夕刻。 這う這うの体で旅館に戻った私たちは、広間で夕食の時間を迎えていた。 レポートは、三人の優秀な頭脳と要領の良さによって、なんとか提出期限に間に合った。「――ほう。ギリギリだったな」 上座に座る氷室教授が、レポートをパラパラと捲りながら冷ややかに笑う。その視線が、私と輝くん、奏くんを舐めるように動く。「内容は……まあ、及第点といったところか。天王寺、君にしては凡庸なまとめ方だが」「……共同作業ですので。チームワークを優先しました」 輝くんが涼しい顔で嘘をつく。チームワークなど崩壊していた。あれは個々の能力のゴリ押しだ。「ふん。まあいい。食事の用意ができている。席につきなさい」 仲居さんたちが次々と料理を運んでくる。 豪華な会席料理だが、私の席は教授の正面、輝くんと奏くんに挟まれるという処刑席だ。 小さく手を合わせ、箸を伸ばす。味なんて分からない。左右からの冷気と正面からの重圧で、高級食材が砂の味に感じる。「ところで」 刺身を口に運んでいた教授が、唐突に口を開いた。「この旅館の風呂は、入ったかね?」「い、いえ、まだです……」 恐縮して答えると、教授はニヤリと口角を上げた。「そうか。ここの露天風呂は『美肌の湯』として有名でね。特に夜の景色は格別だ。……ただし」 教授が意味深に言葉を切る。「露天風呂は一つしかない。時間帯によって男湯と女湯が入れ替わるシステムだ。そして……夜の八時から十時の間は、『混浴』となっている」「……混浴」 その単語が出た瞬間、場の空気が凍りついた。 輝くんの手が止まり、奏くんが眉をひそめる。「昔ながらの風情を残すため、あえて仕切りを設けていないそうだ。まあ、最近の学生は奥手だから、好んで入る者はいないだろうがね」 教授はそう言って、私をじろりと見た。「月詠くん。君も時間は間違え
Last Updated : 2025-12-03 Read more