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BL小説短編集 のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 30

62 チャプター

この世で一番ほしいプレゼント‬番外編 運命の人2

カールが専属執事になってから、ずっと一緒にいる間柄が、唐突に見合いをセッテングされることで、俺と離れるのが寂しく、そんな顔をさせているんだと思った。 世話を焼く以上のことをせず、執事として俺にたいし丁寧に接するカールの心情が見えないまま、自分だけモヤモヤを抱えた。 好きな相手がいるのに、無理やり見合いをさせられたり、パーティで女のコに声をかけられたら、それなりに優しく相手をしなければならない己の立ち位置を、もどかしく思った。「えっと先週逢ったのがソフィア嬢で、今日逢ったのはオリビア嬢だったか。少しずつだけど、インプットできるようになったな」 指折り数えながら廊下を突き進んだら、寝室の扉が目に留まる。しっかり閉めて出たハズのそれが、ほんの少しだけ開いた状態なのを訝しく思い、首を傾げた。(寝室に貴重品は置いていない。盗まれるものはないが、ベッドメイキングしたメイドが、閉め忘れたのだろうか?) それでも泥棒が侵入していることを想定して、足音をたてずに忍び寄り、扉の隙間から中の様子を窺った。カーテンが閉じられていて中は薄暗く、耳だけが頼りになる。「…っん、あぁっ、んんっ……ぁっ…っぁあ」 最初、誰の声かわからなかった。苦しげなものなのに、艶っぽさを含む声を聞いたことがない。「アンドレア様ぁっ、うぅっ……もっとシて」「…っ!」 自分の名が出たことで声の主がカールだとわかり、慌てて口元を押さえたが、下半身がすぐさま反応した。カールの感じている声を聞いているだけで、痛いくらいに熱り勃つ。(アイツ、俺の寝室でナニをして――)「あっあっあっ…好きっ、好きです、アンドレア様っ、イクぅっ!」 掠れた声だったが、しっかりとそれを耳で捉えた。カールの本心を聞くことができて、胸が苦しくなるくらいにしなる。同じ気持ちでいることに、涙が出そうだった。 今すぐカールに抱きつき、襲いたい衝動に駆られた。俺のすべてを使ってアイツを絶頂させて、もっと好きにさせたいと切に願ったが。 唇を噛みしめてゆっくり後ずさりし、その場を静かに去る。曲がり角でしゃがみ込み、深呼吸して卑猥な気持ちをやり過ごすべく、なんとか耐え忍んだ。 そうこうしているうちに、遠くで扉の開閉の音が聞こえたので、曲がり角から様子を窺うと、カールがこっちに背中を向けて、足早に立ち去る姿が目に留まる。 俺
last update最終更新日 : 2025-11-04
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この世で一番ほしいプレゼント‬番外編 運命の人3

「だったら出逢ったときに、恋愛に発展するナニかがあったに違いないわ!」「叔母様のいいところって、アレか。メロンを使ったと」「メロン?」「なんでもない、気にするな」 発展途中の妹の胸元を見て指摘したが、不思議そうに目を瞬かせている彼女には、伝わっていないらしい。 パーティなんかで女のコと腕を組んだときに、自分をアピールするために、ここぞとばかりに押しつけられることにウザさを感じて、内心辟易していた。(叔母様が皇太子殿下を落とすやり手だったとは、考えたこともなかったな――) 顎に手をやり、ぼんやり考えていると。「ウチの使用人と恋に落ちるなら、カールがいいわよね」「カールだと!?」 唐突に告げられた言葉に、思わずギョッとして、ソファから腰をあげてしまった。「だって使用人の中で、見た目が一番いいですもの。それに優しくて紳士的ですし、今度お友達のお屋敷でおこなわれるパーティで、エスコートをしていただきたくて」「…………」「お兄様ってば、そんなにわたくしのことが好きだったのかしら?」「へっ?」「まるで、ヤキモチを妬いてるみたいなお顔でしてよ」 妹にクスクス笑われても、なにも言えなかった。下手な弁解をして、余計な詮索をされないように顔を背け、「好きに言ってろ」と捨てセリフを吐く。 身分違いの恋――しかも同性同士なんて、明るい未来がまったく見えなかった。 だからこそバカな俺よりも、皇太子殿下を手に入れた、やり手の叔母様にお知恵を借りようと、勇んでアクセスしたら、すぐに遊びに来いとお呼ばれしたのである。「アンドレア様、駅までお送りしますよ」「いらない。友達がそこまで迎えに来てくれることになってる」 カールとの恋愛の相談をしに行くため、秘密裏に行動したかったが、できる執事様をあしらうのに苦労する。「カール、リリアーネが友達のパーティに行くのに、おまえにエスコートしてほしいと言ってた。日取りを聞いて、対処してやってほしい」「かしこまりました」「それが終わったら、自由に過ごせ。俺みたいにハメを外しすぎて、怒られるなよ」 一応釘をさしてから、颯爽とその場を立ち去った。「行ってらっしゃいませ」「遅くなるから夕飯はいらない」 右手をヒラヒラ振って屋敷から遠のき、角を曲がったところで待たせてあるタクシーに乗り込む。そこから空港に向かい、飛行
last update最終更新日 : 2025-11-05
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この世で一番ほしいプレゼント‬番外編 運命の人4

