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All Chapters of BL小説短編集: Chapter 131 - Chapter 140

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チェンジ The デート15

 それなりに急なコーナーを、ダウンヒルという傾斜をうまく使って速度をあげたランエボが、四輪ドリフトを鮮やかに決めていく。(俺たちに暴言を吐くだけの自信があったってことは、目の前の運転を見れば分かるけど、雅輝にしたら余計にフラストレーションが溜まるだろうな) 橋本の運転じゃ追いつけないと思えるランエボを追いかける宮本も、同じようにドリフトをかましていたのだが――。「おい、煽り運転になってるぞ! 気をつけろよ」 ランエボのテールにぶつかりそうな勢いで後追いする宮本に、慌てふためきながら怒鳴って注意した。「邪魔……」 苦々しげに呟くなり、眉間に深い皺を寄せる。すごみが増した自分の顔に、橋本は思いっきりビビった。 宮本の顔で怒っても橋本以上に目尻が垂れているので、怖さというものが皆無に近かった。でも今は自分の顔なので、何とも言えない恐怖が雰囲気と一緒に伝わってくる。「マジで邪魔、ウザい。次のコーナーで抜く」「駄目だ! 対向車が間違いなく来る、それこそ正面衝突するぞ」 ランエボの存在を確認してから、対向車のチェックを欠かさなかった。前の車につられてインプのスピードがいつもよりノっている以上、このタイミングで抜くのは、あきらかに自殺行為に近い。「平気。うまくかわすから」 前の車を据わった目で見つめる宮本の態度に、橋本の神経がブチッと切れた。「ふざけんなよ、このクソガキ! インプは誰の車か言ってみろ!!」「よよよよ陽さんの車ですぅ……」 突然激昂した橋本の声に動揺しまくった宮本は、慌てて急ブレーキをかける。お蔭で車間距離が開き、瞬く間に目の前のランエボが遠のいた。「インプだけじゃなく、俺の命だってお前に預けてるんだ。その意味が分かるか?」「うっ、はいぃ」 橋本の激怒で我に返ったのか、いつもの宮本に戻った感じがした。「その先のコーナー、インベタグリップ」「はいです……」「次のコーナーでランエボを抜く。だけど追い越しした直後に、対向車が来るからな。気をつけろよ」「分かりました」 言いながらさらにアクセルを踏み込み、スピードを上げた。「俺の合図で追い越せ。対向車とすれ違うタイミングを計る」 適度な車間距離で追いつき、緩やかな上り坂を終えた瞬間に、コーナーを示す黄色い看板が橋本の目に留まる。
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チェンジ The デート16

「今だ! インパクトブルーの派手なドリフトを、馬鹿野郎どもに見せつけてやれ!」 スムーズにハンドルを右に切って対向車線に出たインプは、ランエボに並走する形でドリフトをはじめた。 突如隣に並んだインプに驚いたのだろう。ランエボの運転席にいる男の顔が、ムンクの叫びに描かれた人物みたいな表情になる。助手席の男は怒った顔のまま、運転手に向かって何かを叫んでいるようだった。 そんな男たちに向かって橋本は中指を立てたあと、嘲うようにニヤニヤした顔を見せつけた。だけどそんな顔も数秒後には宮本の運転で一気に追い越ししたため、見えなくなったと思われる。「雅輝、対向車!」「ばっちりなタイミングだね、陽さんっ!」 対向車に向かってアウトラインに膨らみかけた車体を立て直し、イン側に沿って魅せるようなドリフト走行する。 後ろを振り返ると対向車の存在に慌てふためいたのか、ランエボがフルブレーキをかけて停まるところだった。「このまま逃げ切るだろ?」「もちろん!!」「対向車なし、行け!」 喜びに満ち溢れた橋本の声に合わせて、宮本は満面の笑みを浮かべたままハンドルを切る。なだらかな左コーナーを高速走行したインプから、峠中に響き渡るようなスキール音が鳴った。「今だから言いますけど、実は不安なことがあったんです」「不安なこと?」「だって今の躰は、陽さんじゃないですか。視力だけじゃなく、すべての感覚が違うんです。それこそアクセルの踏み込みの感覚も違っていたので、最初は戸惑いました」「あ……、確かにそうだな」 宮本に告げられてはじめて、そのことを思い知らされた。平然と助手席に乗っていた、無神経な自分が恥ずかしくなる。 それと同時にあらためて、宮本のドライビングテクニックのすごさが分かった。全然違和感を感じることなく、隣で乗ることができていた。「感覚の誤差は、ここに来るまでに修正したんですけど、ランエボを追いかけるときの運転は、いつも以上に神経を使いました」「俺が口煩く、アレコレ注文をつけたしな」「陽さんの運転って同乗者だけじゃなく、車を労わる乗り方をするじゃないですか。ハンドルを握っていたら何となくそれが伝わってきて、インプを大事にしなきゃって思わされて」
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チェンジ The デート17

