当たり前なのかもしれない。 和彦はTシャツを着込み、その上からパーカーを羽織って、慌ただしく玄関に向かおうとしたが、すぐに引き返して洗面所に飛び込む。眠気はとっくに消えてしまったが、顔を洗って気持ちを切り替える。 一階に降りると、すでに待機している長嶺組の車に乗り込み、まっすぐクリニックへと向かった。 患者を含めた数人の組員たちはすでに到着しており、待合室にいた。和彦の姿を見るなり素早く立ち上がり、一斉に頭を下げ
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第25話(15)

 秦だけでなく、その秦の後ろ盾となった長嶺組――賢吾からも。「組長には報告しておきましたから、当分先生には、窮屈な思いをさせるかもしれません」「……基本的に、どこに行くにも護衛をつけてもらっているから、ぼくの場合、さほど生活に影響があるとも思えないが……。あっ、護衛が面倒だから、夜は出歩くなと言うことか?」 和彦としては真剣に問いかけたのだが、怪我をしている組員までもが、苦笑に近い表情を浮かべて首を横に振る。「先生に、そんな野暮は言いませんよ。ただ、俺たちみたいな連中の面倒を見てくれる大事な人なんですから、気をつけてほしいだけです」「それを言うなら、君らもだ。日ごろ振り回して、世話になっているからな」 短く息を吐き出して和彦は、今度こそ切り傷の縫合に取り掛かった。**** 午後の診察時間の終了まで一時間近く残して、クリニックにはすでに緩やかな空気が漂っていた。最後の患者を見送ってしまうと、完全予約制のこのクリニックでは、あとは仕事が限られるのだ。 週明けに入っている予約について打ち合わせを済ませてから、あるスタッフは医療用品や薬剤の在庫を確認し、手が空いているスタッフは掃除を始める。和彦も、診察室を――というより、自分が使っているデスクの上を片付ける。 それが終わると今度は、コピー用紙を一枚取ってきて、卓上カレンダーを眺める。「――……ついこの間、花見でバタバタしていたのにな……」 ぽつりと洩らした和彦は、簡単な文面を考えてコピー用紙に書いていく。すると、診察室の掃除のため入ってきた女性スタッフが、ススッと近づいてきた。「何を書いているんですか、佐伯先生」「ゴールデンウィークの休業日のお知らせ。患者さんにはもう電話で伝えてあるけど、配達業者が困るかもしれないから、そろそろ玄関のドアに貼っておこうと思って」「はあ、この間開業したと思ったら、もうゴールデンウィークなんですねー。バタバタしていたから、なんだかあっという間です
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