♡♡♡ アンドレアが南方の宮殿にて、恋の行方を模索している一方、邸宅に残されたカールは、言いつけどおりにリリアーナのもとを訪れた。「カール、お兄様からパーティーのことを聞いたのかしら?」 執事の私が顔を見せたことで、リリアーナ様はアンドレア様との会話を思い出したのか、扉の前で控えている私の腕を引っ張り、部屋の中に誘う。「確か、ご友人のお屋敷でおこなわれるパーティーとお聞きしております」「本当はね、お友達には、お兄様を連れて来てって頼まれているの」 まぶたを伏せて気落ちするご様子に、相槌を打ってみせる。「なるほど。アンドレア様はどなたがご覧になっても、目を惹く素敵なお方ですから。お近づきになりたいのでしょうね」(大規模なパーティー会場で、たくさんの人に囲まれていても、アンドレア様の存在を感じ取ることができる。堂々とした佇まいで立っているだけなのに、華やかなオーラをまとった姿は、嫌でも目を奪わてれしまう――) 少し前にあったパーティーのことを思い出していると、リリアーナ様はやや迷惑げな表情で口を開く。「だけどお兄様がシスコンだってバレてしまうのが、どうしてもイヤなの!」「シスコン……?」 意外なセリフに、思わずオウム返しをしてしまった。「私がね、カールをエスコートに連れて行きたいって言った瞬間、お兄様ったらすごく不服そうなお顔をしたの。なんで兄の自分じゃないのかって、思ったに違いなくてよ」「確かに、そうかもしれません。アンドレア様はリリアーナ様を、とても大事に思われておりますので」(私の目から見ても、シスコンと思うような言動を感じませんが、兄妹だからこそ、なにか通ずるものがあるのかもしれませんね)「人様には隠したい、こういう事情を抱えているの。パーティーは4日後ですけど、カールは私をエスコートできるかしら?」「アンドレア様から、リリアーナ様のお話を聞くよう仰せつかっておりますので、問題ございません」「ホント! よかった、当日お願いするわね」 不安そうな面持ちから一転、アンドレア様によく似た、華やかさのある笑みを浮かべる。「それでは、どれくらいの規模のパーティーなのか、お教えください。それに合わせたドレスを選びましょうか。私もリリアーナ様のドレスに合わせた、それなりのタキシードを用意しなければなりませんので」 リリアーナ様と入念
last update最終更新日 : 2025-11-06
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この世で一番ほしいプレゼント‬番外編 運命の人5

