翌日、私は大学の講義が終わった後も、一人、誰もいない教室の隅でスマートフォンの画面を睨みつけていた。昨日、あれから一睡もできていない。三人の顔と、自分の今までの奇行と、胸の中に生まれたこの温かい感情を交互に反芻していたら、あっという間に空が白んでいた。 画面には、たった一人の名前が表示されている。『天王寺 輝』。 何度も、何度も、発信ボタンを押そうとしては、指が震えて寸前で止まってしまう。 何を話せばいい? そもそも、呼び出してどうするつもりなの? 自分の気持ちを、伝える? なんて? ぐるぐると、思考が同じ場所を回り続ける。 私の頭の中は、相変わらずBLゲーム『Fallen Covenant』のことでいっぱいだ。今日も講義中に、推しカプであるジークとアークの新しいイベントシナリオが配信されたことを知らせる通知が届いて、危うく変な声が出そうになった。 こんな私が、誰かと付き合うなんて。それも、あの天王寺先輩と、なんて。あまりにも不釣り合いだ。彼は学園の太陽で、私はその光もろくに浴びずに、日陰でじっとBLの栄養素だけを摂取して生きている腐った植物みたいなものなのに。 でも、と心の中で声がする。 あの時、図書館で私のために伸ばしてくれた腕の感触。私を心配してくれた時の、真剣な眼差し。いつだって、私の奇行に困ったように笑いながらも、決して突き放したりしなかった、あの優しい笑顔。 フィルターのない目で思い出す彼の姿は、あまりにも眩しくて、胸の奥がきゅっと締め付けられる。 この温かい感情の正体を、私はもう知っている。 これは、恋だ。 画面の中のキャラクターに向ける「尊い」という感情とは全く違う、現実の、一人の男性に向けられた、どうしようもないくらい個人的で、身勝手な想い。 ちゃんと、伝えなくちゃ。たとえ、どんな結果になったとしても。私の壮大な勘違いで、彼を、そして他の二人を振り回してしまったことへの謝罪と、そして、私の、本当の気持ちを。 私は一度、ぎゅっと目を瞑り、大きく息を吸い込んだ。そして、今度こそ、ためらうことなく画面をタップする。 コール音が、やけに大きく心臓に響く。一回、二回……。留守電に切り替わる直前、不意に音が途切れ、昨日からずっと私の頭を支配している声が、鼓膜を震わせた。 『――もしもし、月詠さん?
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