大事にしなきゃと言ってる傍から、ぐぐっと躰に重力のかかる運転をする。 容赦ない宮本のドリフトに、橋本の口から思わずため息が漏れ出た。「雅輝の運転には、さっきから驚かせられっぱなしだ」「インプと陽さんを大事にするために、安全マージンのある繊細なライン取りと、ランエボに早く追くためのライン取りの両方を考えました。そしたらね、いつもより楽しく運転することができたんです」 コーナーの角度に合わせて、滑らかにハンドル操作をする手元から目が離せなかった。それは見惚れてしまうくらいに、鮮やかなハンドル捌きだった。「俺に注意されるまではムスッとして、全然楽しそうじゃなかったくせにな」「だってインプを馬鹿にされたことを思い出したら、どうしても許せなかったんです。陽さんだって、腹が立ったでしょ?」「ああいうことを言うヤツは昔から結構いたし、俺としてはまたかという感じだったけどな。馬鹿には関わらない主義なんだ」「陽さんは大人なんだな。俺はああいうのを見過ごせないタイプだから、つい熱くなっちゃう」(峠のダウンヒルもあと少し――俺の躰で運転する宮本が見られるのも、あとちょっとなんだな……)「雅輝、何はともあれお疲れさん。よくやった!」 宮本の視界に入る位置に、拳を突きつけてやった。「陽さんも隣でアシストしてくれて、ありがとうございます。お蔭でいい運転ができました!」 橋本が目の前に突きつけた拳に、宮本は左の拳をガツンと押し当てる。その瞬間に、フッと意識が飛んだ気がした。「雅輝……」「陽さん……」 それまで見えていた自分たちの顔が、そこにはなかった。 驚いた顔の宮本が助手席に座っている現状に、握りしめているハンドル操作があやふやになる。「どういうことだよ!? どうしてこのタイミングで入れ替わっちまったんだ! ダウンヒルの高速走行でのハンドルは、どこまで切ればいいんだよ? やべぇって!」「落ち着いて、陽さん。とりあえずシフトチェンジで、ギアを落として――」「どこまで落とすんだよ、無理無理! その前にガードレールに突っ込んじまう!!」 助手席から身を乗り出した宮本が、慌ててハンドルを手に取り操作したが、運転席側のボンネットにガードレールが接触した。
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チェンジ The デート18

(――違う違う! ガードレールにボンネットが接触したっ!!) いつもと違う見慣れない景色――あまりに急なことが目の前で起きたせいで、橋本は現実を飲み込めないでいた。自分がハンドルを握るインプがガードレールに向かっているのに、ガードレールが車に向かってくる錯覚に陥ったせいだった。 ぶつかったあとの衝撃に耐えようと、ハンドルを放して肩を竦める。両目を閉じたからか、アスファルトに飛び散ったヘッドライトの音をはっきりと聞いた。「くっ、止まれ止まれぇっ!!」 橋本が手放したハンドルを操作する宮本を前にして、ブレーキを踏むのが精一杯だった。 衝突した衝撃をそのままに、勢いよくスピンを続けるインプを、下から上ってくる対向車のライトが明るく照らし出す。「マジかよ……」 まるでスポットライトのように、自分たちを明るく照らしたライトを受けながら、絶望を口にした橋本。カチッという聞き慣れた小さな音が、耳に飛び込んできた。「おまっ!?」 気がついたときにはバケットシートごと、苦しいくらいに躰を抱きしめられていた。シートベルトを外した宮本が上半身を使って、いきなり覆いかぶさってきたことに驚きを隠せない。「陽さん、こんなことしかできなくてごめんなさい」「雅輝っ!」 橋本は側面衝突を予測して、宮本の躰に両腕を強く巻きつけた。シートベルトを外している以上、車外に飛ばされる恐れがある。 抱き合うふたりを祝福するように、近づいてくる対向車のライトが煌めきを増して光輝いた。 真っ白な光に包まれながら覚悟を決めたそのとき、対向車がぶつかる衝撃に備えるべく奥歯をぎゅっと噛みしめながら、渾身の力を両腕に込めた。 するとそれに呼応するように、自分を抱きしめる宮本の腕の力も増していく。 苦しいはずなのに心地よさを感じた次の瞬間、大きな衝撃を感じて躰をぶるりと震わせた。
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チェンジ The デート19