♡♡♡ カールにはじめて告白する俺の誕生日、それを考えるだけで、無駄にテンションが上がり、パーティー会場でのことが、全然思い出せないレベルだった。 テンションが上がった勢いをそのままに、現伯爵の父上に次期当主にならないことを告げた。そこに行きつくまでに、長い時間をかけてダメ息子を演じていたゆえに、あっさりと許しをもらえたのは、本当にラッキーだと言える。 そんな話し合いを終えて、寝室にてカールとふたりきりでいる現状に、緊張しないほうがおかしい。なんとか落ち着くために、大きなため息を吐いた。「アンドレア様、お疲れでございますよね? ぐっすりお休みいただけるように、カモミールティーをご用意いたします」 時刻は午前零時を回っている。今年は記念べき俺の20回目の誕生日ということで、来賓が多かった。きっとカールだって、相当疲れているだろう。「なぁカール、今年の誕生日プレゼントなんだが」 平静を装って話しかけたが、どうしても緊張感が隠しきれずに、声が震えてしまった。「はい、どのような品をご所望でしょうか?」 カールは俺に背を向けたまま、ティーポットから紅茶を丁寧に注ぐ。 自分が獲物になっているのも知らずに、いつもと変わらない態度を貫く、カールの肩を叩いた。すると紅茶を注いでいる手を一旦止めて、なんだろうという雰囲気をそのままに振り返って、俺を見上げる。「アンドレア様?」 カールと視線が絡んだだけなのに、躰が熱くなる。我慢できなくなるくらいに、カールが欲しくなり、彼が手にしているティーポットを手から無理やり外し、強引に振り向かせて、ぎゅっと抱きしめた。「今年の誕生日プレゼントはカール、おまえがほしい」 やっと捕まえることができたと思ったら、抱きしめる腕の力の加減ができない。「は?」「おまえがずっと好きだった。10年前に、はじめて逢ったときから」 逃がさない勢いで、カールを抱きしめる腕にさらに力がこもった。「俺を意識してほしくて子供の頃は、わざと困らせることばかりしたんだ。いたずらばかりしてしまった俺を許してほしい」 すると俺の力に抗うように、カールは目の前にある俺の胸を強く押して、距離をあけた。「アンドレア様に、私をプレゼントすることは叶いません」「カール?」 カールは俯いたまま、普段聞いたことのない低い声で返事をする。「私のことはさ
last update最終更新日 : 2025-11-07
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この世で一番ほしいプレゼント‬番外編 運命の人6

「アンドレア様、お手を煩わせてしまいますが、一本だけ蝋燭に火を灯していただけますでしょうか」「五本じゃなく一本というところが、控えめなおまえらしいな」 カールの性格を表すオネダリに、すぐさま応えてやる。一本だけ蝋燭に火を灯すをと、少し離れたところにいるカールが、俺に優しくほほ笑みかけた。俺の大好きな顔――ずっと傍で見ていたいと思うそれに、胸が熱くなる。「ありがとうございます」「カールにお願いがあるんだ。今後のことなんだが」 穏やかな雰囲気に導かれて、考えていたことをすんなりと口にした。不思議顔をするカールをちゃんと見て、今後の展開を説明する。きっと驚くに違いない。「俺はこれから流行り病にかかり、三ヶ月後に亡くなる予定だ」「え?」「俺が寝込んでいる間は、おまえは暇を持て余すだろう? だから書斎のキャビネットにしまっている『古城の管理』と『骨董品の取り扱い』関連の本を読んで、勉強してくれ。セットでそれぞれ保管しているから、かなりの冊数になるけどな」 コッソリ用意したものを、人差し指を立てて、わかりやすいようにレクチャーしたのに、カールは意味がわからないと言いたげな顔で、俺をまじまじと見つめた。「勉強することは構いませんが、どうして古城の管理と骨董品の取り扱いなのでしょうか?」(聞いて驚け! この計画の大筋を考えたのが俺だからこそ(細かい修正は、叔母様がここぞとばかりにした)ド肝を抜くに違いない!)「それは俺が亡くなった後に、おまえはここを出て、南方にある古城のメンテナンスをするためだ」「私の再就職先をお決めになっているとは。ちなみに、アンドレア様が亡くなるというのは?」「プレザンス家の次期当主が、生きてちゃダメだろ。俺がこの世から消えたことにより、妹が婿をとって跡を継ぐのだからな」 カールが驚くと思っていたのに、なぜかしょんぼりとした悲しげな表情になった。「カール、そんな顔をするな。俺は自分の立場について、まったく未練はない。むしろ別の名を考えるのが、今は楽しくてな。それに――」 悲壮感漂う顔をなんとかしたくて、俺はカールの傍に近寄り、片膝を床について、ほっそりとした利き手をやんわりと掴む。「男爵家三男のカール・ドゥ・イタッセの使用人として、俺は仕えることになるんだ」「アンドレア様が私に仕えるうぅっ!?」 やっと驚いてくれたこと
last update最終更新日 : 2025-11-08
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この世で一番ほしいプレゼント‬番外編 運命の人7

