ガシャンッ! 派手な破砕音が、ランチタイムで賑わうカフェ店内に響き渡った。 一瞬にして静まり返る客席。視線が一斉に私に集まる。私の足元には、無惨に砕け散ったグラスと、飛び散ったアイスコーヒーが黒い水溜まりを作っていた。「あ、あ……っ、ご、ごめんなさい……!」 顔から火が出るほど恥ずかしい。手元が狂ったわけでもないのに、トレイの上でバランスを崩してしまったのだ。完全に私の不注意だった。 慌ててしゃがみ込み、破片を拾おうとしたその時、私の視界に誰かの手が滑り込んできた。「先輩、触っちゃダメです! 怪我しますよ」 聞き慣れた、明るく弾むような声。顔を上げると、そこにはバイトの後輩、七瀬陽翔くんがいた。 彼は私の肩をぐいっと掴んで後ろに下がらせると、手早くタオルと箒を持ってきて、あっという間に惨状を片付け始めた。その動きには無駄がなく、普段の「甘えん坊キャラ」からは想像できないほど頼もしい。「お客様、お洋服は汚れていませんか? 失礼いたしました。すぐにお新しいものをお持ちしますね」 陽翔くんはキラキラとした極上の営業スマイルで客席に謝罪し、場を和ませてしまった。さすが、店内のマダム層から絶大な支持を得ている看板店員だ。 それに比べて、私は……。 店長に「月詠さん、少し裏で休んでおいで」と苦笑いで言われ、私は逃げるようにバックヤードへと引っ込んだ。 ◇「はぁ……私って、本当にダメだなぁ……」 狭いバックヤードの在庫棚の前で、私は膝を抱えてうずくまっていた。 昨日の図書館での奏くんの出来事が頭から離れず、さらに輝くんからの連絡も途絶えたままで、心ここにあらずだったのが原因だ。公私混同して仕事でミスをするなんて、社会人失格だ(まだ学生だけど)。 腐女子としての私は「推しカプの尊さ」を糧に生きているはずなのに、最近は現実(リアル)のイケメンたちに振り回されてばかり。
Last Updated : 2025-11-23 Read more