「わっ!!」 声をあげながら目を見開くと、そこは事故ったインプの車内ではなく、あたたかい宮本の胸の中だった。しかも大きな躰が覆いかぶさった状態という思いっきり潰された状態で、ベッドの上にて横たわっていた。「ゆ、夢だと分かっていたのに、やけにリアルだった……」 安堵のため息を吐きながら宮本の躰に縋りつく、自分の両腕を解こうとしたら、苦しいくらいに抱きしめられる。「おーい雅輝。寝ぼけてないで、俺の上からさっさと退いてくれ。圧迫死しちまう」「むぅ?」 声をかけると宮本は亀のように頭だけ上げて、眠そうな表情のまま辺りをゆっくり見渡した。「ここって俺の部屋?」「ああ。おはよ」「おはよぅござぃます……。無事でなによりでした」 そう言って、ふたたび橋本の躰を抱きしめる。しかも頬擦りつき。鼻をすんすん鳴らしながら、橋本の無事を確かめるように、何度も背中を撫で擦る。 何気に無精ひげが当たってチクチクしたが、宮本の気持ちを考えて我慢する。「無事ってお前――」「夢の中で、陽さんと入れ替わった話をしたでしょ。あれの続きを見たんです」「そりゃ奇遇だな。俺も雅輝と入れ替わった夢を見たぞ」 宮本の耳元で囁いたら、躰に絡んでいた両腕を外すなり、まじまじと顔を覗き込んできた。「もしかして一緒にブランチしたり、洋服を見に行って――」「三笠山のインパクトブルーのバトル、結構面白かったな」 ププッと吹き出した橋本を見て、同じように宮本も笑いだした。「どうして、同じ夢を見たんでしょうね。しかもふたりそろって入れ替わったものを見るなんて、すごいとしか言いようがない!」「雅輝になって、はじめて分かったことがたくさんあった。まずはこれから、もう少しゆっくり歩くことにする」「陽さん……」 目の前にある、優しげな宮本の眼差しが嬉しそうに細められたのに、ほんのちょっとの隙間から見える瞳が潤んだ感じに、橋本の目に映った。
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チェンジ The デート20

「だけどもうスリリングすぎる、無茶振りな運転は体験したくない。安全運転でよろしくな。あとは変なヤツに絡まれても頭にくるだろうが、完全スルーすること」「はい、気をつけます。それとですね陽さん、むうぅっ……」 コソッと右手の甲で素早く目元を拭ってから、言いにくそうに言葉を濁す。「俺になってみたからこそ、いろいろ思うところがあるんだろ。何か言いたいことがあるなら、遠慮なく吐けって」 わしわしと荒々しく頭を撫でると、またしても躰をぎゅっと抱きしめられた。「このあとブランチの予定ですけど、その前に陽さんをいただきたいんですが、大事なところは大丈夫かなぁって」「(〃°Д°〃)だっ、大事なところって――」「昨夜も今朝もしたのに、夢の中から無事に生還したからという理由だけで抱き合いたいなんて、俺の我儘じゃないですか。だけど陽さんの躰を、インプ以上にいたわってあげなきゃだし。ねぇ……」 橋本の顔をチラチラ窺いながら、自分の気持ちを告白する宮本の頬を、両手で挟み込んだ。「ランエボに勝利した祝いをしなきゃだろ。それに俺の躰がどうなってるか、雅輝自身で確かめてみたらどうだ?」 両腕に力を入れて宮本の顔を引き寄せ、しっとりと唇を押しつけた。 互いに入れ替わったことにより、分かったことが多々ありすぎて、必要以上に気を遣う不器用なふたりは、このあと夢の中よりもイチャイチャしながら過ごしましたとさ。 愛でたし愛でたし(*´ -`)(´- `*)ぴとっ♪
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例のアレ