「か、カール……俺に大事なトコロを触れられたいんだろ?」 以前、寝室で覗き見たことを思い出し、それを口にしてみた。するとカールは俯かせていた顔を上げて、なにを言ってるんだという面持ちで、俺をじっと見つめる。「あのさ、だいぶ前だけど、おまえが俺の寝室で抜いてるのを、偶然見てしまったんだ」「ヒッ!」 声にならない声を出し、両手で口元を押さえて、顔全部を真っ赤にさせたカールが、ものすごくかわいい!「おまえが俺の寝室で、なにを使って抜いてたのかはわからなかったが、『アンドレア様もっと』って艶っぽい声で言ったのは、しっかり聞き取った」「も、申し訳ございません……あの、なんと言えばいいのやら」「こんな感じで、俺に触られたかったのか?」 ダイレクトにカールの股間を掴んだ瞬間、覚えのある挙動をてのひらに感じた。「つっ~~~~!」「え? もうイったのか?」 ビックリして事実を告げてしまってから、しまったと思った。目の前にあるカールの瞳が潤んで、泣き出しそうな表情になる。「俺ってば、そんなに感じさせるつもりは、本当になくてだな!」「…………」「そぅろ……早くても大丈夫だ! 俺は全然構わないぞ。それだけ感じやすいだけなんだろう?」(だーっ! 気を遣えばつかうだけ、どんどんドツボにハマっていくのがわかりすぎて、頭が痛くなってくる)「アンドレア様、すみません。手を放していただけますか。濡れてしまったのをその……」「あ、悪い」 慌てて手を外したタイミングで、蠟燭の火が消えた。「アンドレア様、少しお待ちください」 暗闇の中、慣れた様子でどこかに向かい、なにかを押す音が聞こえたのと同時に、ベッドヘッドの明かりが灯された。腰を引き、くの字に躰を曲げているカールの背中に抱きついてやる。「ちょっ!」「俺がやってしまったことで、カールを汚してしまったからな。リカバリーするために、俺の手でキレイにしてやろう!」 力まかせにカールの躰をベッドの上に押し倒し、すかさず跨る。「アンドレア様がっ、そんなことをぉ…ダメ、恥ずかしぃ」「これからは、俺がおまえの傍仕えなんだから、恥ずかしがることなんてしなくてもいい。しかも今日はカールの誕生日じゃないか。恋人の俺が尽くさなくてどうする!」 こうして俺は無理やりカールの服をはぎ取り、自身の誕生日プレゼントならびにカールの
last update最終更新日 : 2025-11-09
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この世で一番ほしいプレゼント‬番外編 運命の人8

「もっ、無理でございます! アンドレア様の腰の動きが気持ちよすぎて、我慢ができません! ううっ!」 俺の躰を痛いくらいに抱き締め、勝手に絶頂したカールに、声をかけにくい。「ううっ、イってしまいました……」「だがカールにしては、かなり頑張ったと思うぞ。昨夜なんて三擦りで――」「それをわざわざ口に出して、私を虐めないでください」 うらめしそうな顔をそのまま俺の躰を押しのけ、ベッドから腰をあげたカールは、深く頭を下げる。「すぐに着替えてまいりますので、少々お待ちください。きちんと約束を果たします」 俺に顔を見られたくないのか、頭をあげるなり両手で顔を隠し、逃げるように寝室をあとにしたカール。両手を覆っている白手袋のせいで、頬の赤みが強く出ていることが、きっとわからないだろうな。「そういう態度がいちいちかわいすぎて、好きが濃くなっていく。俺よりも年上なのに、なんなんだよ、アイツは」 ひとり取り残されたベッドの上。寂しく思う暇を与えない有能な執事兼恋人の所作に、胸を熱くさせて待ったのだった。♡♡♡(恥ずかしすぎる! 顔が熱くて堪らない。アンドレア様は褒めてくださったけれど、指定された回数まで我慢することができませんでした) 最初はこんなに早くなかった。専属執事として彼に付き従い、傍にいるうちにどんどん好きになった。好きという想いが膨れ上がるにつれ、性的な欲求も当然強くなる。 アンドレア様の立場上、いろんな方と交流しなければならないことは、頭ではわかっていた。あの素敵なお顔で微笑まれただけで、顔を赤らめさせる令嬢をどれだけ見てきたことか。 彼との結婚を夢見る彼女たちを目の当たりにして、妬かずにはいられなかった。アンドレア様に一番近い距離でいられる私は、彼女たちの知らない彼の顔を見ることができるという優越感だってあるのに。 そんなときはコッソリアンドレア様の寝室に入り込み、枕に顔をうずめて彼の香りを堪能しながら自慰をした。だがいつ呼ばれるかわからないゆえに、さっさと終えなければならない。「その年月が積み重なった弊害が、今になって表れるとは、なんと悲しいことでしょうか」 愛しいアンドレア様と一緒にイケない自分――課せられた仕事と同時に、それをなんとかしなければならないことが、頭痛の種だった。♡♡♡ 目を閉じて待っていると、扉の開閉する音を耳が
last update最終更新日 : 2025-11-10
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この世で一番ほしいプレゼント‬番外編 運命の人9

