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12 Chapters

悪い男2

好きなヤツの行動を、簡単に導き出してしまう自分を嘲笑いながら目を閉じると、彼女に向かって優しくほほ笑む藤原の顔が、まぶたの裏にしっかりと映り込む。 1年前はこんなふうに元カレが笑ってくれたらいいなと、何度も思った。ヤるだけヤって、気に食わないことがあれば、容赦なく暴力を振るう元カレにほとほと嫌気がさして、自分から別れを切りだしたのは必然だった。 すると別れた腹いせに、元カレが大学構内であることないことをでっち上げた噂を広めやがった。『那月は誘えば簡単に跨ってくる、ビッチなヤツだぜ』なんていう、信じられないことをあちこちに吹聴しまくったせいで、大学内にいるときはベッドのお誘いが絶えなくなったのである。 もちろん、すべて断った。ただひとり、藤原を除いて――。 あれは半年以上前のこと。青空が眩しく見えるのに、そこまでも暑さを感じない気候的には最高の環境下、大学の中庭にある大きな木の下で、俺はひとり読書にふけっていた。 ありもしない噂をバカな元カレが方々に流したことで、ベッドのお誘いと同時に、みんなから奇異な目で見られることにほとほと疲れきってしまい、人との付き合いを極力避けていた頃だった。『おまえ、名倉那月だろ?』 手にする本の内容が面白くなりかけた刹那、いきなり誰かに話しかけられた。読んでる本から渋々視線をあげると、青空を背負った見目麗しい男が俺を見下ろす。ミスキャンパスと呼び声高い、構内一かわいい彼女といつも一緒にいる有名人のため、誰もが知ってる男だった。「そうだけど。なにか用?」『誘えば寝るって噂、本当なのか?』 唐突に投げかけられた問いかけが意外すぎて、思わず持っていた本を閉じてしまった。栞を挟むことを忘れるくらいに、俺としては衝撃的だった。 コイツの彼女はミスキャンパスに選ばれるようなかわいいコだったし、藤原自身もイケメンに分類されるような男。そんなヤツが自分に声をかけること自体、どうにも信じられなかった。「……アンタ彼女持ちなのに、俺とヤりたいのかよ?」『男とヤるなんて、浮気のカウントに入らないだろ』 耳を疑う言葉をさらっと告げた藤原の顔は、彼女の前でいつも見せてる優しい顔じゃなく、自分の美貌を利用して俺とどうにかなりたいという欲望を漂わせる。俺自身、アッチの関係からしばらく足を遠のかせていたこともあり、妙に惹きつけられるもの
last updateLast Updated : 2025-10-26
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悪い男3

 こんな人目のつく場所で、キスするような派手なことをしやがってと思ったが、大柄な藤原が自分を隠すようにキスしていることに気づいた。空いている片手で目の前にある胸を連打したら、呆気なく唇が解放される。「っ……。アンタ、なにを考えてるんだよ?」 かわいい彼女持ちの藤原が、誰かと浮気しているのを目撃されないようにとった、咄嗟の配慮なのかもしれない。そんな考えが容易に導き出されてしまったのに、思わず訊ねてしまった。「那月目当てのヤツに見られたら、ここぞとばかりに嫉妬されるかもしれないだろ。大学構内ではかなりの有名人だからさ」 腰に手を当てながら俺の顔を見下ろし、得意げに豪語されても信用できるわけない。だってコイツは遊び慣れてる。さっきされたキスのうまさが、すべて物語っていた。「自分の保身のために、やったんじゃないのか?」「まさか! さっきのキスくらい、彼女に見られても全然かまわないし、その先もOKだって」 飄々と言ってのけた藤原を、このときは穴が開く勢いでじっと見つめてしまった。遠くから見ていた印象とはまるで違う、この男の底の知れなさに、俺自身が沸々と興味がわいてしまったのである。(気がつけば、クリスマスイブもヤっちゃったし、こうしてバレンタインにも寝てるなんて、まんま愛人みたいな関係だよなー) そんなことを思いながら、しっかりベッドから起き上がり、手にしている物に視線を落とした。 クリスマスプレゼントはなかったくせに、他人から貰ったバレンタインのチョコを横流しするような悪い男に、まんまと手懐けられてるみたいだった。 躰だけじゃなく気持ちも散々翻弄されて、いつしか藤原の傍にいることに、居心地の良さを感じている始末。遊び慣れたアイツの手腕なのか、俺を押さえるポイントをきっちり見極めて行動されるせいで、どうしても求めずにはいられなかった。「マジで悔しい! 本命になれなくてもいいやとすでに諦めてるのに、なんだろうな、このムカムカする気持ちは。藤原のことが好きな女のコから貰ったチョコを俺に投げて寄こした、酷い男だって言うのにさー」 女子受けしそうなかわいらしい包装紙を苛立ちまかせにビリビリ破り、自分が変形させた箱を開ける。すると中からハート柄で装飾された、一枚の小さなカードが出てきた。【好きな相手に、あなたの想いが届きますように】 多分、洋菓子店がサ
last updateLast Updated : 2025-10-27
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