※某メーカーの軽自動車に出てくる俳優Tさん、ふたたび登場!?の巻※この物語はフィクションであり、登場する人物・団体等は実在のものといっさい関係ありません。と一応明記しておく! 橋本と同じドライバーを職業としているが運ぶものが違うため、休みはまったく合わなかった。 それでも一緒に過ごせる時間を互いに見繕っては、どちらかの家でふたりきりで濃密に過ごすことが、ご褒美になっていたりする。「たまにテレビを見ると、この間まで頻?に出ていた芸人がいなくなっていて、新しいヤツが出ているというローテーションが、思ったより短くなってる気がするんだけど、雅輝に聞くだけ無駄か」 橋本の自宅にて並んでソファに座り、目の前にあるテレビをなんとはなしに眺めていた。 自分よりも細身の肩に頭を乗せつつ、橋本の左手を恋人繋ぎでぎゅっと握りしめる。 ベッドの中で過ごしてしまうと際限なく求めてしまうので、テレビを見ることを自ら提案したのだった。 こうして他愛のない会話をするのも、結構面白かったりするけれど、内容によっては無駄な争いに発展してしまうこともあった。「アニメ以外、見ていなくてすみませんね。陽さんがせっかく、話題を提供してくれたというのに!」 宮本が拗ねても、橋本にはまったく通用しない。宥めるように頭を撫でられるだけで、簡単に機嫌が直ってしまう自分の単純さに呆れ果てた。 賑やかなバラエティ番組が切り替わり、軽自動車のCMがふたりの目に留まる。そこに登場している俳優は、以前ダブルデートしたときに、車内で橋本が真似た人物だった。「陽さん、この人――」「よく気がついたな」「あのあと、ここのディーラーのホームページを調べて、実際のものを見てみたんです。陽さんってば、セリフをほとんど丸暗記していたんですね。いつか使うつもりで、覚えていたんですか?」 肩に乗せている頭をほんのちょっとだけ上げて、橋本の顔をまじまじと見つめた。
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例のアレ2

「ああいうのが好きな客もいるんだよ。ハイヤー運転手として、俺ってば優秀だろ?」 視線を合わせてにっこり微笑まれただけで、宮本の胸の奥が痛むくらいに疼いた。(サービス精神旺盛な陽さんとしては、ああいうことをしてお客を喜ばせているだろうけど、ドキドキしている人は絶対にいるはずなんだ。甘いマスクで見つめられながら、耳が孕みそうになる声で『僕が傍にいれば大丈夫。君がアクセルを勢いよく踏み込んで、誰かのところに行ってしまわないように、僕がブレーキになって止めてあげます』なんて言われたら、誰だって陽さんに向かって、アクセル全開で踏み込むっちゅーの)「何だよ、その顔。雅輝はああいうのは嫌いなのか?」「嫌いじゃないですよ。陽さんの演技、すっごくうまかったですし」「優男教官と俺様教官、どっちが好みだった?」 ニヤニヤしながら究極の質問をしてくる橋本の視線を、ぷいっと逸らしてやった。だけど肩に乗せた頭は、そのままにする。「ま~さ~き、どうして機嫌が悪くなるんだよ」「俺に難しい質問をしてくるからです。しかもふざけた感じで訊ねるから、余計に答えにくくなる」「ふざけてねぇって。大真面目に聞いてるぞ」「その顔の、どこが大真面目なんですか」 空いてる手で橋本の頬を、むにゅっとつねってやった。「イテテ。意地悪すんなって」 橋本はつねっている宮本の手を素早く握り込み、甲にチュッとキスを落とした。 その場の雰囲気が悪くなっても、持ち前のテクニックでやり過ごしてしまう年上の恋人に、宮本はまったくなすすべがない。頬を染めながらキスされた手を使って、橋本の手を握りしめるのが精いっぱいだった。「それで雅輝としては、どっちが良かった? なぁ教えてくれよ」「どっちかなんて選べません。甲乙つけがたいですもん」 わざと耳元で甘やかに囁く橋本の言葉に、促されるようにやっと答えた。
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例のアレ3