カールがぶるぶる首を横に振って拒否したので、動きを止めてやった。「カール、早く言わないと――わかるよな?」「あまり……ふぅ、私を虐めないでください。我慢するのが、本当につらいんです」「俺だってつらいんだぞ。お預け食らったままなんだからな」 綺麗なカーブを描いた頬に、キスを落とした。唇に感じるカールの皮膚はすごく熱く、恥ずかしがっているのがわかる。「申し訳ございません。あのですね」「うん?」「私が過去の気持ちを告げることで、アンドレア様が不快に思われ、嫌うなんてことを」「嫌わない、むしろ好きになるかもな」 言いながらぎゅっと腕に力を込めて、カールを抱きしめてやった。カールは両手で俺の腕に触れ、優しく撫で擦る。「アンドレア様は、私がほしい言葉ばかり仰います。それをお返ししたいと常々に思っているのに、なかなかできそうにありません」「なにを言ってるんだ。今こうして腕を撫でられている時点で、返されている気分だぞ」「これだけで?」 恐るおそる振り返り、俺の顔色を窺うカールに笑ってみせた。「ああ。言葉にしなくても、伝わる想いはある。だからそんなことを気にするな」 カールは俺の腕に触れていた手で袖口を掴み、暗く沈んだ声で告げる。「アンドレア様がパーティーやお茶会などで、ご令嬢たちと仲睦まじくしているのを見ているときに」「うん?」「とても不愉快な感情を、胸の中に抱いておりました。私はいつも一番近くにいることのできる存在なのにと」「そうだな。おまえはいつも俺の傍にいた。彼女らと喋るよりも、カールのほうが盛り上がるのは間違いなしだ」 軽快な口調で告げたら、カールは掴んでいる袖口をくいくい引っ張り、ジト目で俺を見る。「それはアンドレア様が私から注意を受ける行為で、盛り上がることでしょうか?」「それもそうだが、今みたいにこうしてくっついてるだけでも、盛り上がっているだろう?」「確かに一部分が、随分と盛り上がっているのを感じます」 振り返っていた顔が戻り、表情が読めなくなったが、ご機嫌ななめなのは口調でわかる。「それでカールは彼女たちと盛り上がっている俺を見て、呪いでもかけようと考えたりしたのか?」 カールの機嫌を直すために、話をもとに戻した。「そうですね、私は自分にそれをかけました。アンドレア様と接しているときは、絶対に気持ちを悟られ
last update最終更新日 : 2025-11-11
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両片想い