「甲乙つけがたいって、欲張りだなぁ」「陽さんが演じてる時点で、どっちも選べないですって。優男教官の一人称は、普段は聞き慣れないものだから新鮮ですし、『宮本くんのモノで、僕の中をぐちゃぐちゃにしてください』と頼まれたら、それだけで暴走しちゃいます」 笑いながら告げると、目の前にある橋本の口元が不自然に歪んだ。「あのときハンドル握りながら、そんな卑猥なことを考えていたのか。どうりで、デレた顔になっていたわけだ」「卑猥なことばかりじゃないですよ。俺を翻弄させようと、ブラックな一面を垣間見せるところも、きちんと妄想しました」「ブラック、ねぇ」「それとですね、俺様教官の振り回す感じも嫌いじゃないですよ。『よそ見してる暇があるなら、俺を感じさせてみろよ』なぁんて言われたりしたら、ビビりの俺は恐るおそる手を出すでしょ。それを見て『なってないぞ、宮本!』とか窘められたら、喜んでがっついちゃいます」 それぞれを演じる橋本を思い出しながら、当時を振り返ると、難しい表情をありありと浮かべて、宮本の手を握りしめたまま、こつんと額に押し当てた。「言葉数の多さで、どっちがいいか判定しようかと思ったが、感想を聞いてるうちに、馬鹿らしくなっちまった」 言いながら宮本が握りしめている両手を外し、肩に乗せっぱなしにしている頭も退けるなり、細身の背中を向ける。「陽さぁん、どっちか選ばなきゃダメっすか?」 口走った内容にドン引きしたせいで、橋本に背中を向けられたと思った。慌てて傍ににじり寄り、肩に顎を置いて顔色を窺ってみる。「むぅ?」 恥ずかしそうに視線を伏せながら、頬を染める橋本のリアクションを目の当たりにして、何度も瞬きした。 橋本が照れている理由が分からず、宮本の頭の中が謎に満ちてしまったのである。
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例のアレ4

「顔をそれ以上、近づけるなって」 橋本の大きな手が、宮本の目元を覆った。「だってくっついていたいのに、陽さんが離れるからでしょ」 目元を覆う手を外そうとした途端に、こめかみの辺りを掴んで外れないようにする。「あと少しだけ待て」「照れた陽さんの顔、すっごく可愛いのに。というか、どうして照れてるのか分からないんですけど」 無理やり外そうとしたら、痛いくらいに握りしめるのが分かったので、早々に諦めて疑問に思ったことを訊ねてみた。「それは……、雅輝がどっちも捨てがたいって言うから」 戸惑った口調が、橋本が思いっきり照れているのを表すように聞こえてきた。目が使えない分だけ耳に残るその声が宮本にとって、とても心地よく聞こえてしまった。「どんな陽さんも、俺は大好きです」「そうかよ……」「はいっ!」 元気よく答えた瞬間、柔らかいものに唇が塞がれた。見えなくても分かる橋本の唇の感触に、嬉しくて堪らなくなる。「雅輝には敵わない。いい歳した俺を翻弄するなよ」 唐突に視界が開けた。退けられた手が遠のいていく先にある橋本の顔は、さっきよりも赤く染まっていた。「俺は翻弄してるつもり、全然ないですよ」「そういう無自覚なところ、マジでムカつくな。とりあえず復讐してやる」「復習?」『ふくしゅう』の意味もされることも分からず、キョトンとした宮本を橋本はしたり顔で見つめた。「雅輝、ここに腰かけろ」 言いながら自分の太ももをバシバシ叩いた。「……腰かけるって、俺が陽さんに?」(それっていつもと逆だよな。何だか変な感じかも――)「躊躇せずに腰かけろ」「陽さんみたいに軽くないですよ」「お前の重さくらい、何でもねぇって。早くしろ」 強引に腕を引っ張られ、指定されたところに座らされる。「もっと深く腰かけろ」 宮本が動く前に橋本の両腕が上半身を抱きしめ、躰に引き寄せるようにずりずりズラしていった。
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