 大好きな人の利き腕を塞ぐべく、右手を掴んで引きずるように先導した。行き先は逢瀬によく利用する、某ホテルのスイートだった。 握り潰す勢いで触れている手は、温かみをどんどん失って冷たくなりかけている。それが分かっているのに、力を緩めることはできなかった。「坊っちゃんが怒る理由、俺には分からないんだけど……」 ぼやくような声が背後からなされたが、そのままスルーさせてもらう。 会社でも外でも俺の名前を呼んでくれない意地悪な恋人を、このあとどう料理しようか――。 頭の中は、そのことでいっぱいだった。 蒸し暑さを感じる外から、クーラーの効いたホテルに到着。フロントでカードキーを受け取り、エレベーターに乗り込む。「なぁ坊っちゃん」「黙れよ! 今ここで俺が手を出したら、困るのはアンタだろ。ひん剥かれて喘がされるエロい姿を、誰かに見せたいのか」「つっ!」 フロントで繋ぎ直した右手を引っ張って顔を寄せると、憂わしげな表情をありありと浮かべた。 息を飲んだまま口を引き結ぶ、羨ましいくらいの端正な面持ち――ここのところの仕事の忙しさが、青白さとなって顔色に表れていた。 クォーターで髪と瞳の色素が薄いため、その青白さと相まって、壮絶なくらいに整って見える。疲れきった様子だからこそ優しくしてやりたいのに、余裕のない自分が腹立たしくてたまらない。(ふたりきりの空間だからって、エレベーターで唇を奪ったら、歯止めが効かなくなる。それはしちゃいけないんだ。この人のためにも――) 何か言いたげな視線を顔を逸らしてやり過ごし、最上階に向かう番号だけを見上げた。すると俺に寄り添って、肩に頭を乗せる。(会社を出てからずっと手荒に扱ってきたのに、こんなことをされると、今すぐにでも手を出したくなる) 冷たくなった右手を柔らかく握り直しながら、課長の髪に顔を埋めた。嗅ぎ慣れたシャンプーの香りを、心ゆくまで存分に楽しむ。「俺はこのあと、めちゃくちゃにされるんだろうな。だけど理由が分からないままされるのは、正直ご免だ」 深いため息が耳に聞こえたのと同時に、最上階に到着した音がエレベータ内に響いた。スムーズに開いた扉から出て、急ぎ足でスイートに向かう。
last update最終更新日 : 2025-11-12
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両片思い2

「坊っちゃんには悪いが、明日は朝一で会議があるんだ。あまり無理なことには付き合えない。ほどほどにしてくれ」「だったら、ほどほどにさせるいいわけくらい、今のうちに考えておけよな」「理由が分からないのに、考えられるわけがないだろ……」 手早くカードキーで開錠し部屋に入るなり、掴んでいた手を引っ張り、遠心力を使って放り投げる。ぶん投げた勢いが、つんのめるような足取りになって表れていた。「……ふたりきりのときくらい、名前で呼んでもいいのに。坊っちゃん呼びはやめろよ」「くせになってるから。それに下の名前で呼んだら、何かあったときに面倒なことになる」「親父の口利きで、ウチの会社に入ったことがバレるのが怖いのかよ。情けない……」 離れている僅かな距離が、俺たちの心の距離のように感じた。俺から近づくと、途端に離れていく。こんなにも好きなのに。どうしようもないほど、愛しているというのに。「課長……、いや先生は、嫌々俺と付き合ってるわけ?」 課長との出逢いは、俺の成績が伸び悩んだ中学3年のある日だった。役員をしている社員の噂話がきっかけで、当時大学生だった課長を親父が家庭教師として雇い、週一のペースで家へと招き入れた。 男なんかにまったく興味がわかなかった俺を、互いに挨拶を交わしたあとで目を合わせた瞬間から、心が一気に奪われた。 柔らかく微笑みながら、じっと見つめられるだけで、何かが煽られる気がした。 何度も顔を合わせるうちに我慢できなくなり、隠しきれない欲情を、勉強してる間にぶつけたりもした。それなのに――。『坊っちゃん、いい加減にしてください。未成年の貴方に何かあったときは、俺が責任をとることになるんですよ』「先生がほしい。好きなんだ!」『色恋云々を言う前に受験生なんですから、勉強をしっかりしてください』 中3のガキの戯言なんかに、大学生の先生がまともに取り合ってくれるはずがないのは分かっていた。だけど好きだという想いに駆られていた俺は、告げずにはいられなかった。 先生のことが好きだからこそ、すべてが欲しかった。それと同時に、他のヤツに触れられたりしていないかと心配で、訊ねずにはいられない――。
last update最終更新日 : 2025-11-13
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